PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
予測していた不測の事態
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―――9月28日 午後20時過ぎ
公安局 地下駐車場―――
常守、霜月、舞白。3人は一点を見つめる。
護送車に乗せられる拘束具を纏った少年。宇和城琉。
目元にはヘルメット型の目隠し、腕と手は後ろ手に組まされ、特殊な拘束具が使用されていた。唯一、脚と聴覚は自由になっている状況。彼は一切口を開くことも無く、大人しく護送車へと、厚生省特殊部隊の人間たちと乗り込む。
異様すぎる光景に、気味悪く感じる程だった。
3人の背後からコツコツと足音が鳴り響く。
「君たちがここに居るとは。……全く、優秀な分析官を置くと、それはそれで厄介だ。」
常守の横に局長が現れ、極秘のデータを盗み出した唐之杜を指していたものの、予想していた事なのか深く言及はされなかった。むしろ、計画通りなのだろうか?禾生の表情は微かに緩んでいた。
その様子に眉を顰め、冷静に口を開くのは常守。その様子を、静かに舞白と霜月は見守る。
「彼を逮捕したのは私たち一係です。槙島聖護の時も同じでした。念には念をですよ。不測の事態に陥ってからじゃ遅いですから。」
「……追うつもりでも無駄だ。該当ルートの道路は全て閉鎖。我々公安局の車両さえ近寄ることは出来ない。」
「分かってます。」
護送車の扉が閉まる。すると当たりを囲む警備車両が動き始めると、宇和城が乗り込んだ護送車も追うように動き出した。駐車場を抜けていく車両群。それを見送ると、禾生は踵を返し、舞白と霜月に一瞬視線を向ける。
「せいぜい、君たちの活躍を期待しようじゃないか?"不測の事態に陥った時"に―――」
バッチリと舞白と目が合えば、微かに口角を持ち上げる。その眼光はまるで獲物を狙う鷹の様に鋭く感じていた。
スっと横切ると、そのまま禾生は姿を消す。
3人は無言でその姿を目で追った後、同時に目を見合わせればこくりと頷く。
「通常業務は三係に任せてるわ。私たちは、起こるであろう"不測の事態"に備えます。どのような動きをするか分からない以上、作戦に沿って、それぞれが正しいと思う判断を冷静に行うまで……。」
常守はそう口にすると、舞白へ視線を向ける。
「舞白ちゃんに関しては特に気をつけて。分かってると思うけど…。本来ならここで待機と伝えたいけど、残念ながらその余裕もないわ」
「何度も聞きましたよ、その話は。……どこに居たってリスクはつきものですし、宜野座さんがいない分、せめて頭数を増やさないと、一係全員が危険な目に合う可能性が高くなりますから。」
"気にしないでください"と呟けば、隣の霜月が舞白の左腕を掴み、グイッと引っ張る。
「大丈夫ですよ、先輩。無茶しないように、私がしっかりストッパーとして働きますから。」
「うん。ありがとう、美佳ちゃん」
すると3人は監視官のジャケットを翻し、準備を進める。
来る"不測の事態"に備えて―――
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目元に冷たい無機質な感触。ズシッと重い鉄の塊が顔半分を覆えば、目の前は何も見えない。微かに、唯一機能するのは聴覚、そして脚。揺れからして車移動なのは間違いない。公安局の護送車は目にしたことがある、広さも把握していた。
車内に居るのは、恐らくは7人。運転手、助手席に1人。そして両隣と、向かいに3人―――
頭の中で自分の置かれている状況を冷静に推測していく。微かに使える聴覚を頼りに、空間から何から何まで感覚を研ぎ澄ませる。
「……っ……ゲホッ……ゲホッ……ぐ……」
刹那、急に体が熱くなるような感覚に陥ると、鉄の味が口に広がる。その場で口から血を吐き出せば、車酔いをしたような酷い気分の悪さに襲われてしまう。
グラッと上半身が大きく揺れると、両隣の護衛が体を掴み壁に体を押さえつける。
「―――ッ――――――!」
「―――!」
言葉は聞こえないのに、何故か何を言っているのかが分かってしまう。
あぁ、そうか。別に自分は死んでも構わない人間だ。血を吐こうが、死にかけようが、この移送が何の目的なのかは不明だが、自分の命はどうでも良いらしい。
血なまぐさい臭いが鼻にまとわりつく。気分が悪い。出来るのであれば横になりたいと願う程に。
「((……いよいよ、俺もここまでか―))」
自分の身体のことは自分が一番分かっている。段々と命の灯火が消えていくような感覚が、不思議と体の奥底から湧き出てくるのであった。
……狡噛舞白。あの女が言っていた内容は本当なのだろう。偽装とも考えたが、あの女の表情を見る限りそれは違う。
"私は、敵を倒した者より、自分の欲望を克服した者の方を、より勇者と見る。自らに勝つことこそ、最も難しい勝利だからだ。"
流暢な英語でそう言い放った彼女の顔が忘れられない。彼女が放つ言葉には色を感じていた。自分が持つ特異の共感覚。見誤ったことは今まで1度もない。色と言っても、不思議なことに"真っ白"なのだ。無垢で儚い、彼女の色は言い表せないほど真っ白―――
「……盲目の、正義の女神、テミスだ」
ボソッと呟いた言葉。そして、琉は妖しげに口角を持ち上げる。
突如、体が大き揺さぶられる、いや、正確には落ちていく感覚。微かに耳に飛び込む音は轟音、爆発音だろう。琉の体を押さえ込んでいた力強い腕の力が離れる。
「…………ッぐ!!」
そのまま強く体を打ち付け、しばらく体は怯むも、どうやら頭、顔半分を覆ってくれているヘルメットのお陰で命は救われた。しかし、体全体が酷く痛めば、胃液が逆流する感覚に襲われていた。
「……うッ……ぇ……」
膝をつき、頭を床に擦り付ける。するのその瞬間、頭を覆っていたヘルメットのロックが解除されると、ズルっと頭から抜け落ち、視覚と聴覚が自由になる。
凹んだ車体、護送車の扉は隙間が開いており、微かに熱気を感じる。どうやら、爆発で車体がどこからが落下し、火災が発生している様子。護衛たちは全員息絶えており、琉が生きていることは奇跡だった。……いや、おそらく計算されていたのだろう。これを起こした人物なら、そこまで計算することは容易いはずだ。
後ろ手に組まれていた拘束具もロックが解除されれば、完全に自由の身に。そして、運転席の方から、何やら通知音が聞こえると、隙間から抜け出し、前方の運転席へと向かう。既に車体の左側は火に覆われており、護送車を護衛していたであろう車両も派手にひっくり返っていた。
運転手の胸ポケットに入れられていたデバイスの通知音が鳴り響く。直ぐにそれを手に取り、応答すれば聞き覚えのある声が耳に飛び込む。
『兄さん。作戦通り……助けに来たよ。』
「玲……」
『一緒にこの世界の真実を、父さんが作り出したこの世界の秘密を。そして復讐を遂げる瞬間を、闇に覆われる瞬間を特等席で見ようよ?』
「……あぁ、そうだな。」
琉は服にまとわりついた砂埃を払うと、目線の先の地下水路へと繋がるであろう怪しげな扉を目にする。赤いロックのランプが点灯していたが、その瞬間、そのランプは青色に変化し、ロック解除された事を告げる。
『ルートは確保してる。追っ手が来る前に早く』
玲の誘導通りに駆け出す琉。
真実を目にする為にも、その足を止めることは無かった。
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湾岸方面に向かう首都高速道路の一部が崩壊。封鎖されていたはずの道路に無人の大型トラックが現れれば、護送車列に前後から突っ込み、大爆発を起こした。
宇和城琉を移送していた車両は派手に落下し、現在は炎に包まれていた。運転手、護衛にあたっていた人物、計7名の死体。しかし、宇和城の姿はそこに無かった。死体も、何も。
唯一残されていたのは、何故かロック解除された拘束具。明らかに外部からの攻撃と、琉を逃がすための工作に間違いない。
そしてまたしても、近隣の防犯カメラやスキャナーは乗っ取られ、全くもって状況は分からなかった。
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唐之杜からの情報を聞きつけた一係は、待機していた車両へすぐに乗り込み、彼らを追う。
「不測の事態。本当に起こったわね、舞白」
「…………予想通り。」
執行官を乗せた護送車両、運転席には霜月、助手席には舞白の姿。そして常守はその護送車を牽引するように、前方をパトカーで走り抜ける。
『彼らの目的地へ急ぎましょう。恐らく、彼らは既に辿り着いてるわ』
落下した護送車の傍らの地下水路へと続く扉。何故かロック解除された痕跡があり、明らかに誰かがその道を使っていると予想していた。簡単に、公安局ビルにハッキングを仕掛けたり、渋谷に特殊な電波網を張った人物ならば、そんな事容易いだろう。
『彼らは、今夜決着をつけるつもりよ。……絶対に、彼らの思うようにはさせません』
常守の決意に満ちた声色。それに賛同するように、それぞれが返事を返す。そして舞白も言葉を発する。
「彼らが最初に残した"罪と罰"その言葉を、そのまま彼らに返します。」
"自分の犯した罪を償うべく、最後は自身を罰へと貶める"
思い入った決心を眉に集めたような表情とともに、グッと膝の上に置いた手を握りしめる。左手は込められた力により白く染まり、右手はギチギチと無機質な音を鳴らしていた。
目の前に見えるのは厚生省シンボルタワー
通称"ノナタワー"
ホロで覆われたこの都市の象徴でもある、異様な雰囲気を漂わせる建造物。今夜は何故か、その煌びやかさが気味悪く映っていた、
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