PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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向けられた銃口

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

「シビュラシステム―――」

 

 

その空間を一言で表すなら"異空間"と呼べば良いだろうか。目の前に広がる光景に、舞白はゴクリと息を飲む。6年前、槙島から告げられたシビュラシステムの真実―――

 

表向きでは、大量のスーパーコンピューターによる並列分散処理が行われている事になっているシビュラシステム。

 

しかし真の姿は"人間の脳"そのものだということ。そしてその脳は「免罪体質者」のもの。

 

人間は誰しも間違いや勘違いがあるように、必ず理解できない人間が存在する、それが免罪体質者。

 

 

シビュラシステムは、「理解できない存在である免罪体質者」を取り込み理解の幅を広げていた。

 

まるで稲穂が生い茂っているような、床一面の"不言色"。そこから、透明のケースに入れられた人間の脳が現れる。クレーンゲームのように運ばれては、床に消え、まさに異空間だった。

 

 

舞白は握っていたドミネーターを腰に戻し、2人の背後へとゆっくりと近づく。2人は視線を前に向けたまま、微動だにしない。

 

 

 

「成しうる者が為すべきを為す。これこそシビュラが人類にもたらした恩寵である―――」

 

「ふざけた運用理念だな。」

 

宇和城兄弟はそう口にし、深いため息を漏らす。

 

 

「これが、僕たちを苦しめた元凶。…父さんはこの国に貢献したのに、国に見捨てられ、母さんも死んだ。」

 

 

 

 

「―――だからって、無作為に人を殺すのは間違ってるわよ」

 

舞白は今までの事件を振り返る。

プルトニウムの強奪により命を奪われた、経済省の職員。未遂には終わったものの、何千人もの人間が死ぬ可能性があった新宿のホールでの薬物テロ。…そして、複数の若者たちが命を落とした渋谷の爆破テロ。傷ついた宜野座、そして自分も腕を持っていかれ、苦痛を味わった。

 

たとえ、彼らが今までどんな苦悩を、地獄を味わってきたとはいえ、無関係な人間達を巻き込んだのはお門違い。猟奇的で、愉快犯にも見られた彼らの行動は決して許されない。

 

 

しかし同時に、彼らは利用されているという事実に、胸を痛める自分も少なからず存在していた。

 

元から純粋で優しい2人だったのだろう。だからこそ染まりやすく、上手く利用されたのだ。

 

「…汝自らを知れ」

 

琉はぼそりと呟く。その言葉を耳にした舞白は、背後から2人を見据えたまま、そっと口を開く。

 

 

「あなた達が最初に送ったメッセージ。"汝自らを知れ"。あれはあなたたち自身に向けられたものだったのかな?」

 

「…ここが神の領域だと言いたいのか?」

 

「こんな所でその言葉を使うものだから。アポロンの神殿の入り口に書かれていた、その言葉そのものを解釈したのかと思ったのよ。」

 

「随分な皮肉だな。…俺たちの手に、この国の生死が握られているというのに―――」

 

 

そもそもこの言葉は、アポロン神殿の入口に刻まれていたもの。本来の意味は、「入口前までは人間世界だが、この入口を通った先は神域である」、という警告であり、神殿に入るにあたって心身を正しなさい、という意味であった。

 

 

「決して人間の精神や思考は完全に理解できないんだ。こんなものを作って、人を数字や色を通して、理解したように感じる。所詮、数字は数字、色は色でしかないのに。」

 

玲が言い放った言葉には、やけに既視感を覚えていた。目の前のこのユニット達を前に、汝自らを知れ、の言葉の意味とともに皮肉めいた言葉を吐き出す。

 

「故に、自分自身を完全に知るなんてことも考えられない。この言葉は、人間の理解という大きな理想を語ったものでは無い。普段の生活を送る中で、自分が立ち向かうところの人間的性質の諸相を知るということ。」

 

 

「…"自分の無知を自覚し、自分の心を高めるように励め"…あなた達はそう言いたかったんでしょう。」

 

 

舞白の言葉に2人は振り向けば、口元に弧を描く。

 

 

「このシステムに飼われた人間たちは、実に哀れだと思うよ。結局、本当の自分なんて分からないんだ。表面上の数字、色…。それに惑わされた結果、染まりやすい若者は簡単に俺たちを神格化した。」

 

舞白はキッと2人を睨みつける。

 

 

「お陰で、あの渋谷の事件は大成功だったよ?君たち公安局のサーバーを逆手にとって、厚生省の様々なデータを盗み見することができたんだ。そして、この国の真実にたどり着いた。」

 

 

「……それが狙いだったのね。なのに、あんな殺戮を―――」

 

 

頭に血が上る感覚と同時に、ズキズキと頭痛に襲われる。気だるそうに顔を歪ませれば、目の前の2人は舞白へと体を向ける。

 

 

「あなたも、そんな体になってまでこの国に仕えるなんてどうかしてるよ。…本当なら、あの一部になっていたんですよね?狡噛さん」

 

何もかもお見通し、彼らが握っている情報は計り知れない。舞白は体勢を立て直すと大きく息を吐き、痛みを逃がそうと集中する。

 

「……僕たちが終わらせる。この歪んだ世界を、ぶち壊すんだ」

 

ふと舞白は玲が上着のポケットに手を入れる瞬間を見逃さなかった。"何かある"、確証はないがそう感じていた。そして舞白は声を張り、2人に言葉を投げかけた。

 

 

「ふざけた事を言わないで!…それでも私は、この世界を信じてる。だから、よりよい世界を創ろうとした、過去全ての人達の祈りを、あなた達のお父さんが成し遂げようとした思いを…無意味にしてしまわないために」

 

微かに兄の琉の表情に困惑したような、悔恨の色が表れる。

 

 

「私もこのシステムを全て肯定出来るほど寛大じゃない。でも、楽観だろうとこの世界を諦めたらダメなの。…法を守り、その先を選択して実現していく。そして、間違えたらダメなのは社会が人の未来を選ぶということじゃない。人が社会の未来を選んで、切り開いていくのよ。」

 

左首に添えていた手を離せば、鋭い眼光で2人を睨みつける。

 

「―――宇和城琉、玲。あなた達をここで逮捕します。」

 

 

刹那、駆け出す舞白。

監視官ジャケットが大きく翻り、2人との間合いを詰めていく。

 

狙うは弟。彼が何かしらプルトニウムに関わるものを手にしていると考える。

 

 

 

「((…兄はダメージを負ってる。今なら一気にいけ…))」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『執行モード ノンリーサル・パラライザー―――』

 

暗闇に包まれた入り口の奥から微かに機械音が聞こえる。

 

 

 

 

『… 落ち…つ―いテテテテテテ…ショウジュンンンンン――ガガガ―』

 

舞白はふとその瞬間、暗闇の奥底に視線を向ける。微かに見えた、怪しげに光る青い瞳が2つ。そしてドミネーター特有の光り。ドミネーターの音声に違いないが、様子がおかしい。誰だかは分からない。しかし、間違いなくあの暗闇の中で何者かがドミネーターを握っていた。

 

しかし、不可解なのだ。舞白も宇和城兄弟もドミネーターは作動しないはず――

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、青い光線が放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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カタカタと分析室に響き渡る音。唐之杜は手を止めることなく何十分もジャミング解除へと邁進していた。そして、目の前のモニターに"Access"、"ONLINE"と表示されると、安堵のため息を漏らし、全員に連絡を入れる。

 

 

 

「よし、やったわ!ダンゴムシのお陰で内部からの強力なジャミングは解除よ。早速、舞白ちゃんの居場所、通信再開―――」

 

 

舞白のデバイスの位置情報を探るも、一向に何も現れない。その不気味な現象に既視感を感じていた。地下に向かった痕跡は見つかったが、それから先の情報が掴めない。電波暗室の影響だった。

 

 

『志恩さん!舞白ちゃんは…?』

 

常守はすぐに反応し、唐之杜に問いかける。一係全員が唐之杜の言葉を待ち続けていた。

 

唐之杜はタバコを灰皿に押し付け、椅子から立ち上がればモニターに食い入るように目を凝らす。

 

 

 

「…見つからない」

 

『見つからない?どういう事ですか?舞白は?』

 

「地下まで行ったのは確か。…でも、底から先が―――」

 

 

 

常守と霜月は目を見合わせる。

"地下"という言葉に、慄然として、唾をのんだ。

 

 

「((…まるで、縢くんの時と同じ、どういう事―――))」

 

 

かつて、縢も同じ場所で消息を絶った。

六合塚もその時のことを思い出せば、眉を顰める。

 

 

 

『……こうなったら、私だけでも中へ―――』

 

 

常守はドミネーターに触れ、ノナタワーを見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると刹那、一係全員のデバイスが一斉に鳴り始めたのだった―――

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

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