PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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ドビュッシーの旋律と

 

 

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―――9月13日 火曜日

午後16時過ぎ―――

 

 

とある場所に車を停め、車内から外の様子を伺う舞白と須郷。助手席の舞白は懐かしい景色に笑みを浮かべていた。立派な門まで続く緑の木々のトンネル、春には満開の桜が咲く。あの門の前で、兄の代わりに入学式に来てくれた宜野座と写真を撮った事は鮮明に覚えていた。

 

急な坂の上に立つ門構え。部活を終えて、待ってくれていた咲良と待ち合わせをしていた場所。くだらない事で笑い合いながら、駆け上がって、駆け下りて…、青春を謳歌したこの坂道。

 

 

そんな思い出に、歴史のある立派な門。

傍らの銘板には"新麻布高等学校"と彫られていた。

 

 

 

舞白の母校でもあるこの場所に、一係総動員で訪れる。ある人物を拘束するために―――

 

 

 

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「…この音…、間違いないです。」

 

唐之杜がカストルからの通話の環境音を解析した結果、微かに聞こえるその音に、舞白は聞き覚えがあった。

 

 

「私が通っていた高校のチャイムの音。"セントミカエルチャイム"って言うんですけど、特徴があって分かりやすいんですよね。」

 

「……都内でもこのチャイム音を使ってるのは、新麻布高等学校だけみたいね。さすが、歴史ある学校ってカンジ」

 

ふぅ〜、とタバコの煙を吐く唐之杜。

 

「堂々と外で電話なんて現実的じゃないし、どこかに籠って私に電話をかけてきたんだろうけど…。12時35分に鳴ってるし、間違いないんです。」

 

昼休み終了5分前を示すチャイムの音。舞白が通っていた時から勿論変わっていなかった。

 

 

「…まさか、ちょっとでも環境音が拾えるように、あんな挑発的な言葉をあの男に言ってたの?」

 

「少しでも拾いたくて…それに、運良く昼間にかけてきてくれたから、もしかして何か証拠を掴めるかと思ったの。夜より、圧倒的に音の数は多いはずだからね。」

 

「でもそれは、相手がたまたま外に居たから実現できたことよね?環境音解析は、彼らが配信してる動画からも行ってたでしょ?最初から、外にいたって予測できてたの?」

 

分析室には霜月、常守、唐之杜の姿が。退院してすぐに分析室に現れた舞白を半分止めに来たようなものだが、重要な証拠を見つけ、今に至る。

 

常守が2人の会話を横目に、あることに気づく。

 

 

「カストルとポルックスの動画…。昼間は何故か、前もって録画されたものが配信されてた。夜は必ず生配信、視聴者のコメントをそのまま読み上げてたから間違いないはず。……なるほどね、舞白ちゃん。」

 

常守は舞白に視線を送ると微かに口角を上げ、納得したような様子だった。舞白も同じく笑みを浮かべる。

 

 

「9月に入って彼らは昼間に行動することは無くなりました。ということは、昼間に大胆な動きができない理由があるはず。…もし、日本にとどまっているのなら、それなりに怪しまれないようにする必要もある。どこに住んでいるかは分かりませんが、年齢が若ければ近所の目もありますからね。」

 

「ということは、学生のフリ、……潜んでるって事?」

 

「その可能性が高い。でも、彼らもそこまで馬鹿じゃないはず。恐らくあの2人が同じ学校に潜んでるとは思いません。IDを偽って潜んでいるなら、恐らく移民として学校に転入している事が予想できる…。その方が何かと都合が良い、嘘を並べやすいんですよ。」

 

移民であれば経歴を偽造しやすい。放っからこの国で生活をしてきたと、そのようなIDを作れば矛盾が生じやすいと分かっていたんだろう。

 

 

「で、そのID…。学校も分かってるなら探れたんじゃないの?」

 

霜月は傍らの唐之杜へと視線を送る。

 

「ふふん、勿論よ。怪しい人物が1人…それに、顔も間違いないのよね?舞白ちゃん」

 

モニターに映る1人のID情報。霜月はそこに映る顔に見覚えがあった。

 

「…琉・セルリアン・サラシス。この子、あのホールで宜野座さんにぶつかって…」

 

「宜野座さんの言ってることは間違いなかったのね。接触したって…確かに言ってたわ」

 

常守は過去の宜野座の証言を思い出す。あの時一緒に行動を共にしていた霜月もハッキリと顔を覚えていた。

 

「琉…セルリアン、サラシス。直訳すると青い、美しい海。恐らく琉は本名。父親と思われる人物と名前も類似。…出身もハワイ島なら語呂が良すぎる名前。花城課長にもらったデータとかなり辻褄が合います。」

 

「…あのデータが本当のことなら、彼らは本当に、本気で日本を潰しに来ているわ。背後の黒幕に、操られているとも知らずに…」

 

「確かに信憑性が高いデータでしたよね。」

 

舞白、常守、霜月。じっと画面を見据え、隠された真実を知らない彼を哀れに思っていた。

 

「ちなみに、この学校の担当者に問い合せたんだけど、帰化移民の受け入れを率先して行ってるみたいね。彼は成績優秀で、眉目秀麗。悪い噂もなく、入国審査証も問題無し…」

 

"ちなみに帰化移民の調査、としか言ってないから、彼が犯罪者とは勿論誰も気づいてないわ"と唐之杜は発言を付け加え、舞白へ視線を送る。

 

 

「このIDと類似する関係者はヒットしなかった。弟のIDは、恐らく上手く隠されてる。…一緒に確保出来るのが1番だったんですけどね。」

 

類似した名前や、同時期に入国したであろう人物たちを全て調べたがヒットせず。他にも帰化移民の受け入れを行っている学校の調査を唐之杜は継続していた。

 

「さっさと捕まえて、メモリースクープでもなんでもいいから、とにかく吐かせたらいいでしょ?」

 

「…美佳ちゃん、相変わらずの強硬手段ね…」

 

霜月の発言に微笑を浮かべる常守。しかし、彼を確保した場合、すぐに弟のポルックスも見つけなければかなり危険だと全員が考えていた。恐らく兄を助ける、という判断には至らないだろうと。となれば、強硬手段に踏み出す事が考えられる。

 

 

「東京に核を落とされる前に、絶対に阻止しましょう。」

 

常守の言葉に3人はこくりと頷いた。

 

 

 

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『裏門、教員専用出口、共に待機完了。万が一の警備ドローンも既に控えさせてるわ。…学校内の教員には情報が漏れることを考えて伝えていないから、上手く乗り切って、潜入してください。』

 

「了解です。」

 

『対象を確認したら直ぐに報告を。霜月チーム、そして私達もすぐに確保に向かいます』

 

常守からの指示に舞白と須郷は頷き、車両から姿を現す。

 

時間的にもちょうど下校する生徒たちや、部活動に励む生徒たちで溢れかえっていた。スーツ姿の2人。公安局のジャケットは羽織っていないものの、やけに目を引くのか生徒達の視線を感じる。

 

 

「……右腕、さすがに目を引くかな」

 

義手も何もつけていないため、明らかに腕が無いということがパッと見でも分かる。

 

「それに、監視官は白髪で目立ちますからね…」

 

「須郷さんも身長高くて体格も良いし。どう見ても臨時の教員とかにも見えませんね?私達。」

 

呑気にクスクスと笑いながら建物内へと入っていく。デバイスに視線を移し、カストル…、琉の居場所を確認する。

 

 

『さすが、桜霜学園も広くて立派な建物だったけど、都内一のエリート校は外装も内装も凝ってるのね。設備もハイテクだし…』

 

『セキュリティも万全。桜霜学園は出入りに関しての警備は凄かったけど、麻布高は中の警備も並外れてるわ』

 

霜月、六合塚は教員用出入口から校内へ入ると、その場に留まり設備を見渡していた。桜霜学園はモダンな、伝統ある女子高らしい佇まい。しかし、麻布高はどちらかというと全てが現代的。ガラス張りの部屋や中央に置かれた螺旋階段、そこら中に様々なドローンが置かれ、"近未来的"という言葉が似合う建造物だった。

 

「…失礼ですが…狡噛監視官は、考査のポイントはどれくらいだったんですか?麻布高は日本一とも言われてるエリート校ですよね…」

 

不意に気になっていた事を口にする須郷。舞白は気まずそうに眉を顰める。

 

「…一応…700越えで、当時日本トップの記録でした…」

 

通信機を付けていた常守を除く全員がその回答に驚くも、確かにそうだろうなと納得していた。

 

『な…ななひゃく…越え…』

 

『雛河、驚きすぎでしょう?』

 

「そうですよ〜。同級生でも高ポイントの子達はいっぱいいましたし?」

 

驚いた声をあげた雛河に一喝する六合塚.。そんな環境に身を置いていた舞白はそこまで珍しいことだとは思っていない様子だった。

 

「まさに"才色兼備"、武術にも優れ、頭が上がりませんね」

 

「須郷さん。そんなこと言っても何も出ませんよっ…!…」

 

階段の手すりに触れようと右腕を伸ばそうとするも、腕がないことを思い出し、その場で大きくよろける。咄嗟に須郷が手を伸ばし、スっと引き上げられる。

 

「…それでも鈍臭い時は鈍臭いんですよ?須郷さん…」

 

「それでもいいんですよ。大丈夫です。何かあれば、必ず自分が助けますから」

 

フッと笑みを浮かべる須郷。右腕を失ってから気付かされることも多く、舞白は小さく息を吐く。

 

「ありがとうございます。須郷…」

 

 

「君達、関係者じゃなさそうですが…この学校に何か用ですか?」

 

生徒たちが多く出入りする玄関口のような広いスペース。その目の前の階段前で教員と思われる人物に声をかけられる。しかし、入口の警備などには引っかかっていない2人組に、その人物は不思議そうに、不審感を抱いた表情で見据えていた。

 

舞白は体勢を整え、慣れない左手で身分証を翳す。できるだけ生徒達の目に触れないように、こっそりと向けていた。

 

 

「公安局刑事課監視官、外務省捜査官の狡噛舞白です。…こちらは同じく執行官の須郷徹平。…後ほど、担当者から改めてお話をさせていただきます。校内捜査です。どうか、事を荒らげたくないので…」

 

「…捜査?…うちの生徒が何か……」

 

「詳細は後ほど。他の生徒さんたちを刺激しないためにも、今は見逃してください。」

 

「わ…分かりました…。」

 

男性教員の前から立ち去り、2人は様々な生徒を横目に目的の教室へと向かう。

 

 

 

 

「……コウガミ…、聞いた事がある名前だな…」

 

男性教員はふと、珍しい苗字に聞き覚えがあると考えつつ、不思議そうにするも、言われた通り静かに2人を見送る。

 

 

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進む度に生徒の数は減っていく。

それもそのはず、彼が居るであろう場所は6階の最奥の音楽室。

 

真っ白な廊下の奥に、その教室を見つける。

 

 

「……間違いないです。彼はあの教室に…」

 

デバイスを確認する須郷。中に居ることは間違いないと舞白に声をかける。

 

「了解です。…6階…飛び降りることも難しいだろうし角部屋で逃げ場はない。須郷さんは出入口で待機をお願いします。」

 

「了解。何かあればすぐに突入します。」

 

須郷はスタンバトンを取り出せば、頷く。

 

 

「こちら狡噛。対象を確認。配置は大丈夫ですか?」

 

隙がないように、予め決められていた配置へと全員が着く。

 

『霜月、六合塚、いつでも大丈夫よ』

 

『常守、雛河。こっちも大丈夫です』

 

舞白はその場で深呼吸をすると、音楽室の扉へと手をかけると、ゆっくりと開ける。防音扉が開けられたその瞬間、美しい旋律が耳へと飛び込んできた。

 

 

 

音楽室のグランドピアノから響く美しいドビュッシー。それを弾いていたのは、眼鏡をかけたオッドアイの持ち主の少年。こちらに気づいているのは間違いないが、彼は手を止めることは無かった。

 

扉を閉め、舞白は何も声を発さず、ただ相手を見据える。

 

 

 

 

ドビュッシー

交響詩『海』――

――第一楽章"海上の夜明けから真昼まで"

 

 

舞白は少し離れた場所の椅子に腰掛け、ゆっくりと瞼を閉じ、その旋律へ耳を傾ける。

 

 

 

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