PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
猛スピードで壇上に上がろうとするスパーリングロボットを、なんとか2人がかりで封じ込める。
ギリギリ、舞台の手前。
下手側の客席に座っていた傍聴者はパニックを起こすと、一斉に出入口へと向かう。
「……っ……すごい……力が……」
とてつもない力で舞白と須郷を押し返そうとするも、2人相手にはやはり無理があるようだった。
「️「おい!開かないぞ!!扉が!」」
「「早くここから出して!!」」
もともとスパーリングロボットが立っていた出入口に人が殺到すると、もちろん扉は開かない。
そして、暫くすると、ほかの3体のスパーリングロボット達も不気味に首をガクガクと動かし始めると、一斉に動き出す。
「霜月!後ろだ!!」
混乱する会場内の声に抗うように、宜野座は霜月に向けて大声を放つ。
「……っ!ヤバっ……」
霜月の近くにいたスパーリングロボットが、明らかに狙いを定めて走り出す。そして思いっきり回し蹴りをするも、ギリギリ霜月は回避した。
無表情のスパーリングロボット、ゆっくりと構えの姿勢に入れば、じっと霜月を見つめているような様子だった。
その様子に、霜月は何か気づくと眉を顰める。
「((あの構え……どこかで見た事が……))」
霜月は警戒しつつも距離を取ろうと後退る。
そして隣に、宜野座の姿が現れた。
「無事か?霜月」
「……何とかね……。それにしても、宜野座さん。あのスパーリングロボの構え、どこかで見たことありませんか?」
先程の回し蹴りといい、少し癖のあるような構え。宜野座は目を細めじっと様子を伺うと、なにか思い出したかのように目を見開いた。
「……舞白だ。どう見てもあの構えは……」
何度か勤務中に見た姿、そして勤務の合間にトレーニングをした時の舞白の構えそのもの。
"それ"は、舞白のスパーリングロボットのコピーだったのだ。
「あいつ、よく自分の動きをスパーリングロボに記録していたからな。恐らくそれを何らかの方法で奪ってコピーしてる。」
宜野座の言葉に目を見開く霜月。
「待って……じゃあこのホール内にいるスパーリングロボ、全部舞白と同じ能力を使ってくるってこと?」
「……考えたくないが、そういう事だ。」
目の前の1体。そして舞白と須郷が対峙している1体。三係が押さえている1体。そして残りの1体も舞台へと向かっている姿が目に入る。
全てが舞白のコピー。空手、ボクシング、格闘技、全てに特化した最悪のスパーリングロボットだった。
「ヤバすぎる……、こんなの無……」
「来るぞ霜月」
構えの様子を見計らい、宜野座は合図を出すと、何とか避けていく。
容赦なく襲いかかる相手に、なかなか算段が立たない様子だったり
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「須郷さん!こっちはお願いします!
もう1体こっちに来てる!!」
押さえ込んでいると、猛スピードで掛けてくるスパーリングロボットの姿が視界に入る。押さえ込む手を離せば、立ち上がり、相手を迎え撃つ準備に入る。
「常守監視官!傍聴者の誘導を!!このままじゃ危害を与えかねません!」
『大丈夫!こっちは雛河君と任せて!!』
刹那、舞白に飛びかかるスパーリングロボット。拳を頭部に命中させるもら硬い体に拳が痛む。
そして再び距離を取り、お互い構えに入ると、ある違和感に気づく。
右手を前に、左手を引き、肩はストンとリラックスして落とされている。首は少し右に倒され、癖のある構え……
「……私と一緒の構え…」
1ミリのズレもない姿勢。まるで鏡で自分の姿を見ているような気分だった。体の呼吸に合わせた揺れも全く同じ、気味が悪いと感じていた。
「スパーリングロボット、私のコピーです。皆さん、気をつけてくださいね?」
舞白はデバイスに顔を近づけると、即全員に状況を伝える。
チラッと三係が相手にしているスパーリングロボットを見ると、かなり苦戦している様子だった。
『…っ!狡噛監視官補佐!どういう事ですか!?』
宮舘の焦る声が聞こえると、舞白の目の前のロボットが激しく攻撃を始める。
「わたしのっ……!コピー!!
……ちなみに、弱点……、ありませんっ!!」
攻撃を交わしつつ、受け答えをしていく。まさかここで自分自身と戦うことになるなんて想像もつかなかった。
底なしの体力を持つスパーリングロボット、どうにか早く倒さなければ、こちらが殺られるのは確実だった。
とめどなく振るわれる拳に蹴り。ほぼ互角の相手に、舞白は必死に食らいつく。
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壇上で戦っていた須郷がスパーリングロボットを再び抑え込むと、思いっきり頭部を踏みつける。
「((……狡噛監視官のスパーリングロボットのコピーとは、何度も手合わせはしてる、もちろん本人とも……。それが役に立……))」
刹那、ピコピコと点滅する赤いランプ。
キュイイイイイン、という聞き覚えのある音に、須郷はすぐにロボットから離れると叫び声をあげる。
「全員伏せろ!!爆弾だ!!」
壇上の端に残っていた議員を守るために、彼らに向かって走り出す須郷。会場内の傍聴者達も頭を抱えしゃがみこむ。
刹那、壇上で大爆発が起こるも、運良く人を巻き込むことは無く、大きな爆発音と揺れが起こるのみ。須郷は上からパラパラと落ちてくる塵を咳き込みながら手で払う。そしてゆっくりと、倒れているスパーリングロボットへと歩み寄る。
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「オラァァァァァっ!!!」
その爆発が幸をなしたのか、舞白の目の前のスパーリングロボットは一瞬よろけ、隙を見せた。背後へと回り込むことに成功すると、首に腕を回し、折り曲げるように圧迫していく。
「……わたしのコピーなら……もう少し、……つよくしておきなさい……!!」
刹那、バキッと鈍い音が鳴り響く。
グラッとロボットの首が垂れ下がるように力が抜けると、見た目が警備風の男性から、ただのロボットへと変わっていく。破壊された証拠だった。
「はぁ……はぁ……、はぁ……」
殴られた頬に触れ眉を顰める。
形を大きく上下させるその姿は、激しかった戦闘を物語っていた。
「まさか自分のコピーに、1発喰らわされるなんてね……」
ふと、宜野座と宮舘達に目を向けるも、まだ交戦途中。
傍聴者達は常守と雛河、そして合流した霜月によって誘導されていた。
そして、再び足元のロボットに目を向ける。須郷が相手をしていたロボットとは違い、爆発する様子がない。
「((最初、舞台に向かって行ったロボットは、恐らくは陽動。議員目掛けて……爆発で、殺すつもりだったのか……))」
何かないかと、ロボットに触れ確認していく。すると、ロボットの心臓部でもある辺りに、焼印らしきものを見つける。目を細めて、じっと観察する。
「267.37……数字……?」
じっと観察していると、宮舘達の方から悲鳴が聞こえる。それに反応した舞白はパッと顔を上げれば、交戦する3人に目を向ける。
「っ……畜生!歯が立たねぇ!」
男性執行官は口の端から、ぽたぽたと血が流れ、怪我を負っていたようだった。
「監視官!このままだと殺され……ガァッ!」
続いて女性執行官もその場でねじ伏せられる。
そして、女性の頭上で脚を思いっきり上げれば、振り下ろそうとしているのが分かる。モロに喰らえば、重症は免れない。
「酒井!!避けろ!!」
宮舘も同じく怪我を負っているのか、壁側で腹部を抑えて座り込んでいた。女性執行官に大声を上げるも、咄嗟のことに動けない様子。
ギュッと眼を閉じ、衝撃に備えて両手で頭を覆う。
「っ!?……」
しかし、衝撃は訪れない。酒井という女性執行官はそっと目を開けると、白髪の人物が脚を制止している光景が目に入る。
「酒井執行官!早く起きて!」
脚を掴むと、そのまま反対側へと投げ飛ばす。
さすがに2体目も1人で相手にできるほど体力は残っていない。そして先程の数字も気になっていた。
相手のロボットが怯んでいる間に、通信を図る。
「狡噛です。報告、私が対峙したロボットの頭部に"267.37"という数字がありました。他に何か見つけた方がいたら共有をっ……!!」
容赦なく、再び襲いかかるロボット。しかし、舞白もふらふらと体がよろける。三係の3人は恐れを生したのか、動けない様子だった。
「((……さすがにもう無理……、かといって朱さん達を呼ぶわけにもいかないし……どうしたらっ……!))」
刹那、ふらっとよろけた瞬間、ロボットの回し蹴りが舞白の腹部に命中すれば、体が吹き飛ぶ。
その様子に、舞台上の須郷が気づくも、議員たちに猛抗議を受けているようで動けない様子。
「……しまった……」
壁に体を預け、立ち上がる。首をコキコキと曲げる仕草、そしてこちらへ駆けてくるであろう動きをすれば眉を顰める。
「底なしの体力があれば、全員を一網打尽にできるのね、私って」
その瞬間、ロボットは舞白に目掛けて駆け出す。
遠くからその様子に気づいた霜月が叫び声を上げていた。
「舞白オオォ!!((宮舘監視官!あいつら何、戦意消失してんのよ!))」
傍聴者達から安易に離れる訳もいかず、ただ声を上げ続ける。
「……っ……」
腕を振り上げる仕草から、恐らく拳を振られると予想し、体を強ばらせる。
そしてもう逃げられない間合いに入られようとした瞬間、思いがけない人物が前に立ちふさがれば、その人物は重い拳を掴んでいた。
「……宮舘監視官!」
戦意消失していたと思われる宮舘が、舞白の目の前に身を投げ出し、ロボットの両手を掴んでいた。必死に戦い続ける舞白をほうっておけないと考えて居た。
「酒井の礼だ!……2人でなら……倒せそうかっ!」
「……だったら余裕ですね。」
ニコッと笑みを浮かべる舞白。宮舘は思いっきりロボットを蹴りあげれば、どうやら喰らった様子で、怯んでいた。
「弱点が無いなんて嘘だな、見る限り蹴りの後は、若干の隙が出来てるぞ」
「……へへへ……その通りですね。」
2人は横並びになると相手を迎え撃つ。先程まで敵対されていたが、宮舘の表情は微かに笑みを浮かべていた。
身を呈して、部下を守ろうとした舞白に、どこか惹かれるものがあったらしい。
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「……っ……」
宜野座は舞台から1番離れた後方部でロボットと戦っていた。何度か舞白とトレーニングの一環として手合わせはした事はあるものの、目の前の"それ"は底なしのスタミナを持っていた。体力を奪われる前に、先に手を打たなければ間違いなく、こちらが倒される。
「((早い……、それに一撃が重い……全く同じか))」
次々と放たれる重く鋭い攻撃。何より、能力は同じとしても、更に相手の身長は180以上。舞白の身長より遥かに高ければ、それはそれで強さは変わってくる。
『こちら宮舘……、なんとか狡噛監視官補佐と対象を戦闘不能に……
……』
耳に飛び込んできたのは、宮舘からの通信。どうやら、目の前のロボット以外、全てねじ伏せたとのこと。
「あとは俺だけか……、負ける訳にいかない…な!!」
相手が舞白のコピーだと、少しやりづらい事はあるものの、宜野座も負けじと、次から次へと強力な一撃を放つ。
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宮舘はじっと、ロボットの頭部を見据える。
「50782699……」
宮舘と共闘の末、倒したロボットの頭部にも怪しい数字。
それが一体、何の意味を成すのか全く分からず。
「須郷さん、そちらのロボットの頭部、なにか確認出来ませんでしたか?」
舞白はデバイスにその数字を記録しつつ、須郷へと通信をとる。
遠く離れた舞台上では、まだ混乱が続いている様子。
『……っ……それが、頭部を強く破損させた結果、凹んでしまっていて、
確かに何か確認はできるんですが、それにこちらは数字ではなさそうです……』
須郷から転送されてきた動画。
凹んだ頭部に何か刻まれている様子、それは全くほかのロボットと同じようだった。
『何かの文字……、恐らくですが、この記号のような文字、ギリシャ語では?』
須郷の言葉に目を細めて、じっと見つめる。
ギリシャ語はほかの言語の文字と違いかなり特殊だ。ハッキリとしたカクカクとした字では無いため、なかなか読みづらいのが事実。
ξα、ά μαλλι、、
「((…凹んだ部分が……見えにくい……))」
目を擦りながら、何度も画面を凝視する。
隣では、宮舘もその画面を確認する
「xantha mallia Theá 」
宮舘が流暢な英語を口にすると、視線を向ける舞白。
「俺は元々、英米語に特化した学部出身だ。ギリシャ語は趣味程度だが……」
舞白の独学で学んだ知識と専門的に学んでいた宮舘。舞白はニッと笑みを浮かべる。
「ということは、ξανθά μαλλιά Θεά意味は……」
2人は顔を見合わせて、口を揃え言葉を放つ。
「「金色の女神」」
刹那、デバイスが反応すれば宜野座からの通信が入ることを知らせる。
『……はぁ……っ……
……こっちも倒したぞ……、頭の文字は……』
激しい息遣い。かなり手こずった様子だった。会場の後方に目を向ければ、ロボットに乗りかかる宜野座の姿が見える。
『"C11H26NO2PS"
……この並びは化学式だ……、それにこの化学式は……』
通信を聞いていた全員がピンと来ていた。
『まずいわ、相手はここに"アレ"をばら撒くつもりに違いないわ』
続いて常守が声を上げる。
「"C11H26NO2PS"は化学式、"50782699"はCAS登録番号、"267.37"はモル質量を表していた……なんで気づかなかったの私……」
舞白は3つの情報を繋ぎ合わせて、"アレ"だとようやく気づいた。
そして"金色の女神"、舞白はその言葉にすぐにピンと来ていた。
「すぐに"小宮カリナ議員"を探し出してください。相手は、彼女に何かを隠してるはずです」
『小宮カリナ?なんで?』
霜月はその人物の名に?を浮かべる。
「金色の女神、それは彼女しか居ませんから」
輝かしいほど明るい金髪の髪色だったのを思い出す。
『あんたの偏見じゃないの?舞白』
「とにかく!直感だけど可能性はあるの!それに今日の主役と言っても過言ではなかったんだから!」
通信を切ると、舞白は辺りを見回す。混乱した傍聴者達で埋められた会場。客席に彼女がいる可能性は低い。
「宮舘さん!この周辺の傍聴者達をお願いします!
……それと、助かりました!!」
その場から走り去る舞白。
その後ろ姿を、宮舘は敵視ではなく、友視していた。
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