PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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空は白む。

 

 

 

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封鎖されたノナタワー近辺。落下した無人のステルス機。もはや人の形を成していない血肉の破片。規制が張られた外にはマスコミの人間達が群がっていた。

 

 

さらに夜は更けていく。

夜霧がアスファルトの上まで降りてくれば、微かに冷たい空気に包まれ、目の前の異様な光景を幻想的空間に映し出しているようだった。

 

 

 

「………」

 

舞白はカバーが掛けられた、潰れた死体の傍に寄り、眉を顰める。アスファルトには血液がじわじわと広がった跡が残っており、思わず目を伏せたくなるような光景だった。

シートからはみ出た右手の平。天を仰ぐように大きく広げられており、残酷なことをしてきた犯人だとしても、やはり胸は痛む。

 

 

 

カストルとポルックス。孤独な兄弟。純粋な彼らを騙し、欺き、両親諸共消し去った黒幕の人物。

残念ながら、その組織を完全に破壊することは難しいだろう。それこそ大きな国際問題となる。

 

 

日本の経済省、国防省、外務省、厚生省……。あらゆる省庁を巻き込んだ事件。そして現在、国民が敏感になっている移民問題についても絡んだこの事案は当初の予測よりも、遥かに大事になっていたのだった――

 

恐らく、欧米諸国とは今後も緊張状態が続くことが懸念されるだろう。

 

 

 

 

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「死体が見つからなかったって――」

 

舞白は険しい表情を2人に向ける。

 

 

――ノナタワー 1階エントランスにて。

常守、霜月、舞白の姿があった。

 

3人以外の人物は近くにおらず、不気味な程にエントランスは静まり返っていた。霜月は両腕を組めば、舞白に起こった当時の状況は本当に幻ではなかったのか?と口にする。

 

「舞白。あんた本当に、あの場所に行ったのよね?」

 

「…………間違いない。あの場所で、私は宇和城兄弟と――」

 

 

その場所で起こった事を細かく説明していく。しかし、自分が何者かにパラライザーで撃たれそうになった事は、あえて口にはしなかった。そんなことを口にすれば、それはそれで別の意味で2人を混乱させてしまうと考えていたからであった。

 

 

 

 

 

「…………」

 

常守は1人静かに眉を顰め、何かを考えている様子。霜月は消えた死体の在処を様々な可能性を加味して考えを浮かばせるも、嫌な事しか思いつかない。

 

3人は互いに口にはしないものの、ある可能性を考える。いや、それしか考えられないと、3人は視線を交える。

 

 

 

 

――彼はシビュラに―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「監視官達。そろそろ出発――」

 

 

入口から現れたのは六合塚だった。3人は一斉に視線を送ると、その物々しい雰囲気に、六合塚は微かにビクッと肩を揺らしていた。険しい顔つきをしていた常守は瞬時に笑顔を浮かべると、六合塚へと返事を返す。

 

 

 

 

「了解しました。直ぐに行きますね、六合塚さん。」

 

 

"一先ず、戻りましょう"と常守は2人に向け声をかけると、スタスタと歩き出す。しかし、その常守の様子に、舞白と霜月は何かを感じている様子だった。モヤモヤと、たゆたうような、心の重心の置き場を失ったような……深く何かにハマっていくような様子。

 

 

「……ほら、舞白。あんた怪我もしてるんだし。公安局に戻ったら、ちゃんと治療も受けないと。」

 

「うん……」

 

 

左目に貼り付けられた眼帯テープに触れ、鈍い痛みが伴えば小さく息を吐く。片目が塞がれていることもあり、遠近感に疎くなれば、ふらふらと覚束無い足取りだった。それに気づいた霜月は、何も言わずそっと腕を掴むと、支えるようにして歩き始めた。

 

 

 

 

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同時刻

――東京 外務省本庁 行動課オフィス

 

 

 

 

 

 

無事確保された起爆物。

舞白が奪った起爆スイッチと共に特殊部隊へと預けられ、その後は国防省へ。そして改めて、あの青森の施設へと戻されるのか否か。環境省の杜撰な管理が暴かれた事もあり、今後どうなるのかは審議される結果となった。しかし、実際にあんな危険物を保管できる場所はサンクチュアリしか存在しない。恐らく、再び戻されるのでは――と。花城、狡噛は同じ考えを持っていた。

 

 

 

「撃ち落としたステルス機も国防軍に持っていかれたし。……相変わらず、危険な役回りは私たちの仕事ね。」

 

オフィスにあるのは2人の影。椅子に腰かける2人は、疲れを溜めた様子だった。

 

ステルス機の無力化、そして原子爆弾の確保。汚れ仕事や危険な役回りは慣れたものではあるが、美味しいところを奪われたような気分と疲労に、若干納得のいっていない様子の花城。

それを横目に、狡噛はだらりと首を後ろに垂らすように天井を見上げる。

 

そしてふと、狡噛は国防省と外務省上層部のやり取りを思い出せば、ある事を口にする。

 

 

「あの様子だと、欧米諸国の調査も止められるな。…あれだけ危険を犯して現地まで調査をしたのに……阿呆らしい。」

 

「組織に属するのが嫌になった?」

 

「……いや、そういう訳じゃない。ただ、この国が考えている事は相変わらず性にあわない。あんな奴らを野放しにして、これから更に開国を進め、移民も受け入れる状況はハイリスクすぎる。」

 

天井に向けていた顔を再び元に戻せば、向かいに座る花城に視線を向ける。

 

 

「まあ、あの組織の中身も、実態も把握はできたわ。それを暴かれた事はあちらの組織も分かってるはず。そんな簡単に、もう手出しはしてこないでしょう」

 

人工サヴァン、日本棄民を利用した組織的犯罪。恐らく日本側もその真実を国民に知られたくないはずだ。このシステムの恩恵を受けている国民がもしそれを知ったとすれば、大規模なサイコハザード、パンデミックが起きる事が容易に想像出来る。

 

上層部から、これ以上踏み込むなと、命令が下るのも時間の問題だろう。

 

「どうだろうな。復讐ほど根深く、人の心に根付くものはない。アイツらは過去の日本の犯した罪を未だに忌み嫌ってる。今は手段を失ったとしても、また何十年、何百年後に手を出してくるかは分からない。――それに」

 

ギュッと拳を握り、悪意を含んだ嶮しい眼つきを孕む。

 

 

「少なくとも、肉親と親友を傷つけられた恨みを、俺は根に持ってる。だが、もう俺も好き勝手動ける身分じゃないしな。また法律の外に出るのはその2人は望まないだろう」

 

 

花城はじっとその瞳を見据える。

 

「……もう二度と、傷つけたくない、誰もな。多くを望みすぎかもしれないが、その為にも俺は"行動"するのみだ。例え汚れ仕事だろうと――」

 

そっと目を伏せる狡噛。闇を孕んだようなその瞳――

 

 

しかし、その瞬間、明るい陽の光がガラス窓越しに照りつける。まるで、数時間前にあんな事件があったとは思えないほど、清々しいほどに気持ちの良い明かり。

 

 

その光が瞳に飛び込むと、思わず目を細める。

 

 

それでも、夜は明け、日が昇り、朝が来る。

何事も無かったかのように、闇を打ち消すように。

 

 

 

空が白んでいく――

 

 

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