PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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神々の名の起爆物

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

ドミネーターに認識されない人物。

舞白以外は、その状況は1度だけ経験したことがある。

 

 

鹿矛囲桐斗。

免罪体質者とも異なり、犯罪係数の測定どころか、存在自体をサイマティックスキャンが認識出来ないという極めて特殊な体質を持つ青年、鹿矛囲桐斗。当初はその実在すら疑われており、「透明人間」呼ばわりされていた人物。

 

結論、彼の場合は184名の体を継ぎ接ぎに移植された多体移植によって生かされていた。即ち、死体の塊と認識され、シビュラに認識されなかった人間。

 

 

 

 

しかし、目の前の仮面の男は鹿矛囲桐斗とは恐らく違う。イレギュラー中のイレギュラーに違いなかった。

 

 

 

 

 

 

舞白はそっと、ドミネーターを腰に戻し、スタンバトンに触れる。やられる前に、先手を打つ。

 

左手を後ろへ回し、2人へサインを送る。それを確認した宜野座と須郷はスタンバトンを勢いよく取り出し、一気に駆け出す。

 

 

 

 

 

 

その様子を、まるで分かっていたかのように反応すれば。カストルはある言葉を呟く。

 

 

「……汝、自らを知れ」

 

その瞬間、30~40人ほどの仮面の集団が一斉に3人に向かって走り出す。

その波に逆らうように、カストルは1人、ゆっくりとした足取りでその場から離れていく。

 

 

「((マズイ!逃げられる……ッ))」

 

舞白達は襲いかかる一般市民達をねじ伏せていくも、同時に姿を消すカストルを必死に目で追う。

 

 

 

「ッ……!!宜野座さん!須郷さん!あの男を……」

 

 

1人の少年を投げ飛ばし、傍らで応戦している2人に声をかける。

しかし、突如舞白の目の前に、背丈は同じくらいの少年が立ち塞がる。カストルやポルックスの仮面ではない、別の仮面。

 

そして胸元が、赤くチカチカと点滅していた

 

 

 

「我が名はヘーパイストス……、炎と鍛冶の神……」

 

 

 

その少年は、舞白に掴みかかる。だが、力は弱い。

ねじ伏せようと、相手の体を掴むも、周りの人間たちが邪魔をするように襲いかかってくる。

 

 

「……ッぐ……」

 

一緒に爆発するつもりだろうか。

まるで舞白とヘーパイストスを共に爆死させようとしているのかのような行動をとる仮面の人間。

 

 

そんな状況でも、舞白は少年の胸元で光る赤いランプを見据え、それに手をかける。頑丈に服に取り付けられたそれは、何やら爆弾を起動する際に、自分自身で何かを行わないと爆発しない仕掛けになっていた。理由は、爆弾の一部に何かが刺さっていたような痕跡があったのだ。おそらく目の前の少年は、自分自身で何かを実施しし、意図的に舞白に近づいてきた。

 

点滅する間隔が狭まる。爆発までもう間もなくだろう。

 

 

「ッ……ァァァァァァ!!」

 

かなり乱暴だが、舞白を押さえつける周りの仮面の人間達を、長い手足を駆使して蹴散らしていく。

それでも次から次へと、容赦なく舞白の動きを妨害する彼ら。

 

「((……キリがない!!))」

 

ランプはさらに点滅する速度を早めていく。

彼らは自分達が爆発によって死ぬ可能性があることを恐れないのか?と疑問を抱く。

顔が見えない分、彼らの感情は全く読めない。

 

容赦なく押さえ込まれる体。焦りを見せていた瞬間、次々と引き剥がされていく仮面の人間達。

 

 

 

 

「舞白!隙を着いて蹴り飛ばせ!」

 

宜野座の言葉通り、両足で思いっきり爆弾の持ち主の少年を蹴り飛ばし、押さえ込んでいた人間たちを容赦なく、蹴散らす。

 

宜野座に腕を引かれ、なんとか立ち上がり、爆弾を身につけていた少年へと目を向ける。地面に横たわり、じっとこちらを見据えている様子が見て取れる。

 

どんな表情をしているのだろうか。彼は間もなく爆発によって、体が木っ端微塵になる事は分かっているはず。

 

「…………待って……彼は!!」

 

バッと手を伸ばそうとするも、宜野座に阻止される。まとわりつく仮面の人間達を振り払いながら、2人はできるだけ遠くへと駆け抜ける。

 

するとその瞬間、大きな爆発音と共に、ヘーパイストスと名乗った少年の肉片が辺りに飛び散る。

仮面の人間達は、全く気に止めることなく、再び舞白達へと襲いかかる。

 

 

 

アレース

エイレイテュイア

ヘーパイストス

 

ここまで爆死した少年少女は3人。

 

舞白、宜野座、須郷に襲いかかる人間たちの中には、まだ爆弾を抱えていそうな、違う仮面を身につけた人間の姿が数人見受けられる。

 

 

まず、彼らを何とかしなければ。

そして、暴徒と化した少年少女達を押さえ込む。そうしなければ規制線外へ出られてしまえば、数年前のヘルメット事件と同じ道を辿ってしまう。

 

最悪、彼らに乗じて暴徒化する人間が増えてしまうことも懸念される。野次馬や報道機関の対応も、常守達を中心に対応されていたものの、さすがに限界があるだろう。

 

サイコハザードの拡散、大規模なメンタルケア、パンクする収容施設、都市機能の麻痺による経済的損失……

 

何より、カストルとポルックスが危険人物である以上、それに乗じてさらに危険な行動を起こす可能性が十分に懸念される。そんな状況でプルトニウムを使われてしまえば、まさに彼らのシナリオ通りになってしまう。

 

 

『舞白ちゃん、仮面を付けた怪しい男が、地下施設へと入っていったわ。既に、地下にいた一般市民の待避は終わってる。……防犯カメラで追う限り、向かっている先は恐らく……』

 

舞白、宜野座、須郷は絶え間なく襲いかかる人間たちの相手をしながら、唐之杜の通信に耳を傾ける。

 

 

『ここから西側に位置する、リニアトレインの保管庫よ。ジャミング装置も設置してる重要な場所。もし破壊されて、前みたいに通信障害が起これば取り返しのつかないことになるわ。』

 

 

防犯カメラに映る男の姿。間違いなく、カストルに間違いないと唐之杜は判断した。スキャナーに一切読み取られず、明らかに異様すぎる。

 

 

『朱ちゃんと美佳ちゃん、弥生は外の対応に追われてるし、規制線外に数人の仮面の暴徒が逃げ出してて、ちょっと厄介なことになってるの。翔くんは妨害電波を護送車内で遮断してる。……敵さんの誰かが、こっちにハッキングを仕掛けてきてるの』

 

敵側からのハッキング、妨害、恐らくはポルックスの仕業だろう。

 

 

「……ッ……唐之杜さん!……私たち3人でなんとか……」

 

隙をつかれ、地面に倒れる舞白。

バールを振り下ろされれば、なんとか身を交し、立ち上がる。

 

爆発によって、トラックや放置された車両に火の手が回れば、スクランブル交差点は火の海へと景色を変えていく。

 

 

 

 

そして再び、爆弾を纏っていると思われる仮面の人物が現れる。今度は須郷目掛けて襲いかかっている様子だった。

 

 

「須郷さん!!胸元のランプが点滅していなければまだ爆発しません!相手の手元を拘束してください!!」

 

 

 

 

 

 

「ッ……了解です!!」

 

須郷は指示通り、相手の手元を掴めば、そのまま力強く地面へとねじ伏せる。

 

 

「宜野座さん!須郷さんのフォローを!起爆装置にカラクリがあります!何かスイッチか、紐か何かで引き抜けるような、そのような物がついていれば……」

 

暴徒達をなぎ払い、宜野座は須郷の元へと駆け抜ける。舞白も2人の元へ向かおうとするが、またまた目の前に爆発物を付けた、今度は少女が現れる。

 

 

「我が名はエリス……不和と殺戮の女神」

 

咄嗟に相手に手を伸ばし、すぐにその場に取り押さえる。

 

 

「((……止める……今度こそ爆発を……))」

 

エリスと名乗った少女の両手首を地面に押さえつけ、片手で爆弾を確認する。ランプは点灯しておらず、このまま上手くいけば爆発はしないだろう。

 

「……あった…………これを抜かなければ、起爆しないはず……」

 

複雑にカラフルなコードが巻かれた爆発物。その機械に、何か刺さっているようだった。それは紐で繋げられており、抜けば起爆装置が稼働する。そう予想した舞白が、爆発物に手をかけた瞬間、思いっきり頭部に衝撃が走ると地面に倒れ込む。

 

 

 

 

 

 

「…………くっ……痛……」

 

鉄製の棒か、何かで頭を強打する。背後にはバールを手にした少年が、荒い息を吐き、手を震わせていた。複数人に囲まれた舞白は絶体絶命。明らかに舞白を狙っているのか、人数が多すぎる。

 

 

そして、爆発物を纏った少女は、自身の手で紐を引っ張ると、ライトがチカチカと点滅していた。

 

額から生暖かい何かが肌を滑る間隔。経験のある感覚に、思わず苦笑いを浮かべれば、地面に両手をつき、ゆっくりと立ち上がる。

 

ポタポタとコンクリートの地面に血液が滴り落ちる。ふらふらと体を揺らすと視界が歪んでいく。

 

「((……焦点が……合わない……

……こんな所で、倒れる訳に…は………))」

 

ここでスタングレネードを投げれば、宜野座と須郷に被害が出るのは間違いない。スタンバトンをギュッと握りしめ、何とか構える。徐々に詰め寄ってくる6人の仮面の少年少女達。そして起爆装置を纏った少女。

 

少女の胸元がチカチカと点滅すれば、舞白を目掛けて走り出す。退避しようとするが視界が歪み、上手く動けない。

 

 

 

 

5m先まで狭まる少女との距離、点滅する赤いランプ。

 

せめて、少しでも爆発の衝撃を少なくしようと、体を覆うように丸め、身構える。

 

 

「舞白!!」

 

「監視官!!!」

 

 

遠くでその光景を目にしていた須郷、宜野座が声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狡噛監視官!!」

 

 

燃え盛る炎から現れたのは三係の宮舘監視官。ぼんやりとした視線を彼に送る舞白。

 

宮舘は舞白の腕を一気に引き込み、長身を生かしてそのまま抱え込めば、その場から駆け出す。

 

 

そしてその瞬間、起爆装置が稼働し、ついに大爆発を起こす。少女の周辺にいた複数の仮面の人間達、そして爆発物を纏った少女の体が木っ端微塵に吹き飛ぶ。地面に倒れ込む幾つもの屍。

 

宮舘は予想以上の現場の状況に息を飲んでいた。

 

 

 

「宮舘監視官……助かりました……」

 

地面に足をおろし、宮舘に笑みを向ける。炎の光でぼんやりとしか顔が見えないが、宮舘は憂わしげな表情を浮かべていた。

 

 

「無理矢理ですが、事件を聞きつけて三係全員でこちらに合流しました。……あとで局長に何を言われるか……」

 

「いえ、絶体絶命だったので……」

 

腕で額の血液を拭い、小さく息を吐く。そして周辺を見回すと、仮面の少年少女は残り10人ほど。須郷に襲いかかっていた少女は、どうやら爆発すること無く、無事拘束できたらしい。

 

三係の如月監視官と、他執行官がフォローしているようだった。

 

 

 

 

「宜野座さん、須郷さん。そちらの少女の名前は……何と名乗ってましたか?」

 

デバイス越しに2人に問いかける。すると須郷が少女の腕を拘束し、その傍らで口を開く。

 

 

『彼女はへーべー……青春の女神と……』

 

「……へーべー……」

 

 

アレース

エイレイテュイア

ヘーパイストス

へーべー

エリス

 

これまで現れた爆発物を纏った人物たち。その並びと名前に、舞白はピンとくるものがあった。ボーッと佇む舞白を不思議に見据える宮舘は彼女に問いかける。

 

 

「何かあったのか?」

 

 

「…………あと2人」

 

「2人?」

 

「爆発物を纏った人間があと2人居るはずなんです……」

 

辺りを見回すも、もうそれらしき人物は見当たらない。舞白はすぐに全員に通信をはかる。

 

 

「……シェパード……、もういいですねコールサインは。…こちら狡噛です。爆発物を纏った人間はあと2人存在します。すぐに捜索を……、とりあえず交差点には姿は見えません。」

 

『あと2人……、その根拠は?舞白』

 

霜月が根拠を問い詰める。

 

 

「彼らの名前、どこかで聞いたような気がしたんです。……カストルとポルックスがこの国に侵入する前に現れた、7人の名前。」

 

花城と兄がサンクチュアリで見せた5人の写真。そして日本の地に足を下ろすまもなく国防省に殺された2人。

 

「国防省から外務省に渡された7人の情報。持ち物や小型潜水艦の調査報告書を、以前花城課長から送られてきて、それに目を通していたんです。」

 

その7人は、刺青を彫っていたり、それぞれ共通する特徴があった。そして他にも7人全員が同じ、ある物を持っていたのだった。

 

「それぞれ、彼らは神や女神の名前を与えられていました。そして一人一人、その写真……その神が描かれた絵のようなものを持っていたと。今のところその5人が全て一致してるんです。」

 

舞白は宮舘と共に宜野座や須郷、如月達が佇む場所まで歩いていく。

 

「残りはエニューオーとアンゲロス。その2人がどこかに潜伏してます、もしくはリニアトレイン保管庫に向かったカストルを追っているか……」

 

交差点を混乱に陥れる、目的はそれだけじゃない。それに彼は、舞白を殺すと脅迫を行っていた。それにしては作戦が簡単で、単調すぎる。

 

 

『……スキャナーに引っかかってないけど、地下を彷徨く2人の仮面の子達が居るわね。普通、爆発物や危険物に反応するはずなんだけど……』

 

『ということは、デコンポーザーも効かない。ドミネーターはまた鉄クズ同然ってことね』

 

 

唐之杜と六合塚の会話。前回同様、ドミネーターやスキャナーの裏を書くような相手の作戦。やはり一筋縄ではいかない。

 

「……とにかく、このまま私にカストルを追わせてください。彼の狙いは私です。必ず彼を拘束……」

 

 

宜野座たちの元へたどり着いた瞬間、舞白の腕を掴む宜野座。その表情は、呆れと怒りが混じっていた。

 

「舞白」

 

「……地下に何があるか分からない。謎掛けにカラクリ。少なくとも戦闘力には欠けるけど、頭脳戦には負けない。」

 

グッと腕を掴む力を強める。しかし、舞白は表情を変えず、宜野座を見据える。

 

 

「お願い。私に行かせて。無茶はしない、約束するから。……こんな怪我だし……」

 

「…………ッ……」

 

確かに、即座に様々な場面で舞白の頭脳に救われたのは事実。何が起こるかわからない以上、頼らない訳にも行かない。

 

 

すると刹那、話を静かに聞いていた常守が言葉を発す。

 

『地下へは、宮舘監視官、宜野座さん、須郷さん……舞白ちゃん、4人で彼を追ってください。残された2つの爆弾も、阻止してください。』

 

「常守……お前」

 

『地上の残党は私たちと、如月監視官、執行官の皆さんで抑えます。街に仮面の暴徒達に同調する若者たちが現れ始めてますから……。どちらにしても地上も危険です。』

 

デバイスに映るカメラ映像。それはまるで、6年前のヘルメット事件と同じような光景だった。ネットで流れた情報などに乗せられた若者たちが暴れ始めていたのだった。

 

『即座に対応出来る人物にカストルを追わせるのが賢明かと思います。……宮舘監視官、宜野座さん、須郷さん。狡噛監視官の身の安全を第一に、任務を遂行してください。』

 

戦闘力に長けた者、頭脳に長けた者、それぞれ上手く両立させた状態で向かわせなければ、どっちみち危険が及ぶと判断した迄だった。半端に、ただ身の危険があるからと、舞白を向かわせない判断をすれば、それはそれで宜野座達に危険が及ぶ可能性があった。

 

 

「……朱さん……」

 

 

こうして話している間にも、カストルは地下奥へと進んでいる。急がなければ、さらに混乱に陥るだろう。

 

 

「…急ごう。奴らを追うぞ。」

 

腕を掴む宜野座の手が離れる。どこか納得いかない様子だが、常守の真っ当な意見に反論はできなかった。

 

「宮舘監視官、舞白の傍にお願いします。俺と須郷で先行します。」

 

「分かった。」

 

 

 

 

「舞白」

 

 

 

 

宜野座は背後の舞白に振り向けば、微小を浮かべる、

 

 

 

「頼むから、無茶をするな絶対に。俺と須郷、宮舘監視官から離れるんじゃない。」

 

 

「……了解です」

 

先を行く須郷も微かに口角を上げれば2人は先行していく。その後ろ姿は、とても心強く、今まで彼らの前に先に向かっていた自分は初めて見る光景だった。

 

 

 

「狡噛監視官、行きましょう。」

 

「……宮舘監視官、すみませんが、何かあった際にはフォローお願いします……」

 

「前回の借りをお返ししますよ。」

 

フッと笑みを浮かべる宮舘。どこか兄と宜野座を思わせるような姿。向けられる視線は、以前とは違う、舞白に嫌悪感を抱いていた視線ではなかった。

 

 

4人は規制線内の地下へと繋がる階段へと向かえば、地下へと潜り込んでいく。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

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