PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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狂気の中の理性

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

「ッ!!」

 

須郷の苦しげな声が聞こえてくる。

薬品の効果でハイになっている深山は、須郷へと次々と攻撃を仕掛けていた。

強い拳、蹴り、止まることなく繰り返される。

 

屋上の隅で、刃を首元に向けたままの水瀬は

その光景を震えながら見ている様子だった。

 

 

「須郷さん!!!」

 

舞白の声が響くと、深山はハッと目を見開き

恋人の水瀬の元へと駆け抜ける。

 

水瀬が握っていたナイフを奪えば、彼女の胸に突き立てる。

 

「くッ…来るなぁ!!やめろ…、やめろおおおお!」

 

今にでも、落下してもおかしくない場所に佇む2人。

深山はかなり錯乱している様子だった。

 

その様子に舞白は静かに息を吐き、ドミネーターに再び手をかける。

銃口を2人に向け、犯罪係数を読み取る。

 

『犯罪係数 オーバー302―』

 

深山の犯罪係数が、先程より1ポイント下がっていることに気づく。

まだ間に合う、舞白はそう考えていた。

 

「…お願い、落ち着いて…」

 

「落ち着ける訳…ないだろおおっ!?

そ、それでっ…俺たちを…殺す気…」

 

ふるふるとナイフを持つ手が激しく揺れている。

しかし、先程より言葉が通じるのか、返答が返ってくることに、微かに舞白は笑みを零す。

 

舞白は宜野座と須郷に視線で何かを伝える。

そしてドミネーターをそっと、地面に置くと両手を上げ、まるで降参するかのような姿勢を見せる。

 

「………大丈夫

ゆっくり話をしましょう。」

 

「………ッ…」

 

微かに、水瀬を掴む腕の力が弱まっているように感じる。

2人の足元は、血で赤く染っており、雨のせいで体温も低下しているはず。

早く決着を付けなければ、命が危ない。

 

雨のせいで、舞白が羽織っていた外務省のジャケットが重みを増し、やたら疲れさせる。

しかし、舞白はゆっくりと深呼吸をすると、2人に口を開く。

 

 

「深山隼人、そのナイフを下ろして。

彼女を解放して…」

 

「……嫌だ…、嫌だ

…どうせ俺は潜在犯だろ!?

そうなれば、もうおしまいだ……」

 

「だからといって、大切な恋人まで傷つけて、あなたはそれでいいの?」

 

ブルブルと怯える深山

その横で、恋人の水瀬は冷静に、

むしろ、恋人の服を握りしめていた。

 

「ハハッ…、もう終わりなんだよ。

この社会は、1度でも不用品だと判断されればゴミ同然!

可能性も未来も、恋人ですら勝手に決められて…」

 

突き立てていたナイフに力が籠る。

再び突き立てられれば、水瀬はキュッと目を閉じていた。

 

「…本当にそうだよね、分かる、あなたの気持ちも」

 

突然の肯定の言葉に、驚く深山は

相手の言葉に耳を傾け始めた。

 

「私もそうだった、理不尽なことだって何度もあった。システムに管理されて、本当の自分の姿も見失いかけて、路頭に迷ってた」

 

背後で宜野座と須郷は静かに見守る。

通信で音声を聞いている霜月達も、静かに耳を傾けていた。

 

「この社会が、システムが全て正しいわけじゃない、だからこそ、私達はその中で、抗って、考えて、生きていかなければならない。

そして正しく生きていかなければならないの。」

 

どこかで、似たような台詞を聞いたな、と

霜月と宜野座は口角を緩める。

 

「……俺は…、会社もクビだ…

試合に負けまくって、挙句の果てに薬に溺れて……

…香澄は…俺じゃない他の男に恋人適性が出たんだ…」

 

だったらいっその事、死んでやろうと言う魂胆なのか。

正しい判断が出来なくなっていた深山は、理性を失い、体が先に動いたようだった。

 

「………」

 

「なあ、全て奪われるこの気持ちが分かるか!?

あんたみたいな、エリート様に分かるのか!?」

 

「うん、とっても。

…でも、だから何?あなたはそのまま、恋人と心中して、それでいいの?」

 

穏やかな表情から、徐々に冷徹な表情へ変わっていく。

深山はその変貌に、ゴクリと息を飲む。

 

 

「…正しく生きていく、でもそれは自分の意志を殺して生きていく意味ではない。自分で新たな道を切り開いて、それを正しさに変えていくの。」

 

あくまでも正しく、法を守り生きていく。

だからといって、予め引かれたレールを歩く訳では無い。

正しさの中から、自分で新たなレールを敷く方法も必ずあると。

 

「社会から見放されたとしても、必ず誰かが救い上げてくれるはず。その正しさをきちんと持っているなら、人の気持ちは離れない

……そうでしょう?水瀬さん」

 

目を瞑っていた水瀬はゆっくりと瞼を持ち上げる。

 

彼女は別に、潜在犯になろうが、彼の事を愛していた。

例え、ナイフで刺されようが。

実際、水瀬は彼から離れようとしていない。

 

「その前身頃の傷だって、あなた自身で刺したんでしょ?

どうにか理性を失わないように、最後の賭けだった。」

 

深山の刺傷、それは彼自身で傷つけたものだった。

 

「まだあなたにはチャンスがある、必ず。」

 

「……香澄……」

 

徐々に体の震えがなくなっていく様子。

そっと腕の中の恋人に目を向けていた。

 

「愛に恋に、生きていく上で必ず表れる感情。

…あなたにこんな言葉を教えてあげるわ。」

 

気づけば少しずつ雨が弱まっていく。

次第に舞白の声量もそれに合わせ、穏やかになっていた。

 

 

「"愛の中には、常にいくぶんかの狂気がある。しかし狂気の中には常にまた、いくぶんかの理性がある"

…大昔の偉人も、そうやって説いているのよ。」

 

ニーチェの言葉をそのまま引用する舞白。

 

「それと、これは持論なんだけど…

どんなにその人を愛していても、その人のために全てを犠牲にするような事は絶対してはダメ。なぜならその後、必ずその人から憎まれてしまう。」

 

冷徹な表情が再び柔らかくなる。

持論だ、と説いたその言葉は

舞白が宜野座に対して、過去にその行動を起こそうとしていた事だった。

 

 

 

「……あ……あぁ…」

 

雨がやみ、月が顔を出す。

月明かりに照らされた、深山と水瀬。

深山はナイフを捨て、掴んでいた水瀬を解放した。

 

 

 

「…289.145」

 

背後で宜野座がそう呟く。

深山の係数が289、水瀬は145まで数値が下がっていた。

 

これで2人は命を落とすことは無い。

 

宜野座と須郷がゆっくりと2人に銃口を向けた途端、

水瀬が足元を取られ、バランスを崩す。

 

咄嗟のことに、隣に立っていた深山は反応できない。

 

「香澄ぃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「…!!」

 

無意識に体が反応する舞白は、一気に駆け抜ける。

どう考えても間に合わない。

 

しかし、舞白はスピードを緩めることはなく

恐らくはそのまま飛び降りる気だった。

 

 

「待て!!舞白!」

 

「監視官!!」

 

宜野座と須郷の制止も届くはずがなく、

舞白はそのまま躊躇することなく、落下する水瀬を追うように、自ら飛び降りた。

 

20階の高層ビル。

地面に叩きつけられれば、ひとたまりもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宜野座達は落ちた箇所から下を見下ろす。

 

 

 

 

すると、15階の位置で2人が廃品の上で倒れているのが目に付いた。

水瀬の体を守るように、舞白はしっかりと抱きとめていたのだった。

 

 

 

「…よかった…間に合ったわ…」

 

傍らで息を切らしていたのは

15階で待機していたハウンド2、六合塚だった。

 

 

 

このビルの構造を最初から見ていた舞白は

東側だけ、15階に出っ張った箇所があることに気づいていた。

 

運良く東側に水瀬達が追い込まれていた、というのは偶然だが、何とかなったことに安堵していた。

 

 

舞白は予め、15階に待機していた六合塚にメールを送り、クッションになるように適当に廃品を並べておいて欲しい、と伝えていたのであった。

 

 

 

 

「……任務完了…」

 

舞白はそのままぐったりと天を仰げば、くくくっと笑みを浮かべていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

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