PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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人間の性

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

「…………………」

 

 

翌日 正午過ぎ

 

舞白の姿は、霜月のデスクの前にあった

両腕を組むと、じっと不機嫌そうに無言で舞白を見据える

 

 

その隣のデスクでは、舞白が作成した、昨夜の事件についての報告書に目を通す常守。

簡潔に纏められた報告書を読んだ常守は、満足そうに笑みを浮かべる。

 

 

「うん、いいんじゃないかな?」

 

デスクトップを閉じると、舞白に優しい表情を向ける。

それに安堵したのか、舞白はふぅ〜と息を吐いていた。

 

「よかったです。

…という事で、私は帰らせて…」

 

「ちょっと待ちなさい!この大馬鹿者!」

 

頭を下げて、帰ろうとした舞白の腕をデスク越しに引っ張り、キッと睨みつける。

"え〜〜"と呑気に声を上げると、霜月はその呑気さに眉を顰める、舞白の胸元に人差し指を突きつける。

 

 

「言ったわよね?無茶はするなって

……あんた、対象者を執行せずに、一緒に飛び降りるなんて前代未聞よ!」

 

「へへへっ…、さすがにちょっと死ぬかと思った…」

 

舞白は夜中から寝ずにぶっ通しで報告書を作成した為か、ぼんやりとしている様子。

恐らく話は頭に入っていなかった。

 

「舞白の身に何かあったら、あの"いけ好かない金髪"に文句言われるのは私なの!!」

 

いけ好かない金髪=花城フレデリカ

 

すでにこの1ヶ月で、何度か意見という名の文句を言われていた為、霜月は本気で嫌がっている様子だった。

 

前回も自分の身を呈して、対象者確保を行った為、報告を受けていた花城から抗議を受けていた。

相手は外務省調整局行動課の課長。

簡単に言い返せる訳もなく、霜月にとってはストレスの元だった。

 

ガッと舞白の両肩を掴むと、その場で思いっきり揺らす。

 

「いい?次こそ無茶苦茶したら、今度は私からあんたの課長に猛抗議してやるから!」

 

「……ごめんなさい…」

 

眠気と戦っている舞白は、ぼんやりとした声で謝罪を述べる。

その様子を横から見ていた常守は、何だかんだ仲のいい2人を嬉しそうに見つめていた。

 

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舞白はふらふらと公安局内を歩く。

汚れた外務省のジャケットを小脇に抱え、ため息を漏らす。

 

「((…だめだ…、駐車場まで行ける元気もないかも…))」

 

本来なら、これくらいどうってことないが、運悪くいつもの首元が痛む。

昨夜の飛び降りた反動で、体も酷く筋肉痛を患い、疲れ切っている様子だった。

廊下の壁にもたれかかっていると、ふとある事を思いつく。

 

 

「…そうだ…

…ノブ兄……」

 

執行官の宿舎

それに、宜野座は非番ではないか?とひらめくと

メールで一言だけ送り、執行官の住むフロアへと向かう。

 

 

 

 

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「ダイムーーー!ぎゅーさせて」

 

「クゥゥゥン」

 

 

部屋に入るなり出迎えてくれたのは、宜野座の愛犬のダイム。

もう、かなりの老犬だが、相変わらず舞白の事はしっかりと認識しており、懐いている様子だった。

 

 

「……ふわふわ…ダイムいい匂い…」

 

スンスンと体に顔を埋めると、変わらない優しいダイムの居心地に、浄化されている気分だった。

 

その様子を穏やかな表情で見ている宜野座。

舞白の好きな甘いカフェオレをピンク色のマグカップに注ぐと、テーブルに置く。

 

「ほら、いつもの」

 

「……ありがとう……」

 

ゆっくり立ち上がると、ソファに向かい、腰を下ろす。

ローテーブルに置かれたカフェオレに手を伸ばし、ごくごくと飲み干していく。

 

「ふぁ〜〜、生き返る……」

 

ぐーーっと伸びをして、リラックスしている様子。

宜野座もコーヒーを片手に、隣に座ると、疲れ切っている様子の舞白を気にかけていた。

 

「報告書、別に後日でも良かったんじゃないのか?」

 

「……どっちみちやらないといけないなら、さっさと終わらせて、しっかり休みたかったの…

明日は当直だし、しっかり休まないと…」

 

膝の上に両肘を立て、呟く。

傍らで座っているダイムの頭を優しく撫でると、ぼんやりと笑みを浮かべていた。

 

 

舞白が公安局の監視官補佐に着任して早1ヶ月。

こうして、隣でダイムと3人で過ごせる期間も残りわずかだと考えると、内心とても寂しさを浮かべていた宜野座。

 

彼女は潜在犯ではない。

そもそもこうして一緒に過ごしているのは、奇跡に近かった。

 

 

「そうだ、シャワー借りたくてここに来たんだった…

あと予備の鎮痛剤切らしちゃってて…、ここに幾つか置いてるよね…」

 

思い出したかのように、パッと立ち上がると

部屋のキッチンに向かえば、戸棚から箱を取り出す。

 

注射器と鎮痛剤が入ったその箱は、舞白が念の為に予備として置かせてもらっているものだった。

 

「…痛むのか?」

 

心配そうに、宜野座もキッチンへ向かうと

箱から薬品を取り出し、注射器にセットしていく舞白に目を向ける。

 

「ちょっとね…頭痛くて…」

 

「貸せ、打ってやる」

 

舞白の手から注射器を奪えば、手馴れた手つきで舞白の首元に触れる。

そしていつもの箇所に打ち込み、薬品を注入すると、舞白の表情が痛みで苦しむ様子が浮かばれた。

 

「………ッ…」

 

白く細い首元、色っぽく見える項、

その光景に理性を持っていかれそうになると、ゴクリと息を飲む。

 

 

 

「…ありがとう、宜野座……ノブ兄…」

 

仕事中はきちんと宜野座と呼ぶ為か、混同している様子。

キッチン台に両手を乗せ、ぐーっと体を伸ばせば、視線を宜野座へと向ける。

 

白いピッタリとした半袖のTシャツに、ヒップラインをハッキリと見せるスーツのスカート。

そして陶器のような白い肌が覗かせると、慌てて目元を覆い、宜野座は舞白から離れる。

 

ほんの少し前までは、あんなに小さかった可愛らしい少女が、今では年頃の女性に。

自分も歳を取るわけだ、と悲観的になればため息を漏らす。

 

 

「シャワー借りるね?

多分、浴びたらスッキリするだろうし、そうしたら帰るね?…」

 

「………」

 

舞白の言葉に一切反応がなく、不思議に思った舞白は宜野座の正面に立つと、顔をのぞき込む。

 

「…ノブ兄…どうかした?大丈夫?」

 

顔を覆い、様子のおかしい宜野座を単純に心配する。

そっと、宜野座の頬に手を伸ばすと、すぐに手を掴まれる。

 

その隙間から覗かせる宜野座の顔は、やけに鋭い目をしていて、まるで"猟犬"、整った顔立ちに、思わず目を奪われると

そのまま傍らのソファに押し倒された。

 

 

「…ちょっと…ノブ…」

 

「あまり挑発するな…、無意識なんだろうが…」

 

はぁ…と呼吸を震わせる。

手首を掴む宜野座の手が、やけにいつもより大きく、力強く感じる。

 

 

「ご…ごめんね、気に触ったなら…」

 

 

「正しく生きていく、でもそれは自分の意志を殺して生きていく意味ではない。自分で新たな道を切り開いて、それを正しさに変えていく」

 

昨夜の言葉をそのまま引用する宜野座。

そっと、舞白の頬に触れると、哀しそうな顔をしていた。

 

 

「…お前のそばに居たいと、その自分の意思を俺は殺せない。

でもそれは、この社会は正しいと、認めるのだろうか?」

 

潜在犯の宜野座にとっては、舞白のような存在と一緒に過ごす事は不可能だった。

この時間もあと2ヶ月、たった2ヶ月しかない。

 

 

「……それは…」

 

舞白はバツが悪そうに目を逸らす。

相手の言葉に口を紡ぐ。

 

「何かから引用して、俺の乱れた理性を正してくれ

…頼む、俺を説得してくれ。

もっとそばに居たいと、願う自分は愚かだろうか…」

 

 

"もう決して離さない、絶対に、

お前が何を言おうと、逃げようとも"

 

5か月前、新疆ウイグル自治区で再会した時に確かにそう言った。

しかし、無理な話だったんだ。

恐らく、宜野座はもう、深山達のようにはサイコパスは好転しない。

 

気持ちは傍にいようとも、離さないと決めていても、

いずれ引き離される運命、そして舞白にも、きっと相応の誰かが選ばれる。

 

その運命を受け入れたくなかった。

 

 

「……大丈夫だよ、ずっと傍に…」

 

こんな時に限っていい言葉が浮かばない。

大丈夫、としか言えなかった。

 

「潜在犯である限り、お前との間には大きな壁がある。

…お前が監視官補佐でなくなった時、もうお前とは…」

 

「落ち着いてよ、ノブ兄

きっと、何か道は…」

 

刹那、首元に唇の感触。

 

その感覚に、ギュッと目を瞑る舞白。

 

 

 

「…そうだな、悪い、いきなり」

 

すぐに体が離れると、宜野座は困惑したような微笑を浮かべていた。

 

 

「この1ヶ月間、お前と、何度かこの部屋で過ごして

気が狂ったのか俺は…」

 

体を重ねれば重ねるほど、独占欲は強くなる、それは人間の性。

これ以上、深い沼にハマる訳にはいかないと自分に言い聞かせる。

 

「…ノブ兄…」

 

「ほら、お前が来るからって

湯も張っておいた。ゆっくり浸かって、休んで帰れ

……俺も少し眠るよ…」

 

宜野座は寝室へと消えていく。

その後ろ姿は、哀し気で辛そうで

舞白は見たことがなかった。

 

 

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