PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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青い瞳が見据える先

 

 

 

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―――9月20日火曜日

尋問から7日後――

 

あれから彼に会うことも、尋問、取り調べをすることさえ許されなかった。一係は通常業務と並行しながら、弟の捜索、そしてプルトニウムを使用するであろう次のテロに備えて、捜査を進めていた。

 

兄が拘束、拘留されている以上、下手な真似はしないはず。そして、何よりも局長の行動を見る限り、常守をはじめ、霜月、舞白も何か策があるのではと伺っていた。

 

移送計画は28日。密かに隠し持っている厚生省の移送計画を軸に、一係は体制を整えていた。

 

 

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品川区 勝島―――

 

過去には競馬場や区民公園、主に商業施設が立ち並んでいた地域。現在は緑化計画が進められ、珍しくホログラムではない本物の自然に囲まれた住宅地。一部は帰化移民の為に仮設で使われている住居も多く、潜伏するには十分な場所……

 

 

唐之杜が入念に調べ続け、尚且つ、兄の偽ID情報も掴んだ今、ようやく潜伏していた住居を特定した。

 

 

「……生体反応無し……、中には誰もいないかと。」

 

「了解。……油断は禁物ね」

 

最奥の木々に覆われた住居。他の住居とは違い、ひっそりと、まるで隠れ家の雰囲気を漂わせるような外観。先行する雛河と常守のペアが中を確認すると、どうやら既にもぬけの殻。危険物の反応も無いと分かれば、室内に足を踏み入れる。

 

中は何の変哲もない普通の住居。

2階建てのその住居は風通しもよく、海から少し離れているものの、微かに潮風が香る。

 

「……クリア。奥も大丈夫です。」

 

「ありがとう、雛河君。

―――皆、異常なしです。鑑識ドローンも入れて調査しましょう。」

 

 

『『了解』』

 

常守の報告に、全員が返答すると、外で待機をしていた面々が次々と室内へ侵入していく。舞白は入口から微かに見える海の景色を見据えると、隣の霜月に声をかける。

 

 

「ねぇ、美佳ちゃん。意外と近くてビックリした。」

 

「それ私も思ったわよ。敵は近くにいたのね。」

 

舞白の自宅から車を使えば数十分で辿り着く距離。同じ海の景色を見ていたと思うと不思議な気持ちが込み上げてくる。

 

 

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奥の部屋へと進むと見覚えのある景色。

そう、あの配信を行っていた部屋。やけにその部屋だけ薄暗く、窓も全て閉められ、まるで牢獄にいる気分だった。

 

傍らの壁には一係の面々の情報が顔写真と共に貼り付けられ、異様な光景が広がる。

 

 

「悪趣味ですね……」

 

傍らで須郷がボソッと呟けば、隣の舞白は目を細め、ため息を漏らす。壁一面に様々な写真や画像。最初のテロを起こした新宿のホールの案内リーフレットや議員の顔写真まで、隅から隅まで張り巡らされていた。

 

「自分が、元国防省の人間だと……全てお見通しだったようですね。」

 

「……本当、気味が悪い。どうやって調べたの……私の過去の経歴も、…………」

 

ふと、とある写真に言葉を止める。

自分の顔写真の傍らに、気になる写真があった。

 

その様子に須郷が気づくと、気の毒そうに眉を寄せ、隣の舞白に視線を送る。

 

「……監視官」

 

「そっか、……全部彼らの計画通り……」

 

 

その写真を掴み取り、グッと唇を噛み締める。

 

 

宜野座と舞白が街中で仲睦まじく肩を並べ、手を握り合い、歩いている後ろ姿の写真。他にも数枚盗撮されており、どう見ても、ただの友人や仕事仲間のようには見えない。

 

 

あの地下での惨劇。宜野座が琉に掴みかかり、舞白に爆発物が投げられた瞬間。琉が宜野座に何かを口にした瞬間、血相を変えて舞白の元へと駆け抜けてきたのを思い出す。

 

恐らくあの時、何か吹き込まれたに違いない。はなから、2人の関係性を把握した上で起こした事なら、計算高すぎるその手段に背中がゾッとする。

 

 

「監視官、大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫ですよ。ただ、驚きました。……やはり、彼らは危険すぎる。」

 

写真を戻し、深く息を吐く。

 

穏やかに優しい笑みを舞白に向ける宜野座の表情を見ると、胸が締め付けられるような思いだった。

須郷は弱った様子の舞白の姿に戸惑うも、心配するように、背中をトントンと優しく叩いた。

 

 

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「うっわ……何この絵……細すぎて逆に気持ち悪いわ」

 

広いリビングに並べられたキャンバス。一つ一つに布が被せられており、重ねられていた。霜月と六合塚は1枚ずつ確認していく。その絵は異常に細かく、油絵もあれば、黒い細いペンで細かく描かれた物など、人間が描いたとは思えないような絵ばかり。風景画や、建造物。異常な枚数のキャンバスに何か繋がるものがあるかもしれないと、六合塚とひたすら確認作業を行う。

 

「情報によると、彼らは人工的にサヴァン症候群に目覚めたとか。既に拘束した宇和城琉は音や共感覚。……だとすれば、この絵は弟の物の可能性が高いわね」

 

「……映像記憶、直感像記憶ってやつですか?」

 

「恐らくそうね。瞬時に見たものを事細かに描き起こせたり。中には、航空写真を少し見ただけで漏れなく、隅々まで描き起こした、なんてデータもあるわよ」

 

「――そんな事ができる人間なら、並外れた行動も軽々と出来るわけね。高度なハッキング能力だって、常人ならありえない……」

 

1枚1枚、事細かに確認していく。どちらかと言うと風景画が多い。山や海、空―――

 

 

 

「……これって、人……」

 

霜月がとある1枚に目をつける。大きなキャンバスに描かれていたのは人の横顔。美しい青い瞳に、金髪に近いような茶髪の人物。

何かと遠くを見据える、美しい瞳が印象的だった。

 

「青い瞳……、でも宇和城琉じゃないわね?でも……なんだか少し似てる……」

 

「六合塚さん。もしかして自画像……だったり?」

 

「有り得るわ。解析できるか分からないけど、すぐ志恩に送るわね」

 

すぐに写真に収め、唐之杜へ送信する。

そして再び重ねられたキャンバスを見ていくと、今度はやたら建造物の描が目につく。

 

 

「本当にすごい絵ばかりね。…これだけの技術があれば、シビュラ公認の芸術家も夢じゃないわね。」

 

「目に映ったものを記憶して、それをそのまま描き移せるなんて便利な能力……。」

 

「でも、それにしても多すぎる。そもそもこの量の画材を集めるのも大変よ。大きなキャンバスやわ持ち運ぶのも目立つし。どう考えてもそれなりの設備―――」

 

不意に漏らした"設備"という言葉に固まる2人。そうだ、そもそも、舞白の言っていたことが合っていれば、弟も学校に通っているはず。

 

だとしたら、芸術関連の学校に通っている可能性が高い。そして、今更ながら、一部のキャンバスの裏面に、何やらマークが印字されていることに気づけば、六合塚は見覚えがあった。

 

 

「これ、成城学園のマークです。」

 

トントンとマークに指を指すと、霜月が隣にしゃがみこみ、一緒にそのマークに目を向ける。

 

「成城学園?世田谷区の?」

 

「そう。……私の母校よ。芸術に特化した学校で、絵画の専門的なコースも併設されてたはず……」

 

六合塚は成城学院中学校芸術コースを卒業後、シビュラ公認芸術家という経歴を持っていた。だからこそピンとくるものがあったらしい。

 

「でも、調べたところで、全部該当のデータは消されてるって……」

 

「データはなくても、誰かの記憶には必ずその姿はあるはずよ。在校生に聞き取ればいいわ。自画像らしきものもあるし、調べる価値はある。後で報告しましょう。」

 

そう口にすれば、再び2人はキャンバスを調べていく。そして、暫く無言で調べていた霜月の手が、1枚のキャンバスに触れた瞬間手を止める。

 

 

 

「六合塚さん。これって―――」

 

 

そのキャンバスを手に取り、リビングの大きな机にのせる。とある建造物が描かれたキャンバス。

 

 

「……ノナタワー?……にも見えるし、公安局ビルにも……」

 

「この絵だけ色がない。それに未完成ね。……しかも悪趣味すぎるわよ……」

 

2人はその絵をじっと見据える。

 

細い黒いペンで描かれた建造物。

しかし、ただ建造物が描かれているだけでは無かった。

 

 

 

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2階の寝室らしき部屋に現れたのは、常守、雛河。そして後から舞白と須郷も合流する。

 

 

 

「あれ?美佳ちゃん達は?」

 

「まだリビングでキャンバスを調べてました。恐らくまだかかるかと……」

 

常守の問いかけに、舞白がすぐに答える。先程覗いたところ、まだ複数のキャンバスが残されている様子で、まだ現れないだろうと考える。

 

須郷が部屋を見回せば、常守と雛河へ視線を送る。

 

「残りは、この部屋だけですか?」

 

「はい。……とはいっても、私と雛河くんが調査した部屋は、あまり大きな手がかりは無さそうでした。」

 

この住居の2階、再奥の部屋。

ベッドと小テーブル。そして、花がいけられた花瓶が置かれていた。その部屋の出窓からは海が見え、美しい青空が広がっていた。

 

「私と須郷さんが調査した部屋からは、微かに火薬の痕跡、そして怪しげな薬品も見つかってます。指紋も見つけてますがもちろんヒットせず……」

 

「さすがにデータが消されてるとなかなか足を追うのも難しいわね…」

 

「……でも、彼らが何も残さないのも、変です、……よね」

 

雛河が言う通りだった。

必ず何かを残しているはずだと考える他ない。

 

"俺を捕まえたところで作戦は変わらない―――"

 

琉は間違いなく、尋問室でそう口にしていた。

彼らは必ず、何か計画を立て、痕跡を残すはずだ。

 

ワンサイドゲームで終わらせない。必ずこちらにも何かを残す――

 

ふと、舞白は花瓶に生けられた花に目を向ける。

 

シンプルな部屋に、やけに映える赤紫の穀物のような植物。その花はアマランサスという花。

 

「この花、かなり状態がよく見えるけど、つい最近生けられた花?」

 

常守はやけに状態が良い花を不思議そうに眺める。主人がいないこの家で、何日もここまで綺麗に花を咲かすのは異様だ。

 

「この花、アマランサスっていうんです。ちなみに、ギリシャ語で"しおれない"っていう花で有名なんです。ほぼほぼ穀物のようなもよなんですけどね。」

 

「本当によく知ってるわね?」

 

「……たまたま海外に身を潜めていた時、この穀物を食べたことがあるんです。栄養価もあるからって現地の方に勧められて……」

 

"たまたまです"と呟けば視線を常守から花へと移す。

 

「でも、なんで……こんなところに……」

 

「また、花言葉などで、なぞかけのつもりでしょうか?」

 

雛河と須郷も相変わらずの芸に小さくため息を漏らす。

 

 

「……うーーん……」

 

舞白はヒョイッと花瓶を持ち上げ観察する。花瓶の底に触れ、何かがあることに気がつく。

 

 

「……花を隠すには、花瓶の中……」

 

「「!?」」

 

テープで貼り付けられた謎のチップのようなもの。その場にいたほかの3人は驚いたように目を見開く。そして、それを取り外すと、すぐにデバイスで中身を開く。

 

中身はギリシャ語で書かれた一言の文のみ。

 

 

「"人の魂は不滅です。ですが正しい者の魂は不滅であり神聖なのです。"」

 

「それは……ソクラテスの言葉よね?」

 

耳にしたことのある言葉に、常守が即反応した。

 

「はい。アマランサスの花言葉にかけてますね。この花の意味は"不老不死、不滅"―――」

 

「…ですが、イマイチよく分かりませんね。だから何だと……」

 

須郷の言う通り、ただのメッセージだ。これが示す意味はよく分からない。舞白は花瓶を戻し、じっと花を見据えていた。必ず何かがあるはず。彼らの今までのなぞかけの傾向などを思い浮かべる。

 

そして、ふとデバイスで花の詳細を検索し、ピンとくるものに気がつく。

 

 

「隠されてましたよ、まだこの花に。

……"誕生花"。アマランサスの示す日付は9月28日―――」

 

「なるほどね、宇和城琉の移送日、弟は気づいてる。」

 

「恐ろしいですよね、本当に。宇和城玲……兄以上に頭がキレる人物ですね。」

 

4人はその花が示すメッセージを解明した瞬間、室内に誰かが近づく足音が聞こえれば出入口へと視線を向ける。現れたのはキャンバスを手にした霜月と六合塚の姿。

 

 

「すみません、遅くなって……、でも手がかりになりそうなものを見つけました。」

 

「かなり力になりそうな手がかりよ。」

 

先程見つけた自画像らしき絵、そして途中で描くのを止められた建造物の絵。そして成城学園の校章らしきマーク。

 

舞白は並べられたキャンバスをしゃがみこんでじっと見据える。一点を見つめるように、何も喋らず、頭の中で何か計算しているようなただならぬ雰囲気を醸し出す。それを囲む5人は、もう慣れたその様子に黙って舞白を見下ろしていた。

 

 

知られている移送日、アマランサス、ソクラテスの言葉、ノナタワーもしくは公安局ビルの様なものが描かれたキャンバス、

 

 

そのキャンバスに描かれていた建造物は、何やら崩れ落ちるような、そのようにも見えていた。衝撃、爆発、それを示すような描かれ方……

 

 

舞白は、目が覚めたような、スッキリとした表情を浮かべ、5人に視線を向ける。

 

 

 

「だいたい予想が着きました。彼らの行動が―――」

 

 

 

頭の中で、沸き返った凄い泡のようなものがようやく静まる。

 

 

・・・・・・・・・

 

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