PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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4章
青い瞳のディオスクロイ


 

 

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あの頃は、綺麗だったんだ。

海も空も真っ青で、何もかもが輝いて見えた。

父も母も、たくさんの愛情を注いでくれた。

 

世界が大好きだった。

 

 

 

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「…おとうさん…おかあさん…ッ……」

 

 

 

クローゼットに隠れる幼い双子。

弟の口を手で塞ぐ兄。

ガクガクと体が震えると、口をしっかりと閉じ、鼻で荒い呼吸をする。

 

バタバタと複数の足音が室内に響くと、弟はさらに身体を震わせる。互いをぎゅっと抱きしめながら、聞こえる怒号に眉を顰めていた。

 

 

父と母が部屋へと追い込まれ、クローゼットの目の前へと現れる。父は母を守るように抱き留め、何やら相手に声を荒あげているようだった。幼い2人は、何を話しているのか理解できなかった。

ただ、父と母が何者かに銃口を向けられているのは、隙間から覗いていた兄には理解出来ていた。

 

「……ッ……」

 

必死に荒くなる呼吸を抑えようと、自身の手でも口を塞ぐ。冷や汗が背中を伝っていく感覚、体から血液が一気に引いていくような、感じたことの無い感覚。

 

 

刹那、鋭い銃声と共に両親が倒れる光景。

真っ赤な血が、床へと広がり、クローゼット内にまで、その血が流れ込む。

 

抱き合ったまま絶命した2人。

銃を持った男はその場から立ち去って行く。

 

「フーーッ……フゥーーーッ……」

 

鼻から漏れる更に激しい荒い息。

兄の胸に顔を埋めたまま、声を殺す弟。

 

 

 

その日を境に、俺たちの世界は真っ暗に染まっていく。

 

 

 

 

 

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「ッ……はぁ……」

 

息苦しさに耐えられず目を覚ます。

上半身を起こすと、ギシギシと音を鳴らす古いベッド。傍らでは弟が気持ちよさそうに眠っていた。

 

生暖かい室内。額を滑り降ちる汗を手で拭い、弟を起こさないようにベッドから足を下ろすと、立ち上がる。

 

 

「……また、あの夢だ……」

 

ふらふらと洗面所へと向かい、勢いよく蛇口を捻ると、顔に冷水を浴びせる。頭が煮え滾るように熱く、酷く目眩を起こしていた。

 

「((…落ち着け……、大丈夫だ……。まだ時間はある…))」

 

スっとその場にしゃがみ込み、呼吸を整える。

濡れた額から、ぽたぽたと水滴か垂れ落ちていくと、その光景をじっと見つめる。規則正しい感覚で落下していく水滴を見ていると、まるで催眠術に掛かったかのように、急激な眠気に襲われていた。

 

 

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「「……人工サヴァン…」」

 

 

「「……今日の投薬は…………」」

 

 

「「この計算式を……」」

 

 

白衣を纏った人間達。

白い服、白いシーツ、白い空間。

 

繰り返される実験に、投薬、それに耐えられず死んでいく仲間達。

 

 

生き残った者達に与えられていく名前。

 

 

「今日から君たちの名は…………だ。ゼウスの息子として、英雄として、私たちの希望の光となれ……」

 

 

沢山いた仲間、息子達も次々と命を失っていく。

 

絶望の淵に立たされていた俺たちを救い出してくれた、あの方の為に。そして父と母を裏切ったこの国を、俺たち兄弟で潰してやる。

俺たちの犠牲があっての、この国の繁栄を、俺たちの手で……

 

 

 

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肩をトントントンと強く叩かれる感覚。

薄らと瞼を持ち上げると、弟の姿が視界に映る。

 

 

「兄さん!起きて、兄さん!」

 

「…………れ……、い……」

 

兄のぼんやりとした姿。呂律も回っていない。弟の玲は落ち着いた様子で部屋から薬品と注射器を手に取り、再び洗面所へと現れる。

 

「…兄さん、しっかりしてよー……。ヤバかったらいつも起こしてって言ってるのに……」

 

手際よく腕に注射針を刺し込むと、薬品を注入していく。"こっち"に来てから、兄の体調は悪化するばかり。注射針を抜き、落ち着くまでその場で兄を介抱する。

 

 

「……兄さん…」

 

青ざめた兄の頬に触れる。目は開いているのに、その瞳はどこか遠くを見ているよう。そのオッドアイはピクピクと微かに揺れていた。

 

玲はそっと隣に座ると、兄の肩に頭を乗せて静かに目を閉じる。

 

 

 

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「……うーん……」

 

デバイスのアラームが鳴り響くと、ゆっくりと体を起こす。室内にうさぎのホロアバターが現れると、ぴょんぴょんと周りを駆け回っていた。

 

 

 

「「8月29日 月曜日!6時20分!

今朝の狡噛舞白さんのサイコパス色相はホワイト!

今日の予定は8時から17時まで、公安局刑事課にて勤務でーす!」」

 

元気な声とは裏腹に、舞白は寝不足気味の様子でぐったりとしていた。

 

「「昨日の食事摂取量は合計565kcal……あれれ〜?これだと栄養不足で体調悪化に繋がりますよ?朝食は少し多めに、500kcalが適性です!」」

 

眠い目を擦りながら、ベッドから足を下ろすとぐーーっと体を伸ばす。アバターに視線を向け、扉のドアノブに手をかけると口を開く。

 

「じゃあ…テイストはチャイニーズの500kcalで」

 

「「かしこまりました〜」」

 

ガチャッと自室の扉を開け、一瞬兄がいるであろう部屋に目を向けるも、すぐにリビングへと繋がる扉へと手を伸ばす。

ガチャッと扉を開けば、エアコンの冷房がガンガンにかけられた室内、何故かソファで眠る兄の姿が目につく。

 

「……温度設定23度って…風邪ひくし、冷凍庫状態なんだけど……」

 

キャミソールに短パン姿の舞白にとっては極寒。椅子にかけていたジャケットをサッと羽織ると、オートサーバーの機械の前へと向かい、既に用意されていた朝食を取り出すとテーブルへ運ぶ。

 

「……ぴょん吉、声の音量最小で、ニュース一覧を出して」

 

昔からの相棒と言っても過言ではない、アバターの"ぴょん吉"。指示通り、厚生省推奨ニュースを映し出す。

 

「「今日の注目ニュースはこの2つ〜……、昨日の小宮カリナ議員の初演説に、"謎の2人組"のサイト……」」

 

「へぇ〜、やっぱり小宮カリナがトップニュース……って……。何これ、……」

 

注目ニュースのひとつ、"謎の2人組"。あの動画の2人が被っていた仮面が可愛らしいイラストで描かれているサイト。"ディオスクローイの報復"と表示されていた。

 

手に持っていた箸をテーブルに戻し、そのニュースを凝視する。

 

そのサイトには匿名掲示板のようなものが存在し、様々な人達が匿名でコメントを貼り出していた。

 

"打倒シビュラ"

 

"人々に自由を"

 

"職能適性反対"

 

まるで、このサイトの製作者を支持するような書き込みが多く見受けられる。どう考えても、昨日の2人に違いない。カストルとポルックス。

何故ならば、ディオスクローイという言葉はカストルとポルックスを指す意味だった。

 

 

「……本当に……何なの、この2人」

 

出勤したら恐らくこの話で持ち切りだろうと、前もって情報を収集していく。再び箸を手に取ると、朝食を口に放り込んでいく。

 

 

掲示板をさらに読み漁っていくと、急激に支持者が増えている様子だった。

 

最近、シビュラに公認された宗教団体なども現れ始めたが、それに近い雰囲気を醸し出している気がしていた。神格化され、同調する者が現れ、時にそれは危険分子へと変わる事もある。内容を見ていくと、過激な書き込みも見受けられ、昨日の今日にも関わらず広がり方が異常だった。

 

 

「「報告です!自宅から公安局ビルまでのルート内で交通事故が発生。それにより渋滞が予想される為、7時10分に出発する事を推奨しまーす!」」

 

「嘘でしょ……、急がないと……」

 

バタバタと動いていると、物音に反応した狡噛が目を覚ます。やたら急ぎ足の舞白に視線を送り、体を起こし、立ち上がる。

 

 

 

「……おはよう、舞白。遅刻か?」

 

「おはよう、お兄ちゃん。まだ大丈夫!でも急がないと…」

 

朝食を食べ終えると、洗面所へと忙しなく駆け抜ける。表示されたままのニュースに狡噛も目を向ければ、眉を顰めていた。

 

「…アイツらか。行動が早いな。」

 

キッチンへ向かい、コーヒーを準備していると、洗面と化粧を済ませた舞白が再びリビングへと現れる。そして目の前でデバイスを操作すると、スカートスーツ姿へと着替え、テーブル上の書類や本をまとめていく。

 

 

「じゃあお兄ちゃん、私行くね?遅刻したくないし、早めに出る」

 

鞄にまとめた書類を詰め込み、ジャケットを手に取れば、キッチンでコーヒーを飲み、一服する兄に目を向ける。

 

「って!家の中でタバコは禁止!」

 

「……そうだった、悪い……」

 

「もうっ……、じゃあまたね、お兄ちゃん。無茶したらダメだよ?帰る時は教えてね?」

 

「お前こそ無理して、常守やギノを困らせるなよ。

……あぁ、またな」

 

グッと拳をぶつけるよつな素振りを見せれば、狡噛もそれに応える。

 

そして舞白は車に乗り込むと、職場へと急ぐのであった。

 

 

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