PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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彼女の背中

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

『みなさ〜ん♪ごきげんよう!僕達は〜』

 

『カストルとー』

 

『ポルックスで〜す!!』

 

 

正午ぴったりに配信された動画。約1日に2件から3件ほど更新される動画には、いつものように現れる仮面の2人組。舞白はデスクでサンドイッチをほおばりながら、その動画に目を向ける。

相変わらず、内容は若者を引きつけるような過激なものばかり。哲学的で複雑な話の中に、今の日本の若者たちの苦悩を救済するような言葉を並べていく。

 

頭脳明晰で謎めいた2人。その雰囲気に謎に惹き付けられるような気持ちも、舞白は分からなくもなかった。

もしかしたら、昔の自分だったら、彼らに同調していたかもしれない。目に見えないカリスマ性を感じさせていた。

 

 

画面をジーッと眺めていると、隣のデスクの人物が舞白の空のコーヒーカップにコーヒーを注ぐ。

 

「食事の時くらい、そいつらの事を考えるのはやめろ、濁るぞ」

 

「……後4日しかない。何とか掴まないと……」

 

"ありがとう"と礼を口にすれば、再び動画に目を移す。

 

霜月と六合塚は先程の現場の近くで発生した、エリアストレスの対応。常守と須郷と雛河は、拘束した男たちの尋問。

舞白と宜野座は、少ない僅かな休息をとっていた。

 

「((……犯行場所……彼らの……次の目的……))」

 

"磔柱が並ぶ時、聖アンデレの処刑台にて、天の使いが舞い降りる"

 

月食が起こる8日の夕方。

後は場所と犯行方法、それだけがどうしても分からなかった。

 

予測はいくらでも出来るものの、ピンと来たものは一切なかった。それを指すであろう聖アンデレ協会の本拠地、そうとも考えられるがあまりにも簡単すぎる。暗号の可能性もあると、様々な暗号表を使ったことも。しかし、何も見つからない。おそらく彼らは、また何かを発信するはずだと、一係の全員は考えていた。

 

暫く2人の会話を聞いていると、突然画面に指を指すカストル。

 

『刑事さん、そういえばどうですか?俺たちからのメッセージは解明できたかな?』

 

 

直接、舞白達を指す発言は、あの時以来だった。突然の発言に、画面に釘付けになる舞白と宜野座。

 

 

『さっすがに、あれだけじゃ分からないかな〜?ヒント欲しい?』

 

ポルックスの挑発的な発言。画面上を流れる、視聴者のコメントも同じように挑発的だった。

 

"無能刑事"

"エリートだから分かるっしょ?"

"全然わからんわ〜乙www"

"磔柱ってなんなん?"

 

好き勝手流れるコメントに、イラッとする様子の舞白。

 

「…気味が悪いほどの同調行動。そう思わない?」

 

「色相も濁る訳だな」

 

コーヒーを口にし、再び集中力を呼び起こすように首を回す。少し疲れた様子の舞白を心配するように、宜野座は背中をポンポンと擦る。

 

 

『マシロさん。あなたに、プレゼントを贈りますね?"良い便り"を俺たちから……』

 

 

"マシロ"、カストルは間違いなくそう口にした。驚きの発言に、舞白と宜野座は目を見開く。

 

「……何で、私の名前……」

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、まったねぇ〜♪』

 

最後に、呑気なポルックスの声で動画は終わる。

まさか、名前をハッキリ言われるとは予想外の出来事に、鳥肌が立つほど気味が悪い。舞白は彼らと、もちろん面識もない。

 

「あの2人。私のスパーリングロボットのデータも簡単に盗んでる。恐らく、私の個人情報も、そして一係のメンバーの事も把握してる可能性が十分あるわ」

 

動画の画面を切ると、残った一切れのサンドイッチに手を伸ばす。モグモグと口に頬張ると、相変わらず呑気な様子の舞白に、呆れたようなため息を漏らす宜野座。

 

「……恐ろしいと思わないのか?舞白は」

 

「特に思わないよ。むしろ、知られてるだろうなって思ってた。」

 

 

うーんと、サンドイッチを咥えたまま、椅子の背もたれに寄りかかる。すると刹那、オフィスの扉が開かれれば、霜月と六合塚が現れる。

 

 

「あっ……、美佳ちゃん、六合塚さん、お疲れ……」

 

「あんた、何呑気な事言ってんのよ。あの動画、見たわよ」

 

咥えていたサンドイッチをモグモグと食べ切る。そして、腕を組み、少し焦りを見せる様子の霜月へ視線を向ける。

 

「私も分からないけど、何かプレゼントをくれるって……」

 

「プレゼントって…、あんた名指しで呼ばれて、全部相手に筒抜けかもしれないのよ?何を呑気に……」

 

「多分、そのプレゼントが犯行に繋がるヒントなハズ。私宛にメールでも送ってくるのかな?それとも前みたいに電話とか?」

 

舞白は眉間に人差し指を押し付け、悩む仕草を見せる。一体、そのプレゼントとやらも、どういう形でいつ何処に届くのかは不明。しかし、彼らからのヒントを無駄にはできないと、そのプレゼントに期待していた。

 

「とりあえず、彼らからのアクションを待ちますよ。」

 

「……お前、呑気に考えすぎだぞ」

 

「呑気になんて考えてないよ。これはチャンス、次の犠牲を出さないためにも、ここは彼らの動きに乗じて、尻尾を掴みます。だから、心配しない……」

 

 

刹那、舞白のデバイスが鳴り響く。その場にいた全員がビクッと反応するも、舞白はその連絡相手にクスクスと笑みを浮かべる。

 

 

「花城課長ですよ。タイミング悪すぎて……」

 

間違いなくデバイスに映るのは花城の画像。

"ちょっと失礼〜"と席を立つと、オフィスを出ていく。

 

 

その後ろ姿を見据える3人の姿は、少し不安そうだった。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈

 

 

オフィスの外の廊下を歩きながら、デバイスに触れる。

 

 

「はい、狡噛です。」

 

『舞白。元気にやってるかしら?』

 

いつもと変わらない様子の花城。

このタイミングでかけてくるということは、おそらくはあの動画を見たのだろう。

 

「元気ですよ?ちょっと捜査が難航していて、大変ですけど……」

 

『そう見たいね?常守監視官からも捜査報告がまとめて送られてくるけど、国内は国内で大変そうね』

 

ははは……、と困ったように笑いを零すと、ふと花城の音声に気になる音が入る。航空機の離陸音なのか、轟音が聞こえていた。

 

「ところで、課長達は?九州の管理センターですか?」

 

最後に兄と再会した時、九州の外務省入国管理センターに行くとか言ってたなぁ、と思い出す。

 

『昨日まではね。これからウェーク島に向かうのよ、もちろん捜査で』

 

「……ウェーク島って、確かアメリカ領土の島ですよね?」

 

『昔はね?今は完全に放棄されてる島よ。かつては軍閥が置かれてたみたいなんだけど、時代の流れとともに、それも消滅したみたいでね』

 

ウェーク島

アメリカ本土とグアム、フィリピンを結ぶ線上にあるアメリカの中部太平洋における重要な拠点のひとつであり、日本側から見れば、日本本土とマーシャル諸島を結ぶ線上に位置する楔のような存在であった、重要な島。大昔の戦争で日本領土となったものの、結局はアメリカ領土となり、鎖国後は特に手出しもしていなかったらしい。

 

ウェーク島といえば、ハワイ島が近い。花城のその調査と言うものは、おそらくはハワイ島を見据えてのものなのだろうと考えた。

しかし、シビュラシステムに口外するな、と言われている案件。あまり口出しはできない。

 

「外務省でも、何か彼らに繋がるものを見つけたんですか?」

 

『そんなところよ。直接繋がっているかはまだ不明だけど、ウェーク島から少し離れたハワイ島が怪しい。……って、狡噛の推測だけど。』

 

「……兄が?」

 

『そうよ。勝手に色々動くものだから困っちゃうわ、あなたのお兄さん。』

 

確かに勝手に色々調べてそうだな、と。さすが兄妹だと改めて実感した。自分が握っている情報は、おそらく兄も少なくとも掴んでいるのだろう。

 

 

『……まあ、とにかく。久しぶりに舞白の声が聞けて安心したわ、元気そうだし。』

 

「そんなそんな、心配しなくても大丈夫ですよ。むしろ課長達こそ、危険なところに行くんですから……気をつけてくださいね」

 

『大丈夫よ。よっぽどの事がない限り、今回は直接乗り込むようなことはしないから。むしろ乗り込む時はあなたも一緒よ。……あと1ヶ月、その時はきっちり行動課で力を発揮してもらうわよ、舞白』

 

グッと右手に力が入る。

あと1ヶ月、残された時間は短い。

それまでに、あの2人をどうにか捕まえたいと力が入っていた。

―――あとは……

 

ふと、1人の人物の後ろ姿が脳裏に浮かぶ。

 

 

 

「頑張ります。公安局で学んだ事もしっかり活かして。この3ヶ月間を無駄にはしません。…私は、外務省調整局行動課の特別捜査官ですから。」

 

その言葉を聞いた花城は、ふふっと笑みを零す。

 

『いい心構えね。楽しみにしてるわ。

……とにかく、国内の事件もかなり危険みたいだから、気をつけるのよ』

 

「はい。ありがとうございます。」

 

『じゃあ、そろそろ行くわ。一係の皆によろしくね』

 

そして、途切れる通信。

デバイスを装着している左手をそっと下ろせば、ふぅっと息を吐く。

 

国内の事件に、迫るタイムリミット、外務省での任務。それなりに焦りや不安も抱えていた。

 

 

「……よーし……頑張らないと。気合い気合い……」

 

両手を頬にパンパンと当てれば、オフィスに戻ろうと後ろに振り向く。

その瞬間、ぼふっと誰かの体に顔をぶつける。

 

「ぶっ……、……ビックリしたあ……

……ノブ……、宜野座さん……」

 

舞白は相手を見上げる形で、へへへっと笑みを浮かべていた。その様子をどこか不安そうに見下ろすのは宜野座だった。

 

「なんだか、無理をしてる様子はいつも見てるが……、色々と背負いすぎだ。」

 

「何言ってるんですか?別に無理はしてないし……、むしろワクワクしてますよ」

 

「それが異常なんだよ。……お前、危険なあの2人組にマークされてるんだぞ。爆発物に危険な化学薬品、身元も何も分からない、殺しを簡単にするような奴に……」

 

舞白の表情が段々と変わっていく。表情が抜けていくように、いつものイキイキとしたような光が消えていくようだった。

 

 

「宜野座さん。私、もう子供じゃないんです。私は成すべきことを成すために、ここに来たんですから。」

 

"ね?"と首を傾げるように、宜野座の瞳を見据える。

 

「……心配しないでよ。大丈夫だから。

私、宜野座さんに心配されるのが1番しんどいんです。しんどい…」

 

「…………ッ……」

 

「外務省調整局行動課特別捜査官、兼 厚生省公安局刑事課 有期監視官補佐……、この国のためにも、自分のためにも、私は頑張るって決めたんですから…」

 

舞白は俯き加減になると、両手の拳に力を入れる。

最愛の相手に、1番そばにいる相手にこそ、心配されることは苦しかった。

 

ふと顔を上げれば、"らしくない"宜野座の姿。舞白は深く息を吐き、眉を下げると、宜野座の腕を引っ張り歩き出す。

 

「ほら、午後からも捜査がありますから。それに、彼らからメッセージが来るのを私は待ちます。仕事ですよーーー、宜野座さん」

 

何か、薄らと壁を感じる。

それは仕方ないことなのかもしれないが。

 

彼女の置かれているその立場に、宜野座はずっと心の奥底で苦悩していたのであった。

 

腕を引く、彼女の背中は

いつもよりも小さく、やけに幼く見えてしまう。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

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