PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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賢者と愚者

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

―――9月7日 月食まで残り1日

渋谷駅 地下リニアトレイン保管庫―――

 

 

 

「……特に異常なし。そっちは?」

 

「問題ない。ジャミング装置も問題なく稼働してる」

 

霜月、宜野座。

2人は渋谷スクランブル交差点の5km圏内の重要施設を回っていた。念には念をと、怪しい物がないか、そして相手の妨害電波を想定し、その対策にも追われていた。

 

「オーケー…。残りは交差点の真下に位置する駅構内ね。先輩達もちょうど向かうみたい。合流時間に間に合ってよかった…」

 

霜月は時間内に自分たちの範囲内のチェックが終わったことに安堵すると、地上へと繋がるエレベーターに宜野座と乗り込む。

 

 

「にしても、国土交通省…、アイツら頭おかしいんじゃないの?複数の死人が出る可能性があるのに、私たちの要求を聞き入れないなんて…」

 

「やはり、ダメだったのか?」

 

「…局長がまだ取り合ってくれてるみたいだけど、多分無理そうね。声明文も確証もある訳じゃないのに、あの交差点を含む半径5km圏内の封鎖は出来ないって。」

 

 

渋谷駅周辺の封鎖を求めたものの、管轄の国土交通省からきっぱり断られ続けていた。確証もなく主要道路の封鎖は、より市民の混乱を招きかねない。ただの風変わりな若者2人がふざけているだけだと、そのようにしか解釈されなかった。シビュラに監視されている以上、大事にはならないだろうと、突っぱねられるばかり。

しかし、彼らは何故かシビュラをすり抜ける、監視の目など行き届いていないのが事実。

 

「奴らがプルトニウムを強奪していることも、この前のVXガスの事件も国土交通省は把握してない。さすがにそれを持ち出すことは禁じられてるし…、参ったわ…」

 

「主要道路の封鎖。リニアトレインの運休…。確かに、物流も何もかもを止める羽目になるからな。その対応に追われるのが嫌なんだろう…」

 

「……もし"何か"が発生したら、対応に追われるのは私達…。だったらせめて警備員でもなんでもいいから、人員を派遣して欲しいわ…」

 

エレベーターは地上へとたどり着く。保管庫の責任者へ挨拶を交し、施設を後にする。停めていた車両に乗り込むと、霜月はとある人物へ連絡を図る。

 

 

 

 

 

『はい、狡噛です。…美佳ちゃん?何かあったの?』

 

直ぐに相手は電話に出る。相手は舞白。一係のオフィスで1人仕事をこなしていた。

 

「舞白。渋谷区リニアトレイン保管庫も問題無しよ。そっちは?順調?」

 

『順調も何も…、暖簾に腕押し状態だよ。彼らの犯行方法を予想するなんて…』

 

「へぇ〜珍しく弱気じゃない?」

 

『色々調べてはいるよ?彼らの動画も掲示板も、関係するもの全てね』

 

舞白のデスクに広がる書類、そしてモニターに映るのは動画に掲示板。様々な情報が表示されていた。

 

『そっちは、渋谷駅の調査よね?朱さんから、さっき連絡が来て…、作戦通り、ジャミング装置も警備ドローンも全部機能してて良かった』

 

「でも、油断は出来ないわよ?奴らのハッキング能力はうちの分析官をも悩ませる強者よ」

 

『…明日、どうなるかは私も予想できない。この前みたいに、土壇場に危険なことが起こる可能性も考えておかな……』

 

突如、ブツっと通話が途切れる。

 

「ちょっと……何よ、舞白」

 

「キャッチでも入ったんじゃないのか?」

 

「そうだとしたら、そう言って切るわよ…」

 

フンっと口を尖らせ、車を発進させる。

助手席に座る宜野座は、なんとなく、その不可解な出来事に眉を顰ませる。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈

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舞白は勢いよく席から立ち上がる。

霜月との通話を遮断されたと思えば、画面に表示される"NO data NO Image"

 

以前、あの2人から連絡が来た時と同じ状況。

相手は間違いなく彼らだ。おそらく連絡は来るだろうと予想はしていた。

 

そっと応答に触れる。

 

その瞬間、冷徹な声がオフィスに響き渡る。

 

 

 

『狡噛舞白さん。こんにちは』

 

カストルだ。

逆探知を試みるも、やはり場所は特定できない。

 

「こんにちは。…そういえば、家の窓ガラスの修理代、請求してもいい?」

 

舞白の返しに笑い声をあげるカストル。

できるだけ会話を引っ張る、何か引き出すためにも…

 

『ははははっ…。呑気な返しですね。

さすが、頭脳明晰、勇猛果敢、全知全能…とでも例えましょうか?』

 

「褒めてくれてありがとう。」

 

『本当に、あなたはすごい。いとも簡単にVXガスのカラクリにも気づいた。本来であれば、あそこで皆殺しする予定だったのに』

 

好青年の雰囲気を感じさせる芯のある声。その口から残酷な言葉が発せられ気味悪く感じていた。

楽しむかのように、おそらく舞白の様子を伺っている。同時に、舞白も慎重に相手との会話に挑む。

 

「ねぇ、ところで。今回はどんな話をしてくれるの?カストル君」

 

『あぁ、…そうそう。次の目的の場所、もう分かりましたよね?あと時間も。』

 

できるならば、バレないようにジャミング装置などを仕掛けたかったが、やはりバレていた。一応、想定内のことではあるが、やはり相手のその能力に頭が上がらない。

 

「理由は?」

 

『前の事に備えて、ドミネーターが使えるようにジャミング防止の電波を張ってますよね?あとは警備ドローンも増えてる…、その様子だと道路の封鎖はできなかった…。危機感のない国土交通省さんで助かりました。』

 

「…あなたのその発言、まるで答え合わせをするかのように、今後の犯行を暴露してるけど大丈夫?」

 

全て、彼らには筒抜けだった。

チート級の能力を持つ相手に、おそらく何をしても意味は無い。彼らは本気だ。

 

 

『いいんです。次で必ずあなたを殺します。俺たちの今後の計画に1番邪魔なのはあなただ。』

 

「…ふふふふっ…」

 

舞白はクスクスと相手の言葉を聞くなり、思わず笑ってしまう。それを耳にしたカストルは、眉を顰めていた。

 

『…何がおかしい?』

 

 

「あなた達って、ソクラテスやプラトンの言葉を引用したり、神格めいた言動をよく口にするけど……、中身は子供っていうのがよく分かる。あなた達、歳は15から17、8辺りでしょう?」

 

『………』

 

珍しく黙り込む相手。

 

「そんなあなたに、私からプラトンの言葉を教えてあげるわ。"賢者は、話すべきことがあるから口を開く。愚者は、話さずにはいられないから口を開く"」

 

ふざけた動画に、悪趣味な掲示板。仕掛けてくる罠のレベルは、確かにとんでもない能力値。彼らに振り回されていたのが事実だ。

 

しかし、やはりどことなく幼さが感じられる。単調な手段に、軽い挑発、最初の強奪事件から思っていた事だが、やはり芸がない相手に、思わず笑ってしまった。

 

「あなた達を慕う者は、統計を取ると若者ばかり。"若者は簡単に騙される。何故なら、すぐ信じるからだ"。あなた達の好きなアリストテレスの言葉ね?」

 

『…………』

 

まだ黙り込む。しかし、舞白は言葉を続ける。その瞳は炯々としていた。

 

 

「この国にどんな恨みがあるのか、何を目的としているのか、あなた達の思惑は正直分からない。…もう知っていると思うけど、私もこの国が嫌いで数年間世界を放浪してた。」

 

『何を…』

 

「…"汝自らを知れ"

自分の無知を自覚し、自分の心を高めるように励め。その言葉、そっくりそのままあなた達に返すわ。そうすれば、あなた達がどれだけ無謀で残酷なことをしているのか分かるはずよ。」

 

カストルが今どんな表情をしているのか、容易に考えつく。

 

 

 

「あと、面白いことを教えてあげる。"兄的性格と弟的性格"っていう論文があるの。私も、ある教授の先生から教えてもらったんだけどね…」

 

完全に舞白のペースに躍らされるカストル。舞白の言葉をじっと聞いていた。

 

 

「お兄ちゃんは、控えめで自制的。落ち着きがあって、冷徹で指導的。一見クールで賢そうなイメージ。確かに、今までの行動を見て、あなたをそう見てた」

 

『……っ…』

 

言葉には出さないが、やはり兄弟だとバレていることに眉を顰めるカストル。

 

「でも実はね、研究結果にこんな性格もあるって示されてたの。……多弁で注意散漫、逃避的、拒絶的、反抗的…。きっと、今のあなたに当てはまるものがあるんじゃない?」

 

『…っ…』

 

まるで見透かされたような発言に、グッと拳を握りしめる。

 

「弟のポルックス君。パッと見、幼くて子供っぽいけど、実は兄より神経質で几帳面、内省的で、おそらくあなたよりも狡猾なはず。どう?当たってない?」

 

正にその通りだった。

舞白は数々の動画を見て、徹底的に2人をプロファイリングしていた。

 

 

「明日の犯行内容はだいたい予想が着いてきた。月食で人が大勢集まる場所、今度は一般市民を巻き込む計画。そして、それを巻き込む手段は、対人のはず。人を使って、人を殺める、無作為にね。」

 

『……さぁ、どうだろうか』

 

「あれ?図星?口数が少ないのね。…さっきはあんなに私を褒めてくれて、言葉をスラスラ並べていたのに。」

 

カマをかけるように言葉を並べていく。しかし、相手も慎重なのかなかなかボロは出さない。

 

「だって、私だったらそうするもん。あんな目立つ場所で人を殺すなら、そんなたかが薬品を撒くだけじゃ面白くないし、芸がない。人と人を衝突させる。その方が衝撃的で、きっと過激なことを好む若者たちは更にあなた達を神格化していく…」

 

『……刑事が、外務省のエリート捜査官が言うような言葉じゃないですね?色相の濁りが恐ろしくないんですか?狡噛さん。』

 

舞白は再びクスクスと笑う。

 

 

「生憎、私に色はないから」

 

 

長く会話を引っ張れている。このまま更に伸ばしたいと、舞白は考え続けていたがそうもいかない様子だった。

 

 

 

『……必ず、明日あなたを"この手で"殺します。』

 

 

冷酷な声色で発せられる言葉。

その瞬間、通話が切電される。

 

 

 

 

「……まだ引っ張りたかったけど…、とりあえずこれで十分かな…」

 

 

舞白はチラッとオフィスの時計を目にする。

時刻は昼の12時36分。

 

 

舞白は再び視線をデバイスへ落とすと、唐之杜へ先程の音声データを送り、電話を繋ぐ。

 

 

 

『はいはーい、舞白ちゃん。どうしたの?』

 

ふぅ〜、とタバコの煙を吐く音声が聞こえてくる。舞白は小さく笑みを浮かべていた。

 

「解析をお願いしたいんです。勿論、明日の計画準備を優先してください。それに送ったデータの解析にはかなり時間がかかると思うので、明日以降でも構いません。」

 

『いいけど……、って…

まさかアイツらから連絡が入ってたの?』

 

「はい、つい先程。もう少し引っ張りたかったんですど…」

 

唐之杜は送られてきたデータを開く。そのやり取りを聞くも、一体何を解析すれば?と一瞬考えたものの、舞白の意図に気づく。

 

 

『…なるほどね。了解。…ただ、わかってると思うけど、この通話自体に特殊なロックがかけられてるから、そのロック解除でまず時間がかかるわ。』

 

「さすがです。よろしくお願いします。

…これが、すこしでも手がかりになれば、最悪明日、私が死んでも大丈夫ですね」

 

『ちょっと、やな事言うのは止めなさいよ〜。宜野座君にまた怒られるわよ?』

 

「…へへっ。冗談ですよ?

…では、すみませんがよろしくお願いします。追加でお願いしたいことも後ほど送りますね。」

 

 

舞白は通話を終わらせると、深く息を吐き、席から立ち上がる。

 

 

 

「革命は些細なことではない、

しかし、些細なことから起こる」

 

ニッと笑みを浮かべ、舞白はオフィスを後にした

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

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