PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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アザミの花

 

 

・・・・・・・・・・

 

キャパ2000人の客席は大混乱に。常守や霜月をはじめ、三係の監視官や執行官たちもその対応に追われてしまう。

 

 

「おい!どうなってるんだ!?さっきの暴走した警備ドローンに爆発、そして全ての出入口から出られない!」

 

肯定党の1人の議員が大声で常守に怒鳴りつける。すでにテロ、事件の可能性があるとして、ニュースにもなっているようだった。

そもそも、その可能性があると警告をしたにも関わらず、それを無視したのは党員、そして関係者たちだったのだ。身勝手な言動に、常守も眉を顰める。

 

「今現在、調査中です。とにかく、皆さんは落ち着いて……」

 

すると他の議員たちも、同じく舞台上で揉め始める。

 

「お前達、公安局の人間だろう!?さっさと俺たちを出せ!」

 

「私たちは、この国の未来を担う、云わばシビュラに選ばれた人間……」

 

ダラダラと大それたことを言い放つ議員達に、痺れを切らした霜月がついに声を荒あげる。

 

 

「うっさいのよ!あんた達!そもそも、こっちは警告したはず。それを無視したのは紛れもなく、そちらの議員の皆さんですよね?」

 

シュッといつもの様に腰に手を当て、もう片方の腕を伸ばせば、大勢の議員たちに向かって指をさす。

隣で見ていた常守は、とくに制止する様子もなく、静かにその様子を見守っていた。

 

「それに、"俺たちを出せ"なんて身勝手すぎよ。"この国の未来を担う"お偉いさんなのか知らないけど、今この非常事態に、あんた達が騒ぎ立ててどうする訳?目の前に2000人の市民がいるのよ?」

 

「…何だこの女は、それでも公安局の人間か!?この女を公安局に職能適性を出したシビュラシステムは何を考えてるのやら…」

 

さらに怒りに触れた霜月は、ついに相手の男性議員に掴みかかる。

 

「それはこっちのセリフね?目の前の市民達よりも、自分たちの命を優先しようとするその考え。シビュラは何を考えてるんでしょうね?…ドミネーターであなた達のサイコパスを計測したら…、一体何色でしょうか?」

 

ドミネーターの話が出ると、さすがに怯む議員たち。やり過ぎだと判断した常守は、霜月の腕をそっと掴むと首輪振る。霜月も大人しく手を離せば、ため息を漏らす。そして1歩、常守が前へ進むと、議員たちに視線を送る。

 

 

「とにかく、今は我々に従ってください。今、命懸けで調査をしている人間が居ることを忘れず。そして、あなた達を守るために、市民の皆さんを守るために、怪我を負った人間がいることを忘れないでください。」

 

常守はキッと相手を睨みつける。奥では怪我を負いつつも、必死に誘導する執行官たちが駆け回っていた。

 

「…アイツらは、シビュラから不要だと判断された人間だろう?あんな奴らは、それ相応の仕事…」

 

刹那、常守はドミネーターに手をかけると、そっと銃口を相手に向ける。あまりにも問題のある行動に、隣の霜月はかなり驚いた様子だった。

 

 

「……そうでした。今、ドミネーターは使えないんでしたね。」

 

「きっ…貴様ああああ!」

 

「2度は言いません。もしこれ以上、私達をバカにするような発言をするのであれば、通信が復帰し次第、あなた達にドミネーターを向けさせていただきます。」

 

ヒッ!と再び後退する男。常守は少し口角を上げると最後に言葉を続けた。

 

「ここでもし、あなた達が協力的であれば、支持率も上がるかもしれませんね?市民たちを守った英雄として、その行動が拡散されるかもしれません。それに会場の傍聴者達は政治に疎い若者たちで溢れてます。でも彼らのネットの力は凄いんですよ?」

 

ふふふっと笑みを向けると、静まり返った議員たちを背に立ち去る常守。それにつられるように、霜月もついて行く。

 

 

さすがに2000人をたった数人で誘導など不可能。実際、目の前では混乱が起こっていた。

だったら、肯定党と優生党の議員たちを使ってしまおうと、常守の考えだった。若干、思い切ったことをし過ぎてしまったが…。

 

「…先輩、やり過ぎじゃないですか?さすがにドミネーター向けるなんて…」

 

「オフラインだし、記録にも残らない。そうでしょ?美佳ちゃん…」

 

相変わらずの無鉄砲さに、霜月は呆れ顔を浮かべる。常守に舞白に…振り回されすぎて感覚おかしくなりそうだった。

 

「それに、私は仲間をあんなふうに言われるなんて許せない。前にも言ったでしょう?私はいつだって、一係の事を考えてる。と」

 

「だからって、リスクを背負いすぎなんですよ先輩は」

 

そんなことを話していると、先程まで自分たちを優先していた議員達やスタッフが手分けをして傍聴者達を誘導し始める。

その様子に、常守達は安堵していた。

 

「これで、若者達が彼らを賞賛する。それがネットに広まれば、彼らの事を中心に伝染し、事件は有耶無耶になる可能性が高いわ。情報操作も兼ねて、ああいった行動をさせてもらったのよ」

 

「隠す必要が?」

 

相手はかなりの手練、プロトニウムをいとも簡単に奪い、それを利用すると明言している。おそらくこの事件も大事に仕立て上げ、国内の人間たちを不安に陥れる材料として利用するはずだった。

 

「少しでも、議員たちに注目が移るようにしないと、エリアストレス警報が鳴りっぱなしになっちゃうかもね?」

 

「………理解に苦しみます、その過程に…」

 

その瞬間、舞白から連絡が入る。

なんとか会場の混乱は抑えられそうな状況、残りは大本命のとある化学物質だった。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「…はい、…すぐに準備をお願いします。」

 

舞白は舞台裏を駆け回る。

大混乱の会場内は客席だけでなく、舞台裏も同じ状況だった。

 

『…オーケーよ。こっちは該当の特殊部隊にも連絡してるわ。急速冷凍を備えた専用ドローンもそっちに向かわせてる。

いい?舞白ちゃん。その予想が当たってたらかなり危険よ。皮膚に触れただけでも命を落としかねない』

 

「大丈夫ですよ。幸いにも、それを持ってると思われる人物が分かりやすくて助かりました…」

 

キョロキョロと当たりを見回し、小宮カリナを探し続ける。同時に、雛河と須郷も別の場所を駆け回っていた。

 

『志恩、こっちはあと5分でいけそうよ。』

 

『さすが…、弥生を外に待機させておいて正解だったわね。』

 

唐之杜がそのように口にすると、通信を全員に送る。

 

 

『みなさーん、お待たせしました。システム復旧まであと約10分よ。翔君と可愛いダンゴムシちゃんと弥生の活躍のお陰よ?』

 

全員がその言葉に安堵する。あと5分後には会場の扉も全て開く。しかし、まだ見つからない化学物質。それがどのように利用されるか、まだ不明なままだった。

 

『宮舘だ。…どうなんだ、小宮カリナは見つかったのか?』

 

誘導に追われていた宮舘が不安げに声を漏らす。

 

「…それが、どこにも見当たらなくて。回りの人に聞き回ってますが見ていないと…」

 

 

『か!監視官!!見つけました!!』

 

突如遮られると雛河が声を荒あげる。

 

『どこだ!雛河!?』

 

それに反応する須郷も必死に辺りを見回す。

 

 

 

『部隊天井の"ブドウ棚"です!その際の細い通路に…おそらく秘書官も一緒です!』

 

天井のブドウ棚、"すのこ"ともいわれている場所。

舞台照明や機材などを吊るすために、鉄製の細い道があり、そこに2人は姿を隠していた。

 

 

「私が直ぐに向かいます!須郷さんも来てください!雛河さんはすぐに先程伝えた事を…」

 

通信を切れば、傍らの階段に脚をかけて2人の元へと向かう。天井はかなり高く、おそらく落ちれば即死。ユラユラと揺れている不安定な小道に、2人の姿はあった。

しかし、なぜこんな危険なところにいるのか、理解できない。

 

 

人影に気づいた2人は、ビクッと体を揺らし、背後の舞白に気づいたようだった。

金髪の美女、それは紛れもなく小宮カリナの姿。その隣には例の外国人の秘書官の姿があった。

 

「ちょっと!あなた何者…」

 

秘書官がカリナを背に隠すように、舞白の前に立ち塞がる。怪しい者だと思われているのか。しかし、舞白の羽織っていたジャケットのマークに気づくと、表情が落ち着いていく。

 

「公安局刑事課 監視官の狡噛舞白と申します。身分証を出す時間も惜しい…、小宮カリナさんに確認したいことがあって…」

 

揺れる足元、2人に危害を加えないように、そっと近づく。

 

「刑事さん…?

…へぇ〜!私、本物の刑事さん見るの初めて!ドラマで演じたことはあるんですけど…」

 

可愛らしい彼女から放たれた言葉は、まさかの呑気な内容。ことの状況を理解しきれていないのか?摩訶不思議な言動に舞白は驚く。

 

「小宮カリナ議員。少し身体を調べさせてもらっても?」

 

「ちょっと!あなた何を言ってるんですか!?こんな所で…」

 

「事は命に関わる事なんです!下手をすると、この会場内の全員が命を落とします!」

 

舞白を危ないファンだと思っているのか、秘書官は眉を顰ませ首を振る。

 

「やはり身分証の提示をお願いできますか?そもそも私とカリナがここに身を隠していたのは、下に降りると危険だと。会場の傍聴者から彼女を守るためで…」

 

秘書官は何を言っても聞かない様子。

しかし、背後からカリナが肩を叩くと、隙間から顔をのぞかせる。

 

「アン、大丈夫よ。

それに、下は大変なことになってるし、本物の刑事さんよ?きっと」

 

舞台上では、何やら常守達が議員たちと揉めている様子だった。

 

秘書官は退くと、舞白をカリナの前へと通す。

ゆっくりと近寄る舞白。そして須郷も天井のすのこの端からその様子を見守っていた。

 

「すみません、触りますね」

 

トントンと体に触れていく。

しかし、何もおかしなものは見つからず、スキャナーも使えない今、とにかく細かく調べていく。

 

 

「((…何も、持ってない…))」

 

上下ブルーのスーツスカートのセットアップ。18歳ということもあり、かなり可愛らしくオシャレな正装に身を包んでいた。

 

 

「…あなた、銀髪の…

そういえば、控え室の廊下ですれ違ったわよね?珍しい髪色だったから思わず見ちゃった。」

 

呑気に笑顔を向けるカリナ。

そしてふと、その時の光景を舞白は思い出す。

あの時、すれ違った時…

 

ある違和感があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…小宮議員、服、着替えたりしました?」

 

 

あの時、小宮が着用していたのは確かに似た色のブルーのセットアップ。しかし色味が少し違うことに、薄暗闇の中でも気づいた。

 

「え?…あー、そういえばそう!

休憩の時に、急にスポンサーから連絡が来て、今から送るスーツに変えて欲しいって言われたの。」

 

そうだった!なんて口にしながらジャケットに触れるカリナ。どう考えても不自然な内容に、呑気に笑うカリナとは逆に舞白は眉を顰める。

 

「…オワニー秘書官。その時、届いた衣装のセキュリティチェックはされましたか?」

 

背後の秘書官に目を向けると、困り果てたような表情で首を振る。

 

「いえ…なんせ、かなり急だったものですから。討論会には登壇しないものの、討論会開始前には新人議員として挨拶もあったので…」

 

舞白は再度、カリナの服に触れていく。この話が本当であれば、隠す場所は衣装のどこかに違いない。しかし、何も見つからないのだ。

 

 

「((どこにあるの…一体…

相手はどこに隠して…))」

 

久しぶりに沼にハマってしまう舞白。こんなに行き詰ることは初めてだった。冷静を装うにも、焦りが勝っていく。ここで自分が見つけられることが出来なければ、間違いなく全員が死ぬ。

 

 

「…ねぇ?あなた何をそんなに探してるの?」

 

「それは言えません」

 

その物質の名を口にすれば、おそらくこの2人は精神を乱すだろう。そしてサイコパスも濁るに違いない。

 

 

「あっ!そうだ。

アン?このジャケットに付いてたブローチ、あなたに渡したわよね?」

 

「…ブローチ…、

……あぁ、そうでしたね。これを…」

 

突如思い出したかのように、カリナはポンっと手のひらを拳で叩く。すると背後に立っていた秘書官の懐からやけに悪趣味に感じるようなブローチが現れる。

 

「ね?これ変じゃない?ジャケットの色に合わないし…、それにこの形状、アザミの花にそっくりで、不吉で…」

 

舞白はブローチを受け取る。

妙にずっしりとした質量感、高級感がある様に見えるが、カリナの言う通り着ているジャケットには不釣り合いなデザインだった。

 

 

「((…アザミの花言葉…

報復、触れないで……))」

 

"触れないで"

 

 

舞白の直感が脳裏に浮かぶ。

これだ、これに間違いないと。

 

あの化学物質がもしこの中に仕込まれているとして、万が一爆発して、この密閉空間に広がれば、間違いなく全員死……

 

 

「このブローチ、預からせてください。また後日新しいものか、他のものを送りますので」

 

「…別に構わないけど…、いるのそれ?」

 

「はい、お借りします。では急いでおりますので…」

 

舞白はぺこりと頭を下げれば、2人から離れ、すぐに須郷と合流する。

 

 

 

その姿を、カリナと秘書官は唖然としたまま見送る。

 

「あの刑事さん、すごく若いね?それに素敵な銀髪〜、地毛かな?」

 

"銀髪の若い刑事さん"

カリナの脳内にハッキリと記憶として残っていた。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

「こちら、狡噛。

……皆さん見つけました。」

 

 

舞白と須郷は誰も、人の姿がない舞台裏の端へと移動していた。

そして怪しげに光るアザミの花の形をしたブローチ。

 

もちろん、化学物質といえど

その物質は臭いも色もない、変わった物質だった。

 

 

 

 

猛毒の神経剤。サリンとも言われていた。

1ミリリットルが体に触れるだけで、大人1人殺せる危険物質。

 

 

 

 

「VXガス、間違いないと思います。」

 

 

 

舞白と須郷は緊張した面持ちで、そのブローチを見据える、

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

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