PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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彼の背中

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ポルックス、そっちはどう?」

 

シンと静まり返った地下道を歩いていくカストルの姿。都心でもかなり人々が集中する駅構内はかなり広く、誰もいない光景が異様だった。

 

 

『うーーん…、なかなか上手く入り込めなくて苦戦してる。刑事課に手練が居るみたいだね。』

 

「…あぁ、多分こいつだろう。雛河翔。元々ホロデザイナー、ドラッグ関連に精通してたみたいだな。…前回のテロもジャミング装置に気づいたのは彼が最初だった。」

 

『そりゃ手練だね。…あと、刑事課の分析官。あれも結構邪魔だな。前の事を考慮して、先手を打たれまくってたよ。…まあ、こっちも手を打てばいいだけ』

 

カタカタカタとキーボードに触れる指をそっと止める。

 

不意に、ポルックスは高層ビルの屋上から空を見上げる。怪しく赤く染まる月。初めて見る月食の光景に深く息を吸う。美しい星空に、青い瞳を輝かせる。

 

幼く、儚げなその表情から、犯罪を犯すような雰囲気は感じられない。美しく広がる空を、純粋に美しいと、薄く笑みを浮かべ気持ちよさそうにしていた。

 

 

「ポルックス。そっちは頼んだ。…そろそろ目的地に辿り着く。」

 

『うん。カストルも、ジャミング装置、頼んだよ。こっちはこっちで電脳戦を繰り広げてますから…』

 

再びPC画面に視線を落とし、カタカタと指を動かす。

 

 

『あ。あと朗報だよ。

…予想通り、彼女が地下へ向かってる。やっぱり、殺害予告を出したとしても、彼女を地下に行かせる判断をしたみたいだね。』

 

「フン…、それでも向かわせるとは…、刑事課の指揮官も必死だな。」

 

『まあ、賢明な判断だと思うけどね。この状況で格闘戦に長けた人間だけを送り込んでもリスクは高い。ある程度、頭がキレる人間を一緒に行かせるのは賢いね』

 

"相手方も策士だな〜"、なんて呑気に呟くポルックス。

 

 

 

『あと、彼も向かってる。…これは楽しみだね。』

 

「ただ殺すだけじゃつまらない。…人間にとって、最愛の人間が目の前で死ぬ光景は…」

 

 

 

 

父と母が目の前で殺される光景が一瞬フラッシュバックすると、その場で首を振るうカストル。

 

 

「味合わせてやる、目の前で…大切な、最愛の人間が死ぬ瞬間を…」

 

 

カストルの手元のデバイスに映る2人の画像。

 

街中で、嬉しそうに笑みを浮かべる白髪の女と、傍らで穏やかな視線を送る長い黒髪を結った男、2人の後ろ姿。2人の穏やかな横顔、そして握られる手からは、ただの関係性ではないと感じさせる。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

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「…クリア……」

 

先行する宜野座。その傍らで、須郷も辺りを警戒する。気味が悪いほど静まり返った駅構内。警備ドローンのみが佇むその光景は、まるで世界の終わりのような、異様な光景だった。

 

 

「あと少しで保管庫にたどり着きます。ここから、何か罠がある可能性が高くなります、離れないで…」

 

須郷はドミネーターを構えたまま、背後の2人に振り向く。舞白と宮舘はこくりと頷けば、ドミネーターをしっかりと握りしめ直す。

 

ジクジクと時たま頭が酷く痛むタイミングに襲われる。さすがにバールの一撃は舞白にとって、かなり大きなダメージだった。しかし、ここで弱るわけにいかない。頼むから、このタイミングでいつもの発作が現れないようにと願うばかりだった。

 

 

更に奥へと進み、関係者専用入口の扉に手をかける。何故か既にロックは解除されており、明らかに誰かが入った痕跡があった。

 

 

 

「唐之杜。防犯カメラ映像の転送を…」

 

宜野座は扉に手をかけたまま、唐之杜に連絡を取る。しかし応答がない。

 

「…ドミネーターは作動してる。恐らく通信機器だけ遮断されたのかも。」

 

舞白はドミネーターは正常に稼働していることを確認する。恐らく、相手のハッキングによって様々な妨害が行われているのだろう。しかし、なんとかドミネーターを使えているのは、雛河や唐之杜の力があってこそだと考える。

 

「……このデバイスで、さすがに駅構内のカメラをハッキングすることは出来ない。…行くしかないな…」

 

ふぅ、とため息を漏らすと、宜野座はそっと扉を開け中へと進み、危険物がないか確認をしていく。

よくよく考えれば、今まで自分は、宜野座と同じ行動をしていたと考えると、監視官ながら無茶をしていたと考えていた。

 

普通ならば今の状況のように、執行官を先行させる。しかし、宜野座と須郷の後ろ姿を見るのがやけに新鮮で、違和感を感じるほどだった。

 

恐らく、宜野座はその姿を、たまにガミガミと口にはしていたものの、静かに、舞白を信じてその役目を担わせてくれていた。

 

誰かを盾に、危険な場所に先行させるというのは、今更ながら恐ろしいことだと気づく。宜野座もこんな気持ちをいつも抱いていたのかと思うと、申し訳なく感じていたのだった。

 

 

宜野座が扉の先は安全だと判断し、須郷に合図を出す。そして、須郷が2人に合図を送ると、扉の先へと足を踏み入れる。

 

少しフラッと足をもつれさせる舞白。ズキっと頭痛を感じ眉を顰める。

 

 

 

「狡噛監視官、大丈夫か?」

 

「…大丈夫です。すみません…ぼんやりしてましたか?」

 

「いや、…額にまた血液が…」

 

宮舘は舞白の額を流れる血液を、自身の袖で拭う。

 

「……すみません本当に…、宮舘監視官のジャケットが私の血…」

 

 

舞白が宮舘に視線を向けた瞬間、何かの気配に気づく。室内に入った瞬間、背後から人が近寄る気配を感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!!…」

 

チカチカと点滅する赤いランプが近づく。

 

 

 

 

「我が名はエニューオー…、殺戮の女神…」

 

 

 

背の低い少女が目の前まで近づく。背後から追っていたのだろうか?この狭い空間に入るところを狙っていたに違いない。

 

 

 

「宜野座さん!須郷さん!!そのまま走って!」

 

声を張り上げる舞白。宮舘が相手の少女の体を咄嗟に突き飛ばすと、少女はその場に倒れ込む。

 

 

 

「狡噛監視官!宮舘監視官!!」

 

須郷が即座に2人に駆け寄る。そして咄嗟に舞白の体を掴むと、奥へと思いっきり突き飛ばす。宮舘も同じく、舞白の体を奥へと押し込む。

 

 

 

「ッ!舞白……」

 

床に倒れ前に、宜野座がギリギリ舞白の体を支えると、その瞬間、爆発音が室内に響けば、天井が崩れていく。爆発に巻き込まれたであろう須郷と宮舘。互いを遮るように、瓦礫が落下すれば、完全に舞白と宜野座は来た道を塞がれてしまう。

 

砂埃に2人は咳込めば、すぐに2人の安否を確認する。

 

「須郷さん!!宮舘さん!!」

 

瓦礫に塞がれ来た道の状況は一切分からない。爆発に巻き込まれて、即死、という可能性もある。もしくは瓦礫に埋もれたか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ…こちらは…大丈夫です。ケホッケホッ…」

 

「俺も…須郷執行官も無事だ!…ただ、そっちには行けそうにない…」

 

 

瓦礫越しにかすかに聞こえる2人の声。生きていると分かれば宜野座と舞白は安堵のため息を漏らす。

間違いなく、宮舘と須郷にあの時体を引かれていなければ、この瓦礫の下敷きになっていただろう。

 

2人の咄嗟の判断に命を救われたのだった。

 

 

 

 

「狡噛監視官、宜野座執行官。恐らくこちらからはもう向かうことは出来ない!俺たちは別の場所からリニアトレインの保管庫へ向かう!」

 

「分かりました!お2人とも気をつけて…」

 

2人の去る音が聞こえる。そして微かに、瓦礫の隙間から赤い血液が滴っている光景を目にすると、思わず顔を逸らす。

 

また、あの少女の命も散ってしまった。ドミネーターを向けると、その少女の年齢は14歳だと分かる。

あまりに酷すぎる事の連続で、舞白は拳を握り、歯を食いしばる。

 

 

 

「…先を急ごう、舞白」

 

「………ッ…うん…」

 

どんなに辛いだろうか、痛かっただろうか。そんなことを感じないくらい、カストルとポルックスを信頼していたのだろうか?

 

少年少女達は、どんな気持ちであの爆弾を取り付けたのだろうか。

 

 

 

 

先程の少女は、やけに咲良と姿が似ていた。それだけで、何故かかなり動揺してしまう。まるで、カストルとポルックスはそれを分かっているかのように、こんな残虐な光景を、自分にみせているのではないかと錯覚する程だった。

 

 

「((…ダメよ。感傷的になったら敵のペースに持っていかれるだけ…))」

 

 

再びドミネーターを握りしめ、宜野座の背後へとつくと、不意に背の高い相手を見上げる。

 

いつもは2人で海辺を歩いたり、街を歩いたり、ダイムと3人で散歩をしたり…その後ろ姿は、平穏な後ろ姿は、いつも見ていた気がした。

 

任務中の後ろ姿は、こんなだったのか。と

 

やけにその後ろ姿が、いつもより儚くて、心強くて、愛しく見えてしまっていた。

 

 

宜野座もまた、背後から感じる視線に、眉を下げ、心の中が空洞のように寒々とする気分だった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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