PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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見えない敵、

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

玲の親指がスイッチへと触れる。

ここで、全て終わる――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

突如、玲の目の前に飛び込んできた鉄の塊、ドミネーター。勢いよく回転しながら、玲の右肩辺りに命中すれば、反動で起爆スイッチが床へと転がる。

 

そして同時に、体当たりをする形で、舞白の体が玲の体を突き飛ばす。コロコロと転がるスイッチ。見た目でしかないが、おそらく強く押し込まないと起爆はされないだろう。多少の力が加わっても問題ないはずだと判断していた。

 

 

「((ッ…この女……恐ろしくないのか!?))」

 

普通の人間ならこんな簡単に突っ込んでくるはずがない。ましてや、このスイッチひとつでこの国は終わりを告げるというのに、恐ろしくないのか?と

 

…そうだった…、この女は、なにもかもが規格外な奴だったと、玲は唇を噛み締める。そして2人の視線は同時に起爆スイッチの方へと向けられる。互いに奪われまいと体を起こし、駆け出せば激しく揉み合う。

 

どちらかと言うと宇和城兄は戦闘向き、弟は表に出ず、頭脳戦向きな印象だったが、それは違った。身長は兄と同じく180は超えているだろう。そして、訓練されているのか、やけに受け身も上手く、力も強い。上から降ってくる拳の一撃一撃が重い。

 

 

「…ッグ……!」

 

 

顔面のギリギリ手前で手を掴む。すると、あることに気づく舞白。

 

 

 

「((…まさか……私の首に気づいてる…?))」

 

左首を狙うように、集中的に攻撃されている事に気がつくと苦しげに表情を歪ませる。

 

 

「このっ!!」

 

両足を突き上げ、玲の腹部に命中させれば、相手は酷く咳き込みながら身を離す。

 

 

「ゲホッ…ゲホッ…、ハァ……ッ…ハァ…」

 

 

舞白は相手の視線に違和感を持つ。

 

 

「……あなた、もしかして……」

 

 

舞白の言葉と同時に、玲は余裕そうに笑みを浮かべながら、自分の左首をトントンと指で2度叩く。

 

 

 

 

「視えるんだよ。…左首、耳の下周辺、そこが弱点でしょ?」

 

「………」

 

「僕も、兄さんと同じように共感覚に優れててね?人工サヴァンの影響だけど―――」

 

 

舞白はそっと自分の首に触れると眉を顰める。

 

 

「音や数字、空気にも色が見える。…そして、体の悪い部位にも色が見えるんだ―――」

 

玲は舞白へ指を指す。すると微かに眉を寄せる。

 

 

 

 

 

「………あなたは―――」

 

 

顔つきが一瞬、ハッと驚いたような表情を浮かべる。その先の言葉を言わせまいと、舞白は獣の如く眼光を光らせ再び突進するように体を動かす。

 

 

 

「だったら…弱点を狙わせないようにすればいいだけ!!」

 

再び舞白の攻撃が相手を襲う。先程よりも明らかに力もスピードも上がった様子に、そして共感覚によって舞白の事を視た玲は、何か動揺したような様子でひたすら受け身になっていた。

 

絶え間なく続く攻撃、舞白の蹴りが顔にヒットすればその場に倒れ込む玲。スイッチの転がる先へ向かおうとする舞白を行かせまいと、脚を引っ張れば2人は再び床に転がりながら激しく揉み合う。

 

 

そして、上手に出た玲は舞白の上に乗りかかれば、思いっきり首を両手で掴む。

 

 

 

「…くっ……う…!」

 

圧迫されると、頭に落雷が落とされたかのような痛みに襲われる。ぼんやりと目の前に浮かぶ彼の表情は困惑している様子だった。

 

 

「……何で、そこまでして…

あなたはこの世界を守ろうとするんだ?」

 

「………ッ…ぐ……」

 

ギリギリと更に力が込められる。

青く光るその瞳だけが、やけに幼さを取り戻しているようだった。

 

 

 

「恋人を奪われ、自分の体も欠けたのに、……そこまでして守る理由(ワケ)があるのか?」

 

 

舞白は彼の両手に手を伸ばせば、抗うように力を入れていく。

 

 

 

「……しんじ…てる…、…わたしは…ッ…それでも……」

 

 

グッと思いっ切り力を込めれば、玲は顔を歪ませる。右手の義手に込められた力に痛みを感じている様子だった。

 

 

 

 

「…あきら、めないッ……、わたしは…兄に…そうやって……

教えられてきたの!!」

 

 

 

痛みに怯んだ相手の体を再び足で突き飛ばせば、ふらふらと体を離す玲。

彼の後ろはホログラムで覆われた偽の壁。あと一歩、バランスを崩せば地面へと真っ逆さまだろう。

 

 

体をゆっくりと起こせば、首を押え、じっと相手を見据える。

 

 

 

「……私にも兄がいる、あなたと同じ……。…あなたのお兄さんは…最後に私にこう残したの…」

 

冷たい風が吹き抜ける。舞白の白い髪の毛がゆらゆらと揺れ動き、微かにキラキラと光が反射していた。

 

 

 

「人が…、社会の未来を選んで、切り開いていく…。そんな未来を信じたいって…。だからこそ、弟のあなたはここで生きて―――」

 

 

 

 

 

舞白の傍らで転がる起爆スイッチ。そっとそれを拾い上げ、言葉を続けようとした瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

無音のこの空間に、微かに何かの音が飛び込んでくる。それもすごいスピードで、例えるなら、鋭い刃物のような音。風を切るような音を鳴らしながら近づいてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えているのもつかの間、その音が舞白の真上を通過したと思った時―――

 

激しい銃撃音が響渡り、タワーの際に立っていた玲の体に、無数の銃弾が撃ち込まれる。まるで体が的のように、弾丸が雨のごとく撃ち抜かれ、花火のような、耳を塞ぎたくなるような轟音が空間を覆う。

 

その穴から吹き出す血液、一瞬の出来事にまるで時が止まったかのように、舞白は動きを止め、目を見開く。

 

 

 

2つの青い瞳が天を仰ぐ。その瞳に微かに映った飛行物体に玲は顔を歪めた。

 

そして、その体は壁に見立てたホログラムを突き破り、地上目掛けて体が宙に浮く。

 

 

 

「………ッ…!!!!!」

 

 

突然のことに判断が追いつかない。

しかし、体は勝手に動いていた―――

 

 

 

 

 

 

「宇和城ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

既視感のある光景。

でも、あの時とは状況は大きく違う。

 

水瀬香澄…、地上20階とは違いすぎるこの状況。彼に手を伸ばしたところで自分も死ぬのは確実だった。

 

でも、なぜだか分からない。不思議と体が動いたのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ…!グッ!!!」

 

右手で体を支え、左手を目一杯伸ばせば、玲の手を掴む。相手もかすかに手を握り返している様子だった。ズルズルと彼の重さに体が引かれていけば、自身の命の危険も感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ…へへ……けっきょく……僕はコマ……、…作戦…しっ、ぱい。だから…おと…さまに……殺され―――」

 

微かに残る青い光が天を仰げば、舞白の瞳を見据えていた。

 

 

一瞬、空を横切ったのは飛行物体だろう。それも特殊な。そして恐らくは、日本のものでは無い。…欧米諸国からの横槍に違いない。

 

 

 

 

 

 

「……ッ………ぅ…」

 

ズルズルと更に体が持っていかれてしまう。右手の義手も限界だった。

 

青い瞳は変わらず舞白を見つめ続ける。そしてふと口元に弧を描くように笑みを浮かべる。

 

 

 

「…………これが、ぼくたち、の」

 

 

青い瞳が濁る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「罪…、罰……なの、か―――」

 

 

その瞬間、ガクッと力を失った相手の体。パッと手が離れると、光に包まれた闇へと吸い込まれるように、彼の体が堕ちていく。スローモーションのように目の前の光景が流れていく。フワッと宙に浮くその体は、哀しく残酷な運命を物語るかのように、ゆっくりと呑まれていくのであった。

 

 

 

 

舞白はギリギリ落ちかけた体をなんとか戻せば、胸の肉を抉られたような気持ちが込上げる。ジャケットのポケットに入れている起爆スイッチが、やけにずっしりと重みを感じる。

 

 

 

 

 

 

ふらふらとその場から立ち上がれば、とめどなく溢れる謎の喪失感に苛まれていた。

 

 

 

 

 

 

そして、再び

あの"音"が聞こえてくる。

 

 

 

玲を撃ち殺した飛行物体、鋭い音、徐々に近づいてくる感覚に背すじが凍りつく。

 

 

 

「((…今度の狙いは、私ーー))」

 

 

 

 

刹那、自分とは対角線上にあたる20m程先の床に、銃撃の雨が降り注ぐ。それはまるで道を作るように、真っ直ぐと舞白へと目指して銃撃の雨の道が出来上がっていく。

 

 

凄まじいスピードに、舞白は呆然と立ち尽くしてしまう。

 

 

 

 

とりあえず、爆発は止めることが出来た。途中から全員へと会話が聞こえるように、デバイスの通信をオンにしていた。会話、そして、爆発物が宙に浮いていた映像データも既に転送済。

 

唐之杜さんが場所を突き止め、問題なく回収されるだろう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄の雨が近づいてくる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッく……!!!!」

 

 

 

 

刹那、右手側から何かが飛び出してくれば、体が包み込まれる。頭を包み込んでいるであろう左腕からは、人間のような柔らかな感触は感じない。

 

 

でも、確かにその包まれた感覚は、懐かしくて、柔らかい匂い―――

 

 

 

 

そのまま硬い床に倒れれば、自分を銃弾の雨から救ったその人物に目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ノブ…兄?」

 

 

 

居るはずのない、その人物。

いつもの様にスーツ姿、そして左腕は自分と同じく、やけに無機質で硬い感触だった。

 

 

 

 

「…よかった…間に合った…」

 

 

「待って…どういう、」

 

 

「説明は後だ。それよりも―――」

 

 

宜野座は転んだまま、もうひとつの影に声を上げる。

 

 

 

「狡噛、舞白は無事だ―――」

 

 

刹那、2人の側へと現れたのは兄の狡噛。外務省のレイドジャケットに身を包み、背負っていた大型の銃、M16-A2を構える。射程距離、威力共にちょっとしたヘリならば撃ち落とせることもできる特殊な銃だった。

 

 

 

 

「ギノ。お前は舞白と下がれ、あとは俺"達"の仕事だ。」

 

 

宜野座は頷くと、舞白の体を抱き上げその場から離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「図体がでかいヤツほど、狙いやすいんだよ。」

 

 

旋回して再びこちらに向かってくる戦闘機を目の前に、狡噛は舞白と同じように、ニヤッと笑みを浮かべていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

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