PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
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狡噛の真上を旋回する飛行物体―――
あの戦闘機はステルス型。そして日本製のものでは無い。日本の国防省の鉄壁を欺いて、よくここまで辿り着いたと、狡噛は感心する程だった。国防軍の支援が来るまで待つことは出来ない。執拗にノナタワー周辺を飛び回るステルス機。何かを探している様子だった。
「((…恐らくは無人機。予め誰かをマークしているのか、…それは恐らく"アイツら"の筈―――))」
宇和城兄弟。間違いなく弟の玲を狙い、撃ち殺していた。そして、塔に取り残された舞白をも、あのステルス機は狙いを定めていた。
「そこまでして隠そうとしても、もう分かってるんだよ。…今までの作戦も、人工サヴァンを作り出したその事実も、黒幕も全てな――」
ステルス機を操っているであろう欧米諸国の組織。爆発物の起爆に失敗し、彼らはその証拠である宇和城兄弟の抹殺を目論んでいるのだろう。しかし、宇和城兄だけが見つからない。舞白からの報告によれば既に地下で命を落としたと聞いていた。
勿論、それを組織の人間は知るはずも無い、だから探しているのだろう。
すると刹那、耳に装着していたイヤホンから花城からの連絡が飛び込む。ヘリに乗っているのだろう。激しい騒音も聞こえていた。
『狡噛、爆弾を発見。こっちは任せなさい』
玲から舞白へと送られた爆発物の動画。密かにそれを舞白は唐之杜へと転送し、またそれを、唐之杜が敵側によまれないように別回線を使い、花城へと横流ししていたのだった。
小型のバルーンに吊り下げられた核爆弾。時限式で打ち上げられ、あとは起爆スイッチを押せば爆発する仕組みに。しかし、その起爆スイッチは舞白が握っていると把握すれば、あとはその爆発物を見つけ出し、捕獲するのみ。
唐之杜の分析力を駆使し、打ち上げられたであろう場所や、不審物の反応―――諸々を加味して調べた結果、浮遊場所が確認できたのであった。
狡噛兄妹の住居の目の前に広がる美しい海、地平線…。その上空にそれは打ち上げられていたのだった。
花城は浮いている浮遊物を目視確認し、仲間たちと回収する作戦を既に開始しようとしているのであった。
『そっちは任せたわよ?国防省に貸しを作る為にもね。』
「了解だ。」
『――ノナタワー近辺の封鎖、避難対応は刑事課一係と三係が既に実施してくれたわ。それと、分かってると思うけど、その電波塔にはステルス機を落とさないでよ?』
「分かってるさ。そんな事したら、今度こそ俺の首が飛びかねない。」
通信を遮断し、狡噛は銃を構える。スコープから覗き込むステルス機をじっと見据える。
ステルス機には弱点が多数ある。
空力的不安定性、電波使用制限、搭載量――
レーダー反射断面積を減少させるために、空力的洗練度は犠牲にした造形とせざるを得ない。そのため、機体は小さく、上手く場所を狙えば2〜3発で撃ち落とすことが可能だろう。
そして機体が小さい分、兵装搭載されている銃弾などにも限界がある。大型の兵器などは以ての外だ。
そして大きく旋回し、ステルス機は狡噛を捉えたのか真っ直ぐと向かってくる。
ニッと口角に弧を描けば、小さく息を吐く。
「全知全能のゼウス。雷霆という名の爆弾は、残念ながらもう使えないぜ?」
トリガーへ指を添え、狙いを定める。
―――全知全能の神、ゼウス。
ゼウスは雷霆を投げつけ、宇宙をも揺るがす衝撃波と雷火によって、神族を一網打尽にしたという話がある。雷霆の威力は想像を絶し、見渡す限りの天地を逆転させ、地球や全宇宙を焼き払ったとか。
「よっぽど、冥界のハデスの方がお似合いだ。」
皮肉めいた事を口にし、トリガーを引く。凄まじい弟音と半動画体に飛び込んでくるのが分かる。
刹那、ステルス機の左翼が爆発すれば、制御不能となったそれは、地上へと煙を上げながら堕ちていく。
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一方、舞白と宜野座―――
怪我を負っていた舞白。青く腫れた左目に処置を施す宜野座の姿をじっと見据える。もしかして、自分は死んで、夢物語を見ているのでは?と未だに現実を受け入れられている様子ではなかった。
約1ヶ月間、目を覚まさず、医者からも目を覚ますことはほぼ0%だと言われていた。なのにその人物は、何食わぬ顔で、いつもの様に目の前にいるではないか?
変わったことといえば、少し髪の毛が伸びていること。すこし以前より痩せているように見えるくらいで…。普通の人間ならあの状態から目を覚ましたとしても、ここまで動けるはずがない。
「…本当に、本当にノブ兄……ですか?…」
「何度言えば分かる?」
未だに疑いの目を向けられていると分かれば、宜野座は深く息を吐く。舞白の左目に眼帯テープを貼り付ければ、処置を終え、長く伸びた髪の毛を鬱陶しそうに払うと、舞白の右目を見据える。
「一昨日、目を覚ましたんだ。さすがにすぐには体も元には戻らないからな。さすがに、狡噛のフォローもできるような状態じゃない。お前を庇うことくらいしか、体は動かなかった―――」
宜野座がそう口にすると、上層階から激しい銃声が聞こえる。それと同時に飛行物体が落下していく光景が2人の目に映る。狡噛が撃ち落としたと分かれば、2人は微かに安堵している様子だった。
そして、舞白はふと疑問を口にする。
「でも……どうやってこのタワーの中に?入口は完全封鎖されてるし、侵入がバレれば、宇和城達は何かしらアクションを起こしていたはず……」
その通りだ。だから誰も侵入もできず、ただ見守ることしか出来なかった。特に宇和城達も侵入に気づいているような様子もなかった。舞白を救出するタイミングも、まるで計算していたかのように―――
「侵入は、アイツらも使っていた地下水路を使った。唐之杜が地下一帯のスキャナーを一時的にジャミングしたお陰で、誰にも見つからず侵入に成功したんだ。」
そのまま、舞白達と鉢合わせしないように潜り込めば、情報をもとに最上階へと向かう。
「事の発端は常守だ。あいつはオフラインの回線を使って、狡噛に逐一情報を送っていた。……お前にも、そして一係全員にも気づかれないように。唐之杜を除いてな。」
「………」
「奴らは洞察力に優れてる。きっと、複数の人間がそれを知っていたとしていれば、微かな言動で怪しまれる可能性も高まる。」
怪しい通信記録や、動きがバレていたとすれば、きっと今頃、この東京はとんでもない悲劇に襲われていただろう。
「で、お前がいきなり、一係全員との通話を繋いだ瞬間があっただろう?」
玲がポケットに入れていた起爆スイッチを手にした時、確かに舞白は自分の状況を伝えようと、密かにデバイスに触れ、通話を繋いでいた。
「あの内容も、全部横流ししたものを聞いていたんだ。多少のラグはあったが……。だからこそ突入のタイミングも計ることが出来た。」
確かに、こっちは途中から一係に回線を繋いでた。元の目的は爆発物の場所を吐かせ、それを常守達に流し、爆発物の確保に向かってもらうという作戦を建てていたが……
「とにかく、お陰で事なきを得た。」
しゃがみこんでいた宜野座はその場から立ち上がると、スっと義手では無い方の右手を差し出す。舞白はその手を右手で掴むと、その感触に気づいた宜野座は眉を下げ、引き上げる。
「まさか、お前も腕を失ったなんて…。狡噛から聞いた時は驚いた……」
「これで済んだのはノブ兄のお陰だよ。身を呈して守ってくれたんだから」
ギュッと手を互いに握りしめ合う。舞白は視線を、その手へと向けていた。
「……あの時、お前は異変に気づいて俺を止めようとした。…命令を無視したことは謝る。でも後悔はしていない。…あの時は、舞白の目の前に爆発物が投げられた時は―――」
犯人そっちのけで、舞白へと駆け出した宜野座。あの時のことは正直あまり覚えていなかった。とにかく無我夢中で、舞白を助けようと必死だったのだ。
同じく俯く宜野座。未だにあの時の光景が脳裏に焼き付いて離れない。顔を少し上げ、その様子に気づいた舞白。泣きそうになるのを堪え、ギュッと宜野座を抱擁する。
「―――ありがとう、ノブ兄。」
「舞白……」
「今まで、何度助けられたか。今私がここに居るのは、間違いなくノブ兄のお陰だよ。」
記憶が蘇っていく。
6年前の親友を失った事件、穀倉地帯が広がる、あの施設内での倉庫での出来事。そしてシーアンでの共闘。新疆ウイグルでの地下からの救出、渋谷での事件、そして今回。
あらゆる場所で互いに救い、救われ……
その度に絆のようなものが深まっていった気がしていた。
宜野座もそっとその抱擁に応えるように優しく抱き留める。
ひと仕事終え、銃を背負った人物。足を止めれば、タバコを口に咥える。
「……兄の俺は、出る幕無し……か」
赤い螺旋階段に腰掛け、ふーーー……とタバコの煙を吐き出す。2人の再会を上から見下ろす兄の姿。その表情は微かに笑みを含んでいた。
ふと、狡噛は外へと視線を向ける。
目に映るのは満月。月明かりが、やけにいつもより明るく感じる。
そして日付が変わろうとしていた。
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