PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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10章
最後の日に


 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

―――2118年 9月30日

監視官補佐としての最後の日―――

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「…………」

 

 

椅子に深々と腰掛け、両腕を組む霜月。目の前には呑気に笑みを浮かべ、後頭部に手を当てれば、さすさすと自身の頭部に触れる舞白。

 

何度も見たその光景に、まさか最終日までも立ち会うことになるなんて……と、宜野座、六合塚、雛河、須郷。

4人は微かに笑みを浮かべながら、それぞれデスクで仕事をこなしていた。

 

 

霜月の隣のデスクで報告書に目を遠す常守は、そんな様子を気にすることなく、簡潔に、短時間でキチッと纏められた報告書に目を通せば舞白へと視線を向ける。

 

 

 

「うん。前よりも更に上手く纏められてる。状況把握に適切な判断。私は問題ないと思うわ。」

 

 

常守の言葉に舞白はパッと目をキラキラとさせるも、相変わらず霜月は眉を顰めていた。再び、舞白はそんな霜月へと視線を向けるも、飛んでくるであろう怒号に身を構えていた。

 

 

「……ということで、事件は解決、これで心置き無く外務省に―――」

 

 

刹那、霜月は椅子から立ち上がり、デスク越しから舞白の両肩を掴めば、激しくゆらゆらと揺らす。

 

 

「この大馬鹿者!!最後の最後まで、あんたは無茶するんだから!」

 

「待って美佳ちゃん、私病み上がり……」

 

「"病み上がり"なんて心配する人はね、人を易々と投げ飛ばしたりしないから!しかも相手は大物議員、クレームの嵐よ?どうしてくれるのよ?」

 

「だって、エリアストレス警報の根源はあの議員だったんだし、同行拒否もされてどうしようも無かったし……。それに、まだ幼い男の子に怒鳴ったり、傲慢な態度をとったんだから―――ね?宜野座さん」

 

 

午前中、出勤と同時にエリアストレス警報による出動命令が出された。向かったのは舞白と宜野座。たどり着いた頃は混乱した市民と、根源の議員が言い争っているような状況。収拾がつかないと判断した舞白と宜野座は珍しく強硬手段に出たのであった。

 

ね?と話を振られた宜野座はPCから視線を外し、舞白の方を掴んだまま険しい顔つきをする霜月へと視線を向ける。

 

 

「犯罪係数オーバー105。酷く錯乱していたし、ドミネーターを使うことも十分できたが、"大物議員"相手にリスクがあったと判断した迄だ。」

 

「だからって背負い投げしてねじ伏せるなんて、いつの時代よ?先輩も褒めてる場合じゃないです。なんとか言ってください。」

 

舞白から手を離せば、隣のデスクで報告書を眺める常守に視線を向ける。常守は優しさに微かに口角を緩ませ、3人に目を向ける。

 

 

「確かに、相変わらずの強硬手段に変わりない。でも報告書内容を見る限り、ドミネーター使用はリスクが高かった。人も多いし、色相も濁っていない、まだ幼い子供たちが周りに複数居たんでしょ?通勤通学のど真ん中で、ドミネーターを出すと、より刺激が加わりますから。」

 

 

"うっ"と論破されたような状況に霜月はため息を漏らす。

 

 

「クレーム対応は私が対応するわ。大丈夫よ。ね?美佳ちゃん」

 

ポンポンと肩を叩かれると、霜月はさすがにそれ以上反論は口にしなかった。しかし、目の前の舞白に再び視線を戻せば、相手の胸元に指先を向け、トンっと指を当てる。

 

 

「いい?あんた、外務省に戻っても国内の事案には絶対に手を出さないでよね?余計に仕事が増えそうだし、心臓に悪いの。あの金髪にもしっかりと言っておいて――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?その金髪って私の事かしら?霜月監視官」

 

 

一係オフィスの入口から突如聞こえた声に、常守以外の全員が驚いた様子で視線を向ける。入口に立っていたのは、外務省行動課、課長の花城フレデリカ。そしてオフィスの外の廊下で壁にもたれて様子を伺っていたのは狡噛だった。

 

 

"ゲッ"と顔を強ばらせる霜月を他所に、舞白は満面の笑みで花城に視線を向ける。

 

 

「課長!それにお兄ちゃんまで……何でここに……」

 

「なんでって、今日最終日だからよ。局長にも会わないといけないし、お世話になった"可愛い部下"を見てくれた、一係の皆さんにも直接お礼を言いたくて。」

 

 

花城はニッコリと笑みを浮かべ、一係全員に視線を向ける。

 

 

 

 

「うちの部下がお世話になりました。報告書を見る限り、無茶ばかりしたみたいで、迷惑をかけたわね?」

 

「…………何よ、そっちも自覚してるんじゃないの。この子がいい意味でも悪い意味でも問題児だって」

 

霜月は小さな声でボソッと呟くと、腕を組み椅子へと再び腰かける。

 

 

「いえ。こちらこそ、助けられたことばかりで……人手不足だった一係にとって、必要不可欠な人材でした。」

 

「そ、その通りです!僕も……新しいこと覚えられたし……」

 

「自分も彼女の動きに学ぶことばかりでした。とんでもない事件に巻き込まれましたが、犠牲は最小限に抑えられたかと……」

 

六合塚、雛河、須郷も頭を下げ、互いに視線を交わす。そして花城はふと目があった宜野座を見据える。

 

 

 

「無茶苦茶ばかりで、土壇場で行動する反面、殆ど彼女のお陰で事件の解決に繋がりました。……もうここで、学ぶことはないだろう。……な?」

 

そう言うと、隣で立ち尽くす舞白へ視線を向ける宜野座。何だか全員に褒めちぎられたような状況に恥ずかしくなったのか、へへっと頬を指でつつく。

 

そんな光景に、常守も舞白に視線を向ければ穏やかに微笑んでいた。

 

 

「本当なら、このまま刑事課にいて欲しいんだけど――」

 

「ちょっ、何言ってるんですか?先輩。私は困りますよ?これ以上心労を増やしたくないんですけど。」

 

「え〜?美佳ちゃんもそう思ってるくせに、本当は。」

 

「……メンタル薬代、刑事課の経費から落としていいですか?」

 

常守の言葉に反論するも満更では無い様子の霜月。常守に茶化されれば、ぷいっと口を尖らせていた。

 

しかし、常守の言う通り、心の奥底で寂しがっているのは事実だった。刑事課の人事不足は元より、頼りになった事や、何より同い年でなんでも話せる関係の相手がそばに居ることは霜月にとって、かけがえのない存在だった。

 

 

「ま。3ヶ月間大変だったし、振り回されまくったけど……。助けられたことも多かったし感謝してるわ。舞白」

 

「……美佳ちゃん……」

 

腕を組んだまま視線も合わせず、子恥ずかしそうに呟く霜月に、今すぐ抱きしめたい衝動に駆られるも、その気持ちを抑える舞白。

舞白も同じく、教育担当としてそばに居てくれた霜月に感謝することしか思い浮かばない。破天荒な自分をコントロールするように、ストッパーとしての役割を担ってくれた彼女をどれだけ悩ませたかと……

 

 

 

舞白は全員に体を向けるように立ち直せば、改めて口を開く。

 

 

 

「皆さん。本当にありがとうございました。迷惑ばかりかけた3ヶ月間でしたけど、少しでもお役に立てたなら幸いです。ここで学んだことを、外務省でも活かします。……今後、もし公安局と連携を図る事があったら、その時は、もっと恩返しができるように行動できたら……、って、なんか言いたいことありすぎてまとまらなくて……」

 

 

刹那、姿勢を正して、ゆっくりと頭を深々と下げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました。」

 

 

 

舞白の言葉に、全員が笑みを浮かべる。花城も満足気に口角を緩めれば、部屋の外で様子を伺う狡噛に視線を送る。狡噛もほんの微かに口元に弧を描けば、妹の姿を誇らしげに見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……って、規定だと17時までだからまだ数時間働くんですけど……。何事も大きな事件が無いことを―――」

 

 

 

 

そう言い放った瞬間、オフィス内に警報音が鳴り響く。

 

 

 

『エリアストレス上昇警報 文京区 区立公園にて、規定値超過サイコパスを計測。当直監視官は執行官を伴い、直ちに現場へ――』

 

 

 

「って、言ってる側から事件よ、舞白。」

 

"私は夜勤明けだから、あんたの出番よ"と呟けば、舞白はクスクスと笑みを浮かべていた。

 

 

「と、いうことは……次は私と六合塚さんで出動ですね。六合塚さん、よろしくお願いします。」

 

舞白はデスクの椅子にかけていた監視官ジャケットを手にすると、六合塚へと視線を向ける。

 

 

「はい。監視官。」

 

六合塚も合わせるようにスーツジャケットを羽織る。

 

 

 

 

「花城課長。また後ほど。出動なので、行ってきますね。」

 

ペコッと会釈をすれば花城の横を通り過ぎ、オフィス外へと出ていく。兄と視線を合わせば、互いに笑みを浮かばせ、その場を離れていく。

 

 

 

「狡噛。あなたの妹、そのままあなたを投影したみたいだったわ」

 

「そりゃ悪かったな。すぐに噛み付いて言うことを聞かないだろう?」

 

「ええ。でも不思議な子で、一緒にいると心地良いのよ。」

 

六合塚は狡噛とすれ違いざまに、僅かではあるが会話を交わす。"心地良いのよ"と呟いた六合塚。この3ヶ月間で色相の大幅改善が見受けられていた。社会復帰も目指せる程に。狡噛は六合塚に対して、昔から、1番更生できる可能性が高い潜在犯であると公言していた。久しぶりに見た彼女の顔を見る限り、それは程遠くないと感じていた。

 

もしかすると、舞白の不思議な雰囲気が彼女を厚生へと導いたのかは不明だが、少なくともほんの数%はそうであるだろうと踏んでいた。

 

 

エレベーターへと向かう2人の背を見送れば、再びオフィスに視線を戻す。オフィス内では、花城と常守、そして霜月が何やら会話を交わしていた。

 

ふと、宜野座と目が合えば、何か話したげな状況を察し、狡噛は小さく頷く。すると、デスクの画面に一瞬目を向けるも、すぐに目を離せば椅子から立ち上がり、オフィス内から姿を現す。

 

 

 

「一昨日ぶりだな、ギノ」

 

「まさか、お前が再びこの場所に来るなんてな。古巣はどうだ?」

 

宜野座は狡噛の隣に立つと、同じく壁に背を預ける。

 

 

「相変わらずだな。…それに常守。あいつの成長には驚いたさ」

 

「…あの人は、いい意味で変わったよ。俺は、あの2人…、いや、今は3人か。3人の猟犬で良かったと常々思ってる。」

 

常守、霜月、そして舞白。

じっとオフィス内を見据えたまま呟いた宜野座の言葉、そして表情を読み取れば狡噛は思ったことを口にする。

 

 

 

「で、何だ。話したいことがあるんだろう、その様子だと。」

 

「……」

 

「……珍しいな。深刻な内容か?」

 

 

 

「コーヒー。奢ってやるからテラスで話そう」

 

 

 

サッと壁から背を離し、さっさと歩み始める宜野座。何かを感じとった狡噛は無言でついて行く。そしてその光景を、常守は微かに見据えていたのであった。

 

 

 

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