PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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アナーキー

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

9月4日 午前7時過ぎ―――

朝と言えど、まだ残暑は厳しく、汗がたらっと背中を滑る感覚。空は若干曇り空、気持ちの良い朝とは言えなかった。

 

 

台東区上野、古びたアパートの一室の扉の前に2つの人影。ドミネーターを手にすると、ボロボロに褪せたチャイムボタンを押し込む。

 

しかし、何度鳴らしてもその部屋の住人は姿を現さない。明らかに中には人の気配、外から確認した時も部屋の電気が着いていることは確認していた。

 

 

「満島 航大さーん、いらっしゃいますよね?公安局の者ですが…」

 

舞白は扉を何度もノックする。しかし、一切反応は無く、隣の人物へと視線を送る。

 

「次出てこなかったら、この扉を突き破ってください。宜野座さん」

 

「了解だ」

 

宜野座はこくりと頷き、再び扉を睨みつける。舞白は深く息を吐き出すと、再びチャイムを鳴らし、ドアを叩く。

 

「満島さん?み、つ、し、ま、さーん!」

 

ドアに耳を当てるも、やはり出てくる気配はない。諦めた様子で宜野座へ目を向けると、舞白に扉から離れるように目配せする。

サッと扉から離れ、その瞬間、宜野座はいとも簡単に、体全体を使って扉を突き破る。

激しい大きな音とともに、部屋へ踏み込む2人。

しかし、人影は見当たらず、殺風景な部屋には必要最低限の家財しか置かれていない様子だった。

 

 

「………」

 

シンっと静まり返った室内。

しかし、部屋の傍らに置かれたPC画面には電源が着いており、先程まで何者かが居たのは間違いない。

 

宜野座は、部屋の大きな窓のロックを確認するも、逃げたような痕跡はないと確認すれば、デバイスを使い痕跡を確認する。

舞白は他の部屋を確認すべく、扉のドアノブに触れる。

 

 

「宜野座さん。室内の…」

 

ガチャっと手をかけた瞬間、勢いよく開かれる扉。

 

 

 

「ッ!?」

 

舞白の目の前に現れた男。包丁を両手で振り被り、襲いかかる。狂気に満ちた、炯々とした目で舞白を捉える。

 

 

「舞白!」

 

宜野座は咄嗟に声を上げる。しかし、相手は舞白、簡単にねじ伏せられるわけが無い。

 

ドミネーターを床に滑らせると、両手で男の両手首を掴む。ギリギリ眉間で止められる刃先。ギリギリと男の手は震えている様子で、舞白の行動に驚いている様子だった。

 

「満島さん、こんな所にいたんですね?居るならいるって…大人しく出てくればよかった……のに!!」

 

そのまま掴んでいる手首に力を込め、居間に向けて、背負う形で投げ飛ばす。包丁は手から離れ、宜野座によって床に押さえつけられる。

 

「…ッ…くそっ…!!」

 

後ろ手に組まされ、うつ伏せの状態でねじ伏せられる男。舞白はドミネーターを拾い上げ、銃口を向ける。

 

 

『犯罪係数 135

執行対象です―――』

 

トリガーのロックが解除されれば、男は恐れるかのように悲鳴をあげる。

 

 

「や…、やめろおおおお!撃つな!」

 

バタバタと足を動かす男。目の前に現れた公安の人間にかなり動揺している様子だった。舞白は銃口を向けたまま、男の傍にしゃがみこむとデバイスに、ある画像を映し出す。

 

とあるサイトのトップページ。そして"Athanasia"と名が付けられたマリア像を模したような可愛らしいアバター、人気コミュニティフィールドの画像……

 

 

「あなたがこのサイトの運営者、そして大手コミュニティフィールドを主宰する、アタナシアさんで間違いないですね?」

 

「……ッ…」

 

「カストルとポルックスの崇拝者の1人。ファンサイトのようなものを作って、彼らの仲間になったつもり?」

 

「…あの2人なら……この社会を変えてくれるんだ……、システムに支配されたお前らには分からないだろうけどな!」

 

舞白はサイトの掲示板へと目を向ける。彼らを気味が悪いほど崇拝する言葉が並べられ、それに賛同する他の人間達。

2人の思想は深く根を張り、さらに他の人間たちへ枝分かれしていく。閲覧者の中には、過激な内容に精神を病み、色相悪化を招くものが増えていたのだった。

目の前の男は、その枝分かれのひとつに過ぎない。

 

「悪いけど、あなたの思想は理解できない。所詮、彼らの言ってることをオウム返しに話してるだけ、自分に酔ってるだけ。真似事をして、自分もあの2人のようになれると勘違いしない事ね。」

 

表示していた画像を消し、舞白の自分自身のアバターを表示させる。ポップなデザインの白うさぎ。舞白はその画像の横で、にっこりと笑みを向ければ、目の前の男はポカンと口を開け、ワナワナと震え出す。

 

「……その声……、あんた……、あの白うさぎの……」

 

「そうそう!昨日の深夜に、あなたと話しをしたのはこの私。同調するとベラベラと話してくれるものだから、あなたの他の知り合いの、過激思想を持つ主宰者の情報も掴めて一石二鳥だったわ。ありがとう」

 

しゃがみ込んだまま銃口を再度向けると、笑顔だった舞白の表情は冷たいものへと変わっていく。

 

「詳しい話は、また後でね。」

 

トリガーに指をかけ、相手を執行する。

ガクッと体の力を手放す男。乗りかかっていた宜野座はゆっくりと体を離すと、男を見下ろし、改めて生体認証をすれば、ID情報を読み上げていく。

 

 

「満島航大33歳、独身、無職。

口座情報を見ると、アフィリエイトサービスのプロバイダーからの報酬で生活をしているみたいだな。コミュフィールドの"アタナシア"はコイツに間違いない。」

 

「外に出なくていい仕事。街頭スキャナに記録も残らないし、色相が濁っても問題ない。色んな仕事があるんだなー……。にしても、収入もそれなりにあるなら大きな部屋に越せば良いのに。」

 

「過去に、アバターを使った事件はあったが、やはり理解できないな。顔も見えない相手に、上手く口車に乗せられて思考を操作させられる。集団でそいつを慕って、同調し、まるで宗教団体だ。」

 

舞白は、部屋に残されたPCを操作し、運営していたサイトを開く。アクセス数はカストルとポルックスの次に多く、影響力はかなりあった様子。同時に大手のコミュフィールドも運営し、最近では悩み相談という口文句で彼らの思想を植え付けるように語っていたらしい。

 

「この人、確かに話は上手かったな。私も話してて、カストルとポルックスはまるで世直しの神様、私たちを救ってくれる救世主……って錯覚しそうだったもん」

 

「それは嘘だな、お前がそんな口文句に乗るわけがないだろう?」

 

「へへへ、そうやって口文句に乗るように同調したら、ベラベラ話してくれたの。」

 

そう口にすると、舞白は霜月に連絡を取る。

 

 

「こちら狡噛。満島航大を確保。該当のサイトも閉鎖完了……」

 

「こっちも同じく。任務完了よ」

 

霜月、六合塚ペアも満島と同じようにサイトを運営した人物を確保していた。

 

「対象を連れて、すぐに尋問ね。彼らのサイトにカストルとポルックスの痕跡もあるし。何か知ってるかも。」

 

該当サイトに、彼らであろう痕跡が残されていた。どうやら同調する仲間たちのサイトに頻繁に訪れては、コメントを残し、怪しいやり取りもありそうだった。

 

「閉鎖したサイトの中身も調べてみないと…。直ぐに戻るね、美佳ちゃん」

 

通話を切れば、宜野座へと体を向ける。

 

「さてと……少し室内を調べて、戻りますか……」

 

ふぅっ、と息を吐き部屋を見回す。小さなアパートということもあり部屋数も少なく、すぐに調べられそうだった。

 

舞白はふと、殺風景な部屋の違和感に気づく。酒瓶に生けられた紫の花。男性にしては花を飾るなんて珍しい。部屋の様子を見る限り、そして男の情報を見る限り、花を飾るような人物ではなさそうなのに、と。

なんとなく引っ掛かりを見せるその花を、写真に収め、宜野座と共に室内捜査を始めるのであった。

 

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

「あれー??封鎖されちゃってる」

 

通学途中、リニアトレイン内。

玲があるサイトにアクセスしようとしたところ、既に消されていることに気づく。

 

「……封鎖?」

 

「うん。ほらー、満島君のサイト。」

 

デバイスを向けて、真っ白になったページを隣の席に座る琉に見せつける。

 

「アイツらの仕業だろう。…手がかり掴みに、遂にここまで来たか……」

 

アイツら=公安

手当たり次第に、自分たちに近づくために、そして治安維持のために、いよいよ様々なサーバーに手を伸ばし始めていると気づく。

 

「兄さんの言う通り、満島君を選ばなくて正解だったね。」

 

「悪目立ちするやつは、かえって足枷になり兼ねない。あれはあれで、俺たちの思想を拡める役割を果たさせれば良い、それだけで使った。むしろあの男は囮みたいなものだからな。」

 

「……へぇ〜、策士だね兄さんは。」

 

「公安局刑事課のメンバーは分かってる。人員も少ない、手当たり次第に探ってくる。だからこそ、奴らはデカい獲物に気を取られるだろう、時間もないからな」

 

琉の手元のデバイスの画面には一係の面々の情報が映し出される。

どのようにして手に入れたのかは不明だが、弟の手によるものだった。

 

「策があっても、お前のその技術と才能がなかったら意味は無いよ」

 

「へへへへっ…、嬉しいなぁ……」

 

 

 

電車が減速していく。

すると、琉は席から立ち上がると扉の前へと移動する。

 

「じゃーね、兄さん。」

 

「あぁ。それより、昨日撮った動画、あげ忘れるなよ?」

 

「僕が忘れるわけないでしょー?安心して?」

 

その言葉に、フッと笑みを浮かべると、電車を降りる。

兄の姿を目で追い、再び電車が動き始めるとイヤホンを装着し、目を閉じる。

 

 

 

流れている音、それは音楽ではなかった。

録音した浜辺の音、波の打ち返す音。

 

脳内に蘇る、故郷の穏やかな海の景色。母の優しい笑顔が思い出さされる。同じ青い、水晶玉のような美しい瞳の母。傍らでは兄を抱き上げる父の姿。少しタレ目がちの優しい風格を漂わせる、兄の片方の瞳と同じ色の茶褐色の瞳。

 

幸せな、あの頃の…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「れーいーくん!おはよう!!」

 

刹那、イヤホンを取られ青い瞳を見開く。

目の前には同じ制服姿の3人の少女たちが、笑顔を浮かべこちらを見下ろしていた。

 

 

「玲くん、通学してるところ初めて見たよ!いつもこんなに早いんだね?」

 

1人の少女が隣の席に座ると、不思議そうに顔を覗き込む。

 

「ねぇねぇ!それよりさ!

さっきまで一緒にいた人って友達?麻布高の制服着てたよね?」

 

「メガネかけててあまりハッキリ顔見えなかったけど、雰囲気めっちゃイケメンだったよね〜!」

 

 

「ねぇ?あの人って玲くんの……」

 

 

ひとりの少女が言葉を止める。

そして3人の少女の表情が徐々に曇っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「……別に、ただの顔見知りなだけだよ。最寄り駅が一緒の」

 

冷徹な青い瞳が3人を睨みつける。

いつもの幼く、柔らかな印象から掛け離れた表情。いつもより何トーンも下げられた低い声に、少女たちはギョッと身体を固まらせる。

どうやら気に触った様子。心地の良い時間を割られ、不機嫌そうだった。

 

 

 

「え……?怒ってる……?」

 

「や、……やだなぁ、そんな怖い顔!玲くんらしくない……」

 

凍りつく3人。

 

するとその瞬間、玲は立ち上がると、目の前の少女にグッと顔を近づける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーーんて♪ビックリした??」

 

へへへへっ!といつもの笑顔と声色に戻れば、驚かすように弄ぶように、3人の少女に視線を向ける。

ブラブラとつり革を両手で握りしめ、豆鉄砲を喰らったような3人の表情に爆笑している様子だった。

 

 

「ビックリした……、もう!!」

 

その様子に、3人の少女は緊張が解れたのか安堵のため息を漏らしていた。

 

「僕、毎日さ、購買のチョコパンの為に早く登校してるの〜。アレすぐに無くなっちゃうじゃん?」

 

再び席に戻り、隣の少女の肩にふざけるように腕を絡め、先程の冷酷な様子は微塵も感じなかった。

暫く何の変哲もないくだらない会話をすると、学校の最寄り駅へとたどり着く。

扉の前へと向かう4人。

 

すると、少女2人の後ろに居た、玲のイヤホンを引き抜いた少女。前の2人に気づかれないように、そっと耳元で玲が少女に呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次やったら、ぶっ殺すよ?」

 

予想外な言葉と、冷たい声。少女はゆっくり視線を送ると、笑顔を向ける玲が目に入る。

聞き間違いか?と思うほど、彼からは想像できない台詞に、身体を固まらせる。

 

 

「…………玲……くん?」

 

刹那、開かれる扉。

前の2人はもちろん気づくはずもない。

 

固まる隣の少女の肩に再び腕を回すと、2人に続いて電車を降りる。

表情を強ばらせ、恐怖するような様子の少女。

 

「マキずるい!また玲くんとイチャイチャしてるー!」

 

「固まってるし(笑)」

 

「へへーん♪僕の隣の席を先にゲットした子の特典だよ?」

 

ね?とふわふわとした表情を向ける。

その変わりように、マキという少女は混乱していた。

 

 

 

「……なーんちゃって……」

 

薄笑いで、再びそう口にする玲に、

少女は初めて恐怖を覚えた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

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