PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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逝って、還って

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

――9月27日 火曜日

佐渡海上市国立病院――

 

 

ガラス張りの集中治療室にて。ガラス面に2人の人影が映れば、1人はそっとガラス面に手を添え、もう1人は静かに横たわる宜野座を見据えていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 

沈黙する2人、しかし、それを打ち砕く一つの影。

 

 

「2人揃って、腕を持っていかれるなんてな。」

 

その言葉、声色には微かに棘が含まれていた。傍らで俯く妹の舞白は、先程、久々に再会を果たした兄に若干の気まずさを覚える。

 

「……ごめん。黙ってて。」

 

「いや。俺も連絡が取れないところに居たからな。……それに、俺の怒りの矛先はそこじゃないさ。」

 

ガラス面に背を預け、傍らの舞白に視線を移すと、無機質な右腕に触れ、眉を顰める。命は落とさなかったものの、やはり妹が傷つく姿を見るのが何よりも辛く、滅多に私情を挟まない狡噛でさえも、今回のこの件に関して、噛み付くような、骨を刺すような非寛容な瞳をしていた。

 

「お前は、何を考えてる?」

 

ふと、狡噛は舞白に問いかける。

 

「……明日で全部終わらせる。これ以上、彼らの好きにはさせない。」

 

「復讐なんて、考えてないだろうな?」

 

真っ直ぐと宜野座を見据える舞白の姿を見下ろす。しかし、舞白は苦笑すれば、視線を兄へと向ける。

 

「もう、そんなこと考えてないよ。大丈夫。私は成すべきことを成す。それだけだよ、お兄ちゃん。」

 

そう言いつつも、兄は知っている。土壇場で無茶をする癖は健在。だからといって、この事件から身を引けとも言えない自分に、声にならないため息を漏らせば、舞白の腕から手を離し、ガラス面に再びもたれ掛かる。

 

 

「感情に身を任せるな。それだけだ。」

 

「……うん。分かってる。」

 

「憎しみに囚われた人間ほど恐ろしいものは無い。お前が1番分かってるはずだ。」

 

「……」

 

ガラス面に触れる左手をギュッと握り締め、目を閉じる。

 

大丈夫だ。自分はもう堕ちるつもりはない。呪われた兄弟といっても過言ではない彼らの存在。決して許されない行動を起こした兄弟。憎しみに、復讐に襲われるその気持ちは、同じく狡噛兄妹も経験済みだ。だからこそ、自分は彼らを過ちを、これ以上起こさせないためにも正しくあろうと決意を固めていた。

 

 

「明日、お前の推測が正しければ、シナリオ通りの事件が起きるだろう。厚生省に秘密裏に移送される宇和城琉。……で、宇和城玲、弟が何かを起こすと。」

 

「……さすが、情報が早いね。朱さんでしょう?」

 

「あぁ。花城にも話は伝えた。あまりにも違和感がある内容だがな。」

 

「違和感?」

 

右に視線を向け、兄の言葉に首を傾げる。

 

「……考えてみろ。相手はプルトニウムを抱えてる。それに、密入国者、IDの偽造。俺たち外務省も全く関係が無いわけじゃない、それに国防省も絡んでもおかしくない案件だ。――なのに、厚生省は一向に外部へと要請を出さなければ、一切動く様子が無い。あくまでも、本管轄は刑事課一係……おかしいだろう。」

 

 

「それはずっと思ってるよ。私も。」

 

「……厚生省は何を考えてるのやら。」

 

危険はすべて一係に降り掛かる。狡噛は外務省の人間であるからこそ、無闇矢鱈に動くことはできない。

 

 

「いいか、舞白。この事件、彼らを拘束して終わり、なんて話じゃないだろう。危険を感じればすぐに身を引け。」

 

「そうしたい所だけど、お兄ちゃんの言う通り相手はプルトニウムを抱えてるんだよ?爆発すれば東京は1発で終わりだよ。」

 

狡噛は舞白へと体を向けると、グイッと両肩を掴み、引きつける。

 

「……過去に、お前も厚生省の機密機関に引き渡される予定だったことを忘れるな。もし、お前が縢のように姿を消したとすれば、俺はこの国を敵に回すだろう。」

 

「怖いこと言わないでよね、お兄ちゃん。」

 

とんとん、と兄の肩を叩くと眉を下げながら困ったように笑みを浮かべる。

 

 

「この大仕事を終えたら、すぐに外務省に合流する。約束だよ。……その頃には、ノブ兄もきっと目を覚ます。」

 

2人は宜野座へと視線を向け、互いに様々な思いを抱えながら、まるで臓腑を抉られるような葛藤を廻らせていた。

 

 

 

そして、2人は後ろ髪引かれる思いでその場から立ち去る――

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

誰かがずっと名前を呼んでいる。

遠くから、微かに聞こえるその声。

目の前は真っ暗闇で何も見えない、分からない。

 

 

体に感覚が戻らず、ずっともがき苦しんでいた。

 

 

 

何度も脳裏に浮かぶのは、コンテナに潰された彼女の姿。

 

彼女は言った。

 

"……絶対に捕まえて……、罪のない人を…巻き込んだ彼を……"

 

白銀の髪の毛は血で赤く染まり、弱っていく彼女の姿を見るだけで、気がおかしくなりそうだった。犯人を捕らえる、それが第一優先、監視官命令。しかしそれは出来なかった。体が勝手に動いたあの瞬間、後悔は全くない。むしろ、彼女が生きているならそれで良かった。

 

 

 

重い瞼を持ち上げると、目の前に少女が立ち尽くしていた。見覚えがあるその姿は幼い頃の舞白。顔を真っ赤にして泣きじゃくる。自分は呆然と立ち尽くし、ただそれを見据えていた。

 

 

すると、ひどく息苦しさを覚える。視野が急激に狭くなったような感覚、その状況に立っていられないはずなのに、ただただ立ち尽くし、目の前の泣きじゃくる少女を見つめることしか出来ない。時間が出口を見失って、同じところを永遠とループしているようだった。

 

 

 

「……ッ……舞白」

 

 

ふと、その息苦しさを振り払うように声を吐き出す。するとその瞬間、目の前の幼い少女は、姿を変え、宜野座の手を掴む。

 

白銀の長い髪。白い服をまとった彼女は、力強くその手を引き込む。

 

 

 

 

「還ってきて、お願い。…………」

 

悲痛な、切迫した口調。その表情は額に悲痛な曇を浮かべる。

 

 

 

「………………逝かないで――」

 

 

彼女の額が胸にぶつけられる。ドクドクと心音が波打つ感覚が蘇る。体に電撃が走るような、血が巡るような、熱を帯びるような。

 

彼女の声が、まるでトリガーのように。強い力を放つ。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

刹那、ピクリと、微かに右手の指が動く

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

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