PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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confrontation of orphen

 

 

 

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久しぶりに感じる心地いい風、潮の香り。

都会の謙遜から離れたこの場所は、やはり自分にとっては無くてはならない大切な場所だった。

 

 

車を車庫に入れ、軽々とダンボール箱を2つ抱える。義手もなかなか悪くない。メンテナンスは大変だが、便利なツールと考えれば不思議と辛くない。

 

 

"KOGAMI"と書かれた表札。

部屋の扉のロック解除し、扉を開ければ、懐かしい自宅の香りが纏わりつく。

 

 

「ただいま〜……って、誰もいないんだけど――」

 

パンプスを脱ぎ、ダンボールを廊下へと一旦下ろせば、リビングに繋がる扉のドアノブに手をかける。

 

 

リビングの電気を点け、室内を見回すと綺麗に片付けられていた。ガラスの破片も、何も残っていない。恐らく、兄が片付けてくれたのだろう。大きな窓もきちんと直されており、彼らが踏み込んだ痕跡は全て無かったかのように元通りになっていた。

 

 

スーツジャケットを脱ぎ、椅子へと掛ければ、そのまま大窓に近づき、窓を開ける。9月も最終日となれば、さすがに感じる風はすっかり秋の様子。そのままベランダへと足を踏み入れ、柵に寄りかかる。清々しい程気持ちの良い風に、思わず目を閉じ、深呼吸を繰り返す。

 

 

「……ふぅーー…………」

 

 

ゆらゆらと風に靡く白銀の髪の毛。月明かりに照らされた舞白の顔は、白く陶器のようで、髪の色と一体化していれば、まるで人間離れをした、絵画作品の中で存在しているような、……

 

 

 

「……ツ………………」

 

"ああ、また彼が来る"

 

 

 

 

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瞼を持ち上げると、白くモヤがかかっているような世界が現れる。時が進むスピードは遅く、酷く耳鳴りがしていた。

 

 

できれば、もう会いたくないものだ。

前は、宜野座がまだ眠っていた頃、ガラス張りの病室の前で"彼"は現れた。

 

だが、数年前、

"次、君に会う時は審判を下した時だろう――"と間違いなく彼はそう口にしていた。

 

 

「……気まぐれすぎるのよ、本当に……」

 

肩がぶつかりそうになるほどの近距離の真横に現れる男。同じく柵にもたれ掛かり、白いモヤの先に見える海岸を見つめている様子だった。

 

「「酷いね。前は君を元気づけようと、手を差し伸べたつもりだったんだが――」」

 

「いつ、私に審判は下るのでしょうか…。槙島さん。」

 

彼の幻影は悩みの種だ。

なんせ、節目節目で現れる。今度こそ、彼は自分の命を持って行ってしまうのだろうか?と内心気分が揺らいでいた。

 

 

「あなたのふざけた鉄くずのせいで、私の命は削られてるのよ。……全く……」

 

「「にしては、案外しぶといね。おまけに想い人と婚姻関係になるまで、君は生き長らえている。それは素晴らしいことだよ。」」

 

トントンと肩を叩かれれば、キッと男を睨みつける。

 

 

「「寿命は僅か。しかし、それでも君は抗っている。なんの為に?……命が惜しいなら、大人しくしている方が得策だと思うんだが……」」

 

「……私がじっとしているような人間だと思う?違うでしょ?……だったら最初からお兄ちゃんと海外になんて逃亡してないから」

 

柵に背中を預け、両肘を乗せると顔を空へと向ける。隣の男は不気味に薄笑いを浮かべては、呑気に自分を見据えていた。

 

 

「「だからこそ、君は面白い。

…どうやら、君の判断は間違っていないようだ。」」

 

槙島の手元に1枚のカードが現れる。

目を見開いた天使の姿、手にはラッパ、十字の旗に、棺桶に立つ人々。

 

 

タロットカードの20番目"審判

 

これまでの行動に対して結果が出ることを表すカード。1つ前、19番目の"太陽"では、眩しく輝く太陽の光がすべてをありのままに照らし出すことを意味する。

 

そこで見えてきた過去の行いは、どのような結果につながるべきものなのか、"審判"でジャッジされ、そして、徳を積む生き方をしていたのであれば、死者であっても蘇ることができる――

 

そんな復活のチャンスを物語るカード。

 

世界を放浪していたあの時、とある少女に占ってもらってから、舞白はやたら執着するようになった。

 

「「君は素晴らしいよ。正位置全てに当てはまる。唯一無二だと思える相手と結ばれ、公安局での任務もやり遂げ、再始動を果たした。対人関係でも、親しい友人と再会し、過去の失態に囚われないその精神――」」

 

 

「……そりゃどうも。亡霊に褒められても嬉しくないけど」

 

「「亡霊なんかじゃないさ。"生きてる"、間違いなく君の中でね。……というより、"生かされている"が正しいかな。」」

 

「生かしてる覚えは無いんだけど……」

 

むっ、と口を尖らせれば、いけ好かない相手に眉を顰める。槙島は微笑を浮かべたまま、不意に話を転換すれば、舞白に問いかける。

 

 

「「そういえば、君に聞きたかったんだ。"カストルとポルックス"あれはどうだった?」」

 

柵に肘をかけるような体勢をすれば、不機嫌そうに顔を顰める舞白に視線を向ける。急な話の転換に驚くも、さっさとこの幻影を消えて欲しいと願えば、舞白は素直に応えていく。

 

 

「最後の最後まで孤独だった可哀想な兄弟。……彼らは結局、私たちと戦ってたんじゃなくて、自分たちの孤独と戦っていた。そんな気がする。」

 

「「……いつもより、語彙が欠けているように感じるね。随分抽象的で纏まってない発言だ。」」

 

「悪かったわね、語彙力なくて」

 

カチン、と怒りが混みあげれば、今すぐ殴り飛ばしてやろうかしら?なんて脳内で考えるも無駄な事だと分かれば、再び口を開く。

 

「あの兄弟には"孤独"しかなかった。両親は殺され、しかもそれを殺した相手に、自分たちも騙され、利用され、殺されて。……まるで、カストルとポルックスの神話と同じような終わり方で、ちょっとできすぎて怖かったかも。」

 

「「神話通りなら、今頃あの兄弟は天に召され、2人仲良く身を寄せあってるだろう。いいじゃないか、それはそれでハッピーエンドたね。」」

 

「……そんなわけないでしょう。あなたこそ、やけに適当で楽観的な考えで呆れるわ。」

 

はあぁぁぁ……、とため息を漏らす。そして、柵から手を離し、ぐーーっと伸びをすれば、怠そうに隣の槙島に視線を向ける。

 

 

「もっと、…もっと私に力があれば、早い段階で2人を止めることが出来たかもしれない。あんな惨い死に方をさせてしまった事は、正直私も辛かった。人を大量に殺した彼らに言うべき言葉では無いかもしれないけどね。」

 

「「よくも、まあ、そんな言葉が並べられるものだな。下手をすれば自分も死んでいた、腕を失う大怪我を負ったのに相変わらずだね、君は。」」

 

舞白はそっと右腕の義手に触れる。

 

「「だからこそ、彼らは君を"盲目の女神、テミス"と呼んだのかもしれないね。」」

 

 

ふと、最期に宇和城琉が口にしていた言葉を思い出す。その言葉を再び、槙島が話し始める。

 

 

 

「「テミスが手に持つ天秤は正邪を測る"正義"を、剣は"力"を象徴し、"剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力"に過ぎず、正義と力が法の両輪であることを表す。目隠しは彼女が前に立つ者の顔を見ないことを示し、法は貧富や権力の有無に関わらず、万人に等しく適用されるという"法の下の平等"の法理念を表す――だったかな」」

 

 

「善悪の判断を厳格に行うこと、正義を断固として妥協することなく実行すること、そして見かけにとらわれず真実を公平無私に見抜くこと。」

 

 

義手から手を離せば、再び白いモヤのかかった、目の前の海岸へと視線を向ける。徐々に、徐々に……そのモヤが消えていく気配を感じていた。

 

 

「「正義、盲目の女神、確かに君にお似合いだ。」」

 

「女神なんて大それたこと。……でもね、そうでありたいと思ってた。……ううん、そうじゃないとダメなんだよ。シビュラシステムがあるからこそ、人は正しい判断が出来なければならない。」

 

 

風に靡く舞白の白銀の髪を撫でるように振れれば、まるで幼子を見守るような、柔らかい視線を向ける槙島。舞白は見向きもしないまま、じっと先を見つめていた。

 

 

「「早々に、こちら側に引き摺り降ろしてやろうと考えていたが、まだ先になりそうだね。面白そうだ。」」

 

「……抗ってみせる。私にはまだやり残したこともある、やらないといけない事がある――」

 

 

そっとポケットの中の封筒に触れると、ぎゅっと唇を噛み締める。開封された常守からの手紙。自宅への帰路の途中で、それは開封されていた。文章を読んだその時から、舞白の中で氷のような熱情の霧がかかり始めていた。

 

それに、……自分の未来を諦めたくなかった。

 

 

「「.......」」

 

 

槙島は、サラッと髪の毛を撫でる手を離さそ、こちらに見向きもしない舞白の耳元で言葉を放つ。

 

 

「「僕は、君の命の輝きを見たいんだ。以前よりも、更に興味が湧いてね。……その抗いとやら、見させてもらうよ、狡噛舞白――」」

 

 

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「…………ッ……!」

 

左腕を思いっきり払うように動かせば男は消えていく。白いモヤがかかった世界は、一気に闇に包まれ、現実世界に引き戻される感覚に陥る。

 

彼の声を聞くと、まるで麻痺するような感覚に襲われる。洗脳のような、奇妙な、気味悪い感覚――

 

 

 

「何なのよ……本当に――」

 

 

ベランダから室内へと戻り、カバンからいつもの薬を取り出せば、口に放り込み飲み干す。

 

ドクドクと、早くなる心拍数を抑える。目眩を起こす頭痛も治まっていけば、ゆっくりと椅子に腰掛け、深く息を吐く。

 

 

 

そして、不意にポケットから常守からの手紙を取り出す。両手でぎゅっと端と端を掴み、そっとテーブルに置けば、そのまま上半身を突っ伏す。

 

 

 

瞼をそっと閉じ、常守の手紙に書かれていた一部の文章を脳内再生する。

 

 

 

 

 

 

――このシステムと長い鎖国政策により、日本は世界紛争の悲劇を免れ、唯一の平和な国となった。だが、そのために私達は、何を犠牲にし、そして、何を忘れ去ったのだろう――

 

 

 

こてん、と頭を左に倒せば、再び瞼を持ち上げ白い封筒にそっと手を乗せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えは、深い闇の中にある。この社会に潜む本当の、罪とともに――」

 

 

 

そっと、言葉を呟けば体を起こし、目を覆うように両手を被せると、今までの出来事が、フラッシュバックするように脳内を駆け巡る。

 

 

「……私にできること、成すべきこと……それは――」

 

"真実を、公平無私に見抜くこと"

 

 

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「…法を守り、その先を選択して実現していく…間違えたらダメなのは、社会が……人の未来を選ぶということじゃない…、ッ…人が社会の未来を選んで、切り開いていく―――」

 

 

 

 

「あなたのその言葉、……信じてみたく、なったんです…」

 

 

 

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常守の手紙、宇和城琉の最期の言葉、槙島の残した言葉。それは自分に課せられた、任された言葉。決して諦めてはならない、その言葉の意味を――

 

 

 

 

「成し遂げてみせる。必ず。この世界のためにも、……私自身のためにも。」

 

 

 

 

両目を覆っていた手を離せば、ふと、テーブルに残されていた、あの紫の花菖蒲の花びらが目に映る。

 

 

 

 

花言葉は

"あなたを信じる"

 

 

 

 

 

まるで、彼らが残したメッセージのようだった。

 

 

 

 

「……忘れちゃいけない。あなた達のためにもね。」

 

 

 

花びらを指先で摘み、掌に乗せ、空気を掴むように、そっと閉じる。

 

 

 

「孤独との戦いは、もう終わりよ。……もう、独りなんかにさせない。」

 

 

 

開いている窓から優しい潮風が入り込む。その風と共に、微かに交ざった花菖蒲の香りが、やけにあのふたりを脳裏に浮かばせるのであった。

 

 

 

 

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