PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
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舞台裏、傍らには搬出口。
その前に舞白と須郷の姿があった。
ずっしりとした重量感のあるブローチ。赤黒く光輝き、中に液体が入っているのがハッキリとわかる。そして、須郷が"それ"を傾け、目を細める。
「須郷さん」
元々国防軍にて活躍をしていた須郷。このような危険物の処理に関しては詳しく、舞白は彼を頼っていた。
パッと目を離せば、眉を顰める須郷。そしてブローチを舞白へと手渡す。
「監視官の予想通り、時限式です。内部をよく見てください。」
言われた通り、ブローチを指でつまみ、奥の奥まで目を凝らす。赤い物体の中で、微かに数字が点滅していたのだった。
掌に乗るほどのサイズのブローチに、VXガス、そして爆薬。これを作った人物の技量は計り知れない。
「さすがに…ここでは解体できない。リスクが高すぎます」
須郷は溜息を吐けば、他に対処法がないか考えているようだった。
しかし、すでに舞白は手を打っている様子。その表情を見た須郷は微かに笑みを浮かべていた。
「その様子だと、なにか手が?」
「…はい。ただし、時間との勝負です。そして後方支援チームの力にかかってます。」
すると、手元のデバイスを操作する舞白。全員に通信を繋げる。
「こちら、狡噛。皆さん、見つけました。
…VXガス、間違いありません。」
その報告に、全員が耳を傾ける。
「小宮カリナ議員の衣装に付けられていたブローチ。そこが隠し場所でした。現在、須郷執行官と搬入口前にて対象物を確認してます。」
『それで?何も無い訳じゃなさそうだな』
宜野座は客席の傍聴者を誘導しつつ、デバイスに向けて言葉を放つ。平然と爆発物を使うような奴が、ここで何もないわけが無い。
「ブローチの背面に、小型の爆発物が取り付けられてます。ちなみに時限式です。須郷さん曰く、中身の爆発物に何が使われているかは不明とのことですが、この量のVXガスが爆発で飛散すれば、容易にこのホール内に充満させることは可能とのことです。」
ブローチを証明に翳し、中身を確認する。赤黒く光るその姿は、余計気味悪く感じさせていた。
『時限式…、あとどれくらいで爆発するの』
「あと4分54秒後です」
『…は?4分!?』
質問者の霜月は声を荒あげ、その残り時間の分数に驚いた様子。それはそのはず、あまりにも残り時間が少なすぎるこの状況。もし出入口のロックが解除されたとして、安全な場所でどのように処理するのか。
『…その様子だと、もう手を打っているんでしょう?狡噛監視官』
常守はやけに落ち着いている舞白の様子に気づけば、微かに口角を緩め、デバイスに向けて言葉を発す。
「はい。志恩さん、お願いします」
舞白は唐之杜に、説明をお願いします、と付け加えればバトンタッチする。
『前もって、色んな可能性を考えて色んなドローンを手配させてたの。あとは爆発物処理班もね。』
唐之杜は全員に、前もって転送されていたブローチの画像データを全員に転送する。気味の悪い赤黒い、アザミの花の形をしたブローチに皆が眉を顰めていた。
『まず容易にその施設内で分解することは絶対に危険。だから、その時限装置を"分解"するんじゃなくて"止める"。液体窒素を使って凍結させるわ』
すでに、施設の外、公安局の護送車の傍らにドローンを搭載した車両が到着していた。そして数名の処理班も到着していたのだった。
『弥生?準備は出来てる?』
『ええ、勿論よ。』
車両で待機する六合塚。到着した車両から、すでにドローンを起動させ、万全の体制に入っていた。
『システム復旧まで、残り3分。時限爆弾の残り時間は3分56秒。
勝負は50秒足らずよ。舞白ちゃんと須郷君にかかってるわ。』
「…50秒…」
舞白と須郷は視線を合わせ、深呼吸をする。
『万が一、爆発した場合。水酸化ナトリウムの濃厚水溶液をすぐにばら撒くように、特殊部隊には手配してる。少なくとも、ホール内、施設内の死傷者は減らせるはずよ。
…爆弾の目の前にいる人間は、間違いなく命を落とすけどね。』
舞白、須郷、六合塚。失敗すればこの3人は確実に死ぬ。
「大丈夫。50秒もあれば何とかなります。凍結に必要な時間は?」
『20秒は必要よ。』
「…ということは逆算して考えて、30秒でドローンのある駐車場まで向かう必要がありますね。」
順繰りを須郷と確認していく舞白。やけに呑気そうな様子に、霜月は不安視していた。
『呑気すぎるわよ。その搬入口から、30秒でドローンにそれを放り込むなんて、簡単な話じゃないわ…』
「でも、やるしかない。それに、相手はもう凍結ドローンが、たどり着いていることも気づいてるはずですよ。…この無茶苦茶なゲームを楽しんでる。」
高度なハッキング能力。ふと、舞台裏の防犯カメラをじっと見上げると、同じく防犯カメラも一点を見つめている様子だった。
「さっきの、私と須郷執行官のスタートダッシュ見てたでしょ?スパーリングロボットを押さえ込んだ時の。走る速さは、この中のメンバーでダントツのはずですよ?ね?須郷さん」
「……まぁ、そうですけど…」
掌に、VXガスが乗っているというのに全く動揺しない舞白の姿は、どう見ても異常。しかし、舞白にとってはそこまで大したことじゃないらしい。
「でも、幸いにも、会場の誘導は上手くいったみたいですし、例え外で爆発したとしても、そこまで害は出ないと思います。」
会場内は予想以上に誘導されていた。おそらくこれを仕組んだ犯人は、今頃悔しい思いをしてるんじゃないの?なんて心の奥底で思っていた。
『狡噛監視官、須郷執行官、六合塚執行官。よろしくお願いします』
三係の宮舘が3名の名前を上げる。先程まで、高圧的だった態度が嘘のようだった。
『こちらも、ホール外の誘導準備は万全です。ドローンも待機させてます。任せてください。』
同じく、三係の如月も協力体制を整えていた。
あとは、その爆発物を処理する3人にかかっていた。
『3人とも、頼みました。』
常守は3人に全てを託すと言わんばかりの声色で言葉を発す。
そして、セットしていたストップウォッチ機能に目を向ける、舞白と須郷。
「…あと25秒…」
2人は搬入口に体を向け、準備体制に入る。ブローチは舞白の手に握られていた。
「狡噛監視官…、もし、それが万が一…間に合わなかった場合。俺に投げてください。それが執行官の役目です。」
須郷は真剣な面持ちで舞白を見据える。
思いがけない言葉に、舞白は驚いた様子を見せるが、直ぐに笑みを向ければ首を振るう。
「絶対嫌です。このブローチは私の獲物ですよ?…それに、執行官は盾ではありません、人間です。少なくとも、二度と私にそんなこと言わないでください?」
「……ッ…」
須郷はその言葉に、ハッと目を開いては、視線を搬入口へと移す。今まで、執行官として盾となってきた自分。過去に二係に身を置いていた時、現場で見捨てられたことさえあった。
舞白の発言に、何か込み上げる気持ちがあったが、今は感傷している場合ではなかった。
ストップウォッチは残り10秒を示す。
「須郷さん。私、須郷さんのこと、すごく尊敬してます。たった、1ヶ月しかまだ経ってませんけど。」
へへへっと笑みを浮かべれば、隣の須郷を見上げ右手で拳を作り、相手へと向ける。
「これからも、私にご指導お願いしますね。」
須郷も思わず左手で拳を作ると、コツンとぶつけ合う。
『はいはーい、あと5秒よ。
…頼んだわよ。』
唐之杜の言葉と共に、2人は駆け出す準備に。
刹那、目の前の搬入口のロックが解除され、大きな扉が音を立てながら開く。
ストップウォッチはリセットされ56、55と再カウントされていく。
「行きましょう!須郷……っ!?」
そして予想外の自体が発生する。
「っく……!」
振り落とされる足技。
舞白と須郷はギリギリで身を交わすと、外へと転がり落ちる。
「ここにもスパーリングロボット!
須郷さん!任せてもいいですか!?」
土壇場で相手が設置したのだろうか。
再び、警備員の格好をしたスパーリングロボットが一体、邪魔をするように襲いかかる。
手元のストップウォッチは残り51秒を示す。
「勿論です!爆弾をお願いします!監視官!」
スパーリングロボットに押し倒される須郷。
それを横目に、舞白は一気に駆け出す。
「((…たぶん、まだ横槍が入るはず…))」
搬入口付近の駐車場には大量のトラックが待機していた。
すると、舞白の予想通り、トラックの上部から人影が現れる。
「…ッ…」
何とか交わすも、目の前に立ち塞がるスパーリングロボット。
背後にも、もう一体現れれば、完全に塞がれてしまう。
ストップウォッチは45秒を示す。
残り25秒で辿り着かなければならない。
「((相手にしてられない…、ここでねじ伏せられたりなんてしたら))」
じりじりとにじみ寄る2体のスパーリングロボット。
グッとブローチを握る手の力が強まる。
「おい!伏せろ!!」
刹那、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
パッと施設の方へ目を向けると、ドミネーターを構える2人の姿。
高台から銃口が向けられる。
「宜野座さん!!雛河さん!!」
直ぐに舞白はトラックの下へと転がり込み、反対側へと抜け出せば、再び駆け抜ける。
『対象の脅威判定が更新されました。
執行モード デストロイ・デコンポーザー…』
2人の握るドミネーターから鋭い青い光が放たれる。
すると、対象物2体が粉々に消え去っていく。
『宜野座さん、雛河くん!引き続き上から援護をお願いします!』
デバイスから常守の声が聞こえてくる。
「((…助かった…ッ…
…朱さんの判断…))」
抜け目のない常守の判断に、舞白はニッと笑みを浮かべる。
そのまま駆け抜けるも残り時間は10秒。
目標の場所まで残り僅か。
数十m先に、待機する六合塚の姿が見えると、ホッと安堵する舞白。
しかし、また身を隠していたスパーリングロボットが現れると、今度は舞白の体に飛びつく。
「ッ…ぐ!!」
まるで押さえつけられるように、ググッと地面に押さえつけられてしまえば身動きが取れない。
上から援護していた宜野座達も、さすがにデコンポーザーを放つことはできず、飛び降り近づこうとする。しかし、距離を考えると間に合わない。
「舞白ちゃん!!投げて!!こっち!!」
一かバチかの行動に出る六合塚。
両手を広げ合図を送る。
「…ッ…六合塚さん!!」
握っていたブローチを、スパーリングロボットのスキをついて投げつける。残り5秒。
宙に浮かぶ爆発物。
六合塚はそれをキャッチすれば、用意していたドローンへとブローチを放り込む。
スイッチをオンにすれば、凍結されていく。
カチカチカチカチと機械音が周辺に響き渡っていた。
すると、舞白を押さえ込んでいたスパーリングロボットは凍結ドローン目掛けて動き出す。しかし、舞白は最後の力を振り絞り、体全体で掴みかかる。その場で激しく暴れるロボット。
「…離さないわよ…絶対…ッ」
ここまで全員で協力して、繋いだ56秒間。
一人一人の行動が果たして、吉と出るか凶と出るか。
全員が息を飲む瞬間だった。
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