PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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革命

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

―――爆発テロから2日後

佐渡海上市国立病院―――

 

街の中枢の管理タワーに置かれている、厚生省管轄の大きな病院。その場所で、舞白と宜野座は治療を受けていた。

 

公安局ビルで管理することも視野に入れられていたが、彼らの目を欺くためにも、民間病院の扱いにも近い場所へと移されていた。

 

 

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「…………」

 

集中治療室のガラス張りの部屋。その先で複数の管に繋がれた人物を、外からじっと見据えるのは舞白。予想以上の回復に医者たちも驚いている様子だった。普通であればまだ動けない。……それに、腕を失ったショックでサイコパスを悪化させ、施設へと送られるのが通常の対応だった。

 

 

 

 

しかし、彼女の色相は真っ白、判定はホワイト。

犯罪係数の測定は外務省の特別捜査官と言うこともあり測定不可ではあるものの、その佇まいに驚きを隠せない人間が殆どだった。

 

 

 

 

ガラス面に左手をぺったりとくっつけ、目を覚まさない宜野座へと視線を送り続ける。

自分の失った右腕など、どうでもよかった。

 

 

 

「…ノブ兄、ごめんなさい……っ……

……私のせいで…、私がもっと強かったら…………」

 

ズルズルと力が抜けると、床へとそのまま座り込む。ぽたぽたと頬に涙が滑り落ちていけば、嗚咽混じりの泣き声が治療室前の廊下に響き渡る。

 

このまま、もし目を覚まさなかったら?

死んでしまったら?

 

彼は何も悪くないのに。自分のせいで巻き込んでしまった。やっぱり、自分が無理矢理でも先行して、相手に突っ込めば、宜野座はこんな目に合わなかったかもしれない。

 

悔やんでも悔やみきれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!ちょっと!舞白!!」

 

病室から姿を消した舞白を心配し、探し回っていた人物。聞き慣れない彼女の泣き声が聞こえてきた時は、さすがの霜月も血相を変えて駆け出していた。

 

項垂れる舞白の傍にしゃがみ込み、左肩に手を添え、何度も体を揺らす。涙など流さない、威勢のいい彼女からは信じられない姿だった。

 

 

「あんた、投薬中だったんでしょ?……点滴が引き抜かれてるからビックリしたわよ」

 

「…………ッ……」

 

「ほら、とにかく部屋に戻って―――」

 

 

霜月は舞白の左腕を強く引く。

しかし、彼女は項垂れたまま、ボソリと小さく呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私が……死ねばよかった」

 

 

彼女らしくない唐突な残酷な言葉に、霜月はその場で目を見開き、彼女を静かに見下ろす。

 

搬送される時も、いつも通りの彼女の姿に安心していた。しかし、やはり彼女も普通の女性だった、少女だった。いざ、最愛の人物の残酷な姿を目にすると、本当の姿が、本音が現れる。

目を腫らした舞白の姿、横顔を見るだけで窶れている様子が分かる。

 

まるで、あのときの自分だ。

高校生の時、河原崎と大久保を、幼なじみを失った時。流しても流しても、晴れることのなかったあのときの涙を。まるでその時の自分が目の前にいるようだった。

 

 

霜月はグッと腕を掴む手に力が入る。

そして、無理矢理自身の方へと引っ張れば、眉を顰め、強く言葉を言い放つ。

 

 

 

 

「死ねばよかった!?……あんた、何言ってるの!?」

 

霜月の威勢のいい声に驚く舞白。静かにその様子を見上げていた。

 

 

 

 

「簡単にそんな事言うんじゃないわよ!あんたは生かされた、生き残ったの!」

 

霜月は両手で舞白の病院着の襟を掴めば、さらに強く引き寄せる。

 

 

「宜野座さんが身を呈してあんたを守ったんでしょ?私情を挟むのは御法度……、それを1番理解してる宜野座さんが、それでもあんたを守ったの!」

 

「…………ッ……」

 

「"私が死ねばよかった"……そんなこと、もしまた口にしたら……」

 

 

舞白の頬に、ぽたぽたと雫が落ちていく。相手の表情を見た舞白は、苦しそうに顔を歪めていく。

 

 

 

 

 

「絶対に許さない。……親友なんて、もう要らない。」

 

襟を掴んでいた手を離せば、霜月も床へと座り込むと、ポロポロと床に雫を落としていた。瞳から溢れる"それ"は、自分でも信じられない光景だった。

 

その光景に、我に返った舞白は霜月の手へと左腕を伸ばす。触れたその手は小さく震え、冷たかった。

 

 

「……美佳ちゃ」

 

「らしくないじゃない…、あんた……そんな奴じゃないでしょ」

 

キッと舞白の顔を見据え、手を掴み返す。

 

 

「それに、まだ宜野座さんは死んでない。目を覚ます可能性は0に近いって言われてるのは分かってる……。……でも、あんたがそんなでどうするの?このまま、項垂れて、泣き続けるだけ?」

 

「…………」

 

掴み返した手をさらに強く握り締める。そして、霜月が過去に、舞白に言い放った言葉を再び口にする。

 

 

「……目の前の事を成し遂げるためにどんな事でも億さず突っ走る姿勢、私にとっては憧れ……。前に言ったわよね、私」

 

ひまわり畑で語ったあの日の光景を思い出す。舞白の日々の行動を無茶苦茶だと貶しているようにも聞こえていたが、本心はそうじゃない。舞白の生き方や、正義を、そして姿勢を、心の底から羨ましいと、そう思っていた。

 

「私と仕事をして、"自分なりの正義を、そして考えを持って生きてる"。その姿勢に憧れてるって、言ってくれたじゃない……」

 

振り絞るように声を掛ける霜月。舞白は必死な姿の霜月に動揺している様子だった。同時に、泣くことも忘れるほど吃驚した表情を浮かべる。

 

 

「あんたの正義って?正しい道理って?……成すべきこと、それは何なの?ここで泣いてる事じゃないでしょ?」

 

舞白はそっと、視線を霜月から宜野座の眠る部屋へと向ける。ぺたりと座っていた足をゆっくりと持ち上げ、その場に立ち上がる。霜月もつられるように、ゆっくりと立ち上がれば、同じく宜野座へと視線を向けた。

 

「……成すべき者が為すべきを為す」

 

ポツリと呟けば、額をガラス壁に当て目を閉じる。霜月から手を離し、左手もガラス壁に押し当て、深く息を吐く。

 

 

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「「最愛の相手の死は恐ろしいかい?」」

 

右隣に"彼"の姿が現れる。

同じ白い髪を揺らし、そっと肩を並べるように、舞白に問いかける。

 

 

「……恐ろしいよ。あなたには分からないかもしれないけど。」

 

「「あぁ。分からないな。どうせ人は死ぬ。人間は、生まれ出た瞬間から、死へ向かって歩みはじめる。死ぬために、生きる。……そうだろう?」」

 

「過去に、私が死の淵を彷徨っていた時のように……彼もまた……」

 

槙島は宜野座の姿を見据え、微かに口角を上げ笑っていた。そして隣で腕を失い、目を腫らした彼女の姿をじっと見つめる。

 

 

「「しかし、派手にやられたね。どうやらあの2人はかなり腕が良いみたいだ」」

 

「……言いたくないけど、あなたに比べれば大した事ない。…失ったものは大きかったけど……」

 

失った右腕。そっと左手で右肩に触れれば舞白は眉を下げる。

 

 

「「殺すのかい。あの2人。」」

 

「……復讐ほど歪んだものはない。」

 

「「復讐の為に僕を殺したくせに、お笑い草だな。」」

 

「もう御免だって言いたいの。……復讐を成し遂げて、已む人達を何度も見てきた。私とお兄ちゃんもそのせいで6年間彷徨い続けたんだから。」

 

失った右手、しかし感覚は覚えていた。隣の男の脳天に銃弾を打ち込んだ瞬間、その時のトリガーの重みを。

 

「"もっともよい復讐の方法は、自分まで同じような行為をしないこと"。私はそう学んだの。……一時は彼らをズタズタに殺してやろうって考えてたけど。」

 

「「フッ……"許すことは復讐に勝る"とでも?」」

 

「許すつもりは無い。でも、私は彼らに問いたい。……何を理由に、そこまで彼らを奮い立たせ、悪業を行ってきたのか。」

 

随分と昔とは違い考えが変わったことに、槙島は変わらず視線を向け続けていた。つまらない、なんて心の奥底で微かに考えたものの、妙に落ち着いた彼女の姿に一目置いている様子だった。

 

 

 

 

「「"しばしの別離は再会をいっそう快いものにする"…あえて、君にこの言葉を贈ろうか。」

 

「……皮肉ね。」

 

槙島はクスッと口角を上げ、その場から姿を消す。

 

 

 

┈┈┈┈┈

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パチッとまぶたを持ち上げ、ガラス壁から身を離す。暫く時が止まっていたような様子の舞白を黙って見据えていた霜月。振り向いた舞白の表情は、先程とは打って変わり、いつもの様子を持ち直している様子だった。

 

 

「……美佳ちゃん。ごめんなさい。…本当に」

 

「本当よ。ふざけたこと言って……また私を振り回す気?」

 

「もう、大丈夫……。美佳ちゃんのお陰で何とか前に進めそう」

 

顔色を取り戻したかのように、彼女の瞳に色が戻る。その様子に、霜月はほっと胸を撫で下ろしていた。

 

 

「きっと、宜野座さんなら大丈夫でしょ。必ず戻ってくる。…私たちは信じて待つのみ。そうでしょ?舞白。」

 

ポンポンといつものように肩を叩く霜月。

 

「うん。そうだよね。……信じて、私たちは待つ。そして私たちがやるべき事を成す。」

 

「いつも言ってるけど、あんたは独りじゃない。抱え込むのは禁止よ。」

 

グッと拳を握り、舞白の目の前へと翳す。

舞白は左手に拳を作り、それをコツンとぶつけ、視線を交え、微かに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

公安局ビル―――

―――分析室 ラボ

 

 

 

 

『……刑事が、外務省のエリート捜査官が言うような言葉じゃないですね?色相の濁りが恐ろしくないんですか?狡噛さん。』

 

 

以前、舞白がカストルと会話を交えた音声の解析を行う唐之杜。カタカタとキーボードを操作し、何日もかけて何度も解析を行っていた。そしてとある痕跡を見つけ、細かくデータを残していくと、唐之杜はまるでひと仕事終わったような安堵感に包まれた表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「"革命は些細なことではない、しかし、些細なことから起こる"」

 

舞白が残した言葉を口にし、タバコの煙を吐き切る。

 

 

 

「見つけたわよ。天地がひっくり返る革命を。

……本当に、あの子はとんでもない策士ね」

 

 

灰皿にタバコを押し付け、唐之杜はすぐに舞白へとデータを送信する。

 

 

送信されたのは、とある環境音の音声データ。

とある音に聞き覚えがあった舞白は、革命を起こす。

 

 

 

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