PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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ハンニバル

 

 

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2118年 9月1日

港区 私立新麻布高校

 

殆どの学校では新学期が始まっていた。

夏休みの思い出などを語らう学生達。

 

しかし、今年は少し違うらしい。若者の心を掴んでいる、とある2人組の存在。

若者や学生たちの話は、"あの事"で持ち切りだった。

 

 

「ねぇ!昨日の配信動画見た?」

「見た見た!アーカイブだけど!あの2人、謎めいてて本当に良いよね〜」

「カストルとポルックス、どっち派??」

「私絶対カストル!知的というかさ〜、絶対イケメンだよ〜」

「えー!私はポルックスだな〜!子犬みたいで可愛い雰囲気だし」

 

きゃっきゃっと教室内の少女達は盛り上がっている様子。手元のデバイスには、あのサイトの掲示板が表示されていた。

 

「あの女刑事との中継動画。俺やっぱ、あれが1番震えたわ〜」

「あれってマジなの?正直怪しくね?」

「またさ、刑事とやり取りする動画見てみたいわ〜、なんか映画みたいで、すげーテンション上がる」

「てか、アイツらのサイコパスってどうなってんの?捕まったら、1発で隔離施設行きだろ」

 

 

 

 

 

「な?琉もそう思うよな?」

 

ガっと首に腕を絡められると、小さくため息を吐く。手に持っていた本に目を向けながら、盛り上がっていた少年グループへと言葉を放つ。

 

「別に、興味無いよ」

 

ズレた伊達メガネを戻す仕草をしつつ、彼らを見据える。

 

「なんだよ、つれねぇなぁ〜、相変わらず…」

 

つまらね〜、と口にした少年は、絡めていた腕を離すと再びグループの元へと戻っていく。

琉は微かに口角を持ち上げれば、世間の反応に満足している様子だった。とくに、若者は染まりやすく、操りやすい。内心、なんて馬鹿な奴らだと嘲笑っていた。

 

 

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―――同日 成城学園高等学校―――

 

 

 

主に芸術に秀でた学生が在学する高等学校。

1人の少年の周りに、複数の生徒が群がっていた。

 

 

「玲くん!すごい!」

「絶対今年の作品展の目玉になるよ!金賞確定だね」

 

 

とりまき達の反応に、へへへっと笑みを浮かべながら恥ずかしそうに模造紙に触れる。

どうやら、夏休みの課題を見せ合っていた様子。あまりにも逸脱した玲の作品に、他の生徒たちは度肝を抜かれていた。

 

 

「嬉しいなぁ〜!これ、故郷の写真を元に描いてみたんだ!と言ってもその写真は手元に無いんだけど…」

 

広げられた模造紙には、まるで航空写真そのものが描かれていた。細い黒いペンで、非常に細かく描かれており、本物の写真のような"絵"だった。

 

「手元にないって…、記憶したものをそのまま描いた、とか?」

 

「うん♪僕得意なんだよね。"映像記憶"?ってやつかな。写真とか、1度目に映ったものは基本的に覚えてるんだ〜、スゴイデショ〜」

 

るんるん♪とふわふわの栗毛を跳ねさせながら、自慢げに語る玲。そんな可愛らしい姿に、主に女子生徒は釘付けになっている様子だった。

 

 

「なんか、玲くんって"ポルックス"に雰囲気そっくりだよね〜」

 

「えぇ?何それ?」

 

「え!?知らないの?

…多分、いまこの世の中で知らない人なんて絶対いないと思うんだけど…」

 

1人の女子生徒が、例の2人組の画像を玲に見せつける。仮面を被った少年が仲睦まじくピースサインをしている画像だった。紛れもなく、写っているのは自分の事。しかし、玲は知らないふりを演じていた。

 

 

「この2人の考え方というか、めちゃくちゃ同感できるというか…」

 

「毎日必ず動画も配信してるんだよね〜?その内容がさ、難しすぎてなかなか理解できないこともあるんだけど…、私たちが日頃思ってても口にできないような事とか、それを代表して、さらけ出してくれてる感じ?」

 

「そうそう!最初は抵抗感あったけど…、今じゃ神様みたいな感じだよね?」

 

「あんた、それもう洗脳されてるじゃん?」

 

複数の女子生徒がカストルとポルックスについて熱弁していた。同時に、中にはかなり陶酔しているような生徒も見受けられる。全く身元も明かさず、監視社会に臆することの無い存在に、若者たちは心奪われている様子だった。

 

 

 

 

「へぇ〜、僕も見てみようかなぁ〜」

 

玲はクスクスと小悪魔的な笑みを零す。

これくらいの年頃の子達を落とすのは、簡単なんだぁと呑気に考えていた。見ず知らない、異様な人間相手を神格化し、依存する彼等の姿は、見ていて滑稽だった。

 

 

 

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"カストルとポルックスは若者の味方"

 

"シビュラシステムを超越した存在"

 

"一緒に壊してみたい"

 

 

"この世界を"

 

 

 

 

掲示板がどんどん埋もれていく。

まるで何かの宗教団体のように、人々は彼らに吸い込まれていた。しかし、そんな物に同調し、色相が濁らない奴がいる訳が無い。

 

彼らからは、非人間的な冷酷さを稀に感じさせていた。

余計にそれが、市民たちの心を揺さぶっているのであった。

まるでハンニバルのように。

 

 

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「あと7日だな」

 

「うん、そうだね、兄さん」

 

 

殺風景な暗い部屋に、琉は紫色の美しい"花菖蒲"を花瓶に生ける。

花菖蒲の時期は過ぎたものの、その花はみずみずしく、鮮やかな色を放っていた。

 

 

「楽しみだなぁ…とーーっても…」

 

傍らの作業台のような机に、7つの小型の機械のようなものが置かれていた。玲はカチャカチャとそれに触れると、怪しげに笑顔を浮かべる。

その様子を冷酷な顔つきで見据える琉。

7つの内、1つの機械に触れ、そっと目を閉じる。

 

 

「犠牲になった、"使い"達の復讐も…ここで晴らしてあげないと…」

 

 

 

月明かりが2人を怪しげに照らす。

新たに生けられた"花菖蒲"

 

それは、何を示すのか。

 

 

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