PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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虹の女神が宿る花

 

 

・・・・・・・・・・・

 

・・・・

 

 

 

 

 

午後9時過ぎ―――

 

何食わぬ様子で、いつも通り帰路へつく。

そして部屋へと続く扉の前で、舞白は深呼吸をすると、扉のロックを開け、そっと室内へと入る。

 

玄関でパンプスを脱ぎ、カバンを傍らに置く。廊下の先に見える、リビングへ続く扉をじっと見える。

自宅付近のスキャナーや防犯カメラはジャミングがかけられ、間違いなく"彼ら"の仕業だった。舞白の情報、そして自宅さえいとも簡単に特定する、彼らの異常なまでの能力値。

 

「…………」

 

そっと扉を開けると、足元にはガラスの破片が無数に散らばっていた。窓ガラスが割られていただけで、他は荒らされた痕跡はない。

 

しかし、リビングのテーブルの上に、目を引く物が置かれていた。

 

暗闇に包まれる室内、月明かりに照らされた花束。

英国の新聞紙のような柄の紙に包まれたその花束は、怪しく、月明かりのせいか、やたら妖艶に感じてしまう。

 

「…何あれ……」

 

舞白はルームシューズを履くと、パキパキと、ガラスを踏む音を鳴らしながらリビングを歩いて行く。

念の為、デバイスで周辺に危険物が置かれていないか確認をするも何も反応はない。

 

彼らが置いていったのは、花束だけの様子。大窓からテーブルまで、そして室内には足跡が残されていた。恐らくはわざとだろう。サンクチュアリで雛河が見つけた足跡と完全一致すれば、やはり彼らの仕業だと確信する。

 

テーブルに置かれた花束、写真を複数枚撮り、そっと手に取る。

紫の花、よく目を凝らしてみると若干違うことに気づく。

 

「花弁の付け根の色が違う。ということは、こっちが菖蒲で、こっちは花菖蒲。」

 

菖蒲は網目状、花菖蒲は黄色の柄に付け根が染められている。恐らくは50〜70本ほどで作られた花束はかなり大きく、匂いも充満していた。

 

「……花菖蒲はほんの数本、あとは全部菖蒲。根茎の部分はないし、毒は大丈夫そう。」

 

クルクルと回しながら観察していく。菖蒲は毒を持つ花で有名だ。そもそも今の時代に、本物の花自体珍しいのだが……。

しばらく観察していると、一輪だけ色が違うことに気づく。室内の電気を付けると、紫の花々の中に黄色の花。

黄色い菖蒲が一輪、紫の花々に埋もれるように隠されていた。

 

 

「((花言葉は……))」

 

紫の菖蒲には、"メッセージ""良い便り"を意味する。カストルが口にしていた良い便りとはこの事だろう。花言葉に繋げた暗号のような台詞を彼は口にしていた。

 

そして黄色の菖蒲の花言葉は、"復讐"を意味する。

菖蒲自体に、ギリシャ神話の逸話が存在するほど、キーワードが隠れている花だった。

 

ありきたりなメッセージ、そして手法。

これがヒントな訳が無い。彼らは他に必ず残している。

 

暗号やなぞかけのようなものを好む彼らが、単純に花言葉だけで終わるはずがない。他に何か見つからないかと、花束を包んでいた英字新聞調の用紙をテーブルに広げる。

目を凝らし、端から端まで確認すると、黒いペンで何か書かれていた。

 

 

"There is a differency between agrub and a butterfly.Yet your butterfly was a grub."

毛虫と蝶はまるで違う。だがその蝶も元は毛虫だ 。

 

小説か何かの一文のようだった。そしていつものギリシャ語ではない。

舞白はしばらく考え続けると、なにか思い出したかのようにリビングの本棚へと駆ける。右手の人差し指で、本棚の端から指を指しながら探していく。

 

「((あの一文は……シェイクスピアの…))」

 

中段あたりでピタッと手を止める。舞白が探していた本を見つけると、そっと取り出し、表紙の題名を見つめる。

 

 

 

 

 

「……コリオレイナス……」

 

シェイクスピアのコリオレイナス。シェイクスピアの最後の悲劇とも言われ、至ってシンプルな復讐劇、そして唯一の政治劇。あまり知名度はなく、知るものは少ないだろう。

 

パラパラとページをめくると、1枚の小さなメモが床へと滑り落ちる。もちろん、この本に何かを挟んだ記憶はない。彼らが仕込んだものだった。

 

「凝ったことしてくるじゃない、あいつら……」

 

途切れない緊張に、はぁっ……とため息を漏らす。本を閉じ、落ちたメモを拾い上げる、中身を確認する。

 

"Sk.tk_bk

AS_.2--b_ "

 

 

法則性もなければ、全く意味不明の数字とアルファベット、そして記号が羅列されているメモ。さっぱり訳が分からなかった。

 

 

 

「また暗号……頭痛いんだけど、本当に……」

 

その場に座り込み、頭を抱える舞白。疲労に加え、家の窓も壊され、そして意味の悪いメッセージが続く状況に、眉を顰める。

 

「((一旦落ち着いて整理しよう……ガラスも掃除したいし))」

 

焦りは禁物だとゆっくり立ち上がれば、ガラスの破片を集めていく。そして冷静に、いつも通り、頭の中で整理していく。

 

花菖蒲、意味不明の暗号が示すもの。コリオレイナスはただの隠し場所に過ぎないはず……

あの紫の花菖蒲に必ずヒントがある。

 

今日捕らえたコミュフィールド運営者のあの男の部屋にも同じ花があった。そして、霜月達が捕らえた対象者の部屋にもあったらしい。常守が問い詰めて聞いた結果、どうやら花菖蒲は差出人不明で届けられたと、口を揃えて言っていた。意図して彼らに送られた花。

 

そして、対象の男たちを必ず突き止め、逮捕すると、彼らは予想していたに違いない。

わざとその花を印象づけるような行動から、必ずキーアイテムになるものだと推測する。

 

 

「((花菖蒲が花言葉以外に表すものは?色、小説、場所、食べもの?何かを表すもの…))」

 

集めたガラスの破片をカチャカチャと袋に詰めていく。割られた窓から涼しい風が入り込むと、結われた髪の毛がふわふわと揺れていた。

 

「場所…、花が場所を示すとするなら……」

 

瞼を閉じ、必死に考える。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

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「「……君なら、花を使ってどのように場所を伝える?

誰もが調べればわかるような、単純な方法で……」」

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈

 

「……ッ……」

 

ビクッと体を揺らせば、持っていたガラスの破片を床に落とす。

 

一瞬、隣に白い気配を感じた。試すような薄笑いを浮かべ、こちらを見ていた。強い風と共に、レースカーテンが揺れると同時にその姿は消える。

 

 

 

「私ならどうする?」

 

その場で俯き、1度頭を空っぽにするように、ぼんやりとしてみる。

そして、閃いたようにパッと顔を上げると、先程のテーブルへと向かい、椅子に腰を下ろす。

 

花束を包んでいた英字新聞に黒いマジックペンを走らせ、今まで掴んでいた情報を書き込んでいく。

 

 

聖アンデレの処刑台

ギリシャ十字、スプレッド

X字の十字架

 

Sk.tk_bk

AS_.2--b_の暗号

 

そして、紫の花菖蒲

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かった……」

 

用紙に羅列した数字。

それが示す場所。

全てが繋がる。

 

 

犯行日時、犯行場所、それさえ分かってしまえば、彼らの行動を食い止められる可能性は格段に上がる。

 

舞白はすぐにデバイスを操作し、連絡を取る。

相手は常守。

 

 

すぐに通話に切り変われば、舞白は直ぐに言葉を発する。

 

 

 

 

「朱さん。分かりました。

…彼らの犯行場所……、間違いありません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「渋谷、スクランブル交差点です」

 

 

 

 

紫の花菖蒲をじっと見据える。

 

一輪の黄色の菖蒲がこちらを向いているように見えた。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「「君たちは分かるかな?この暗号の意味を……

……あぁ、そうだな

常人には理解し難いよ」」

 

 

白い人物はパタンと本を閉じ、夜空を見すえる

 

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