巨大ロボが一歩歩くたびに、アスファルトはひび割れ、大地が震える。裕介と美明日は、必死に走って逃げた。
走りながら、シルバーは携帯電話型の変身アイテムに向かって語りかけていた。
「おい、あれはまだ届かないのかよ⁉」
その様子を見て、バッタ怪人は笑う。
「ハハハハハッ! 諦めろ、オメガ珈琲シルバー。百合・BLレンジャーやロリーニンジャーと異なり、お前には専用のロボットがない。ロボがなければ、たとえ『BANG・解』を使ったところでこのサイズ差を覆すことはできない。お前の負けは、既に確定したのだ!」
「……それはどうだろうな?」
来たぜ、と裕介が遥か遠くを指差す。見れば、険しい山脈をも悠々と乗り越えて、二機の巨大マシンが爆走してきた。それぞれ猛牛とサイをイメージしたデザインのトレーラーが、名古屋へ駆けつける。
「行くぜ、美明日!」
「遅れないでよね、早川くん!」
高くジャンプした二人は、巨大トレーラーのコクピットへ搭乗した。さらに、二機は合体フォーメーションを始動。猛牛デザインのトレーラーが主に胴体を、サイが主に下半身を形成するようなかたちで、強力な拳パーツを備えた巨大ロボになったのである。
「完成! 『来部ボクサー』!」
操縦席で堂々と名乗った裕介と美明日を前に、さすがのBLACON・SUNも動揺していた。
「ば、馬鹿な。お前たちはロボットを持っていなかったはずだ!」
「そいつはちょっと情報が古かったんじゃねえのか?」
オメガ珈琲シルバーが不敵に笑う。
「BLファイヤーやロリーニンジャーと最初に共闘したとき、ロボを持たない俺は、巨大戦であまり役に立てなくて悔しかった。だから、かねてよりピーター・バーガーに『ロボットを用意してくれないか』と依頼していたんだ。そのロボは二人乗りだった上に、調整に時間がかかっちまったから今まで使えなかったけどな」
高い技術力を有するアイロンマンとヒーロー仲間であり、自らも他のヒーローに稽古をつけることがあるリボンダーマンなら、時間こそかかるがロボット制作も一応可能である。ただ、アイロンマンことトニー・スタートは多忙だった。ピーターのために「リボンズドライバー」を作ったり(結局はお菊に拝借されてしまったが)、キンジの「ロリコンキング」の修理をしたりしているうちに時間は流れ、来部ボクサーはどちらかというと後回しにされていたのだ。
「無貌通行」によってほぼすべてのダメージを反射できる相手ゆえ、無貌との最終決戦でも不用意に使うことができなかった来部ボクサー。不発で終わるかと思われた裕介たちの切り札が、今ようやく日の目を見る。
いざ戦闘へ突入しようとしたとき、操縦席の背もたれから歌が聞こえているのに気がついた。
『大地を揺るがせ 珈琲ライナー! 荒野を目指せ 来部ファイアー! 二人のハートを 真っ赤に焦がす』
さっきから何か流れているような気はしていたが、合体に伴うガシャガシャという轟音にかき消されがちで、はっきり認識できるほどではなかった。今では、むしろうるさいくらいに鼓膜を叩いている。
「……ん?」
珈琲ライナーというのが裕介が乗る猛牛型マシンを、来部ファイアーというのが美明日のサイ型マシンを指しているらしいことは何となく分かる。しかし問題は、なぜこんな歌が流れるのかということである。
「あっ。早川くん、コクピットにメモが貼りつけてあったわ」
小さく声を上げ、美明日が来部ファイヤー側の操縦席から通信してきた。
「読み上げるわね。ええと、『ハロー! あっしはおねロリの星・ロリーニンジャー! ピーター坊ちゃんからオメガ珈琲シルバー用のロボットについて相談を受けたので、挿入歌が流れる仕様にした方が熱くて燃えるんじゃないか、とアドバイスしておきやした! 合体しようとすると自動で流れるから、驚かせてしまったら申し訳ないでございやす! それでは、シーユーアゲイン! ヒーハー!』」
「あいつ~! 余計な機能付けやがって~⁉」
テンション高めの文章を淡々と読む美明日もシュールだが、内容がもうヤバすぎてそっちに意識が向かない。何てことしてくれたんだ、と裕介は頭を抱えた。
『熱い夢と 一緒に カモン! カモン! カモン! カモン!』
耳元でこんなのが常に流れていたら、戦闘に集中できない。キンジの奴、一体何を考えているのだろう。
「何だかよく分からんが、隙だらけだぞ!」
この挿入歌はコクピット内でしか流れていないため、相対するBLACON・SUNは、なぜ二人が困惑気味なのか分からない。ともかく、チャンスがあるなら逃す手はないと、大剣で斬りかかってきた。
「やべえな。美明日、避けるぞ! ロボを右方向にジャンプさせるんだ!」
『涙で育った 俺と私にゃ 昨日はいらない 明日だけ』
「えっ? ごめん、今何て言ったの?」
「歌が邪魔で聞こえてなかった⁉」
とか何とか言っている間に、兄妹攻神の斬撃が炸裂する。胸部のアーマーから火花を派手に飛び散らせ、来部ボクサーは大地に倒れてしまった。
「うわあああーっ⁉」
「ハッハッハ。見たか、ブラゴクウ様専用ロボの力を!」
龍虎型の巨大ロボが、剣を振り上げた。あれをコクピットへまともに受けたら、裕介も美明日も命はないだろう。早く反撃しなければ、本当に殺される。
「とどめだ!」
『アクセル 怒りにアクセル 苦しい今 弾き飛ばせ』
「……クソッ。マジで苦しいぜ。どうすりゃいいんだ」
たまたま、歌詞の内容が今の状況と被った。もっとも、シルバーが怒りを向ける対象は敵ではなく、妙な歌を流れる仕掛けを施したロリーニンジャーだったけれども。
『行くぞ! 合体! ボクサー・ディメンション! 来部ボクサーだ~!』
しかし、続く歌詞を聞いて、裕介はハッとした。
(待てよ。もしも、この歌詞が現実とリンクしたのが、偶然ではなかったのだとしたら。歌詞が実際の戦況と被ることを想定した上で、キンジが歌を流したのだとしたら)
謎は解けた。再びパートナーへ通信を繋ぎ、掴んだ答えを伝える。
「分かったぜ。ロリーニンジャーがこの歌に込めた、本当の想いが!」