PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
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放たれた光線、それは誰を的としているのかは分からない。ただ、その光線が、まるでスローモーションのように飛び込んでくるのが分かる。目を見開き、体は勝手に交わそうと身を捩ろうとする――――
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「僕と、この世界を壊さないか?」
―――あぁ、あの時。
シビュラの正体と共に、彼らの狙いを、知らされた時。
月明かりが槙島を照らす。薄暗い空間でキラキラと光を反射する白髪。
その光景がやけに男を神格化させているような感覚に陥りそうになる。
「僕達は公安局に捕まれば体諸共消され、脳だけ取り除かれるだろう。そしてつまらない審判員として一生を全うする―――」
「そんな世界、つまらないと思わないかい?」
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「―――ッ!?」
舞白の着ていたジャケットを思いっきり引かれ、そのまま床に投げ飛ばされる。その反動で、不言色に染まった、生暖かい浅い水辺に転がると何が起こったのか全く理解できなかった。
体をゆっくりと起こし、ピチャピチャと結い上げた白髪から水滴が垂れ落ちる。そして視線を宇和城兄弟の方向へと向けると、舞白は目を見開いた。黒髪の青年がフラフラと体を仰け反らせ、顔は天を仰いでいた。
同時に弟の悲痛な叫び声が響き渡る。
「に…っ…兄さん!!!兄さぁぁぁぁぁぁん!!!」
「……ッ…」
パラライザーを食らったのは、恐らく兄の琉だろう。しかし、意識はまだあるようだった。普通ならばその場で気絶する。おそらく、何か薬を服用していたのだろう。もともと短命であるとされている彼らの事だ、なんら不可思議なことでは無い。
舞白はぼんやりと歪む視界で、遠くの入り口へ視線を向けるも、誰の姿も見当たらない。しかし、誰かがあの場所からパラライザーを撃ち込んだのだ。狙いは、恐らく―――
「((…私を狙ってた。宇和城兄弟に襲いかかろうとしていた瞬間を狙って―――))」
立ち上がろうとするも、ズキズキと首から頭にかけて酷い痛みに襲われる。膝を着いたまま、左手で頭を抱えるように触れ、深く息を吐く。
「なんで、…なんであの女を守った!?どう見ても、あの光は兄さんを狙ってたわけじゃ…」
「はぁ……ッ……ゲホッゲホッ……」
その場に倒れ込む兄を、弟は必死に呼びかける。離れた場所からでも分かる、赤い液体が彼の口から吐き出されていた。その液体は濡れた地面に染め広がっていく―――
「…………」
琉は微かに頭を動かし、視線を舞白へと向ける。その瞳からは段々と生気が失われていく。
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"よりよい世界を創ろうとした、過去全ての人達の祈りを、あなた達のお父さんが成し遂げようとした思いを…無意味にしてしまわないために"
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彼女は、全てを話してくれた。尋問室で自分たち兄弟は騙されているんだと。…薄々、自分も全く疑わなかった訳では無い。でも、父と母のために、自分たちは"お父様"に従い、復讐を誓ったんだ。純粋にお父様を慕う弟を、そして自分もそうであろうと、どこかで自身を消し去っていたのかもしれない。
ここまで来たなら、死んだ兄弟達の想いも無駄にしない為にも、できることは全て成し遂げてやると。自暴自棄になっていたんだ。
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"敵を倒した者より、自分の欲望を克服した者の方を、より勇者と見る。自らに勝つことこそ、最も難しい勝利だからだ"
"復讐は復讐しか生み出さない。本当の復讐は自分が同じ行動を起こさないこと、許すことは復讐に勝る"
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彼女の言う事は正しい。間違っていない、その通りなんだ。最愛の恋人を目の前で悲惨な目に合わされても、彼女が自分を見る瞳に、憎しみや怨念、復讐心に濁ったものは何一つ映っていなかった。真っ直ぐと、自分と向き合ってくれていた。
不思議と彼女の言葉を聞くと、ふと揺さぶられてしまう。自分の行動はやはり間違っていたのでは?と
でも、後戻り出来ない、したくない、できない――重苦しい飄々とした気持ちが伸し掛る。
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聞こえたんだ。彼女を狙っている銃口の音。あれは間違いなく、俺たち兄弟に向けられていた銃口ではない。足音、あの暗闇の入り口の奥底から、微かに鳴った不気味な機械音。あの不思議な気配は…おそらく人間ではない。俺の人間離れした聴覚は、そう判断した。
だったら、せめて。この曖昧な、自分の憐れな思いを、そんな彼女に託してみたくなった。この状況で、彼女はどのような行動をとるのか―――
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「……玲…、すま…、ない。」
視線を弟へと戻す。倒れた兄の手を握り、唇をかみ締めていた。段々と暖かさを失っていく感覚。兄から色彩が失われていく―――
「…兄…さ…」
「わかってた、だろう?…俺は……もう長くなかった…」
いつもは穏やかで、幼い様子の弟。しかし、今は違う。瞳の中の赤い血管まではっきり見えるような、怒りに狂った表情を浮かべていた。
「…僕に任せて。僕が、全部引き受ける。終わったら、また迎えに来るから、兄さん―――」
玲は兄の琉の頬を撫でると、その場から立ち上がる。そして、傍らで苦しそうに眉を顰める舞白を睨みつけると、妖しげに笑みを浮かべる。
「兄さんを撃った奴もどうせ死ぬ。…そして、僕たちを必死に追いかけていたあなたも、時期に核爆発で死ぬんだ。」
「……っ…」
「この国の最後を見届ける最高のステージに。…ま あなたはその様子だと追って来れないでしょ?」
玲はそう言い残すと、足早にこの空間から姿を消す。舞白は、なんとかその場から立ち上がれば、ふらふらとした足取りで琉の元へと向かう。
傍らに座り込めば、既に青白くなった琉に視線落とす。するとその気配に気づいたのか、美しいオッドアイが開かれる。
「…なんで助けたの?」
「………」
「私が倒れれば、全てシナリオ通りに進んだはずでしょう…?」
「………正義の女神、…テミス。そう言った…だろ…」
尋問室で口にしていた、盲目の、正義の女神テミス。
その女神が手に持つ天秤は正邪を測る"正義"を、剣は"力"を象徴する。
"剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力"に過ぎず、正義と力が法の両輪であることを表し、盲目の彼女は前に立つ者の顔を見ないことを示し、法は貧富や権力の有無に関わらず、万人に等しく適用されるという"法の下の平等"の法理念を表していた。
「…法を守り、その先を選択して実現していく…間違えたらダメなのは、社会が……人の未来を選ぶということじゃない…、ッ…人が社会の未来を選んで、切り開いていく―――」
「………」
「あなたのその言葉、……信じてみたく、なったんです…」
再び激しく咳込めば、さらに血の塊が溢れ出す。舞白は、そっと手首で脈を確かめるも、険しい顔を相手に向ける。…もう彼は―――
「……所詮、カストルは人間の子供……、死ぬ運命…だった…
……俺たち…は、…兄弟……は―――」
その瞬間、彼の瞳から光が消滅する。青い瞳はまるで陶器のように、やけに不気味な光沢を放ち、茶褐色の瞳は真っ暗な闇を映しているようだった。その瞳を見つめていると吸い込まれそうな感覚に陥る。そっと手で瞼を閉じる。不言色のこの空間が、やけにあの穀倉地帯を思い出させる。穏やかな稲穂の中で眠るように息を引き取る。
「………宇和城琉…。」
この少年は憎むべき人物だ。人々を無差別に惨殺した張本人。自分の腕を、そして宜野座を……奪ったんだ。
しかし、不思議と怨みきれない。これは槙島と同じ時の感情だ。あの男も親友を殺した。そして、自分に複数の傷跡を残した。
「あなたたち兄弟のシナリオ通りにはさせない。」
理性と本能が真っ向から対立していた。しかし今は、あの弟を追わなければならない。自分に銃口を向けられた事は二の次だ。相手は誰だか分かっていた。
「……シビュラシステム。あなた達はこの先のシナリオがどうなるか分かってるはずよ。……神のみぞ知るその結末に、私がピリオドを打ってやる。」
舞白は彼を追うように駆け出す。
もう、これで終わらせてやる――――――
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