PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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子供たち

 

 

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渋谷区 廃棄区画 廃ビル地下―――

 

一角に置かれた7つの仮面。

それぞれ違う形状に、絵柄をしていた。

 

黒髪の仮面の男が、ゼウスの子供たちの名を挙げる。

 

「アレース、ヘーパイストス、ヘイレイテュイア、へーべー、アンゲロス、

エニューオー、エリス…」

 

 

横並びに並んだ若者、男女7人。その後ろには無数の若者達。そしてそれをまるで従えるかのように佇む、仮面の2人組。

 

その2人は白いシャツ、白いパンツに身を包む。それを神のように崇める若者たちの視線が、全てその2人組に向けられていた。

 

 

「…選ばれし神の使い…、子供たちよ…」

 

黒髪の男…、カストルの声が地下空間に響き渡る。

 

「"吟味されざる生に、生きる価値なし"、我々はシステムに支配され続け、吟味され続ける、それでいいのだろうか?」

 

ザワザワと声を上げる若者たち。

 

「「嫌です!選ぶのは自分たちだ!」」

 

「「システムを無くせば、選別されることも無い!」」

 

徐々に増えていく声。それを手で制止する仕草を見せれば、全員が再び静まり返る。

 

「なにも吟味しない、検討できない人間は、ただの動物にしか過ぎない。自ら、悩み、もがき、苦しみ…、それこそが素晴らしい生だと思わないか?」

 

賛同する若者たち。中には涙する者さえ現れる。

 

「"世界を動かそうと思ったら、まず自分を動かせ"…」

 

カストルは隣のポルックスに合図を送ると、跪く7人の元へと向かう。そして、手渡されるそれぞれの仮面。

 

「…はぁ…はぁ…、カストル様、ポルックス様…」

 

目を炯々とさせる少年。顔は青白く、汗がタラタラと流れている様子だった。そんな少年にポルックスは優しく抱き締める。

 

 

「"最大の美徳は、他人の役に立てることだ。"君は選ばれし、僕たちの兄弟…、ゼウス様の息子…、一緒に世界を変えるんだ。大丈夫…怖くない」

 

 

ポルックスの言葉に涙する少年。他の6人も同じように、どことなく先を見つめるような、遠い目をしていた。

 

 

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9月6日―――

 

 

 

琉は特殊な無線機を操作し、流暢な英語で誰かと会話を交えていた。その様子を背後から見守る弟の玲。

 

 

「はい、お父様。全て計画通りです。」

 

『…邪魔をする者は皆殺しだ。躊躇するな。既に大事な子供たちを7人も失っておる。……お前たちの足元には兄弟たちの屍がある事を忘れるな』

 

「勿論です。…全ては復讐のため…moG作戦の為、お父様の為に…」

 

『期待しておるぞ、息子よ』

 

刹那、切電される無線機。会話が終わったと気づいた玲は、兄の隣にひょこっと現れると口を尖らせる。

 

「ずるいな〜、僕もお父様と話したかった〜」

 

「あまり長く会話が出来ないからな。悪いな、玲…」

 

よしよし、と頭を撫でると、まるで子犬のように喜ぶ玲。すると室内のソファへと飛び込む。

 

「…早く終わらせて、帰ろうね、兄さん。また兄さんのピアノが聴きたくて…」

 

「なんでも弾いてやるさ、音さえあれば、楽譜も要らない」

 

「さすがだね。音の才能って羨ましいよ」

 

琉は椅子から立ち上がると、不意にころがっているキャンバスを手に取り、じっと見つめる。描かれていたのは"ノナタワー"、周りの細かな建造物まで、全て描かれたそれは、玲が描いたものだった。

 

「あ!それね。この前ノナタワー見に行った時の絵だよ。家に帰ってすぐに描きたくなって描いちゃったやつ。」

 

「…お前の映像記録能力には敵わないよ。」

 

その時の景色、写真などを少し見ただけで、細部にわたるまで描き起こすことができる特殊な能力に長けていた玲。

 

兄の琉は、音楽を一度聴いただけで再現できる、音楽嗜好症の能力を持っていた。

 

他にもこの2人は、素数と約数を瞬時に判断できる能力や、様々な国の言葉を操ることもできていた。一般的にはそれを"サヴァン症候群"とも言われる。

 

 

「何も無い僕たちを救ってくれた、そして、この能力を与えてくれたんだ。…お父様には感謝だね、兄さん」

 

「急にどうした?」

 

急にあらたまる弟に、首を傾げる兄。ニッコリと微笑む玲の表情、その奥にはどこか儚さ、哀しさを感じていた。

 

 

「僕たちの復讐が、お父様の役に立てる。幸せなんだ、本当に…。お父さんもお母さんも、喜んでくれるよね…」

 

 

 

 

 

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両親が殺され、その亡骸の傍で涙を零し続けた。そして時間が経つと、その涙も枯れていく。

父と母の体に蛆が湧いていく、蝿が飛交う、肉の腐った臭い。

 

腐敗していくその姿。当時5つほどの年端もいかない2人にとって、どうすればいいのか、むしろこれは夢なのでは?と、目の前の現実を受け入れることなど出来なかった。

 

 

 

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亡骸の傍に転がる2人。

もしかしたら、生き返るんじゃないのかと、腐敗した父親の手に触れる琉。気味が悪いほどブヨブヨとした触感のその手は、既に形を為していなかった。

 

 

 

 

そっと瞼を閉じた瞬間、家の扉が開かれる音が聞こえる。起き上がる力さえ、もう宿していなかった2人は寝転がったまま。複数の足音が徐々に近づいてくる。

1人の髭をこさえた温厚そうな男性。開かれた扉から柔らかな太陽の光が射し込む。

 

 

あの時の記憶は殆ど無い。

でも、あの時差し伸べてくれたあの手は、優しくて暖かくて、神様が現れたと思った。

 

ユーピテラ…、お父様。

 

 

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「父と母は…国に棄てられた?己の利益の為に、あの国は…」

 

8つになった時。

2人の姿は"お父様"の前にあった。

 

大きな額に入れられたゼウスの絵画。

それを背に、お父様は2人の前にしゃがみ込み、そっと肩に手を乗せる。

 

 

 

「お前たちの両親を殺したのは…」

 

日本の特殊な軍事組織の人間に殺された両親。

 

父が研究していた内容が、大きな影響をもたらすだったらしい。それは脳科学研究。当時、欧米国と手を組んでいた日本国。しかし、突如"それ"は打ち切られ、永久追放されることに。どうやら日本の新たなシステムに不要だと、そして危険人物だと認定され、殺される羽目になったと。

 

「…お前たちはどうしたい?」

 

2人を見据える優しい青い瞳。琉は玲の手を握りしめ、オッドアイの瞳を光らせた。

 

 

 

 

「復讐したい…。裏切った国を、そのシステムを、全て破壊したい。」

 

お父様は優しく2人を抱き締める。表情は見えない。

 

 

 

 

「……お前達をこの私が助けよう。私の息子よ。琉、玲。お前たちは誰よりもその才能がある、力がある。」

 

 

 

 

 

「お前たちは、神の使いに相応しい」

 

 

 

 

 

 

2人の復讐劇が始まる。

自分たちから全てを奪ったあの国を滅ぼす。そして、システムのその姿を解明し、全てを終わらせると。

 

 

 

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