PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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刻まれた勝利

 

 

 

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「…バイバイ、舞白……」

 

「咲良!!!!」

 

6年前のあの日、私は親友を失った。

体は粉々に、肉片が飛び散り、生臭い臭いが鼻を突く。

 

手を伸ばしても、届かない。

あの時、私は選択を間違えた、力不足だった。

だから、咲良は死んだ。

 

 

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まさかそれが、また再現されるなんて。

 

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「狡噛監視官!!」

 

 

倒れる宜野座の傍らで、声にならない悲鳴をあげる舞白。顔は青ざめ、出血量からして、生きているのが不思議なくらいだった。

 

須郷は舞白の体をゆっくりと宜野座から引き離し、パニック状態に陥った舞白に何度と声をかけ続ける。

傍らでは宮舘が宜野座の状態を確認していた。

 

「((…右腕……どうなってる、…これは…))」

 

血の跡を目で追い、倒れたコンテナへと繋がっているのに気づく。舞白の右腕は形を生していない。恐らくあのコンテナに潰されたのだろう。

直ぐに専門的な応急処置が必要だった。

 

 

「…ぁ……の……ノブ……」

 

酷く錯乱した状態に、須郷も驚いていた。冷静沈着な彼女がここまで酷く荒れるのは見たことがないし、想像もできない。

一体、ここで何があったのか?

 

ここから数メートル離れた場所にも死体が転がっているのを確認すれば、他にも何か痕跡があるだろうと考える。

しかし、今はこの2人の命を優先しなければならない。

 

下手をすれば2人とも死ぬ。

 

 

「須郷執行官。…宜野座執行官が危ない。すぐにドローンの手配を…」

 

「しかし、通信機がやられてます。……どうすれば…」

 

 

刹那、4人のデバイスが光れば通信機器の回復を知らせる。

 

須郷はすぐに救護ドローンの手配をするのであった。

 

 

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スクランブル交差点を包んでいた炎は鎮火され、血なまぐさい臭い、煙の臭い、火薬の臭い。様々な不快な臭いが漂う。規制線の外には一般市民の野次馬や、マスコミで溢れていた。

 

事件の詳しい中身は隠せたものの、カストルとポルックスの暴露は止まらないだろう。おそらく、いくらこちらで事件の内容を隠したとしても、彼らがいる限り隠すことはできない。

 

月食のニュースは取り上げられず、渋谷で起こった爆発テロで持ち切りだった。

 

 

 

 

複数の救急車、護送車に運ばれていく少年少女達。やっと彼らも自分が仕出かしたことを理解したのか、クリアだった色相も濁り始め、犯罪係数は急上昇していた。

 

そして、唯一起爆を止めることが出来た"へーべー"と名乗った少女。彼女だけは、即公安局へと移送が決まる。

 

 

カストルとポルックスが起こした"集団意識"

彼らの神格的存在がそれを可能にしたのか、まさに"神のみぞ知る"状況だった。

 

 

 

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1台の救急車へと近寄る霜月。

外の担架で横たわる人物に声をかける。

 

 

「……舞白」

 

舞白は落ち着きを取り戻していた。頭部、そして右肩にグルグルと包帯が巻かれ、その姿を見る限り酷い怪我を負っていることはひと目でわかる。

 

 

「宜野座さんは……?美佳ちゃん…」

 

霜月は隣の救急車へと視線を送る。未だに意識は戻っていないらしい。舞白以上に酷い状況だった。左腕が吹き飛び、爆発物の破片が体に刺さった状態。

 

そして、動き出す救急車を常守は黙って見据えていた。

 

 

「……狡噛、…監視官…」

 

「舞白ちゃん…、よかった、意識はしっかりしてるわね」

 

「…あの時は…本当にどうなるかと…」

 

雛河、六合塚、須郷も担架のそばに近寄れば、意識を戻した舞白の姿に安堵する。しかし、怪我の状況は酷く、目を逸らしたいほどだった。

 

そして、常守も傍に寄れば、苦しそうに表情を歪める。

 

 

 

 

 

「……狡噛監視官。私の現場指揮のせいであなたを…」

 

「朱さんは何も悪くないです。…私の力不足でした。……そのせいで、宜野座さんもあんな状況に…」

 

グッと拳を握りしめる常守は、舞白に頭を下げる。

 

 

「あの場所で…地下での責任は私にあります。慎重な判断をするべきでした。……頭を上げてください…、本当に…」

 

ズキズキと身体中が痛む。だんだんと痛みが敏感に伝わってくると、痛みに顔を歪ませていた。

鎮痛剤を注入されると、意識も次第にぼんやりしていく。

 

 

 

 

「……あと…皆さんに、言わないと…」

 

遠くなる意識を振り払うように声を振り絞る。

 

 

 

「私、カストルの顔を見ました。ハッキリ覚えてます……

…メモリースクープの実施を…速やかに……」

 

黒髪の少年。オッドアイ、日本人離れした綺麗な顔立ち。おそらく生粋の日本人ではない。

不気味に笑う、あの顔が頭から離れない。

 

「……あと…、唐之杜…さんに……お願いした、おんせいのぶんせ、き…」

 

 

意識を手放す舞白。

救急隊員によって車両内に担架が運び込まれれば、車両は動き出す。

 

 

一係の主力の2人を一瞬で致命傷を負わせ、犯人は逃走。渋谷の街一帯をハッキングする能力、そして戦闘力、一般市民を洗脳し、巻き込むカリスマ性。恐らく、あの槙島をも越える、史上最悪の犯罪者。

 

霜月は救急車を見送れば、その場から歩み出す。その足取りはいつもと違う。苛立ち、憎悪、…様々な怒りの感情が現れている後ろ姿だった。

 

「…すぐに地下の鑑識作業に入ります。犯人に繋がるものの調査を行います。」

 

「私も行きます。…常守監視官」

 

その後を追う六合塚。常守に視線を送れば、こくりと頷き、彼女を止めることはなかった。

 

「…雛河君は引き続き、システムの復旧作業を唐之杜さんとお願いします。須郷さんは私と一緒に地上の現場対応を。」

 

 

それぞれが様々な思いを抱えながら職務へと戻っていく。

 

 

 

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「案外ボロボロにやられちゃったね、兄さん」

 

 

ギシギシと軋むベッドの上。傷を負った兄は寝転び、弟に手当を施されていた。

 

「これくらい、大したことない。」

 

「さすがタフだな〜。僕、運動神経は良いけど、戦闘向きじゃないから尊敬するよ…」

 

手当が終われば、パタンと救急箱の蓋を閉じ、傍らのテーブルに置く。玲は椅子に腰を下ろし、青い瞳で兄をじっと見据える。

 

 

「でも、計画通りに事が進んだね。…相手の主戦力は叩き潰したし、…あとは…」

 

プルトニウムが保管されている頑丈な箱へと目を向ける。玲は嬉しそうにクスクスと笑みを浮かべ、次から次へと計画通りに進む事に歓びを隠せなかった。

 

「…さっさと終わらせよう。……俺も、そろそろな…」

 

兄の発言に眉を顰める。薄らとライトに当たる兄の姿は、弟にしか見せない弱々しい表情をしていた。

 

 

「大丈夫だよ。…一緒に、この国が崩壊する瞬間を見るって約束したでしょ?…もう僕たちの邪魔をする弊害は無くなった。あとは実行するのみ。」

 

「……そうだな」

 

「計画通り、僕は準備を進めるよ。兄さんは体を休めて。いつも通り過ごしていればいいから…」

 

玲は椅子から立ち上がり、自室に戻ろうと部屋の扉へと向かう。ドアノブに触れた瞬間、兄は弟を呼び止める。

 

「玲。」

 

「…なーに?何か必要なものとか…」

 

必要なものでもある?と声をかけようとすると、兄は首を振るう。

 

 

「万が一、俺の身に何が起こったとしても、お前は計画を実行するんだ。…もう、お前一人でも十分に計画を実行できる。」

 

「縁起でもないこと言わないでよ。…兄さんのそーいうの、結構当たるから嫌なんだよなぁ…」

 

 

ドアノブに手をかけ、扉を開ける。そして、そっと振り向けば青い瞳が怪しく光り輝く。

 

「僕は、絶対に成し遂げるよ。兄さんの為に。」

 

幼い表情の弟の顔がやけに恐ろしく見えていた。この先のシナリオを全て作り上げているのだろう。そんな弟の表情を見て、ふと舞白の言葉を思い出す。

 

 

 

"弟のポルックス君。パッと見、幼くて子供っぽいけど、実は兄より神経質で几帳面、内省的で、おそらくあなたよりも狡猾なはず。"

 

 

まるで全てを見透かしたような、あの声。

そして、最後に地下で視線を交えた瞬間。殺意、憤怒に満ちたあの顔。

 

 

 

「…まあ、もうあんたに会うことはないだろうな。…狡噛舞白さん。」

 

目の前で最愛の人間を失った気持ちを味合わせられた事への多幸感

達成感に満足していた。強い人間こそ、ああいった場面に打ちのめされやすい。あの怪我で、生きていたとしても前のように動けるはずはない。何よりも精神的に追い詰められているに違いない。

色相…、サイコパス。彼女はそれに耐えられるほどの精神を持ち合わせているのだろうか?

 

 

刹那、胸が圧迫されるような痛みに襲われれば、グッと体を折るように痛みに耐える。

 

 

 

「……どうやら、俺もあと少しみたいだ。」

 

左腕に刻まれた鷲の刺青を右手で強く握り締める。鷲、イーグルの象徴。それは勝利、強さ、正義を示す。

 

 

「…父さん、母さん……」

 

 

腕に爪がくい込み、ガリガリと引っかき傷が出来ていく。父と母から譲り受けた青と茶の瞳が、憎しみの色へと染まっていた。

 

 

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