PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
・・・・・・・・・・・・・
"NO data NO Image"
表示されるその文字に、ごくりと息を飲む。両隣では宜野座と六合塚が眉を顰めていた。
「……出ます」
ふぅー……と息を吐き、応答を押す。同時に2人が映る画面へと視線を送る3人。
『あ!出てくれた!』
デバイスとスクリーンから同時に全く同じ音声が流れる。間違いなく通話相手はこの2人だ。舞白は声を発さず、相手の様子を伺う。
『どうもどうも〜……あれ?繋がってる?おーーい』
ブンブンと手を振る仕草をするポルックス。じっとこちらの様子を伺っている様子だった。なにか喋れと言わんばかりに2人から圧を感じる。
下手なことは口にできない。なんせテレビの全チャンネルをジャックしているのだ。リアルタイムに全国民に晒されるようなもの。
「聞こえていますよ。」
舞白がそう言い放つと、スクリーンからも自分の声が聞こえる。そっと椅子から立ち上がると、スクリーンに体を向け、画面の2人を睨みつける。
カストルは腕を組み、画面を見据えている様子。ポルックスは返答が来たことに喜んでいるのか、嬉しそうにまだ手を振り続けていた。
『嬉しいな〜!視聴者の皆さん!お相手は、公安局刑事課の刑事さんですよ〜!』
傍らの宜野座は視線を自身のデバイスに向ける。例の掲示板に、次々と書き込まれていく。ネットにも様々な書き込みが増えている様子だった。
"すっげ〜!リアル刑事"
"女?"
"本物?ていうか何かの番組のドッキリじゃない?"
"エリートじゃん"
"ていうか警察なにやってんのwww"
「……気をつけて、舞白ちゃん」
六合塚の言葉にこくりと頷く。
突如、隣で沈黙していたカストルが口を開く。ポルックスとは対照的で、腕を組んだまま、落ち着いた様子だった。
『昨日のことに関しては、迂闊だった。君たちをなめていたよ。』
「……」
『意外と、日本の刑事は有能らしいな』
「要件は?」
ベラベラと余計なことを語られる訳にも行かない。下手をすれば、この動画を見ている一般市民のサイコパスを悪化させる可能性は否めない。
『ふふふっ、連れないなぁ……。まあ時間も限られてるし、僕達からの問題で〜す』
2人は真っ直ぐとこちらを見据えるように体を向き直すと、カストルが口を開く。
『磔柱が並ぶ時、聖アンデレの処刑台にて、天の使いが舞い降りる』
ポルックスは何やら指で方向を示すような動きをすると、最後画面越しに指を指す。
まるで楽しむように、ふざけるように、昨日の動画と同じようになめられた様子に舞白は内心苛苛していた。
『あ!心配しないでね、刑事さん。とっておきの"アレ"はまだ使わないから!』
"アレ"とはおそらく、プルトニウムの事だろう。しかし、その発言は"アレ"
以外のものは使うと示唆しているようなものだった。
「…ふざけるのも大概にしなさい。必ず、あなた達を逮捕します」
『できるものなら。』
やってみろ、と言わんばかりの冷徹な声色。明らかに挑戦状を突きつけてきた相手。もっと問い詰めたいところだが、さすがに一般市民の前で更に口を開く訳にもいかない。グッと唇をかみしめ、画面へと視線を送り続ける。
『皆さん!どんどん書き込みも待ってるからね〜?ひとつひとつ、全部目を通してるから♪』
『まあ、せいぜい"お仕事頑張ってくださいね、刑事さん"』
「……ッ……」
宜野座はカストルの声色と言葉にハッと目を見開く。その様子を見ていた六合塚は不思議そうに宜野座へ視線を送る。
『じゃあ、頑張ってね〜!ばいば〜い!!』
ポルックスの呑気な声と同時にテレビ画面が切り替わる。まるで何も無かったかのように、ニュース番組やバラエティ番組へと再び切り替わると、3人は互いを見合う。
そしてネット上では更に2人に関しての情報が飛び交う。彼らの行動を面白がるかのように、それに相手にしたのは日本の警察。刺激的な内容に、興味を示さない一般市民の方が少ないはずだった。
「カストルとポルックス、おそらく次の犯行を……」
話を進めようとした瞬間、宜野座の様子に気づいた舞白。何か先程の動画で気になることでもあったのかと視線を向ける。それに間髪入れず、六合塚が口を開いた。
「宜野座?どうかしたの」
「……昨日、黒髪の……カストルに俺は接触してる」
宜野座は思い出す。昨日、宜野座にぶつかってきた学生のような風貌の少年。しかし、顔はハッキリと覚えてはいなかった。でも、あの声は間違いない。そしてあの台詞。
「間違いなく、あれは意図して俺に接触していた。……なめられたものだな」
「わざわざ現場に赴くなんて。変わった奴らね」
大胆な行動をとる相手。しかし、現場のセキュリティチェックやサイマティックスキャンには何も怪しい者は無かった。
「六合塚さん。昨日の傍聴者リストのID、2000人分。もう一度洗いましょう。こうなれば、ひとつひとつ確認していくしかないです……」
「そうするしか無さそうね。その作業は任せて。」
「ありがとうございます。
……で、私と宜野座さんで……」
「"磔柱が並ぶ時、聖アンデレの処刑台にて、天の使いが舞い降りる"だったな」
「はい。後は先程の動画を確認しましょう。恐らく、あの二人は何かヒントを残してる。あの様子から見ても、ワンサイドゲームじゃないハズ。」
今までも、何かしら彼らはヒントとなるメッセージ、痕跡を残していた。あの言葉、そして舞白はそれだけでなく、ポルックスの言動にも注目する。
「宜野座さん、それじゃ……」
刹那、再びデバイスが鳴り響く。
相手は局長、呼び出されるのは久しぶりの事だった。さすがにあの動画や昨日の事件を含めて、何か話しでもあるのだろう。
『狡噛監視感補佐、すぐに局長室へ来なさい。』
「はい、分かりました。」
舞白は一旦調査を2人に託し、局長室へと向かう。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
88F 局長執務室―――
「失礼します」
局長との一体一の対面、未だに若干ではあるものの緊張していた。相手はシビュラシステム、ドミネーターさえも向けてきた相手。未だに、相手が考えている心の内は、信用しきれていない部分がある。不要とみなされば殺される、その関係性だ。
舞白は禾生のデスクの前へと向かう。相変わらず何を考えているのか分からない冷徹な視線を向けられる。
「こうして話をするのは久しぶりだね。」
「"あなた"とはね。…でも、青森でも会ったでしょう、烏間さん」
サンクチュアリで一瞬だけだが顔を合わせた"烏間明"。あれは人ではないと気づいていた。
「さすがに気づいていたみたいだね。相変わらずの洞察力を持っているようで安心したよ。日本に戻って、鈍ったかと思ったが……」
「だったら昨日の事件は解決できてない。
……で、ご要件は何ですか?」
できれば、さっさとこの場から離れたいと考える舞白。それを分かりきっているかのように禾生は微かに笑みを浮かべる。
「別に、君をこの場でとって食おうとしている訳じゃない。そこまで我々も薄情ではないと言ったはずだよ。少しは信頼して欲しいな」
そう口にすれば、舞白にある画像を見せる。カストルとポルックス、仮面を被り、呑気にピースをしている2人の姿。
「彼らの狙い。君はどう考えてる?」
手を組み肘を立て、真っ直ぐに舞白を見据える。
「この国の破壊、復讐。そして恐らく、彼らはシビュラシステムをも狙ってる。」
「理由は?」
舞白は今までのメッセージや情報をデバイスから表示していく。
罪と罰、汝自らを知れ……
そして外務省が既に手に入れていた、ZEUSに関わる資料……
「日本棄民。あなた達が過去に切り捨てた人間たち。アジア圏を中心に今までその存在は把握していたけど……、恐らくはまだ技術者を送り込んでいた地域がある、そうでしょう?」
舞白は画面を全て消すと、禾生に詰め寄る。
「……知っていることがあるなら話して。」
禾生のデスクへと両手を乗せ、相手を見下ろす。元はと言えば、日本棄民が存在した理由はシビュラシステムにある。昔、各地に派遣した日本の技術者達、それを一方的に不要だと見なし、切り捨てたのは紛れもなくシビュラシステムだった。
「君の言う通りだよ。アジア圏だけではなく、世界各地に日本の技術者達を送った。」
目の前に巨大や世界地図が表示される。禾生は席から立ち上がると地図を見上げ言葉を続ける。
「アメリカ合衆国。かつて日本と日米安保条約を結んでいた大国。"日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約"、頭のいい君なら分かるはずだね」
「…鎖国と同時に解消された条約。そして在日米軍も撤退して沖縄の基地も返還された。実質、日本は米国の矛と盾の"矛"を放棄。そこで完璧な盾として鎖国を維持する国境警備にならび必要となったのが、国外の脅威を事前に排除する攻性の実力組織、そこから国防省も創設された……。その事に関して、須郷執行官と話したことがあります。彼は沖縄の基地にいた元軍人ですから。」
日米安保条約は対外政策と安全保障政策の根幹を成す最重要条約。それを放棄した日本。結果として、周囲の武装勢力(主に中国大陸)に囲まれた日本は安定を勝ち取るために新たな矛を調達した。国境警備に国防省……
「日本が鎖国を始めた時から、既にかなりの国が崩壊国家になっていてね。しかし、国家は崩壊しても各国の軍隊は独自の集団として活動をしていた、要するに"軍閥化"。旧正規軍の軍閥は各所に独自のコミュニティを築いていたといえば分かりやすいかな?」
世界地図の、とある島国が拡大表示される。その場所は…
「アメリカ合衆国、6つの島からなるハワイ州。現状は国としては機能していないだろうが…、内政も全く把握出来ない状況だ。」
「もしかして、この場所に日本を狙う怪しい軍閥組織があるとか……。そして過去に技術者を送った場所、そういうこと?」
「理解が早くて助かるよ。」
「……今の日本国民は知らないだろうけど、昔からこの場所に、米国の海軍太平洋艦隊司令部に、大規模な軍事拠点が置かれていたのは知ってる。」
条約解消後、崩壊し、分裂したアメリカ合衆国。そこで元から軍閥組織が置かれていたハワイ島から要請が来たのだろう。技術者の派遣をと。そしてその見返りに、国防省と協力関係となり、ある程度の米国からの攻撃を防いでいた……
「本当に……隠し事ばかりねこの国は。それで結局、島の軍閥組織とも縁を切った、もしくは裏切られた。伴って切り離された技術者……そういう事ね。」
禾生は地図を消すと、再び椅子へ腰を下ろす。スラスラと話を繋ぎ合わせ、答えを出していく舞白に対し、正直驚いている様子だった。
「私たちが持っている情報はここまでだ。まさかここまで手強い奴等だとは思わなくてね。君には話しておくよ」
「その言い方だと、"口外するな"って事?」
「……その通りだよ。とにかく、君たち刑事課一係の仕事は、あの二人の逮捕だ。面倒な過去の情勢まで知る必要は無い。」
ニヤリと怪しげに笑みを浮かべる相手に、舞白は小さくため息を吐く。
「今の話が嘘偽りなく、本当の事なら、カストルとポルックスは相当この国に恨みを持ってるはずよ。そして、彼らはやはり日本棄民。背後にある、組織に利用されてるか、独断で復讐を行っているのか……」
考え込むように腕を組む舞白。その姿をじっと見つめる禾生。
「それを調べるのは君の仕事だ。期待しているよ、狡噛舞白監視官……」
都合のいいことだと、舞白は常々シビュラシステムを嫌悪する。予想以上の犯人の動きに焦っているのだろう。しかし、彼らだけではあの2人を特定することもできない、かなりの手練だと判断している。
外務省が掴んでいた情報、そして今まで掴み取った彼らの情報を繋げていく。
本気で彼らは、この国に勝負を仕掛けている。間違いない。彼らもまた、シビュラシステムの被害者。そして他国に上手く利用されている被害者。
カストルとポルックス
舞白は心の奥底で、彼らを密かに不憫だと、憐れだと、胸を痛めていた。
・・・・・・・・・・・・