PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
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18時1分
食の最大まで残り5分―――
交差点を行き交う人々の数はさらに増えていた。恐らく、30分ほど前よりも2倍以上は増えているだろう。
真っ直ぐ歩くことも出来ず、蛇行しながら交差点を渡る。
人々の視線は空へ、高く向けられる。
舞白、宜野座、須郷はその視線とは逆に、不審人物がいないか、すれ違う人々を監視していた。
舞白は、ふと宜野座が居るであろう方向へと視線を送る。既に人混みに紛れ、先程のように容易に姿を見つけることは出来なかった。
昨日のことがあって、ちゃんと話したい、なんて考えていたけども、結局話せないままになっていた。
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同日 午後14時過ぎ――
―――公安局ビル 51F 展望テラス
出立準備を終え、少しの時間ではあるが休憩を与えられると、舞白はテラスのベンチに腰をかけ、いつものカフェオレに口をつける。
空は快晴、まだ暑さは若干感じるものの9月に入った途端、雲の形や気持ちいい風を感じれば、秋のおとづれを感じていた。そんな呑気なことを考えていても、数時間後には危険な事が待ち構えている。そのギャップに少し疲れを見せながら、深呼吸をする。
目を閉じると聞こえてくる、音と意識しないほど耳になじんだ街の騒音。それに入り混じる風の音が心地よく耳を燻っていた。
暫くそんな状況に浸っていると、隣に誰かが腰を下ろす気配を感じる。舞白は目を開けずとも、それが誰だか、すぐに分かっていた。
「美佳ちゃんも休憩?」
「…まだ何も言ってないのに、よく私だって気づいたわね」
パチッと目を開き、隣の人物へと目を向ける。
お気に入りのタピオカマンゴージュースを片手に、ギョッと舞白を見据えていたのは霜月。
スタングレネードやスタンバトンの手配を済ませ、霜月も同じく休憩をとっていた。
「無言で隣に座ってくるなんて、美佳ちゃんしかいないよ。あと匂い」
「なんかその表現、気持ち悪いんだけど。」
「いい匂いって言いたいの」
ふわっと風と共に鼻をかすめる霜月の匂い。言葉では言い表せられないが、柔らかで心地良い香りだと、相手を褒める。
「朱さん、六合塚さんだったら必ず肩を叩いてくるし。雛河さんに関してはこの場所で会ったことは無いし……、須郷さんは"失礼しますッ!!"って絶対声をかけてくるし……」
霜月は、須郷がそう言ってこのベンチに腰掛ける姿を想像すると、つい笑みをこぼしてしまう。その勢いのある声に、ビクッと毎度肩を揺らしているであろう舞白も想像していた。
「……ふふっ……
……で?宜野座さんだったら?」
茶化すように、弄ぶように舞白の顔を覗き込むと、いつもと違う様子の舞白に気がつく。そして、その様子を見て、今日の2人の雰囲気が、いつもの距離感とは違い、少し壁があるように感じていたのだった。
「……宜野座さんだったら……」
ポカン、と珍しく俯く舞白。隣の霜月はため息を吐き、ジュースを口に含み、タピオカを一気に飲み込む。
「やっぱり、何かあったんでしょ、宜野座さんと。」
「なんで?」
「なんでって……ほかの皆は感じてないかもしれないけど、私は分かる。なんか変な距離感がある感じ。喧嘩とかじゃ無さそうだけど……」
「……」
舞白は絶対に、どんな事があっても、仕事に私情は持ち込まないと決めていた。それは宜野座も同じこと。"そんなこと"で仕事に支障をきたすのはお門違い。だからこそ、舞白はそれに気づいた霜月に、申し訳なさを感じていた。
「喧嘩とかはしてないよ?……ただ、私が悪いだけ……。だから何も心配しなくていいし、大丈夫。今日の作戦にも支障は……」
刹那、霜月の両手が横から伸び、舞白の両肩を掴み、ブンブンと揺らし始める。
「大丈夫じゃない癖に、いつもいつも大丈夫って。その口癖、なんとかしなさいよー」
「ちょ……美佳ちゃん、肩……」
ゆらゆらと揺らされ、暫くすると手が離れていく。霜月はベンチに深く腰掛けると、盛大なため息を漏らす。
「舞白。あんた、自分は強いから、周りに迷惑掛けてないって思ってるでしょ、絶対。」
「……いきなりどうしたの、美佳ちゃん……」
ゴクゴクとマンゴージュースを一気に飲み、ふぅ、と息を吐く。そして隣の舞白へ視線を向けると、眉を顰める。
「"いくら強くても、賢くても、色相美人でも、そんなの関係ない。そんなあんたをみんなが心配していたって事"…」
その言葉は、以前、新疆ウイグル自治区で霜月に言われた言葉。舞白はもちろん忘れてなどいなかった。
「忘れてないよ。覚えてるよ、ちゃんとその言葉。……その時、宜野座さんにも言われたなぁ、独りで抱えるなって。…私、まだ突っ走ってるように見える?美佳ちゃん」
悪気は無い。どうしても勝手に、誰よりも先に体が動いてしまう。迷惑をかけないようにとか、そういうレベルではなく……。ただ無意識に反応してしまうのだった。間違いなく兄譲りの性格……。
「こういう、チームで動く仕事を一緒にしてると、あんたってやっぱり無茶苦茶な人って余計に感じるようになったかも。……獲物を見つけたら、誰よりも先に食らいついてやろう……みたいな感じ」
「私、監視官向いてないね、間違いなく……」
「そういう意味じゃないけど。その無茶苦茶な行動にプラスして、人の良さが出ちゃうっていうか。先輩と似てるようで、少し種別が違う感じね。」
実際に、舞白の行動で迷惑をした、というような事は1度もない。むしろ、仕事は捗り、一係としては欠けられては困る存在となっていた。しかし、それだけではもちろん無い。"独り"で抱え込むような様子を、皆か何も言わずとも心配をしていたのだ。
「舞白のお兄さん……、狡噛慎也さんとは一緒に働いたことが無いから分からないけど。先輩に、宜野座さんも六合塚さんも、唐之杜さんも、"やっぱり兄妹だね"なんて、皆よく言ってるわ。無茶苦茶で1人突っ走ってるって。」
「……そんなつもりは」
「"ある"のよ。…少なくとも、私はあんたが無茶苦茶をしている所、何度も見てきたけど、その度にヒヤヒヤしてたわよ。」
腕を組み、思い出すように首を微かに曲げ、数々の珍行動を口にしていく。
「屋上から飛び降りるわ、丸腰で犯人に掴みかかるし。しまいには、最初の頃なんて"勝負は手早く決めるに限る"なんて言って、暴徒相手に飛び込むし。……宜野座さん曰く、あんたの言動はほぼほぼお兄さんと一緒だって呆れてたわよ。まあ、おかげで検挙率は100%だけど。」
舞白は霜月の言葉に、困り果てたような、必死に心の奥底にある感情を押隠すように笑うしか無かった。それを読み取ったように、霜月は空を見上げ口角を緩める。
「自分を犠牲にしないこと。獲物を見つけて、目をギラつかせるのは、あんたの性格上仕方ないことかもしれないけど。そんな事ばかりしてると、誰かにその危険が降り掛かるのよ。」
霜月は顔を空に向けたまま、隣の舞白の肩をポンポンと叩く。舞白は手に持ったカフェオレの紙コップに力が込められていた。
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舞白の耳に、再び交差点の切れ目の無い雑踏音が飛び込む。珍しく、こんな時にボーッとしてしまっていたらしい。
信号は気づけば点滅し、赤へと変わろうとしていた。慌てて駆け抜けると、交差点を渡りきり、目の前で車が横切っていく。
霜月との会話が脳裏に浮かんでは、自分の行動に、空しさとやりきれないような感情が入り交じっては小さくため息を漏らす。
そして、再び青に変わる。波に合わせ、足を踏み出し再び人々を警戒するように見回す。
「((これが終わったら……もう一度ちゃんと謝……))」
刹那、舞白の目の前に仮面を被った人物が立ち塞がる。夏だというのに、長そでのシャツに、厚手の上着を羽織っていた。
その瞬間、まるで時が止まったかのような感覚に襲われる。
その仮面は、男性の神の顔を模したような。カストル達と同じ材質で作られたような仮面だった。
しかし顔はあの2人とは違う。でも、彼らと何か関係がありそうな風貌であることは間違いない。
長身のその男は、口を開く。
「我が名は、アレース。戦いの神」
間違いない。彼らの仲間だ。声色からして、かなり若い。しかし、やたら身長は高く、ガタイは悪くない。
相手はただ立ち尽くし、舞白の行く手を阻むように立ち塞がる。
舞白はすぐさま、相手を取り抑えようと男に掴みかかれば、そのまま背負い投げを相手に見舞う。
そして周辺の人々は驚いた様子で2人から離れる。悲鳴をあげる者も現れれば、その場でデバイス画面を向け、動画や写真を撮ろうとする者も。
男を取り押さえたまま、なんとかデバイスを触れようとする。しかしその瞬間、唐之杜から通信が入る。
『緊急事態発生よ!交差点から2km北側のファイアー通りで、大型トラック2台が暴走。進路予想を立てると、そのまま井の頭通りへ直行。向かう先はスクランブル交差点―――』
男は体を拗らせ、抵抗を見せ始める。上手くデバイスに触れることが出来ず苦戦を強いられると、また一方、須郷が居るであろう方向からも騒ぎ声が聞こえ始める。
『シェパード3!ハウンド……』
常守から通信が入った瞬間、なんとかデバイスに触れ、応答しようとする。しかし、取り押さえている男の様子が少しおかしいと感じ、ふと男の着衣していた上着に目を向ける。
上から触れるとやけに硬いことに気づく。
バッと胸元を一気に開くと、体に取り付けられている小型の"何か"
赤いランプがチカチカと点滅していた。
その光景に、ふと今は亡き親友の咲良が体に取り付けられていた、あの事件、爆弾を思い出す。
「……っ!!まずい!!」
点滅するランプの間隔が狭まる。
間違いない、これは爆弾。
周りの野次馬、一般市民に向けて声を上げ、舞白自身も男から体を離す。ドミネーターを向ける間もない。
「ここから離れて!!!!早く!!逃げて!!」
呑気にデバイスを向ける者達を無理やり押していく。
アレースと名乗った仮面の男は、横たわったまま笑い声を上げていた。
「早く!!逃げて!!爆弾よ!!!!」
徐々に辺りから立ち去っていく一般市民達。
『シェパード3!何があったの!』
常守の荒い声がデバイスから漏れ聞こえる、ら
「爆弾を取り付けられた人間がいます!すぐに待避を!」
「こちらハウンド4!こちらにも同じく爆発物を取り付けられた人間が!」
やはり、須郷の元にも同じような人間が現れていた。
逃げ惑う人々。しかし、1人の子供の鳴き声が舞白の背後から耳に飛び込む。幼い男の子が爆弾を纏った男の近くで泣き喚き、逃げ遅れていた。
「ッ!!」
人の波に体を押され、舞白は動けない。
取り残された男の子に手を伸ばすも体は離されていく。
「((……間に合わない……ッ……!!))」
さらに泣きわめく男の子。
何とか足を躓かせながらも、人の波から抜け出すも間に合わない。
そう頭によぎった瞬間、目の前に人影が現れる。
サッと男の子を抱き上げ、すぐさまその場から退避する宜野座の姿。その姿は一瞬で、風の如く隙のない動きだった。
ホッと安堵した瞬間、目の前で大きな爆発音、爆風が周辺を一気に襲う。
そして、それと同時に
白い大型トラック2台が、燃え盛る交差点のど真ん中で停車する。
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「さぁ、……天の使いの登場だ…」
「……兄弟たちの、お父さんとお母さん……、ユーピテラ様……」
「「復讐だ」」
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