PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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神の掌で

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

数々のリニアトレインが保管された大きな倉庫。部品などが詰められたコンテナや、機器などが積み上げられ、その光景はかつて槙島と対峙したウカノミタマの管理センターを思い出させる。

 

あの時、起爆物の罠に引っかかり、危険だった宜野座を救ったのは舞白。それぞれ2人は、その当時の事を思い出していた。

 

 

気味が悪いほど静かな空間。足音だけが響き渡る。

 

 

 

「ジャミング装置はここから200m先のコンテナ内に設置した。気をつけろ、奴は近くにいるかもしれない」

 

「…了解…」

 

警戒度を更に上げ、前へ前へと進む。

 

するとその瞬間、リニアトレインの陰から、ゆっくりとした足取りで人間が現れる。20mほど先に佇むそれは、恐らくは少女。学生服を纏った少女は仮面を被り、厚手の上着を羽織っていた。

 

舞白は相手の仮面の形、絵柄を見ると、最後の7人目であろう爆発物を纏った神の名を予想する。

 

「彼女はアンゲロス、使者の女神」

 

「…酷く残虐で、舞台設定に芸のあるカラクリだったな。」

 

「もう御免だけど…」

 

こちらをじっと見つめ、ただ立ち尽くす少女。投降を促しても意味は無いだろう。先手を打ち、彼女の爆発を止めるのが正しい判断だと、2人は考えていた。

 

 

「……一気に行くぞ」

 

宜野座はそう呟くとその場から駆け出す。カストルの姿はなく、少女1人だけだった。

しかし、微動だにしない彼女に、舞白は不信感を微かに抱いていた。

 

「((…何かおかしい…、今までだったら彼らは突っ込んで来てた…))」

 

宜野座は少女の体を簡単に掴めば、そのまま地面へと押さえつける。特に抵抗することもなかった。

 

 

「…我が名はッ…、アンゲロス。…使者…」

 

仰向けに倒れる相手の首元を腕で押さえ込む。

 

「軽々しく、神の名を口にするものじゃない。」

 

 

厚手のジャケットを開けば、今までと同様、爆発物が取り付けられており、起爆を止めるであろう紐が覗いていた。何も疑うことなく、その紐を引き抜く宜野座。

 

刹那、宜野座の後方から爆発音が響けば、舞白の真横に積み上げられていたコンテナが、衝撃で雪崩のように倒れていく。

 

 

「ッ!?」

 

咄嗟のことに舞白は身を庇うことしかできない。先程のバールのダメージもあれば、視界が歪み、さすがの舞白でさえ交わすことは出来なかった。

 

 

「舞白!!」

 

爆発に気を取られる宜野座。コンテナの下敷きになった舞白の元へと駆けようとした瞬間、舞白は目を見開き、大声を上げる。

 

 

「後ろ!!!」

 

 

 

すると背後から何者かが現れれば、棒のようなものを振り回されると、少女から体を離し、身を交わす。

 

現れたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お前…、カストル…ッ」

 

服装も全てカメラと同じだった。

恐らく偽物ではない、本物のあの男が目の前に現れる。

 

カストルは倒れた少女の腕を引けば、自分の前に立たせる。

 

 

「あなたが突っ込んでくるのは予定外でした。…本来であれば、先行して敵の懐に入り込むのは、狡噛舞白のはず…」

 

そして、カストルは少女を思いっきり蹴り飛ばす。起爆を止めたはずなのに、少女の胸元が赤くチカチカと点滅していた。

 

「!?」

 

 

「……狡噛舞白なら異変に気づいただろう。全部が全部、同じカラクリなはずがない。俺もそこまで馬鹿じゃない。お前は"それ"を引き抜いた、それが起爆のキッカケになると知らずに。……想い人に、体裁をつけたかったか?」

 

「…貴様…」

 

2人の傍らで座り込む少女の胸元のランプが更に点滅する。

 

 

「カストル……様…」

 

少女はもう間に合わない。そう苦しげな判断をした宜野座は、カストルに掴みかかり、少女から離れ、床に転がり込む。

 

その瞬間、大きな爆発音と共に少女の肉片が飛び散る。赤い鮮血を浴びる2人はその場で激しくもみ合っていた。

 

「…大人しく…投降しろ!!」

 

「………ッ……!」

 

 

体格は高身長の宜野座とほぼ同じ。そして相手も、ある程度軍事的な訓練を受けているのか、簡単に抑え込むことが出来ない。むしろひとつひとつの攻撃の力が強く、宜野座をも圧倒している様子だった。

 

何とか身を交わす事で精一杯。そして宜野座の視線の先にコンテナの下敷きになった舞白の姿に再び目を向けるとその光景に、胸が嫌なざわつきに襲われていく。

 

 

ゆっくりと顔を持ち上げる舞白。遠くてよく見えないが、ぐったりとしている様子が見て取れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ…宜野座…さん、…絶対に捕まえて……、罪のない人を…巻き込んだ彼を……ッぐ…ぅ…」

 

コンテナに敷かれ右腕が全く感覚を感じない。体を動かすことも、全く身動きが取れなかった。

 

 

「…チッ…生きてたか」

 

「ッ…貴様ァ!!!!」

 

カストルは本気で殺すつもりだったんだろう。本来であれば、あのコンテナに敷かれるのは宜野座の予定だったが、少なくとも殺す予定だった舞白に致命傷を負わせることができたと満足気だった。

 

 

宜野座はスタンバトンを駆使して相手に次から次へと攻撃を仕掛けていく。憤怒に満ちた宜野座の表情は恐ろしく、カストルは仮面の裏側で笑みを浮かべそ面白がっていた。不気味な笑い声が余計に宜野座の怒りを買っていく。

 

 

「……くっ!!」

 

隙をついて、宜野座は相手を背負い込み、床へと捩じ伏せる。そのまま全身を使って押さえ込み、仮面を剥がそうと手を伸ばす。

 

思いっきり仮面を掴み、投げ捨てると仮面は外れ、素顔が露になる。

しかし、背後からしがみついている宜野座は彼の顔を確認することは出来ない。

 

 

「…いい加減にしろ!!」

 

「……ククククッ……」

 

ゴソゴソと懐に触れるカストル。

何かを取り出せば、"それ"を舞白の方へと投げ込む。

 

チカチカと点滅する、ボール状の怪しい物。おそらく爆発物だろう。舞白は、唯一コンテナの下敷きにならなかった左手を必死に伸ばすも届かない。

 

覚悟を決めたように歯を強く食いしばれば、宜野座へと鋭い眼光を向ける。

 

 

「絶対に離さないで!!そのまま、……しばらくすれば、須郷さんも宮舘さんも応援に来るはず!!それまで持ちこたえるの!!」

 

舞白はカストルの素顔を睨みつけ、目に焼きつけるかのように憎しみの表情を浮かべる。

 

 

「((…あれが…あの男の…素顔……))」

 

最後の最後で目にした男の素顔。

しかし、おそらく自分はこのまま命を落とす。彼の素顔を折角目にしたのにと落胆していた。

 

 

「……ッ…舞白……」

 

離せば逃げられる。目の前の男はこの国家を本気で潰すつもりの人間だ。やっと尻尾を掴んで、やっと捕まえることが出来た。これを逃せば致命的な傷を負う事になる。

 

 

「…目の前で、恋人が死ぬのはどんな気分だろうか?それも跡形なく、ぐちゃぐちゃの肉片になって…」

 

「……くっ……」

 

「俺をここで捕まえれば一件落着。…しかし、恋人を失う。……悲しいなぁ…、嘆かわしいよ……」

 

挑発とも見て取れる相手の発言に、掴む力を更に強める。

 

 

 

"監視官命令です。宜野座執行官。必ず責務を全うしてください。それは私も同じ事ですから"

 

"私情は挟まないで―――"

 

 

"たとえ、死にそうになったとしても―――"

 

 

次から次へと、舞白の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

 

監視官命令は絶対。監視官の経験がある宜野座だからこそ、その重要性も分かっていた。自分は執行官。従わなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

力強く瞼を閉じ、悔しそうに歯を食いしばる。

犯人を逃がす訳にはいかない、

 

 

 

 

 

 

 

 

逃がす訳には――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宜野座は男を離し、舞白の元へと駆け抜けて行く。

 

 

 

「舞白ォォォォォ!!」

 

 

「ッ―――」

 

 

 

転がる球体型の爆発物。

右手にスタンバトンを握りしめたまま、爆発物を左手で掴み、遠へと投げ飛ばす。

 

左手から離れる爆発物。

しかし離れた瞬間、チカチカと赤いランプの点滅速度が早くなる。

 

 

 

 

 

 

ズドオオオオオン!!!!

 

 

 

 

 

 

鉄槌が振り下ろされたような爆音が響くと、辺りに火薬の臭い、モクモクと煙が立ち込む。

同時に舞白の顔に、真っ赤な鮮血が飛び散っていた。

 

血液のせいで視界が霞む。

しかしぼんやりと見える目の前の光景に、唖然と口を開いていた。

 

 

 

 

 

 

「は……ぁ………あぁ……」

 

 

その光景に言葉が出ない。

言葉を発したいのに、吃ってしまう感覚。

喉から出したい声はあるのに、体が異常に震え、喉に力が入らない。

 

パクパクと口だけ、気味が悪いほど動く。

 

 

 

 

「あぁあ!…ぁああああああッ!!!」

 

 

 

無我夢中でコンテナに潰された右腕を引き抜くように、体を動かす。メキメキメキと嫌な音が聞こえてくる、気を失うほどの痛みに襲われているはずなのに、それさえも考えられない。

 

 

体を無理やり引き抜き、目の前で倒れ込んだ人物に、舞白は悲鳴をあげながら近寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……思い知ったか…、これが…俺達も味わった現実だ。……この世界の奴ら全員に味合わせてやる…」

 

そんな光景を面白がるように、満足気に見据えるカストル。傍らに落ちた仮面を拾い上げ、再び被ると、直ぐにその場から離れていった。

 

 

 

 

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スクエアビル 47階 展望デッキ―――

 

 

渋谷の街を一望できる超高層ビル。

そこから見る月食は更に薄気味悪く、まるで世界の終わりかのように赤く光っていた。

 

 

 

霜月と六合塚は展望デッキを見回す。

ど真ん中にヘリポートがあり、そこにPCや様々な機械が置かれていた。

 

 

「六合塚さん!見つけた!」

 

「すぐに妨害電波を解除するわ」

 

六合塚は真っ先に駆け抜け、放置されたPCを操作していく。霜月は辺りに人がいないか確認するも、既にもぬけの殻。防犯カメラ情報も全て削除されており、何も確認できない。

 

必ずここに誰かがいた。直感でそう感じていたのだった。

 

とにかく、すぐに全員の通信機器を復旧させなければ埒が明かない。全員の状況が分からない以上、すぐにでも…

 

 

「美佳ちゃん、復旧完了よ。…地下のジャミング装置がまだ完全に奪い返せてない分、まだドミネーターは使えないかもだけど、通信なら大丈夫。」

 

手際よく六合塚はデバイスを操作する。すると、通信機器がオンラインになったことを告げる画面が表示されれば、すぐに唐之杜から一係から三係ら全員に通話を繋げた。

 

 

 

 

 

『ッ…やっと通信できた…。弥生、助かったわ。あなたでしょ?』

 

「スクエアビルから強い妨害電波が張られてたの。霜月監視官と一緒に。あとは雛河も地上からフォローしてくれたわ。助かっ……」

 

 

 

『こちら須郷!!緊急事態発生!大至急、地下のリニアトレイン保管庫に応援を!!救護ドローンをありったけ送ってください!』

 

会話を遮るように、須郷の酷く焦った声が割り込まれる。よく耳を済ませると、誰かが叫び声を上げているような音が飛び込む。

 

それに直ぐに反応したのは霜月だった。

 

 

「……舞白…?…須郷さん!!何があったんですか!?」

 

 

 

 

 

『…それが…、宜野座執行官が重症を負って…意識不明の重体です。狡噛監視官も、右腕が……』

 

 

『狡噛監視官!!落ち着いて!!落ち着いてください!!!』

 

宮舘も必死になだめている様子だった。

 

 

 

 

常守や他の監視官、執行官達もその様子に息を飲む。

 

 

 

 

 

「……六合塚さん…」

 

「…美佳ちゃん、わかってる。直ぐに行きましょう。」

 

 

表情を無くす霜月の様子をすぐに汲み取り、六合塚は肩に触れる。

 

 

 

 

 

 

複数の死者、死傷者を出したこの事件。

たった2人の黒幕に、全て掌で踊らされた結果は、残酷なものだった―――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

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