PSYCHO-PASS -confrontation of orphen- 作:鈴夢
・・・・・・・・・
――公安局 地下駐車場
舞白は自家用車の後部座席に荷物を入れていく。長らく放置していた車内は、どことなく埃っぽい。生暖かい車内を冷やすために、とエンジンをかければ再び扉を閉める。
ふと隣に停められた車に目を向ける。外務省の社用車の運転席には兄の姿。一瞬目が合えば、互いに口角に弧を描く。
そして地下駐車場の入口であるエレベーター前に歩みを進めると、そこには常守と六合塚、須郷を除く一係の面々たち。そして三係の宮舘、花城の姿があった。
「いやー、皆さん、勤務中やら非番にも関わらず、わざわざ見送ってくださるなんて……」
少し恥ずかしそうに後頭部に手を添え、へへへ……と笑みをこぼす。そして花城の隣へと立てば、ひとりひとりに視線を向けていた。
「常守に六合塚、そして須郷、唐之杜は残念だが、事件対応中で来られない――」
宜野座は両腕を組み、残念そうに表情を曇らせる。
「また個人的に連絡します。それに、永遠の別れじゃないし、必ずどこかで会えますから。」
正直、最後に会えないのは残念だったがこればかりは仕方ない。また必ず会えると信じて、自分は変わらず職務を全うするのみ―――
そして、次に言葉を発したのは、三係の宮舘だった。まさか、彼も最後にここまで来てくれるなんて、一番意外な人物。
「狡噛監視官……、いや、狡噛捜査官か。短い期間ではあったが、自分自身も君から学ぶことは多かった。ありがとう。如月からもよろしく伝えてくれと頼まれてるよ。」
「こちらこそ。宮舘監視官、お世話になりました。宮舘さんが居なければ、私は間違いなく命を落としていました。如月監視官にもよろしくお伝えください。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
"その背中に背負っているマークに、恥じぬ行動を心掛けてくださいね?狡噛監視官"補佐"―――"
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
最初は外務省から来た"厄介者"なんて思われていたが、彼らもまた共に任務をこなしていくにつれて良い関係性となった。三係の宮舘を筆頭に、そこから二係の監視官や執行官たちとも良好な人間関係を作ることが出来たのも、間違いなく彼のおかげだった。
そして、カストルとポルックスの渋谷事件。
その際に、爆発から守ってくれたのは、紛れもなく宮舘。恐らく、あの時に駆けつけてくれていなければ、あの事件は収束せず、今頃大事になっていたに違いない。
宮舘と握手を交わせば、全ての蟠りが無くなったかのように、お互いすっきりとした表情を向けあっていた。
そして、宮舘の隣で静かに立っていた雛河。
非番ということもあり、リラックスした部屋着姿だった。
「…狡噛監視官と、たった3ヶ月だけど…、楽しかったです。ありがとうございました。」
雛河は1つ歳上。しかし、彼はそんなことをひけらかすことも無く、舞白の行動に対し、いつも反することなく従っては、共に事件解決へと導いてきた。この期間、彼のホログラム分析や、ドラッグの知識。時間があれば、彼から全て学んでいた。いつも快く、何でも教えてくれた頼りになる先輩でもあった。
「雛河さんも、非番なのにわざわざ来てくださってありがとうございます。……それに、たくさんの事を教えてくれて、その知識は必ず外務省でも活かしてみせます。」
「……うん、……狡噛監視官なら、大丈夫。頑張ってください。」
雛河とも握手を交わせば、僅かに口角を緩ませる雛河の貴重な表情に、舞白も笑顔で応える。
そして、宜野座と霜月。
隣同士で並んだ2人に視線を送る。
「お2人には、多分迷惑しかけてないし。……それでも、どんな時でも助けてくれた2人には感謝してます。ありがとうございました。」
頭を下げる舞白。その様子に霜月は盛大な溜息を吐き、宜野座はクスクスと笑みを浮かべていた。
「本当よ。私と宜野座さんで、ほとんどあんたのストッパーの役目を担ってたんだから。これは貸しよ?いざとなったら、外務省の権限を使って私たちをフォローしなさいよね?」
「……らしいです、課長。」
悪戯っぽく、くくくっとした笑みを、隣の花城に視線を送れば、向けられた花城は両腕を組み、霜月をじっと上から見据える。
「厄介な貸しを作ったものね?……まあ、今後公安局刑事課と密に関わる日が来るかもしれないし。その時はお互い協力し合いましょう?霜月監視官。」
「………そうですね。花城さん」
引きつった笑みを浮かべれば、即座に舞白へ視線を向ける。
"花城フレデリカが苦手だと分かって、そんなフリを……"と舞白をキッと睨みつけるような視線を送れば、舞白はふふふんっと余裕そうな笑みを浮かべていた。
その隣で、何やら胸ポケットからゴソゴソと何かを取り出す宜野座。そして、それを不意に舞白へ差し出せば、舞白は不思議そうに"それ"に手を伸ばす。
横から"それ"を見た霜月は、ゾッとした、引いたような視線を隣の宜野座へ送る。
「え?宜野座さん、手紙とか………」
「違う。俺からじゃない。常守から預かった手紙だ。…引くんじゃない――」
"それなら良かった、安心です。"と安堵したように呟く霜月。
白いシンプルな封筒。可愛らしいピンク色のクラゲのシールで封がされており、常守らしさが伺える。
封筒を受け取れば、不思議そうな様子を見せていた。
「手紙?朱さんから………なんだろ…」
嬉しい気持ちの反面、なんとなく、その手紙に何が書かれているのか察知していた。ここで勿論開けるべきでは無い。自宅でゆっくり読もうと、受け取った手紙をジャケットのポケットにしまい込む。
「……じゃあ、そろそろ行きますね?このままずっと皆さんと喋ってたいけど、そうすると余計離れたく無くなっちゃう……」
意を決したように、ふぅー、と深呼吸すれば。送り出してくれた4人に再び視線を向ける。その様子を見ていた隣の花城も、舞白の気持ちを察している様子だった。
「本当に、うちの部下が世話になったわ。感謝してます。今後、事件が起こった際には、更に上手く連携を図って解決に繋がるように―――」
花城はスっと手を差し出す、相手は霜月だった。
「お互い、成すべきことを成しましょう。」
「……勿論です。こちらこそ、よろしくお願いします。」
差し出された手に、霜月もまた手を伸ばす。
握られた手からは、まだしっかりとした信頼関係のようなものは感じられないものの、少なくとも少しは進歩したのではないか、と傍らで見守っていた者たちは感じていた。
お互い見合ったあと、スっと手が離れれば、花城は舞白の隣から離れ、狡噛の待つ車両へと向かっていく。そして、車両のドアノブに手をかけた瞬間、舞白に呼びかけるように口を開く。
「舞白。明日からの日程は送った通りよ。今夜はゆっくり休みなさい。」
「はい、課長。」
花城はヒラヒラと手を振れば、車両へと乗り込む。暫くすると、狡噛の運転する車両のライトが点灯し、クラクションを響かせれば、2人を乗せた車両はその場から去っていくのであった。
「……外務省行動課、なかなかハードそうな仕事だな。早速明日から海外派遣か?」
宮舘が舞白に問いかける。
「いえ、さすがにそれはないと思うんですけど。明日からは出島の……九州支部局での活動がメインになるみたいで。状況によっては海外調査。もし、東京本庁に戻った際には連絡しますね?お土産を持って、公安局に遊びに来ますから。……それと―――」
舞白は何か言いかけるも、ぎゅっと口を噤む。
チラッと視線を宜野座に向けるも、舞白は迷った様子で、やはり止めておこうと言わんばかりの表情を浮かべると、誤魔化すように笑みを浮かべる。
「で、……では!明日も朝から早いので、これで失礼します!また会う日まで、皆さんお元気で〜」
そそくさと立ち去る舞白を目の前に、霜月は隣の宜野座を突くように見上げる。雛河と宮舘も、不思議そうに宜野座へと視線を向けていた。
「何、最後のアレ?何かあったんですか?宜野座さん」
「…………」
宜野座は瞼を閉じれば、悩む素振りを見せ、右手を顎に添える。
舞白が何を言おうとしたのかは分かったものの、それを言うか否か――
―――まあ、いずれバレることだ、
意を決したのか、パッと目を開き、ボソッと呟く。
「あいつとは婚約関係になった。」
「…………は?」
霜月は気の抜けたような声を漏らす。
口をぽかんと開けた霜月。同じく"どういうことだ?"と言わんばかりの拍子抜けしたような表情を浮かべる雛河と宮舘。
「こんやく……?コンヤクカンケイ……
…………はあぁぁぁあああ!?」
「ぎ……宜野座さんと、狡噛監視官が……」
「婚約……、ということは近々夫婦……?」
「……多分、言わないといけないと思いつつ、最後まで言えず、俺に言えと言わんばかりの顔を向けていたからな……」
予想通りの反応に、宜野座は子恥ずかしそうに口元を手で覆えば、そそくさと逃げるように地下駐車場から出ていく車両に目を向けていた。
「ていうか、1番大事な事なんですけど!……あの子………最後の最後に……」
"聞いてないんだけど!!"と食いかかるように宜野座に掴みかかる。
「いや〜、それはおめでたいな、宜野座執行官!早く皆にも伝えて、祝いの場を……」
「((……みんなに知らせないと……))」
宮舘と雛河は嬉しそうな様子でエレベーターへと乗り込んでいく。その様子に、宜野座は慌てた様子で追いかける。
「ちょ……待ってください、宮舘監視官。それに雛河もその顔―――」
るんるんと嬉しそうな宮舘。なにか考え込んでいる様子の雛河に嫌な予感しかしない宜野座。
そして、霜月は宜野座から手を離せば、地下駐車場を抜け出そうとする車両に大声で呼びかける。
「聞いてないわよーーー!舞白!!!!」
最後の最後まで、しみじみと別れを惜しむ間もなく。ただ、混乱と波乱という爪痕を残して消えていく舞白。
哀しい、寂しい別れは嫌いだった。
彼女らしい無茶苦茶な別れ方に、霜月はゼーゼーと息を切らしながらも、どこか憎めない、すっきりとした様子の表情を浮かべていた。
「……全く。次会うときは問い詰めてやるわよ。」
霜月はいつものように腕を組み、車両が見えなくなるまで、じっと見据えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・