PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
マニピュレイト
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―――9月12日 爆発テロから4日後
執行官宿舎―――
「……で、右腕を失ったって」
「はい。でも意外と支障はなさそうです。義手も既に手配してくださってるみたいで……至れり尽くせりで、申し訳ないです。」
ソファに腰掛け、上司の花城と定期連絡をとっていた。渋谷の爆発テロの内容は既に花城の耳にも入っており、事の重大さを改めて実感していた。
「ところで、課長達は……?」
「こっちは―――」
日本のテロを受けて作戦を変更したらしい。月初めに通信をした際にハワイ島が怪しいと考えていた外務省。一部の部隊がすでにハワイ島に派遣されたらしい。その中には狡噛も。
「国防省も珍しく乗り気よ。外務省の全面フォロー。…まあ、あんな事が日本で起こったんだから、さすがに黙ってはいられないでしょうね……」
舞白のデバイスに届く1件のメッセージ。送信元は花城。パスコードが掛けられており、舞白は不思議そうに見つめる。
「それ。狡噛からの情報をまとめたデータよ。」
「データ?」
パスコードを入力しロック解除すると、見慣れない欧米人の顔写真や細かな情報など、次々と表示されていく。
「宇和城 環(うわしろ たまき)。コーデリア・ミラー・クレメンス……」
その中に、重要人物と表示された日本人男性とブロンドヘアの欧米女性。
「宇和城は有名な脳科学者。日本から送り込まれた技術者の1人。コーデリアは宇和城と婚姻関係にあったみたいなの。そして、2人の子どもも存在していた。」
「…………脳科学…、子供………」
ふとシビュラシステムを思い浮かべる。そして宇和城の経歴を見て眉を顰める。
「派遣されてからの経歴が全て空白ですね。」
「そう。表向きは行方不明。…だけど、恐らく、もうこの世には存在してないわ。殺されてるのよ。」
情報によると、日本政府が管理、提供していた住居は酷く荒れ、火を放たれた痕跡があったと。そして、宇和城とコーデリアには2人の子供が存在していたという情報も掴んでいた。しかし名前も、性別も、年齢も、何も残されておらず意図的に抹消されたと考えていた。
「……抹消された子供……」
じっと宇和城とコーデリアの顔写真を見据える。カストルの顔、父親の矯正な顔つきとそっくりだった。
「それと、ハワイ島のパールハーバーに気になる軍閥組織が置かれてる。怪しいと思ってたけど、やっぱりビンゴね。」
"ZEUS"彼らの名前。そして"moG作戦"。次々と暴かれていく、日本に現れた怪しい人間たちの存在。
「messenger of GOD。神の使い。モグ作戦。―――」
次々と話される花城からの調査内容。以前、局長と話した内容と殆どが一致していた。口外するなと言われていたものの、既にその全容を花城と狡噛たちは掴んでいたのだった。
「彼らの目的は日本の転覆、破滅。シビュラシステムで平和を手にした日本に次々とスパイを送り込んでいた、"神の使い"それがあの7人、そして……」
「カストルとポルックス……」
2人に関わるデータは一切見つからない。送り込まれた7人のデータでさえ、ZEUSという組織はやけに隠したがっている様子だった。しかし、ひとつ引っかかる内容を狡噛は見つけ出していた。
「"サヴァン症候群"。精神障害や知能障害を持ちながら、ごく特定の分野に突出した能力を発揮する人や症状の事。……どうやら、彼らはこれを人工的に作り出していたみたいなの。」
「人工サヴァン?って事ですか?」
「そう。そんな禁忌を犯すなんて考えられないけど。証拠は揃ってる」
過去にハワイ島では無差別に子供が行方不明になっている事件が発生していた。しかし、年齢は決まって3歳から5、6歳の子供。全員見つからず、むしろその家族は行方不明―――
「過度な投薬や電気ショック、完全に洗脳よね。その施設の跡地も見つかってるわ」
「……ちなみに、その人工サヴァンによって、特殊能力を手に入れた子供たちの生き残りは?」
それだけ不明者が出ているのであれば生き残りは残っているはずだ。彼らを探せば、更に何かが見つかるはずだと舞白は花城に問いかける、
「行方不明。それに関しては何も分からなかった。ただ"存在していた"。それだけしか私たちには分からなかった。……そもそも、こんな人体実験紛いの事を施された子供たちは、長生きはできないでしょうね。」
人体実験、生物実験。普通に考えて、長く生きることは不可能。そもそも、そんな危険な人間を長く生かさせるという考えは無いはずだった。言わば"使い捨て"。組織の立場から考えれば、そんな人間はさっさと殺してしまうのが普通だ。
情報を繋ぎ合わせて、舞白は様々な可能性を考える。
抹消された両親。2人の子供。行方不明。人間離れした頭脳を持つ人物。人工サヴァン。洗脳。日本への恨み。復讐。
カストルとポルックス、2人は組織に利用されている。そしてそれを、きっと彼らは知らない。
既に死んでしまった7人の少年少女も殆どがアジア寄りの顔をしていた。カストルとポルックスと似た境遇だったんだろう。
上手く洗脳し、偽りを話し、自分たちの手を汚さないまま、子供たちを利用して日本に攻撃を―――
「カストルとポルックスは宇和城達の子供。彼らは兄弟。以前彼と話した時に分かりました。いつもの推測に過ぎませんが、彼らは騙されてる。」
恐らくは、日本政府に両親が殺されたなんて、そんな嘘にでも騙されているんだろう。脳科学の研究者と聞いてピンと来た。
彼らの目標はシビュラシステムの本性。そしてそれを恐らく、宇和城は分かっていた、もしくは関わっていた。少なくとも、宇和城を棄てたのは日本側であるのは違いないが、その情報を抜き取ろうとした。
しかし、宇和城は抵抗した。その理由は、子供と何か関係があるのだろう。元々知能が高かった子供だったとすれば、組織はそれを逃がすはずもない。
上手く利用できる、好都合な駒として。染まりやすい従順な兄弟なら、尚更そうだ。
「宇和城が2人の父親だという確証は?」
「…すみません、確証はないです。勘です。」
へへへっと笑みを浮かべ、相変わらずの様子に花城は小さく息を吐く。
「まあ、舞白の勘は当たるから、あなたを信じてるけど。」
花城の言葉に笑みを浮かべると、デバイスのデータを閉じる。
「課長。私、明日カストル本人と接触する予定なので。この事を彼に話してもいいですか?」
「勿論構わないけど。…接触?」
「はい。少し罠を仕掛けていたんです。それに気づいているかは分かりません。もしかしたら気づいてるかも…」
「重症を負って、たった数日でしょ?危険すぎない?」
「大丈夫です。場所を考えても、彼はそんなに派手に動けないはずです。勿論、私一人じゃないですし、必ず彼を捕まえてみせます。」
脳内に残るカストルの顔。
メモリースクープは全員に反対され実施はしなかったものの、舞白の脳内にはハッキリと残っていた。
「…こっちの調査も、あと少しで終わる予定だから。支援が必要だったら直ぐに向かうわ。…縄張り争いが起こりそうだけどね?」
霜月が喰いかかる光景が目に浮かぶ。
「そこまで大事にならない事を祈っててください。カストルを捕まえて、ポルックスの情報を吐かせます。…恐らく、本当に恐ろしいのは弟のポルックスな気がしますから」
未だに、弟のポルックスは一切姿を表さない。兄よりも優れた能力を持っている可能性があると予想する。
「……日本棄民。それを作り出してしまった日本国、その恩恵に護られてきた私たち。そんな私たちにも責任はあります。でも、彼らが起こしたテロは決して許されることじゃない。」
身を呈して舞白を守った宜野座の姿。思い出すだけで胸が苦しい。
「課長。右腕を失った私でも、私を外務省行動課の捜査官として受け入れてくれますか?」
「何言ってるの?外す予定なんてないわ。…さっさと国内の事案を終わらせてこっちに合流しなさい?腕が無くなったからってハンデは与えないわよ?」
「…ありがとうございます、課長」
少し複雑な心境を抱えながらも、花城はいつものように彼女に接する。明るく爛漫に振る舞う彼女の心底は、どんなことを考えているのか正直分からない。なんせ、目の前で大切な人が傷ついた。それを考えるだけで、花城も苦い思いを抱えていた。
「必ず、あの2人を捕まえます」
鋭い眼光で先を見据える。
複数の命を奪った彼らを。そして過去を、未来を奪われた彼らを。どっちにせよ放っておけない。
もう逃がさない、と。
心の奥で自分に何度も言い聞かせていた。
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