PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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サンギネール

 

 

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ドビュッシーが創る音が好きだ。

 

孤独や憂鬱、哀しいことも、全て肯定してくれるような、そばに寄り添ってくれる。そして、不思議とこの世界に居ることを忘れさせてくれる、そんな場所へ連れていってくれる旋律が―――

 

 

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「…ッ…ケホッケホッ…」

 

「…兄さん…、大丈夫…」

 

身につけていた白いシャツが赤く染まる。

投薬の副反応なのか、やけに頭が重く、鼻からはとめどなく血が溢れ、止まらない。鉄のような、生臭い味が口の中に広がるとその場に蹲る。

 

「ぅ……ぐ…ッ…はぁ…はぁ…」

 

 

白い空間。テーブルと椅子、清潔なシーツ、ベッド。俺たちの部屋はいつだって真っ白だった。赤く染まるのは、決まっていつも身につけている衣服。過度な投薬に耐える日々が続いていた。

 

「…ほら、拭いて?あと水も…」

 

「ありがとう、玲。…お前は何ともなかったのか?」

 

同じ投薬を受けた弟はケロッとした様子だった。

 

「うん、僕は大丈夫。…僕の場合、投薬よりも電気が苦手かな…」

 

頭にヘルメットの様なものを被せられ、定期的に電気を当てられるような事もあった。その日は決まって、いつも玲が不調。傍らでいつも互いを心配しあっていた。

 

「…でも、これくらい余裕だ。兄さんや姉さんたちのように、早く名前を貰って、認めてもらえれば…日本に行くこともできる。」

 

「そうだね、兄さん!」

 

明るい栗色の髪の毛を持つ弟の髪の毛がピョンピョンと嬉しそうに跳ねる。

受け取った白いタオルで鼻を拭き、水を飲む。

 

 

 

 

「そうだ!兄さん、ピアノ弾いてよ!お父様が今日お部屋で聴いてたあの曲!すごく素敵だったな〜」

 

「…うる覚えだから正確には弾けないかもだけど、それでもいい?」

 

「うん!…兄さんのピアノなら正直なんでもいいんだ、曲なんて―――」

 

 

部屋を飛び出して、グランドピアノが置かれている吹き抜けの空間まで駆け抜ける。相変わらず明るい光は差し込まない。ピアノの傍らの大きな窓はいつも曇り空だった。

 

でも、ピアノを弾くといつもその場所は明るくなる。光が差し込むようだった。耳で拾った出鱈目な旋律でも、弟はいつも喜んでくれていた。

 

一音一音に色が着く。きらきら星は黄色、ゴールド。月の光は一体が青白く、闇に包まれる。ラヴェルの水の戯れを弾いた時は、色のない雫がピアノに降り注ぐような感覚―――

 

 

その音色に引かれ、次々と現れる子供たち。その子供たちの姿は、日に日に減っていき、いつの日にか誰も現れなくなる―――

隣に座る、弟の姿だけ―――

 

 

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『琉。お前の能力は人を殺せない。共感覚、絶対音感、即ち音楽嗜好症。……だからこそ、弟よりも強く、残酷で冷酷、無色でいなければならない』

 

 

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お父様はいつもそう言っていた―――

 

だから死に物狂いで冷徹な人間になった―――

 

 

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でも、音楽というものは不思議だ。

鍵盤に指を乗せれば、不思議と全てが丸裸になる感覚に襲われる。

 

 

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「ドビュッシー…、"海"。さすが、暗譜で弾けるなんて人工サヴァン様々ね」

 

 

パッと掴まれる右手。止まる旋律。目の前の白髪の女性に視線を向ければ、微かに口角を持ち上げる。

 

 

「さすが物知りですね。ドビュッシーの海はそこまで有名じゃないはず」

 

「モクレールの小説"サンギネール諸島付近の美しい海"を読んだことがあるのよ。"海"と関連性が有る小説で有名よ

 

琉は舞白の手を振り払い、そっと鍵盤を撫でる。

 

「知ってますよ。その小説の筋書きも…。…嵐にあった船乗りが架空の3つの島々を順に訪れる。"若さ、生命、老い、滅び"…それに向かう様子を寓意的に表現している絶望的な、いわゆる「バッドエンド」で終わる物語、ですよね?」

 

「じゃあ、サンギネールの意味は?」

 

「"血を流すことを好む、残忍な"…」

 

 

舞白は彼の顔を覗き込み、ニコッと満面の笑みを向ける。

 

「正解。…まるで、あなたを表してるかのような曲よね。」

 

「……皮肉だな。それに、バッドエンドでなんか終わらせないさ」

 

舞白の音声はもちろん全員に聞こえている。常守達はじっと耳を澄ませていた。

 

 

 

 

 

「あなたを逮捕します。カストル…、いえ、琉・セルリアン・サラシス、…あぁ、これも違ったわね」

 

彼の名前を口にするも、彼は表情を一切変えない。しかし、次の言葉に、琉は目を見開く。

 

 

「宇和城 琉さん、…それとも琉・ミラー・クレメンス…?」

 

「……何故。…父と母を知って…」

 

戸惑った表情を浮かべた琉。

 

その顔を見据え、舞白は再び腕を掴む。

 

 

 

「…全て教えてあげる。あなたの運命を揺さぶった、貶めた、真実を。」

 

掴まれた手を引き剥がそうとするも、舞白はその手を離さない。そして、背後から須郷の姿も現れれば、諦めたように眉を顰める。

 

 

「……ッ…」

 

 

一瞬、あの時の光景が蘇る。

この男を掴んで離さなかった宜野座が、血相を変えて舞白を救うために向かってきたあの光景。そして、…目の前で……

 

 

本当なら、すぐにでも殺してやりたいと。歪んだ感情に押し潰されそうになる。でも、それは間違いだと、何度も言い聞かせる。

 

 

 

 

「…あなたを、逮捕します。」

 

 

少年は抵抗することも無く、大人しく手錠をかけられる。その顔は無表情。恐らく、舞白達が現れることは分かっていたのだろう。

 

舞白は相手の感情が一切読めなかった。

何を考えているのか、言動から何も読み取れない。

 

目の前にいるこの少年は、本当にあのカストルなのか?と疑ってしまうほどに。

 

 

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