PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
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"孤独"
"孤児"
"みなしご"
結局、そんな俺たちは、仮面を被っても"何者にもなれなかった"。俺たち兄弟を救い出してくれた"お父様"でさえ、結局偽りの仮面を俺たちに向け、周りにいた人間たちもまた、仮面を付けていた。
嘘、架空の人物。
しかしそれは、自分たちも同じだ。
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唯一の肉親の弟も死んだ。
しかし、俺は"生きていた"
姿形は分からない。
ただ、不思議な精神世界のような場所で、精神だけを保っているようだ。
理解するのに1日を有したが、案外悪くは無い。
どうやら俺は、状況によって再び仮面を被らされるらしい。その時において、役割を演じ分け、この憎むべき社会に居場所を置き続ける。
―――シビュラシステム
その正体に、まさか自分が取り込まれるとは思ってもいなかった――
なぜ、シビュラシステムは
この国を壊そうと企んだ張本人である自分を、招き入れたのか……
理解に苦しむことばかりだが、不必要となれば、簡単にこのシステムからも排除されるのであろう。
まあ、悪くは無い。
もう少し、この世界の行先を。哀れなこの国の人間たちを、俺自身でレフェリーとして身を置くのは、中々興味深い。
そして、あの女。狡噛舞白。
全てを理解した。このシステムは、長年彼女をマークしていた。
"免罪体質者"
シビュラシステムの領域に犯されない、唯一無二の存在。そしてこのシビュラシステムはそんな人間達に賄われ、存在し、この国の平穏を保っている。
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"よりよい世界を創ろうとした、過去全ての人達の祈りを、あなた達のお父さんが成し遂げようとした思いを…無意味にしてしまわないために"
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だからこそ、あんな言葉を吐けたんだ。他の人間とは違う思考の持ち主。従来の人類の規範に収まらないイレギュラーな人格の持ち主でもあり、他者に共感することも情に流されることもなく、人間の行動を外側の観点から俯瞰し裁定出来る資質を持つ者――
しかし、彼女は少し違う気もする。
彼女は、そんな免罪体質者の中でも、他者に共感することも、時たま情に流されることもしばしば見受けられた。
でも自分自身の信念をしっかりと持っている。善し悪しという簡単には言い表すことはできないが、彼女もまたイレギュラー中のイレギュラー。
彼女は確かにこの社会に必要だ。だからこそ、このシステムは彼女を欲しがる。
しかし、俺は断固としてそれを阻止したい。
彼女は"こちら側"ではない。
外の世界に、必要不可欠な人間だと、俺はそう考えていた―――
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コツ、コツとパンプスの音が長い廊下に響き渡る。無駄に長く、広い廊下。訪れるのは3度目だが、やはり緊張感は変わらない。
……まあ、恐らく、これからこの場所に来ることは無いに等しいだろうけど、局長――システムに対面するのは、やはりいい気分では無い。
最終日、このまま何事もなく、しれっと局長とは対面せず、公安局から退局してやろうと目論んでいたものの、それは直ぐに打ち破られた。個人的に送られてきたメッセージ。差出人は"禾生壌宗"。一応、3ヶ月の雇い主でもある。無視するのは失礼か?なんて生真面目な考えが脳裏に浮かべば、この場所まで訪れたのであった。
さすがに、最後の最後で、自分にドミネーターを向けるようなことはして来ないはずだ。もし、ここでエリミネーターなりパラライザーなり撃たれれば、周りの人間も気がつくはずだと―――
そして最後に、舞白自身も確認したいことがあった。
局長室前にて足を止める。
ふうー、と深く息を吐き、吸い込む。
ジャケットを整え、スカートの皺をパンパンッと払えば、キッと扉を見据える。
ゆっくりと前へ足を踏み込めば、扉は開かれた―――
「失礼します。」
部屋の奥に視線を向ければ、椅子に座り、デスクに両肘を立てじっと自身を見つめる局長の姿。舞白は相手に怯むことなく、鋭い眼光を向けると、相手の前へと歩み進める。
「……本日で、任期最終日となります。短い期間ではありましたが、ありがとうございました。」
ピシッと背筋を伸ばし、無言の圧力を感じる相手に深々と頭を下げる。
何はともあれ、他国で自由気ままに放浪し、逃亡犯の兄と共に行動を起こし、シーアンではテロリスト幇助の疑いも掛けられていた自分を、システムは再びこの国に迎え入れてくれたことは事実。後暗い理由は間違いなくあるにせよ、全くもって恨みきれるような相手では無い。
「今後は、外務省行動課の捜査官として、厚生省公安局と連携を図れたら―――」
何も言葉を発さない相手に違和感を覚える舞白。顔を上げたと同時に、何気なく禾生の瞳をじっと見据える。
――――――もしかして、
「……宇和城琉」
ボソッと、舞白はその名前を口にする。
それを耳にした禾生……、いいや。システムに取り込まれたであろう、宇和城琉。
クスッと僅かに笑みを零せば、立てていた肘を下ろし、椅子の背にもたれ掛かる。
「よく分かったね。さすが。あなたの洞察力には最後の最後まで敵わない」
「……やっぱり、シビュラシステムに取り込まれていたのね、あなた」
「分かっていたのか?」
「"分かっていた"というよりもそれしか"有り得ない"。あの場所で、まるっと全て消えてなくなるなんて、記録も何も残さず―――」
舞白は相手が誰だか分かると、少し安心した様子で小さく息を吐けば、肩の力を落とし、両腕を胸の前で組む。
"やはり、彼は別の形で生きていた"
予想通りだった。
「どう?システムの一員になった感想は?」
「……まだ、数刻しか経っていない。正直、まだよく分からないよ」
じっと互いを見つめ合う。
意外と、厭そうでない宇和城の様子。シビュラシステムは彼を取り込んだことには何かしらの意図があるはずだ。あくまでも彼は"危険人物"。この国を、世界を核兵器で壊そうとした張本人だ。そんな人物を取り込むなんて、システムのその判断は正直正気の沙汰とは思えない。とすれば、意図があることは間違いないのだ。
「狡噛舞白。……あなたはどう考えてる?この状況」
「それは、なぜ取り込まれたか、って事?」
「そう。なぜ、自分をシステムに迎え入れたのか―――」
機械仕掛けの両手を目の前で翳し、じっと手のひらを見つめる。シビュラシステムは、なぜ今この男を自分の前に出させたのか、意図はよく分からない。
まるで"システムに、まだ不信感を抱いている男を、お前の力で納得させろ"なんて考えているのでは?なんて、様々な意図を脳裏に浮かばせていた。しかし、シビュラも馬鹿じゃないはず。彼を取り込むことで利点があるからこそ迎え入れた。
人工サヴァンの持ち主、そして米国と繋がりを持つ唯一の存在。それもまた、思考のひとつとして、あくまでも実験対象として取り入れたのだろう。
舞白は一瞬、考えるような表情を浮かべ、再び表情を戻せば相手をじっと見据え、口を開く。
「単純に、あなたのその能力、そして他国との繋がりを持っていた経歴、危険な思考……それのどれかに利点があるから、だから取り込んだ。」
「…………」
「"従来の人類の規範に収まらないイレギュラーな人格の持ち主"。私は、あなたがそれに当てはまると思ってる。……少なくとも、弟とは似ても似つかない性格を持ってるとは感じてた、双子でもこんなに違うものなんだねって。」
即死した弟、宇和城玲。
地上90階以上から落下した弟は、もはや人の形すら成していなかった。さすがに、弟の脳は修復不可能。……いや、生きていたとしても弟を取り込む気はサラサラ無かったはずだ。
兄とは性格も思考も、自己解析に過ぎないが、違いすぎる。むしろ、兄の宇和城琉は、自分を庇った人間だった。
「……ハッキリ言って、私も分からない。あなた達システムの考えは全くもって理解できない。あの時、本当に私を狙っていた?それとも、宇和城琉が庇うことを計算して、そもそも宇和城を狙っていたのかも―――」
ただ、"イレギュラー"。それしか分からない。
「でも、正直どうなるか、私は興味を持ってる。あなたというイレギュラーすぎる人間が、シビュラシステムの一員となって、この世界にどのような恩恵という名の縛りを与えるのか……。」
宇和城は視線を再び舞白へと向ける。微かに口角を緩ませる相手に対し、相変わらず読めない相手だ、なんて考えていた。
「…"汝自らを知れ"か―――」
以前、自分が使った言葉を口にする。その言葉に、舞白も反応を示す。
「"自分の無知を自覚し、自分の心を高めるように励め"……いいんじゃない?あなた達兄弟が私たちに投げかけたその言葉、それは寧ろ、あなた達自身に投げ返されたものに過ぎなかった。――それを知るチャンスかもよ、カストルさん。」
ふふっと笑みを浮かべ、"ね?"と首を傾げる。
「まあ、それも悪くない、か―――」
そう宇和城が呟く。
その瞬間、舞白のデバイスが鳴り響く。相手は霜月。シフト明けで非番の彼女は、どうやらわざわざオフィスに戻ってきているらしい。
「と、言うことで。……お世話になりました。外務省でも頑張りますので、今後ともどうかご指導ご鞭撻の程、必要な時はよろしくお願いします。"禾生局長"」
くるっと背を向ければ、相手の言葉を聞かずとも、さっさと出入口へと向かう。そして、扉が開いた瞬間、なにか思い出したように再び局長に振り向く。
「あー、それと……。前にシステムと、とある"約束"を交わしてるの、私。」
左手の人差し指をトントンと自身のこめかみに当て、微かに微笑む。
「それを守りたければ、もう変な真似はして来ないでって、共有しておいてよ?……もし、次、また同じような手段を使おうとするなら。」
こめかみに当てた指を、まるでピストルのような形に変形させれば、自分の脳天に銃弾を打ち込むような仕草を見せる。
「……ドーーーン!、だからね?」
そう口にすれば、舞白は部屋から姿を消す。その一端を見送った宇和城はも同じく笑みを浮かべていた。
そして、体を椅子に再び預ければ、天井を見上げる形でだらりと首を倒す。
「…………」
青く光る瞳。1度瞼を閉じると、莫大な情報量が脳内に入ってくる感覚に襲われる。
「リスク計算完了――」
禾生は椅子から立ち上がれば、オレンジ色に染る外の景色を見下ろす。
「信じようじゃないか。狡噛舞白。――しかし来る時、どのような判断を下すかは、我々シビュラシステム―――」
青く光る瞳にオレンジ色が被さる。
禾生は口元に、微かに弧を描いていた。
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