PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
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『玲。彼らが来た。あとは頼んだよ』
デバイスに届いた一通のメッセージ。兄からのものだった。
「…大丈夫だよ。兄さん。その為に僕がいるんだから」
目の前のキャンバスに描かれていく風景画。昔見た、美しい青い海、父と母と兄と歩いた浜辺。
「計画通り…、だよ。」
美術室の窓から差し込む陽の光。
キラキラと少年の栗色の髪の毛が光り輝いていた。
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同日 20時過ぎ―――
―――公安局ビル 尋問室
常守は琉の目の前の椅子へと腰掛け、舞白はその後ろでじっと様子を伺う。そしてその様子を分析室で全員が見守っていた。
「―――で…あなた達はこの国に入国した…、という事ね」
常守の質問に詰まらせることなく答えていく少年。入国方法や偽装ID、移民として平凡に過ごす中、あのようなテロを簡単に起こした方法…
その内容は普通の人間では持ち合わせられない技術だった。
「弟は?偽名は何?」
「玲・コバルト・ルラキス
…調べたところでもう無駄だと思うけどね。」
舞白は背後で検索をかける。しかし、何もヒットしなかった。
「どっちみち、俺を捕まえたところで作戦は変わらない。この国は滅びる、その未来は変えられない。」
「それはあなたが決めることじゃないわ。」
常守は鋭い眼光で相手を睨みつける。間違いなく、この目の前の少年が無差別テロを起こした張本人。相変わらずサイマティックスキャンにも引っかからない透明人間。
槙島聖護、鹿矛囲桐斗…、まるでその2人を掛け合わせたような人間。
琉は余裕そうな笑みを浮かべると、常守の後ろで静かに佇む舞白へと視線を向ける。
「…狡噛舞白、彼女と2人っきりにしてよ。聞きたいことがあるんだ。」
「……」
「勿論、録音録画は全て止めてください。…彼女と2人っきりに…」
常守は背後の舞白へ視線を送る。相手の突然の要望に戸惑うも、なにかの情報を口にするかもしれない。彼に従う事は得策だった。
「…舞白ちゃん」
「大丈夫です、朱さん。」
常守に笑みを向け、続けてカメラへと視線を送る。常守はデバイスを操作し、分析室へと連絡を取る。
「志恩さん。彼の言う通り、録音録画を全て停止してください。」
『オーケーよ。』
指示通り、全て停止。
防犯カメラの赤いランプが消え、オフになったことを確認する琉。そして目の前の常守へと視線を向け、いかにも早く出て行けと言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。
それを察知し、椅子から立ち上がれば舞白へ声をかけ、部屋から出ていく。
「頼んだわ、舞白ちゃん。」
「はい。」
閉められる扉。無機質な音が響き渡り、舞白は目の前の椅子へ腰掛ける。互いに目を合わせ、暫く沈黙が続くも、先に口を開いたのは琉だった。
「……まず、ここまで俺たちを追い詰めたあなたを賞賛します」
「一応追い詰められてる自覚はあったのね、以外」
「正直、ここまで賢いとは思ってませんでした。日本の刑事も捨てたものじゃない。…まあ、あなたが、たまたま刑事課に席を置いていた偶然が生み出した奇跡…と考えるべきですけど」
嘲笑うかのように舞白の様子を伺う。背もたれにだらりと体を預け、天井を見上げる琉。そんな相手に喰いつくように、身を乗り出す舞白。
「で?あなたが聞きたいことって?」
「…真実。俺を拘束する前に口にしてましたよね。」
天井に向けていた視線と顔をゆっくりと下ろせば、舞白に視線を向ける。
顎を下げ、下から睨みつけるような視線。妙に綺麗な顔立ちの少年のその表情は、妖艶な雰囲気をも感じさせる。仮面の上からは想像のできなかった彼のその様子に、惹き込まれるものがあった。
舞白は口角を微かに上げ、手元のデバイスに触れ、以前花城から送られてきたデータの数々を背後のモニターへ映し出す。
「………」
「外務省内だけの機密データもあったから、録画も録音もないこの環境を作り出してくれた、あなたに感謝するわ。…2人だけの秘密ね。」
ズラズラと並べられる情報に、琉は目を見開く。中には、新たに送られてきた情報なども含まれており、なかなかショッキングな画像なども表示されていた。
「あなたの両親を殺したのは日本政府じゃない。…あなたの背後にいる黒幕の男…、この顔、見覚えがあるんじゃない?」
ピンぼけしているが、髭を蓄えた威厳のある人物の写真が琉の瞳に飛び込む。その人物は、何やら幼い子供に銃口を向けていた。そのような写真が複数枚映し出される。
「……実験に使われた子供たち。あなたもその1人のはずよ。その施設は破壊されたと思ってたけど、どうやらまだ別の場所に存在していたみたいね。…そこで繰り返される残酷な人体実験…。過去の実験内容の証拠も全て掴んでる。」
「…………こんな…」
「"こんな"?。酷いこと?…信頼していた人間がそんな事するはずないって?」
確かに、自分に未知数の特殊な能力を授けてくれると、様々な実験に耐えてきた。共に乗り越えた兄弟たちも日に日に少なくなっていた事も分かっていた。しかし、殺されていたなんて、そんな事何一つ知らなかった。
琉は次第に表情を曇らせていく。
「…脳科学者、宇和城環。この国のシステムに関わっている人物の一人。研究者として欧米に派遣されたあなたの父親…そうでしょう?」
琉とよく似た人物の情報が露になる。しかし、派遣後の経歴は空白。
「宇和城は国家の機密情報を手にしていた。そして、その情報を狙った何者かが彼を脅した。…実は、日本政府に助けを求めていた履歴も残ってたの。勿論それに応じたのよ、日本政府は。」
兄の狡噛から、密かに、舞白宛に送られた機密情報の中に、驚きの内容が隠されていた。それは、宇和城からの緊急要請。ある組織に狙われている事実、そして家族の命の危険。本来であれば、家族全員、日本に帰還する予定だった事実。
「それに気づいた人物が、早急にあなたの両親を殺した。でも、あなたと弟は生かされてる。…そりゃそうよ、そんな有能な父を持つ息子、もしかすると国家機密の内容を知っているかもしれない。そして上手く利用し、あわよくば駒として、手元に置いておけば役に立つ。」
「…待て…、そんな訳…」
少年の声が震えていた。今までの強気な姿は見当たらなかった。
「ユーピテラ・ディオスクロイ・ジェミニ―――あなたの命の恩人は、本当は、あなた達兄弟の全てを奪った張本人だった。」
モニターに映し出される1人の人物の顔写真。それは彼の言う"お父様、ユーピテラ"。昔の軍人時代の画像や、数々の情報が映し出される。琉が聞いていた情報とは大きく違うものばかりが目に飛び込む。
「違う……、だってお父様は、…国に棄てられた俺たちを救うためにって……特化した能力も与えてくれて、大切に…」
「そう見せ掛けただけ。自分たちの利益のために。日本の転覆、シビュラシステムの解明…、あなた達の目的と全く同じでしょう?自分の手を汚さず、あなたのような若く染まりやすい子供を使ってたの。…人体実験をして、短命になる事も把握した上で…」
「嘘だ…そんなわけない……そんなっ…」
刹那、激しく咳き込む琉。
吐血し、鼻からもぽたぽたと鮮血が垂れていた。
そんな相手にジャケットのポケットからハンカチを取り出し、椅子から立ち上がる。琉へと近づけば血液を拭き取り、俯く琉の顔をのぞき込む。
「……本当に大切に想っているなら、今こんな事になってないはずよ。人工サヴァンを生み出すには過酷な実験が必要。長生きなんてできるわけが無い、それも計算の上…」
呼吸を荒らげ、苦しそうな相手に眉を顰める。
「恐らく、まだこの組織は何かを企んでる。それを暴露されない為にも、あなたのような少年少女達は簡単に死ぬように作り出された。」
「………ッ…」
舞白は再び席に戻る。そして、鋭く睨みつけた。
「……その復讐のために…あなたは複数の命を奪った。若者たちの心を弄び、利用した。それは決して許されない。」
サンクチュアリの職員殺害から、ホールでのテロ未遂、そして渋谷の爆発テロ。たった数ヶ月間で起こした事件は決して許されない。舞白は右肩に触れ、失った右腕と共に、未だにベッドで眠り続ける宜野座を思い浮かべる。
「…復讐……、報復…。正直、あなたの気持ちが全くわからないわけじゃない。私も同じだった。」
舞白の言葉に、ゆっくりと顔を持ち上げる琉。
「私もかつて復讐を成し遂げたの。…この手で人を殺した。私の経歴、見たことあるでしょ?…人を殺して、日本を飛び出した。様々な人間のドラマと直面してきて、学んだの。」
右肩に触れる手の力をさらに強める。
「本当なら、あなたを今すぐ殺してやりたい。残酷に、八つ裂きにしてやりたい―――」
ギュッと目を閉じ、歯を食いしばる。そんな荒れた舞白の姿を目にして、琉は驚いた様子だった。冷静沈着な姿しか想像していなかった。
「……復讐は復讐しか生み出さない。本当の復讐は自分が同じ行動を起こさないこと、許すことは復讐に勝る…」
「綺麗事を並べるな。……所詮、そんなもの考えるだけ…」
刹那、舞白の口から流暢な英語が飛び出す。
「I count him braver who overcomes his desires than him who conquers his enemies; for the hardest victory is over self.」
"私は、敵を倒した者より、自分の欲望を克服した者の方を、より勇者と見る。自らに勝つことこそ、最も難しい勝利だからだ。"
アリストテレスの有名な言葉の1つ。
「あなたのその"お父様"は。この言葉を教えてくれなかったの?ユーピテラ…ゼウスと名乗るほどの全知全能たる人物なら、きっとアリストテレスの言葉のひとつやふたつ、教えてくれるんじゃない?…あなたには、殺戮の言葉しか教えなかったの?」
「………あなたは…どこまでも皮肉な人だ…」
舞白の言葉に呑まれるように琉は呆気にとられた様子で言葉を放つ。言い返せない、そして舞白を前にして不思議な気持ちがふつふつと湧き上がっていた。それは何かわからない、でも、納得させられるような、これ以上反論できない空気に呑まれていく。
「まるで、盲目…、目隠しをした"正義の女神"、テミスのようだ。」
「正義の女神なんて、畏れ多い…」
「何事にも惑わされず、正しい判断を下す為に、テミスは目を塞いでいる。あなたの心の奥底の本心は闇に歪み、真っ黒で、深い沼のよう。…自分で目を閉じて、必死に塞いで、現実から目を逸らしてる。」
「……あなたも随分言ってくれるじゃない。」
目を隠した女神に似ていると、琉は皮肉交じりに口にした。彼は大きく気が動転するのでは無いかと予想していたが、意外と正気を保つタイプだった。何だかんだ、やはり雑賀の言うことは当たっていたと、改めて実感する。
そして、ふと彼の表情が変わる。
「…でも……俺は―――」
何かを言いかけた途端、舞白のデバイスが鳴り響く。こんな時に、常守達が連絡を入れるはずがない。すぐに口を閉じる琉。タイミングが悪すぎると、舞白は酷く顔を歪めると、送信元の人物を確認すると、相手に驚いた様子だった。
「((…何で、局長……?))」
舞白は応答ボタンに触れ、部屋の隅へと向かい、琉に聞こえないように距離をとる。
『狡噛監視官補佐、彼の移送が決まったよ。…すぐに引き渡してもらうよ』
禾生の落ち着いた冷徹な声。そしてその言葉に舞白は違和感と驚きを覚える。
発信元の人物は、怪しげに笑みを浮かべていた。
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