PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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神の子

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ノナタワー 地下4階―――

 

 

電波暗室を抜けた瞬間、舞白のデバイスが息を吹き返したかのように"ONLINE"と表示される。おそらく、ダンゴムシを経由して、唐之杜が電波を奪い返したに違いないと安堵の微笑を浮かべた。

 

舞白は足を止めることなく、ここまで駆け抜けた。激しく体力を消耗すれば、頭痛が酷くなるばかり。もちろん薬を持ち合わせておらず、眉を顰めれば深く息を吐き出す。

 

 

「((…とにかく、全員に状況報告を―――))」

 

地上1階までエレベーターに乗り込み、再びエントランスへと戻ってきた舞白。

相変わらずシャッターは下ろされており、不気味なほど静まり返った空間だった。

 

宇和城玲はどこにも居ない。しかし、必ずこの建物の中にいることは違いない。おそらく向かう先は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら狡噛です!…聞こえますか!?…狡噛―――」

 

一係全員へと通信を繋げばそれぞれの顔が映った映像が表示される。その中でも豆鉄砲を食らったかのように驚いた表情を浮かべていた霜月は、舞白の声を遮るように声を上げる。

 

 

『舞白!!あんた、無事で…』

 

ホッと安堵の表情を浮かべる面々。それを見る限り、かなり心配をかけただろうと、舞白は自負していた。

 

 

『通信感度も良好よ。うちのダンゴムシが頑張ってくれたわ。…それで?中の状況は?』

 

唐之杜は嬉しそうに笑みを浮かべる。そして、舞白の返答を全員が待ち続ける。舞白は悔しげな顔を一瞬浮べるも、小さく息を吐くと、じっと全員を見据える。

 

 

 

「…宇和城兄は死亡、弟の玲は最後の切り札を使うためにこの建物内のどこかへと消えました。」

 

『死亡…?』

 

「はい。…もともと、彼らは短命ですから。様子を見る限り寿命かと。」

 

常守の問いかけに舞白は落ち着いて返答する。しかし細かく話さない彼女に常守はきっと"何かあった"と察していた。

 

 

「…とにかく、これからが修羅場です。唐之杜さん。公安局の権限で、このタワー内の全ての監視カメラ、システム諸々、チェックできますか?電波が回復したならラボに支援さえすれば可能ですよね?」

 

聞き覚えのあるやり取りに、唐之杜は微かに笑みを浮かべる。かつての狡噛兄と同じ様子に、常守も同じ事を考えていた。

 

 

『厚生省は一応上位組織…裏口使ってなら……』

 

勿体ぶるような事を口にするが、その瞬間ニッと口角を上げる。

 

『なーんて。今はそんな状況じゃないわね?…朱ちゃん、責任問題とかになったら宜しく頼むわよ〜』

 

『責任は全て私が取ります。問題ありません、志恩さん。』

 

『フフっ、オーケーよ。やっちゃいましょ。』

 

カタカタと手馴れた手つきでキーボードを操作する唐之杜。危険な状況は変わりないが、希望が見えてきたこの状況に全員が高揚していた。

 

 

「すぐに皆さんの助けが欲しいのは山々ですが…あの様子だと、まだ無闇に動くのは危険だと思います。宇和城弟はかなり気が立ってましたから…」

 

『こっちからも色々試してるところよ。六合塚さんが相手に察知されないような穴がないか探ってる最中よ。雛河も須郷さんも、すぐに援護できるように動いてもらってるわ。』

 

「へへへっ…ありがとう、美佳ちゃん。…皆さんも―――」

 

舞白の妙な様子に気づく常守と霜月。地下で見たもの、起こったもの、恐らくそれは彼女にとってかなり負荷のあるものに違いなかったと察知する。

 

 

「…絶対にこの国を、世界を終わらせたりしません。」

 

決意に満ちた瞳。通信はそのまま、舞白はエレベーターがあるであろう場所へ走り向かうと、唐之杜からの返答を待つ。

 

 

『…見つけたわよ〜…、ポルックス君。最上階のエレベーターを降りて、アンテナ区画に直行―――』

 

監視カメラに映された彼の姿。落ち着いた様子で、最上階のエレベーターを降り立つ姿がハッキリと映っていた。

 

 

『多分、エレベーターはロックされてる。…でも、私の過去の経験からだと…』

 

通常の一般エレベーターは案の定ロック。さすがに最上階まで階段で登るなんて事は不可能だ。

 

 

 

『やっぱり、ここは動いてるわ。ドローン運搬に使う業務用特殊エレベーターはタワー中央とは別系統。現在も稼働中よ!』

 

「了解です、ルートのナビをお願いします!」

 

『オーケーよ!任せなさい。』

 

 

テンポよく進む会話に、全員が頭に浮べること、彼女に任せるしかない。託すしかないと―――

 

 

「一旦、全員の通信は切りますね?何かあればすぐに唐之杜さん経由で伝えます。」

 

 

 

『分かったわ。…気をつけてね、舞白ちゃん』

 

『…頼んだわよ、舞白。』

 

『いつも危険な役回りばかり…ごめんね。』

 

『す…、すぐに支援できるように…頑張ります…』

 

『突入指示があれば、すぐに自分が助けに行きます。』

 

 

常守、霜月、六合塚、雛河、須郷―――

それぞれが舞白に言葉を残せば、舞白の顔に微かに笑顔が浮かぶ。

 

 

この3ヶ月間、監視官補佐の自分を迎えてくれた刑事課一係。異様な経歴を持つ自分を特別扱いする訳でもなく、ひとりの人間として支えてくれた。…そして、宜野座も―――

 

身を呈して、自分の命を救ってくれた。

 

そんな仲間たちに恵まれた事、日本に帰国して良かったと改めて実感していた。

 

 

こんな所で、身勝手なことをする彼らに負ける訳には行かない。

 

 

 

「この事件、全て終わらせます。」

 

 

舞白はルート通り、貨物専用のエレベーターへと乗り込み最上階へと向かう。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

赤い螺旋階段を登っていき、建物の頂上へと向かう。通常の高層ビルとは大きく構造が違い、正確にはこの建物に屋上というものは存在しない。壁はホログラムで覆われており、誰かに身体を押されれば、あっという間に地上に叩き落とされるだろう。

 

螺旋階段を登った先は、微かに外の風、冷気を感じる。地上90階以上の超高層タワーからの夜景。下界の燈火を反射して、ぼうっと潤いを帯びた黒い夜空には、星の姿は見えない。夜空の向こう側の宇宙の中身すら、何も見えず、ただぼうっと光が反射した闇が見えるだけ。

 

天井は覆われておらず、気持ちのいい外気が入り込む。

 

 

しかし、外の音は聴こえず、まるで深海にいるようだった。

 

玲はゆっくりと瞼を閉じて、深く息を吸い込む。少なくとも、故郷の空気よりも澄んだ美しい空気に心地良さを感じていた。煩わしい喧騒からも解放され、無の時間が過ぎて行く。

 

 

 

「……………」

 

 

 

"色彩(いろ)が視える"

 

キラキラと、光の粒が落ちてくる、白磁色の細々とした、結晶のようなものが視える。

 

瞼を閉じたまま天を仰ぐと、宙から父と母が手を伸ばしているような気がした。

 

「…兄さんも、そっちに無事辿り着いただろうか―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、背後から気配を感じる。

 

真っ白な、無機質な音。兄なら、どう例えただろうか?

 

 

 

 

「……エレベーター、止めたはずだったのに。よく辿り着いたね。」

 

恐らくは10mは距離はあるだろうか。離れた場所で足音が止まる。

 

 

「貨物用のエレベーターは動いてたの。もしかしてワザと?」

 

玲は瞼を持ち上げると、ゆっくりと背後へと体を向かせる。ここまで追い込んできた白髪の少女。眉を微かに顰め、炯々とした眼光で真っ直ぐと睨みつけてくる。獲物を狩るような瞳からは不思議と殺意のような、残酷なものは映っていないように感じていた。憐れみのような、寂しげな印象を受ける。

 

 

 

「シビュラシステムの真実。あなたのお父さんが関わったであろうこの国のシステム…。まさかそれが、人間の脳によるアナログな方式で管理されていた。それを知って、あなたは何を思ったの?」

 

「…くだらない。それだけだよ。」

 

「………………」

 

「枠にハマらない、俗に言う"免罪体質者"ってやつの集合体、でしょ?そしてそれはあなたもそうだった。狡噛舞白、だからあなたは狙われ続けていた。」

 

彼は全てを知っていた。血眼になって、あらゆる手段を使って調べ尽くしたのだろう。

 

 

「そんな社会、守るに値しないでしょ?…こんなものがあったから、父さんは殺された。…上手いように使われて、兄も死んだ、そして僕もあとすこしで寿命だった。」

 

玲は右手をポケットに入れると、何かを手に取る。そのままポケット空手を抜き取れば、手の平に収まるほどの"何か"が握られていた。

 

 

「笑っちゃうよね?神の子の"ポルックス"だなんて名前を与えておいて、結局僕も死ぬんだ。……分かってたさ、初めから、僕達はただのコマだった。」

 

舞白は彼が握る何かに意識を向けつつも、相手の話へと耳を傾ける。

 

 

そして同時に、左手のデバイスに微かに触れる舞白。そっとその仕草を見られないように、慎重に操作していた。

 

 

「僕はね。父さんと母さんと兄さん、…消えていった兄弟の為なら何だってできた。爆発物の製造も、高度なクラッキング、ハッキング技術も…。投薬も人体実験も、なんだって―――」

 

段々と表情が歪んでいく玲。

幼く、陽気で、小悪魔的な彼の表情が、闇を含んだ笑みへと染まっていく。

 

そんな彼をじっと見据え、舞白は問いかける。

 

 

「……爆発物はどこにあるの」

 

玲は妖しげな笑みを浮かべたまま、舞白と視線を交えていた。

 

 

 

 

すると、玲は左腕を軽く折り曲げ上へと向けると、人差し指を空へと指す。

 

 

 

 

 

「空だよ」

 

 

 

玲がそう言い放った瞬間、舞白のデバイスに映像が届く。映っていたのは無数の点々とした光の数々、この東京の街を空から映しているような映像だった。

起爆物に取り付けられたカメラ映像。ぷかぷかと浮遊している様子だった。

 

そして右手に握られた物を見せつけるように舞白に向ける。

 

 

 

「これは起爆スイッチ。僕がこのまま親指を押し込めば…ドッカーーーーーーン!!!だよ?」

 

 

「…………」

 

 

彼の右手にこの世界の全てが握られている。

 

舞白はゴクリと唾を飲み込み、深く息を吐く。

 

 

「大昔、ヒロシマに投下された原子爆弾"ウラン原爆"。そしてナガサキに投下された原子爆弾"プルトニウム原爆"。…歴史が排除された今のこの日本の人間たちは知らないだろうね?」

 

「いいえ、知ってるわ。…知らなければならないことよ。そして、それがどれだけ日本の歴史に刻まれているか、私は知ってる。」

 

 

舞白はそっと義手の右腕を動かせば、腰のドミネーターに手を添える。

 

 

 

「…この方法を選んだのはお父様だ。…僕たちの故郷、パールハーバーの悲劇の報復だとね。」

 

 

「"お父様"はそれを望んでいるとしても。あなたたち兄弟の本当の父親と母親はそれを望んでいないはずよ――」

 

ギュッとドミネーターのグリップを握りしめる。

 

 

「今まで、私たち人類は様々な間違い、過ちと失敗を行ってきた。…でもそれは、私たちが前進するための試練でもあり、……希望でもあるのよ!!私はそれを諦めない。」

 

 

 

 

その瞬間、息を吸い込み右腕を大きく動かせば、同時に勢いよく駆け出す―――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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