PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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太陽と月

 

 

・・・・・・・・・

 

 

46F 分析室 ラボ―――

 

 

 

『"磔柱が並ぶ時、聖アンデレの処刑台にて、天の使いが舞い降りる"』

 

唐之杜はさすがに疲労のピークに達したのか、宿舎にて仮眠中。代わりに六合塚が唐之杜の定位置へと腰をかけ、傍聴者2000人の調査。

 

 

舞白と宜野座は別モニターにて、何度も動画を見返し、手がかりを探っていた。局長室から戻ってきた舞白の様子は、いつもと変わらないように見えるものの、どことなく口数は少なく、何かあったのだろうと察知していた。しかし、聞いたところで何も話はしないだろうと、深追いはしなかった。

 

「………」

 

眉間を指で摘むと、顔を天井へと動かす。グリグリと首を回すと、舞白は小さくため息を零していた。局長からの情報や、彼らの示す暗号のようなもの、情報量が多すぎて、どっと疲れに襲われる。

 

「舞白ちゃん、宜野座。残念だけど、傍聴者のリストからランダムで何人かのIDが消されてるわ。おそらく、宜野座と接触した人物のIDは消滅してる…」

 

六合塚は手を止めると、2人へ目を向ける。

 

「復元も無理そうか?」

 

「やってみたんだけど、無理ね。完全に消されてる」

 

これで残された手がかりはあの動画のみ。六合塚は先程の動画を大きなモニターへと映し出す。

その瞬間、分析室の扉が開くと、とある人物が現れた。

 

 

「常守監視官、まだ早いんじゃ…」

 

就労開始時刻より早く現れた常守。それもそのはず、あんな動画が出回っている以上、眠ってなどいられなかった。

 

「大丈夫よ。少しは仮眠したし、

…それに、気になっちゃってね」

 

ふふふっと笑みを浮かべる常守。内心、休んでて欲しいと思ったものの、突然の強力な人物が現れ、ホッとしていた。

 

「例の動画、なにか手掛かりは掴めた?」

 

舞白の隣に立つ常守は、横の人物を見上げる形で問いかける。眉を顰め、画面から目を離さない舞白。その様子に、何かあったのだろうと、常守も宜野座と同じく察していた。

 

「はい。…ただかなり複雑で…」

 

舞白の傍らには複数の文字が殴り書きされた白い用紙。思い浮かんだものを書き記しては、グチャグチャと黒いペンで消されている様子。

 

 

 

「"磔柱が並ぶ時"、これは日時を。"聖アンデレの処刑台"、これは場所。"天の使いが舞い降りる"、これに関してはなんらかの手段だと思うんです」

 

ふぅ…、と息を吐くと白い用紙を掴み、顔の前へ持ってくる。

 

「今までと違って、やけに抽象的ね」

 

常守もその紙に目をやると、困り果てたような表情を浮かべていた。宜野座と六合塚は、じっとモニターに移された動画を見据える。

 

「昨日の仕掛けた罠を見る限り、彼らは、大量殺戮の為なら手段は厭わない。場所も手段も、恐らく多くの人の目に着く場所を選ぶはず」

 

大胆で思い切った行動をする2人組、今までの過程から恐らく、再び大規模なテロを起こすだろうと常守は予想していた。

 

「…昨日、まさかテロを阻止されるなんて思ってなかったんだと思います。用意周到でしたし、最後の最後まで慎重に罠を仕掛けてましたから。」

 

書き潰した白い用紙をデスクへと戻せば、モニターへと再び目を向ける。腕を組む舞白と常守。2人は吸い込まれるように、じっと見入っていた。

 

 

「六合塚。昨日の討論会のように、近々大規模な、且つ重要そうな催事が開かれる予定はありそうか?」

 

宜野座の問に、直ぐにキーボードをカタカタと鳴らす。大勢を簡単に殺すのであれば、昨日のような状況が手っ取り早い。近々都内で大きなイベントがないか調べさせる。

 

 

「…直近では大した催事は無さそう。1か月後に宗教組織のヘブンズリープの大規模礼拝会があるけど…」

 

最近シビュラに認可された宗教団体。厚生省にも多数の信者が居ると耳にしたことはあるも、それは何となく違うのではと、舞白は考える。

 

 

「さすがにそれを狙うのは分かり易すぎるし、1ヶ月も彼らは待たないはずです。宗教団体に何か恨みを持つ理由はないと思いますし…」

 

彼らも焦りがあるはずだ。長々と引っ張りすぎても尻尾を掴まれやすい。今までも1〜2日以内に何かしらのアクションがあった。最長でも1〜2週間しか引っ張らないだろうと予想していた。

 

 

「人が多い場所、目につく場所、そしてあのメッセージの意味を成す場所…」

 

ふと、動画のポルックスの動きに注目する。

カストルが『磔柱が並ぶ時、聖アンデレの処刑台にて、天の使いが舞い降りる』と口にしている時、何やらフィンガーサインのようなものを表していた。

 

指を右、左、上、下、そして真ん中、こちらに向けてられる指。

 

「((… 磔柱は十字架…))」

 

舞白は自分自身の指でも、同じように指を動かす。

 

「反転してるから、正しくは左、右、上、下…」

 

 

「…何だ、あいつの動きか?」

 

宜野座は指を動かす舞白を不思議そうに見据える。

じっと画面を見つめ、何か考えるかのように繰り返し動かす。

 

 

 

「…ギリシャ十字…スプレッド…」

 

「スプレッドって…、タロットカードの並べ方?」

 

そのワードに即反応したのは六合塚だった。

 

「はい。"磔柱"というワードにピンと来ました」

 

タロットカードは、小アルカナ56、大アルカナ22枚の78枚で構成される。タロットカードほ占う事柄によって、枚数やスプレッド(並べ方)に向き不向きがあった。

 

やけに十字架に焦点を当てる彼ら。この十字に意味があるのではないかと考えていた。

 

「左右上下中、並べ方、そして展開方法も同じ順です。現在、障害、傾向、対策、結果…。問題や障害を把握するスプレッドです。」

 

「…まるで、俺たちが置かれてる状況のようだな。」

 

「そうとも考えれますね。…でも彼らは、やたら十字架や磔柱に重きを置いてる気がします。」

 

宜野座と常守も続いて言葉を発す。

 

「まずは"磔柱が並ぶ時"。いつ。それが起こるかを考えないといけないわね。」

 

「いつ…。この一言だけで日時分かるように仕向けているなら」

 

六合塚と舞白は、彼らが"いつ"それを起こすのかを重点的に考える。

すると、舞白は再び白い紙を手に取り、様々な十字架を書いていく。

 

「確か、シンボリズム解釈では十字は"太陽"、斜め十字は"月"を意味してるはずよ。」

 

「六合塚さん、詳しい…」

 

舞白はポンッと手のひらに拳を乗せ、なるほど!と言わんばかりの表情を向ける。

 

「昔、好きだったロックバンドの曲にそう言った意味の歌詞があったのよ。」

 

確かに、六合塚の好きなパンク・ロックにありがちかも、とその場にいた3人も納得していた。

 

 

「太陽と月が重なる時…ってことは」

 

「月食だ。」

 

常守と宜野座がテンポ良く口にすれば、視線を六合塚へと向ける。再び手元を動かし、ある情報をモニターへ映し出す。

表示されたのは次発生するであろう月食の日付だった。

 

 

「次の月食は…、来月の8日。9月8日の午後6時過ぎの予定ね。」

 

"磔柱が並ぶ時"という、たった一言に隠されていた日時。それは月食を示していた。そして予想通り、約2週間後。出来すぎている内容に、4人は力を抜かす。

 

 

「残す問題は、場所と手段ね。舞白ちゃん、心当たりは?」

 

「そうですね…。"聖アンデレの処刑台"…」

 

聖アンデレはキリストの使者の1人。

そしてキリストと同じく殉教した1人でもあった。

 

 

「彼の処刑台は、"磔"です。キリストも十字架に磔にされて殉教してます。それと同じなら、ただの十字架を表してる事しか…」

 

トントントンと眉間を指で叩き、うーーーん…と、悩む仕草を見せる。

十字架。すると何かを思い出したかのように、モニターにある画像を表示する。

映されたのは十字架だが、世間一般的な左右対称の十字ではなく、Xの形をした十字架だった。

 

「聖アンデレ十字。アンデレが処刑された時はこの形の十字架に磔にされてます。…この画像を見てください。」

 

映し出された絵画には、アンデレと思われる人物が磔にされている画像。少し刺激の強い画像に、この場に霜月が居なくて良かったと内心考えていた。

 

「よく見る十字架の形とは全く違う…初めて見た。」

 

「お前、つくづく思うが…、よくこんな物を知ってるな?」

 

「聖書のお陰です。アンデレの話は結構有名なんですよ?イエスと同じ処刑方法は恐れ多いからって、形状を変えた十字架で殉教したんです。そして、イエスの最初の弟子の1人、陰の立役者とも言われてます。」

 

「…狡噛と同じ博覧強記ね」

 

メッセージを改名していくも、この文言に関しては場所を示すもの。舞白の解釈に、残念ながら場所を示すような事はまだ解明されてない。

 

 

「聖アンデレの処刑台、中身は解明できたにしても、肝心な場所はこれだけじゃ分かりません。…恐らく、まだどこかに謎が隠されてるはずなんです。」

 

ふぅ、と息を吐く舞白。

分析室のソファに腰を下ろすと、両手で顔を覆う。

色々考えすぎて、頭がパンク寸前の様子だった。

 

「一先ず、日時は判明しました。全く意味をなさない日に彼らも仕掛けてくるとは考えにくい…。月食の日を狙っているのは間違いなさそうですね」

 

常守はモニターから視線を外し、3人へ目を向ける。

 

「場所、手段。8日までになんとか解明しなければ…」

 

 

刹那、分析室にエリアストレス警報を知らせるアナウンスが流される。

 

『エリアストレス上昇警報 足立区 伊興グライスヒル内部にて、規定値超過サイコパスを計測

当直監視官は執行官を伴い、直ちに現場へ―――』

 

『続いて、港区六本木―――』

 

次々と発令される警報に、4人は頭を悩ませる。

 

「…残念だけど、私たちには他にもやるべき事があるわ。全員で協力して、彼らを止めましょう。」

 

 

彼らの存在が世間にも広まっていき、影響も徐々に出始めていた。彼らを神のように奉る者たちもいれば、不安視する者たちも現れる。それは当然の事だった。

 

「はい。

…宜野座さん、六合塚さん。行きましょう。順に対処していきます。」

 

「「了解」」

 

舞白は常守に敬礼し、部屋を飛び出す。

宜野座と六合塚も続いて部屋を後にする。

 

残された日数まで残り僅か。

月食のその日までに、"聖アンデレの処刑台にて、天の使いが舞い降りる"その解明を急がなければならなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

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