PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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それぞれの誓い

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

広い空に秋の静かな雲が斜めに流れる。

微かに秋らしい爽やかな、涼し気な風がビル群の間を通り抜けると、ベンチに座る2人の髪の毛が、さわさわと揺れ動く。

 

こうしてこの場所で、2人でゆっくりと、この景色を目にするのはいつぶりだろうか。

 

再会したとしても、殆ど危険な場所での再会だった狡噛と宜野座。そういえば、ゆっくりと会話をする暇なく、年月だけが経っていた事に、今更ながら、互い考えていた。

 

コーヒー缶を片手に、2人は会話を交える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その様子だと、舞白の事だろう。」

 

いきなり本題を見透かされたのか、狡噛は視線を真っ直ぐと向けたまま口にした名前に、宜野座は微かに笑みを浮かべる。

 

「相変わらず、その行動分析能力、"プロファイリング"とやらには頭が上がらないな。」

 

「お前にはガミガミ怒られたもんだが、ものは使いようだ。こういう時にも役に立つんだよ。……さっさと話そうとしない、それに、お前が舞白を見る目を見ればわかるさ。"何かあった"、そうとしか思えない」

 

刹那、ジャケットのポケットから煙草を取り出せば、ライターで火をつけ、口に咥える。気だるそうに煙を吐き出すと、隣の宜野座へ漸く視線を向ける。

 

 

 

「先に言っておくが、あいつの事は諦めろ。」

 

「…………理由は?」

 

 

狡噛の言葉に眉を顰めると、宜野座も狡噛と視線を向ける。2人の瞳が交差すれば、狡噛は表情を変えずに、淡々と話し始める。

 

 

 

 

「お前のことを考えての事だ。……あいつから、聞いたのか、"あの事"」

 

"あの事"という言葉に、宜野座は視線を狡噛から外せば、両膝に両腕を乗せ前のめりになると、地面に視線を落とす。

 

「勿論。聞いた。それを聞いた上での、俺の決意でもあるんだ」

 

「…………」

 

ふうー……、と煙を吐き出すと、空虚な空に煙が舞って消えていく。そして、そっと空を見上げるように、狡噛は顔を上へと向ける。

 

 

「先がどうなるかは、正直分からない。でも俺は、それでも舞白と……どんな形でもいいから繋がっていたいんだ。あいつもそれを願ってる。」

 

組んでいた両手にグッと力を込める宜野座。狡噛は視線を空へと向けたまま口を開く。

 

「舞白とお前のことに、多く口出しする気は無い。舞白の人生は舞白のものだ。だが、あいつの兄として、助言する権利はある。……ギノ、お前まで不幸になる必要は無い。きっぱり離れて、お前はお前の―――」

 

刹那、宜野座は狡噛が右手指で挟んでいた煙草を奪うと、床に煙草が落ちていく。そして右手を掴むと、哀し気な、若干の怒りの様子が瞳に映る。

 

 

「不幸になんてならない。それに、まだ分からないだろうが。」

 

「…………」

 

「まだ、可能性は残ってるかもしれない。それを俺は信じてる、望んでる。…まるで、お前は諦めたかのように――」

 

「そんな訳ないだろう?俺も同じ気持ちだ、当たり前だろう?……ただ、俺はお前らが毎回毎回、哀しそうにしている光景を見たくないんだ」

 

「そんな事、お前の勝手だろうが!舞白は、……潜在犯の俺でも、未来が無いと分かっていても、自分の未来も不明確な状態でも―――」

 

狡噛の手を掴む力が弱まれば、そっと手を離す。

 

言葉が詰まって上手く話せない。

狡噛は宜野座が考えていることは分かっていた。

 

2人で一緒になる。別にそれは構わない、自由にすればいいと。しかし、今までの2人を見る度、自分も何も思わない訳では無い。ましてや先の見えない2人だからこそ、不安視するに決まっていた。

 

「……ッ……」

 

「……落ち着けギノ。いくら執行官でも、それ以上色相を濁らせれば――」

 

「こんな状況でも、俺の色相の心配をする気か?」

 

 

 

 

 

「それだけ、俺はお前も、舞白も大事に思ってるってことだよ。」

 

 

狡噛はそう呟けば、落ちた煙草を拾い上げ、携帯灰皿へと捨てると小さく息を吐く。何を言っても聞く耳は持たないだろうと思ってはいたが、このまで宜野座が自分の妹に対して想いを抱いていたということに、正直驚いている様子だった。

 

 

「お前の言い分も、覚悟も分かった。――本当に、いいんだな?ギノ。」

 

「…………」

 

「舞白を選んだからには、俺も半端な考えは許さない。あいつの兄貴だからな。」

 

「半端なんかじゃない。真剣だ俺は。……アイツを、舞白を、絶対に不幸なんかにさせない。全ての可能性に、俺は命を懸けてもいい。」

 

2人は互いの顔を見合わせる。

狡噛は相変わらず表情を変えない、冷静なまま。宜野座はその瞳を、じっと真剣に見据える。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

「シビュラが相手を決めたとしても、ろくな奴じゃないと俺が判断すれば

速攻反対するさ」

 

「お前が義兄なんて、相手も可哀想だ」

 

「言っておくがお前にはやらんぞ」

 

「有り得ないだろ歳を考えろ、歳を。…それに俺もお前が義兄になるのはゴメンだ」

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

狡噛は、ふと昔の互いの会話を思い出すと、微かに口角を緩ませる。その様子に、宜野座は再び眉を顰めると"なぜ笑うんだ"と口にすると、真剣に話していたのが馬鹿らしいじゃないか?と呟く。

 

 

 

「好きにしろ。……まさか、お前がそこまで言うとは思わなかった。」

 

両手をジャケットのポケットに突っ込むと、はぁー、と息を吐き、空を見上げる。こうなるだろう、とは予想していたものの、宜野座の真剣な真っ直ぐとした思いに、これ以上釘を刺す理由が見つからない。カマをかけたつもりで、不幸だの、様々な言葉を口にしたが、宜野座は折れる様子が全くなかった。完全にお手上げだった。

 

 

「もし、舞白を泣かすようなことをしたら、俺はお前を許さない」

 

「そんな事しないさ」

 

「それに、俺は義兄になることを忘れるなよ」

 

「お前のことを義兄(にい)さんとは呼ぶつもりは、サラサラ無い」

 

「……想像もしたくないな」

 

「俺もだよ……」

 

2人はくだらない会話を交えながら、笑みを向け合う。

 

しかし、宜野座は分かっていた。本当に、心の底から自分と舞白の事を喜んでいる訳では無いことに。それはそのハズに決まってる。互いに、幸せになる事は確証されている訳では無い。シビュラが決めた仲でも無ければ、潜在犯と普通の少女が婚姻関係になる事は、世間一般的にもタブーとされているからだ。そして前例もない。

 

 

暫く沈黙する2人。

それを打ち破ったのは狡噛だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……妹を、舞白を頼むぞ。ギノ。」

 

「あぁ。出来ることは全て、あいつに捧げるつもりだ。……こっちこそ、礼を言わせてくれ―――」

 

 

 

"ありがとう"

宜野座のその言葉に、再び笑みを浮かべる。

そして気配に気づいた2人は、同時に背後に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません。お邪魔でしたか?狡噛さん、宜野座さん」

 

同じく、コーヒーを片手に持った常守が現れる。久しぶりのペアに、嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

 

 

「いいや、話すことは全て話し終わった。問題な――」

 

「ギノが"舞白をください"って煩くてな。ずっとそれで揉め――」

 

「おい!いきなりそれを口にするな!それにそういう言葉は使ってないだろうが」

 

「でもそういう事だろう?お前が言ったことは――」

 

まるで昔のように、ガミガミと言葉を放つ宜野座と、それに応える狡噛の姿に、相変わらずのテンポの良さに、常守は可笑しそうにクスクスと笑っていた。

 

常守はふたりの間に腰をかけると、同じようにビル群へと視線を向ける。

 

 

 

「2人のお兄さんに囲まれて、舞白ちゃんは幸せ者ですね。ちょっと羨ましいです」

 

常守の意外な言葉に2人は目を丸くする。そして狡噛と宜野座は視線を交わし頷くと、同時に常守の髪の毛をわしゃわしゃと荒らすように触れる。

 

 

「ちょっ……ちょっとやめてください!」

 

常守は片手で必死に髪の毛を抑えると、むうっと口を尖らせる。

 

 

「あんたも、逞しく、立派な刑事に成長したと思ったが、まだ根はひよっこだな。」

 

「……バカにしてますよね、狡噛さん。」

 

「常守。俺は、あなたの猟犬で良かったと思ってるよ。」

 

「…宜野座さん……」

 

常守は2人の言葉に、気恥しそうな表情を浮かべる。しかしれ同時に懐かしい雰囲気に嬉しくて堪らなかった。またこうして、3人で肩を並べられたことに、高揚感を感じていたのであった。

 

 

 

 

 

そっと、ベンチから立ち上がる常守。

目の前の柵にもたれかかったと思えば、柵に背を向け、腰掛ける2人へと視線を向ける。

 

 

 

 

 

「……おふたりは、何があっても、私の味方で居てくれますか?」

 

微かに口角を緩めるだけで、瞳は薄らどこか遠くを見据えている様子の常守。その姿に、言葉に不思議そうにするも、2人はこくりと頷く。

 

 

「ああ、当たり前だ。あんたの行動は、常に理にかなって、正しい方向へと向かっていると信じてる。」

 

「左に同じだ。あなたの為ならば、凶暴な狼にでも、なんでもなれる」

 

 

常守の瞳に色が戻るように、パッと明るくなる。

 

 

 

 

「……安心しました、その言葉が聞けて。」

 

 

この笑顔の奥底で何を考えているかは、まだ狡噛も宜野座も分からなかった。

 

 

常守は2人へと再び近寄り、コーヒー缶を地面に置けば、そっと2人に手を伸ばす。

 

 

「私も、お2人を信じてます。」

 

 

 

同時に2人も手を伸ばせば、常守の手を握りしめる。

不思議と、この2人が居るだけ気持ちが楽になっていく。

 

 

 

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