PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
・・・・・・・・・・
『凍結完了まで残り10秒よ!』
六合塚の声が響き渡る。数m先で凍結ドローンを守る姿を、舞白は必死にロボットにしがみついたまま見守る。
腕のストップウォッチも同じく10秒を示していた。
「((…お願い…間に合って…ッ))」
ギリッと歯を食いしばり、時が過ぎ去るのを待つのみ。
「舞白!…くっ!!」
駆けつけた宜野座によって、吹き飛ばされるスパーリングロボット。続けて宜野座がロボットに蹴りを落とせば、激しく凹み停止する。
「あと…5秒…ッ…」
ぜえぜえと息を切らす舞白は、ゆっくり体を起こすと、凍結ドローンの元へと駆け出す。全て段取りを決めたのは舞白。最後の最後まで、責任を取ろうとしていた。
「…ッ……」
残り1秒の時点で、ドローンにしがみつく舞白。
傍らでは、六合塚もドローンに触れ、目を閉じる。
ストップウォッチの数字が"0"に。
それと同時に、凍結ドローンの音声が流れ始める。
『対象物の凍結 完了しました
対象物の凍結……』
爆発もせず、目の前で凍結完了を告げるドローンの音声。
恐る恐る中身を確認すると、完全に止まった様子の爆発物。
舞白と六合塚は、傍らで視線を合わせると、ホッとした表情を浮かべる。
「よかった…よかった……、六合塚さーん!!」
思いっきりその場で抱きつく舞白。へなへなと力が抜ける六合塚も優しく舞白を抱きとめる。
その様子を背後から見ていた宜野座も、ホッと胸を撫で下ろす。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
会場から次々と人々が逃げるように出ていく。
しかし、きちんと誘導されていた為、特に問題は起こらなかった。
議員や傍聴者全員が会場から出るのを確認すると、常守をはじめ監視官や執行官たちが再び会場内へと集まる。
すっかり空になった会場はシンと静まり返り、先程のパニック状態が嘘のようだった。
先程会場で暴れたスパーリングロボットは回収され、唐之杜が分析する事に。
会場の客席の一角に全員が集う。
バラバラと席に座れば、舞白と須郷は先程の疲れに一気に襲われ、ぐったりと疲れていた。
「爆発物は処理班に引渡しました。専門の施設で、すぐに解体作業に取り掛かるそうです。」
六合塚が先程のブローチの行先を説明する。どうやら、これで全ての問題は一旦解決されたらしい。処理班の報告によると、時限爆弾の残り時間は0と表示されていたという。
爆発手前で、なんとか凍結完了したらしい。
「とにかく、負傷者も死傷者も0。この事件はメディアに大きく取り上げられる様子も見受けられない…皆のお陰よ」
席に座る監視官、執行官たちを前に、常守は笑みを浮かべ、頭を下げる。
そして常守は三係の面々が座る方向へ目を向けると、再び頭を深く下げる。
「緊急にもかかわらず、三係の皆さんには本当に救われました。一係だけでは、到底解決できなかった事案ですから。改めて、お礼を…」
「…いいや、こちらも。最初のブリーフィング時の態度…謝らせてもらうよ」
宮舘と如月は一係へ向けて頭を下げる。
そして顔を上げると、バッチリ目が合う舞白。
舞白はへへへっと呑気に笑うと、宮舘もつられるように小さく笑みを向けた。
「…時には思い切った行動も必要だと、思い知りましたよ。狡噛"監視官"」
宮舘はその言葉を放てば、再び席へと座る。一係と三係の壁、そしてわだかまりが解消されたのか、いつもの険悪な空気は一切感じられなかった。
常守は双方にキョロキョロと目をやると、両手を胸の前でパチンっと合わせ、再び笑みを向ける。
「ひとまず、ここからは一係で会場内に残った痕跡を調べ…」
刹那、ビリビリビリと頭の奥まで突き刺さりそうな、鋭い音がホール内に響き渡る。まるでマイクのハウリング音のような、いやな音。全員が耳を塞いでいると、突如壇上のスクリーンに映像が映る。
「…ッ…何だ?」
雑音が無くなれば、舞白の隣の宜野座が声を上げる。砂嵐だった画面が、突如どこかの室内の画面に切り替わり、何ら変哲もない、普通の部屋だった。後ろにはソファや本棚が映りこむ。
そして、見知らぬ男の声がホール内に響き渡るのだった。
『はーい、皆さん。お疲れ様でした♪』
1人の少年が画面上に現れる。栗色のフワフワとした髪の毛を跳ねさせ、声からしてかなり幼さを感じさせる。顔は何やら、神話に出てくる天使や神を思わせる絵が描かれた面を被り、服装は子どもっぽい黄色のtシャツを身につけていた。
「…何、こいつ…」
霜月は画面を睨みつけ、凝視する。
『公安局刑事課の皆さん、さすがです!マンションの爆発に今回のホールを使った大量虐殺……未遂!…あーあ、惜しかったなあ…。でも次はそうはいかないよ?』
るんるんるんと嬉しそうに、はしゃぐように語る少年は、逆に気味悪さを憶える。
『なかなか有能な人がたーーーっくさん居るみたいで…。でも今回はヒントも多く残したし、時間も余裕…』
『"ポルックス"、無駄話はそこまでだ』
新たな男の声は少年の言葉を遮るように突然現れる。
画面に映し出される男。傍らの少年とは雰囲気が全く違う。声色から、冷徹なイメージが印象的だった。少年と同じく、仮面を被り、対照的に黒い髪色。白いTシャツを纏い、知的な印象を抱く。
その声に、宜野座は違和感を持つ。
どこかで聞いた覚えがあると…
『…いいじゃん別に…、どうせ僕たちにはたどり着けない』
ふいっと腕を組み、イジける様子の少年をよそに、黒髪の男は隣に腰を下ろし、じっと画面を見つめている様子だった。
『…はじめまして。公安局刑事課の皆さん。俺たちは……』
2人は横に並んで座ると、画面に向けて名前を名乗る。
『カストルと…』
『ポルックスで〜す!』
ヘラヘラと呑気な様子に、常守はグッと拳を握りしめていた。
おそらくこの2人が、全ての発端。サンクチュアリの強奪事件から今の今までの危険すぎる行動。間違いなくこの2人が起こした事だと考える。
「…カストルとポルックス……」
舞白はそれが何を意味するのか、既に分かっていた。その名前を聞くと、今までの全ての事が繋がる。
『さてさて…、もうわかってると思うけど。僕たちの元には…』
ヒョイッと傍らから大きな球体を取り出せば、画面に映し出すポルックス。もちろん三係はサンクチュアリの件は知らない。しかし、それを見た瞬間、宮舘達は驚いた様子で目を見開く。
『じゃーーーん!"日本の"無能な経済省の人達が隠し続けた、プルトニウムで〜す!』
「…こいつら…ふざけてるのか…」
宜野座もギリッと歯を食いしばり、相手の行動に激しく嫌悪する。そして、カストルと名乗った黒髪の男は画面に指を指し、口を開く。
『この国に、罰を与える。そして、自分の無知を自覚し、自身と向き合え』
"罪と罰" "汝自らを知れ"
サンクチュアリで残されていた言葉。
『シビュラに飼われた、哀れな人間達。この国に繁栄を齎した背景に、犠牲があったことを忘れるな』
先程までふざけていた様子のポルックス。声のトーンが不気味なほど下がれば、シビュラという文言を口にした。
『俺たちは"神の使い"、審判を下すのは、俺たちだ』
カストルが最後にそう言い放つと、スクリーンの映像は消える。広いホールに、やたら声が響き残る。
その場にいた一係と三係の全員は、突然のことに言葉を失っていたが、宮舘の声で一掃される。
「…どういう事だ、さっきの話は…
プルトニウム?環境省?…やはり、怪しいと思ったんだ…」
宮舘はその場で立ち上がると、霜月に目を向ける。
「昨年の青森の施設の調査。何か絡んでるんだろう?霜月監視官?」
「…それは…」
霜月は常守へと視線を向ける。それに気づいた常守は小さくため息を漏らすと、宮舘へと視線を送る。
「宮舘監視官。戻ったら必ずお話します。」
何か言いたげな宮舘。それもそのはずだろう。プロトニウムが訳の分からない愉快犯に奪われているその事実に、黙っていられるわけがなかった。
「先程の動画も含めて、調査を行いましょう。私は三係の皆さんと1度戻ります。霜月監視官、こちらの指揮をお願いします。唐之杜さんと連携をとって、可能な限り調べられることは全て調べてください」
「了解」
そして再び、全員へと向き直る常守。
「相手は本気だということが今回の事件を通して、再確認出来たと思います。簡単に人を殺める、どんな手段を使っても、方法を厭わない残忍且つ危険な相手です。…彼らは、私たちに挑戦状を突きつけたようなもの…。必ず、彼らを止めましょう。」
対象は2人。
カストルとポルックス。
この国に恨みを持つ2人、シビュラに何らかの感情を抱く2人。
舞白は彼らが言い放った言葉一つ一つを、何度も脳内でリピートさせていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・