PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
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9月8日 午後5時過ぎ―――
―――渋谷スクランブル交差点―――
学生や、仕事の帰路につく人々。繁華街ということもあり、かなりの人が行き交う。今のところ、特に何も起きていない。月食開始時刻まで1時間と少し。一係のメンバーは、傍らに停めてある護送車の横に1ヶ所に集まりブリーフィングを行う。
「………ということで、改めて作戦を確認したけど大丈夫?」
常守が取り仕切り、全員に視線を送る。
「先輩。再確認なんですけど、良いですか?」
「うん、何?美佳ちゃん」
霜月は、ひょこっと手を挙げ、対面側の常守に視線を送る。
「相手がどんな手を使ってくるか分からない以上、多少の犠牲は想定内という事ですが。舞白が予想している、一般市民を使った犯罪を起こした場合、容赦なくドミネーターで対処すること、そして最悪、力技で強引にねじ伏せることも可…。本当に良いんですね?」
「ええ。多少手荒でも、更に犠牲を増やされるくらいなら、その場で執行してください。ドミネーターが判断する通り、私たちはそれに従うのみ。」
「…了解です。」
珍しく手段を選ばない様子の常守。それほど、相手を危険視している証拠だった。もちろん、それには理由がある。
舞白と雛河が当直時に調べ尽くした結果、あることが判明していた。
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「一般市民を使った犯行?」
分析室に集まる一係の面々。
舞白の言葉に、真っ先に反応したのは霜月。ほかのメンバー達もその言葉に深刻さを伺わせる。
「あくまで可能性ですが…。昨晩から雛河さんと色々調べてて…」
雛河に視線を送ると、雛河がこくりと頷く。
「主に彼らの運営する掲示板の書き込み。…あとは2人を崇拝しているようなコメント…、ファンサイトを調べ尽くしたんです…」
カタカタとキーボードを操作すると、モニターにサイトの数々を映し出す。たった数週間で一気に増加していた。それだけ、若者の指示を集め続ける2人の存在は、更に危険度を増しているようだった。
「…すると、その運営者や、過激なコメントを残した対象者達に謎のコミュフィールドの招待コードが送られていたんです。…ほら、この人のコメントを見てください」
とあるサイトの掲示板画像を拡大する。
"シビュラなんて消えて無くなればいい…"
他にも過激なコメントが多く書き込まれていた。全て同一人物のアドレスで、カストルとポルックスを崇拝しているようなコメントが目立つ。
するとそのコメントに返信が1件だけ、不自然に返されていた。
"ραβδίο"
随分アナログな方法だが、コミュフィールドの誘導に間違いなかった。そのコメントの後ろに、URLのようなものが羅列されており、コミュフィールド内で検索をかけると、怪しげなルームが見つかる。このコメントの発信者はカストルとポルックスだと、サイト上のアドレスを見る限り間違いなかった。
「でも…、残念ながら主宰者側から許可が降りなければ、入れないカラクリになってました…」
雛河が再び新たな画像を表示させる。
アクセスしようとしても、どうしても弾かれてしまうのであった。
「ならば、その招待されたであろう対象者のアドレスを調べて、逆探知をかけて話を聞くという手は……?」
直接彼らからアクションがあった対象者を見つけ出してしまえば手っ取り早い、と須郷が口にする。しかし、舞白は眉を下げ、首を振るう。
「残念ながら、その対象者たちのコメントやアドレスに関わるもの、その大本の情報が全て削除されていたんです。通常であれば、IPアドレスを追えば、個人情報は全て確認できるのですが……」
「……なるほどな。日付からして、俺たちが大手コミュフィールドの満島を追っていた頃だ。そっちに気を取られている間に、こっそり奴らはこんな小細工を仕掛けてた……」
満島達は囮に過ぎなかった。そっちに気を取られるように誘導し、その間にちまちまと仲間を集めるかのような作業を進められていた。そう解釈した宜野座は腕を組み、小さくため息を吐く。
「その通りです。……何度もこのコメントの出処のアドレス復旧を試みましたが無理でした。相変わらず、高度な技術を使って、私たちの邪魔をしてる……。」
「まるで、私達刑事課の人手不足を分かりきってるような行動ね。……それで、このコミュフィールド名のギリシャ語の意味は?なにか繋がりそう?」
常守も相手側の策に乗せられていたことに眉を顰めていた。そして気になっていたのは"ραβδίο"というギリシャ文字。
全員の視線が舞白へと向く。
「"ラヴディオ"、そのまま訳すと"棒、杖"を意味します。」
「棒?なんだか、今までとは違って、一切メッセージ性がないようね。やたら分かりやすい意味合いの言葉を残していたのに。」
六合塚が、あまりにも意味不明な内容だと不思議そうにモニターに映るその文字を見つめる。
「恐らく、それが狙いなんです。わざと意味がわからないようにしてるんですよ。適当にギリシャ文字を並べていればそれっぽいし。……ですが、彼らはこの言葉にメッセージを隠してます。」
パッとモニターに、ある動画を流し始める。
"『磔柱が並ぶ時、聖アンデレの処刑台にて、天の使いが舞い降りる』"
舞白に直接電話がかかってきたあの日の動画。カストルが暗号じみたメッセージを口にする横で、ポルックスは何やら指で方向を示すような動きをしている様子。
「8月29日の動画です。覚えてますか?」
「そりゃ、この動画は何度も見たし……。この動画が"棒、杖"となんの関係がある訳?全然意味わかんない……」
霜月の言う通り、全員が訳が分からないと思っていた。すると舞白が、画面のポルックスと同じ指の動きをする。
「宜野座さんと六合塚さんと3人でこの動画のメッセージを解明した時にお話したんですけど、この指の動き。左右上下中……、タロットカードのスプレッド、即ち並べ方を意味してます。」
手元のデバイスを操作すると、ある1枚のカードを表示し、全員に転送する。
「タロットカードの小アルカナ"棒"。棒1、棒2…棒のクイーンとか、まあとにかく、棒というカードが複数枚存在するんです。一般的には"ワンド"とも呼ばれてますが、あえてギリシャ文字に変換したんでしょう。彼らは設定上、ギリシャ神話の神様ですから。」
14枚の柄のカードを表示させていく。
「タロットカードには正位置と逆位置があります。単純に良し悪しと考えてください。そして、棒が意味する内容は―――」
画面にその情報を表示させ、それを読み上げていく。
「正位置だと、困難を生き抜くための力や閃き、エネルギーに満ちる事。仕事や恋、自分の興味や関心がある事柄に積極的に取り組む姿勢。
家族や人との絆を大切にする気持ち。全ての始まり。創造、誕生、絆、家族。要するに、夢の為に計画を実行することの意味」
全員が真剣に聞き入る。
舞白は更に言葉を続けていく。
「逆位置は、やる気をそがれる展開や邪魔が入る。何かしらの新たなスタートでも、見当違いだったり、問題が含まれている。失敗、衰退。情熱が冷める。企画倒れ。決意が萎える。破壊や破滅を意味する……」
棒、というカードだけにさまざまな意味が込められていた。
「これをどのように、それぞれが解釈するかは分かりませんが、私はこう解釈します。"全員で1つの夢のために実行する、しかし横槍が入れば、失敗し自身を破壊しかねない"」
例えば、複数の人々でなにか犯罪を計画的に起こす。でもそこに敵が現れ、死ぬこともあるよ、と言うような意味合いに取れないか?と
「……怖くないですか?本当にこの意味が当たっているとしたら、知らず知らず、コミュフィールドに集められた人達が、全員で何かを起こし、最悪、君たちは死ぬかもしれないから気をつけてね。って突きつけられているようなもの。」
「あたかもそれっぽいギリシャ文字で隠すように突きつけて、それを知るはずもない若者たちが無作為に集められてる……。やな話ね〜……常人がやるような事じゃないわー…」
静かに聞いていた唐之杜はタバコの煙を吐き出しつつ、出来すぎた話に寒気を感じていた。
「確かに……話が全部気持ち悪いくらい繋がるわね。」
六合塚の言う通り、全てが繋がる。ギリシャ文字や神話に重きを置く彼らの事。犯行日時を示したメッセージや、動画で隠されたタロットカードのスプレッド。しまいには、人を集めている最中に、他の囮を利用し刑事課の人間の目を別方向に向けさせ、こそこそと動いていた始末。
「とんでもない策士です。普通の人間じゃない。彼らは、前回の犯行内容より、さらに危険なものを用意している可能性が高い……」
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一体どんな手を使ってくるのか。
もはや、人間の域を超えた今までの策。
しかもそれを、今回は一係のみで対処するという、無茶苦茶すぎる案件だった。
「国土交通省から。もし何か発生した場合、速やかにフォローを入れるとは言われてますが期待はできません。二係も、三係も他の事件で出払ってますから。」
「何も起きないとしか考えていないだろうな。どっちみち、問題が発生した時、全てを被るのは俺たちだ。」
常守と宜野座が諦めた様子で口にする。
あまりにも無謀なこの事件。明らかに不利なのは一係だ。
「志恩さん。各警備ドローンや、カメラ、ジャミング防止は何も問題ないですか?」
『今のところ何も無しよ。ドミネーターも機能してるし、相手からなにか電波妨害が来てる様子もなし……』
「ありがとうございます。そのまま監視をお願いしますね」
『オーケーよ。……皆、気をつけてね。こっちで援護できることは全てやるから、任せてちょうだい』
常守と唐之杜のやり取り。
唐之杜は自分だけ安全な場所で支援をすることに、今回の件に関しては、かなり後ろめたさがあった。声色からして、その場にいた全員はそれを汲み取る。
「私と美佳ちゃん、雛河くん、六合塚さんは後方支援、一般市民の方の守りに徹します。……舞白ちゃん、宜野座さん、須郷さん。3人はいつもの戦闘要因として扱って申し訳ないですが、基本的に敵の懐に飛び込む、攻める側に徹して貰います。」
改めてざっくりと作戦を口にする常守。
「……今回は彼らの狙いの中に舞白ちゃんが含まれてる。本当ならここへ連れてくるべきじゃないのは承知の上です。」
「はぁ?それってどういうことですか、先輩」
常守の言葉に霜月をはじめ、六合塚、雛河、須郷も反応を見せる。昨日のカストルからの電話については、唐之杜、常守、宜野座しか把握をしていない事だった。しかし、万一を考え、やはり話しておくべきだと口にした。
「まあまあ、大丈夫ですよ。むしろ、張本人を捕まえるチャンスですから。」
ブンブンと両手を胸前で振る舞白に、霜月が食いつくように腕を掴む。
「まさか、殺害予告でもされてる訳?」
「……まあ、……そんな感じ。」
気まずそうに目線を逸らす舞白に、霜月は溜息を漏らす。しかし、ここで舞白を公安局ビルに戻すという選択は現実的ではない。深刻な人員不足、それを大いに賄えるのは舞白の存在あっての事だ。この前のように、即座に臨機応変に対応できる人物は、今日のこの場において必要不可欠。現場指揮の常守も苦渋の決断だった。
「何で……今それを持ち込むんですか、先輩。そんな重要なこと、今言うなんて……」
霜月はキッと常守を睨みつける。しかし、その霜月もまた全てを否定できない。ここで舞白を引き返させるのは現実的ではないとわかっている事だった。
しかし、私情はともあれ、舞白に殺害予告が下っているという事実に同様は隠せなかった。
舞白はそっと霜月の腕に手を伸ばせば、ギュッと掴む。
「大丈夫大丈夫。だからこそのスリーマンセルなんだから。宜野座さんと須郷さんとはいつも戦闘要因で動いてたし。……ていうか、美佳ちゃんだってそうやって組ませてたでしょ?でも今の今まで、どんな危険なことだって乗り越えてきてるし……」
「…………ッ……」
どこか腑に落ちない様子の霜月に、舞白は眉を下げる。しかし、やるしかない。それが舞白の任務でもあるのだから。
刹那、全員のデバイスから通知音が流れる。
17時30分を知らせる合図だった。
「月食開始時刻まであと僅かです。作戦通り、配置につきましょう。」
空気を変えるように、常守が言葉を発す。
それを合図に、全員が決められた位置へと散っていく。
舞白は、宜野座と須郷と歩みを進めると、背後から強く腕を引かれる。振り向くと、そこには霜月の姿があった。
バッチリと目が合うと、霜月は先程の突然の報告にまだ納得がいっていない様子だった。
もちろん、私情を挟むべきではない、それは分かっていた。
「……死ぬんじゃないわよ、舞白」
その様子を宜野座と須郷も静かに見据えていた。
「大丈夫、死んだりしない。美佳ちゃんが1番わかってるでしょ?」
霜月の、更に背後でその様子を見守っている常守と目が合う。舞白はいつものように笑みを浮かべ、こくりと頷く。
「犯人を捕まえて、一般市民の人達を守る。成すことを成そうじゃないの?ね?」
そして、腕から手が離れると、舞白達は歩み始める。
一係のメンバーも複雑な心境を抱えていた。
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