PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
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こんなものを送っても、彼女を困らせるだけかもしれない――
「…何をやってるんだ、俺は…」
ソファに座り、手で頭を抱えるように項垂れる。すっかり肩の辺りまで伸びた髪が揺れ、鬱陶しそうに耳にかける。ふと、足元で心配そうに主人を見上げるダイムに視線を向ければ、優しく頭を撫でてやる。
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"もう、私の事ばかりに振り回されないでよ。私は成すべきことを成す。腹を括ってここに来たの、日本に戻ってきたの。その為なら、命は惜しくない、…だから、ノブ兄も、これ以上私に踏み込まない方がいい―」
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艶めいた白銀の髪の毛が俺の顔に垂れ、彼女の骨ばった、細い華奢な指が俺の首を掴んだあの時。
あの言葉は、彼女なりの決意、そして覚悟だったのかもしれない。昨日、怪我の手当をした時に抱擁し合ったあの瞬間、いつもよりも彼女から力を感じなかった。
一歩、距離をとっているようにも感じ取れた。
もう決して離さない、絶対に、お前が何を言おうと、逃げようとも。――と、過去に口にしたものの、現実を思い知らされる度に、自分にその権利は無いのではと鋭い刃を突きつけられる感覚だった。
彼女は外務省に身を置くことを決意し、日本に戻ってきた。その覚悟は並々ならぬ思いがあっての事に違いない。そんな彼女を振り回しているのは間違いなく自分だった。
「((…分かってる、そんな事分かってるんだ。))」
でも、想像したくないんだ。お前の隣に、俺以外の誰かと歩いていることが。考えたくもない。
時たま、独りになる瞬間、そんなことを考えてしまっていた。しかし、それこそが彼女の為なんだ。自分のような執行官である立場の人間が、普通の人間のように幸せになる事も、誰かを幸せにすることもできない――
ああ、…そうだ。
青柳がそうだった。
執行官の恋人。様々な制約のある中でも、互いを愛し合っていた。しかし、とある騒動の際に、混乱に乗じて逃亡したっきり――
青柳は多くは語らなかったが、何となくわかっていた。おそらく、自分の手で、恋人にドミネーターを向けたに違いない、と。その時の青柳の目を、俺は忘れることが出来なかった。
何とも言えない喪失感。胸に大きな穴を空けられ、何かが抜き取られたような、いつもの凛とした彼女の姿はそこに無かったのだ。同期でも、友人でもあった自分は、救いの言葉も、何もかけてやれないほどに、落ち込んだその様。今更ながらあの時、なにか声をかけてやれなかったのかと、後悔しているほどだった。
監視官と執行官の恋愛など空しさしかないだろう。幸せになれる保証は無い。現にこの数ヶ月間、それを経験した自分でさえもそう考えていたからだ。
そんな気持ちを、一回りも歳が離れた、まだ未来のある舞白に背負わせられるほど、俺は責任を負えるのだろうか。
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"もし半端に舞白ちゃんと付き合ってるなら、サッと身を引くことだ。護る事と、あの子の将来の事はまた別の話だからな――"
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親父に言われた言葉が突き刺さる。
いつかそんな日が来ると自分も話していた。まさにそれが"今"なのだろうか。
彼女を護る。それは十分に行えてきたことかもしれない。腕を失い、死の淵に立たされたが、決して後悔はなかった。どんな時でも、舞白が生きていると知った時の安堵感は、例えようがないほど多幸感に包まれていた。
あいつさえ、幸せでいてくれれば、それでいい――――
――本当に、そう思っているのか?俺は。
そう"思えるのか?"
そんな綺麗事
「…………」
じっとデバイスを見つめる。
しかし"それ"は鳴らない。舞白からの返事は来ない。
俺は、いつまで経ってもあいつに対しては狡い人間だ。あんなメールを送っておいて、まるで相手の出方を、試すような、最低な――
「((ずっと傍に、…そう言った……))」
ダイムから手を離し、宜野座はスクッと立ち上がる。彼女に直接、言葉を伝えられるのは今夜しかない。何もしないまま、ただ彼女に意地悪なメッセージを残して、最低なまま逃げたくない。
伝えなければ。このまま、別れることなど考えられない――
部屋のロックを解除し、扉か開く。
開いた瞬間、宜野座は目を見開いた。
「舞白…」
「……起きてるよ、ノブ兄」
刹那、自分の胸に飛び込んできたのは、紛れもなく舞白だった。
ふわっと彼女の甘い匂いが漂う。白い半袖Tシャツの袖から、左腕の柔らかな肌と、右腕の無機質な冷たい鉄の感覚が感じられていた。ショートパンツから伸びた両脚、靴も何も履いていなければ、おそらく飛び出してきたのだろう。
自分の胸に顔を埋めた彼女の表情は見えない。しかし、おそらくは自分と似たような表情をしているだろう。
堪らなく、愛おしいと――
できるなら、同じ夢を願い続けたい、幸せな夢を。
日に日に、朝を迎える毎に、目覚める度に、もう一度同じ夢を見続けたいと願うばかりだった。
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あなたはいつも、いつ楽になれるのかと。
押しては返す波に抗うように、力強く生きていた。
代わりなんていない。
どんな時も、思い出すのはあなたの事。何年も、互いの面影を探し合った。
徐々に、あなたの匂いも、声も、表情も霞んでいく。まるで全て、波に攫われていくように、思い出せなくなるのが怖かった。
"あなた"に、思いを馳せれば馳せるほど、夢を見る度に涙する、泣きたくなる。
"戻りたい場所"に少しでもいいから戻りたい。
"もう戻ることはないあなたとの日々に帰りたい"
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