PSYCHO-PASS -confrontation of orphen-   作:鈴夢

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最終章
エピローグ__


 

 

 

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2120年10月上旬――

――外務省 九州支部局――

 

 

 

 

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『――――で?そっちはどうなのよ?』

 

「別に、何ら変わらないよ?いつも通り忙しくてさ―――」

 

 

 

スッキリとした、清々しい秋の日差しが体を覆う。風通しの良いこの場所は、まるで公安局ビルの展望テラスを思い出させる。目の前に広がる光景は東京とは大きく違う。都心のように周りに高い建物はなく、じーっと、よく目を細めれば、先にある海が見えそう……なんていつも考えていた。

 

 

長い白銀の髪の毛をもつ"女性"は、ゆらゆらと髪をなびかせながら、柵に肘を乗せ、通話相手の友人と楽しそうに会話を弾ませていた。長期任務明けで、その友人とゆっくり会話を交わすのは久しぶりだった。自然と笑みが溢れると、トレードマークの涙ボクロが、頬の皮膚に持ち上げられるようにクイッと持ち上がる。

 

 

 

「そういえば、そろそろでしょ?新人の監視官の着任。」

 

 

『……はぁー……、そうよ。やる事が多すぎて嫌になりそう。"課長"なんて、嫌な役回りなんだから。細呂木局長も何考えてるのか分かんないし、めんどくさい事は、間に挟んだ私に全部押し付けるつもりよ、本当にサイアク……』

 

通話相手の友人はいつも通り毒を吐く。変わらないその様子に安堵するも、相手の声色で疲れているんだろうなーと察せば、微かに眉を顰め、心の中では心配していた。

 

 

すると、通話相手は何か思い出したかのように、話を転換する。

 

 

『うちの優秀な人材達は役に立ってる?もし外務省で手あまりになってるなら、さっさとウチに戻して欲しいんだけど?国内も事件だらけで、人手不足は深刻よ』

 

「国外も同じく大変なの。それに、引き抜いたのはうちの課長なんだし――」

 

"うちの課長"というワードを耳にした相手は、ボリボリと頭を搔くと声を荒あげる。

 

 

『あーー!もう!本当にムカつくのよ……。優秀な人材を次々引き抜かれて、こっちは腹たってんのよ!2年前のメンバーを思い出してみなさいよ?監視官はあんたを入れて3人、執行官も宜野座さんに、六合塚さんに、須郷さんも――残ってるのは雛河だけ。今のメンバーも悪くは無いけど――』

 

2年前の一係、そして現在の一係。監視官も執行官も総入れ替えのような状況。1番の古株は、あの雛河のみと耳にした時は、驚きを隠せなかった。

 

 

『……あんたも分かるでしょ?配属された監視官は次々と――』

 

 

「分かってるよ。言わなくたって、その都度情報は確認してる。……それ以上、言わなくても大丈夫……美佳ちゃん」

 

 

通話相手――霜月美佳。

彼女が口にしようとした続きの言葉を遮るように、自らの言葉で遮断する。お互い、顔は見えないがどんな表情をしているのか、だいたい予想が着いていた。

 

 

『……そうね、この話はナシ。

……じゃあ、話を変えて――』

 

 

 

暗い空気を打ち消すように、霜月は面白がるような口調で口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――新婚生活はどうなの?"宜野座舞白"さん?噂によれば、こっち(東京)で良いマンション買ったんでしょ?』

 

 

"たまにはそういう話も聞かせなさいよ〜"と嬉しそうな様子の霜月に、舞白は悩まし気な表情を浮かべていた。

 

 

 

「あのねー、美佳ちゃん。外務省行動課の捜査官が、平穏な、理想的な生活が送れてると思う?それに、新婚生活って……籍入れて結構経つんだけど……」

 

白髪の長い髪を揺らす女性――狡噛舞白、改め"宜野座舞白"は苦笑いを浮かべながらため息を吐くように言い捨てる。

 

「美佳ちゃんの言う通り、良いマンションも買ったのに、最近はあまり帰れてないし。1人で帰る時は、結局実家に戻ってるし。…でも、たまに課長が気を利かせてくれて、2人の休暇を合わせてくれたりしてるから、そこは感謝してるの」

 

 

籍を入れてかなり経つものの、あまり新婚らしい生活はできていない。むしろ、"彼ら"が外務省に入省するというのも、突然の事で、むしろその事を当時は本人からも聞いていなかった。

 

 

『まあ、そりゃそーよね.......あんな事があって、あんたに入省することも直接言ってなかったって聞いてるくらいだし。』

 

「あの時はビックリしたよ、本当に。別任務で駆り出されてて、東京の外務省本庁に戻ったら、あのふたりがいたんだから。お兄ちゃんも課長も、何も話してくれなかったし、本当にビックリして……須郷さんも、宜野座さんも、前もって連絡くらい――」

 

 

 

「俺がなんだって?舞白。」

 

 

 

刹那、グイッと舞白の肩を何者かが掴む。

 

その人物は背後から、舞白のデバイスを覗き込むと、通話相手が霜月だと分かれば、微かに口角に弧を描く。

 

霜月は微かに聞こえたその声と、デバイス画面に映る人物の顔が見えた瞬間、ギョッとした表情を浮かべていた。

 

 

『うっわ!噂をすればなんとやら――』

 

「久しぶりだな、霜月監視官」

 

『監視官なんて嫌味?……一応昇進したんですけど?』

 

「それは悪かったな、"霜月課長"」

 

 

スーツの上から、外務省ジャケットを羽織り、左手には舞白と同じ革製の手袋。長かった髪の毛はバッサリと切られ、一昔前のように、ぴょこっと結われていた。

 

 

『相変わらずそうで安心しましたよ、宜野座さん。』

 

画面越しに、霜月は宜野座の様子を見ると、特に変わらない様子で安堵していた。そして密かに"やっとあの鬱陶しい長い髪を切ったのね……"と心の中で呟く。

 

そして、舞白は隣に立つ宜野座を見上げ、面白がるように霜月を茶化す。

 

 

「ねーねー、聞いてよ?美佳ちゃんってば、すぐにでも戻ってきて欲しいって、ずーーっと言ってて……」

 

『ちょっと!余計なこと言わなくていいのよ!あれは言葉の"あや"よ』

 

 

微かに頬を赤く染めるように、恥ずかしそうに頬を緩める霜月を見る2人は似たような表情でクスクスと笑っていた。

 

「素直になればいいのに〜、ね?」

 

「全くだ」

 

 

 

 

『……ムカつくわ、この夫婦……。次会った時は覚えときなさいよ…』

 

 

ふんっ、と顔を画面から背け両手を組む霜月。ちらっと横目で、目の前の画面に映り込む2人の姿を見ると、微笑ましく、そして率直に2人に会いたい、だなんて考えていた。

 

 

 

「そういえば、霜月。今月のどこかで休暇がてら、東京に1週間ほど戻ることになった。勿論、舞白もな?」

 

「え?その情報初耳なんだけど……、それに"あの調査"――」

 

 

"あの調査"の続きを口にしてしまいそうになり、慌てて舞白は自分の口を手で塞ぐ。外務省の守秘義務は、勿論公安局にも話すことは断じて禁止されている。

 

 

『舞白。あんた本当にそういうことポロッと口にするんだから気をつけなさいよ?前だって、あんたの家に行った時、機密書類は放置されてるし、自覚しなさい。』

 

 

「霜月の言う通りだ。……お前は本当に……」

 

「へへへっ、ごめんなさい……」

 

 

呆れ顔の霜月と、隣で頭を抱える宜野座。

 

ガミガミと2人に言われると昔を思い出す。一応、怒られている状況ではあるのに、何故かそれが嬉しくて、無意識に笑みをこぼす舞白。

 

 

 

「……まぁまぁ、それは置いといて……。と、言うことで!休みの日程が分かったら直ぐに連絡するね?久しぶりに一緒にご飯でも行こうよ〜!あと新居に遊びに来て欲しいし!」

 

『そうね。だったら早めに連絡してね?こっちも暇じゃないんだから』

 

 

久しぶりの休暇に心躍らせる舞白。

 

 

すると刹那、少し離れた、背後の扉が開閉する音と共に、とある人物が現れれば舞白と宜野座に声をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舞白さん、宜野座さん。そろそろ時間です。」

 

 

現れたのは、同じく外務省のジャケットに身を包んだ須郷。柵にもたれかかっていた2人は背後に振り向けば"はーーい!"と舞白が手を振り、すぐ戻る事を伝えるようなアクションを起こす。

 

 

「じゃあな、霜月。頑張れよ」

 

『あなたに言われずともきちんと仕事はこなしますから、宜野座さん』

 

手を軽く振る仕草を見せ、宜野座はそそくさと去っていく。そして、舞白も柵から身を起こし、画面を真っ直ぐと見据える。

 

 

 

 

「また連絡するね、美佳ちゃん。

……あと、朱さんの事で、引き続き何かあったら連絡ちょうだいね。」

 

 

『……わかってるわよ。』

 

 

霜月は、複雑そうな、形容のできない妙な表情を浮かべる。それを見た舞白も、同じように眉を下げ、微かに笑みを浮かべるような神妙な表情をしていた。

 

 

「ありがとう、美佳ちゃん。」

 

 

『――とにかく。あんたはあんたの仕事をしなさい。成すべきことをね』

 

霜月の言葉に、小さく頷く。

 

 

「うん。そうだね。

……じゃ、またね、美佳ちゃん。」

 

 

プツッと切られる画面。左腕をゆっくりと下ろせば、じっと空を見上げ、清々しいほど澄んでいる空気を目一杯吸い込み、深く息を吐き出す。

 

 

そして、そっと両目を手で覆えば、瞼を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの行いは、あなたの信念は正しかったと。…必ず、胸を張って言える日は訪れる。……その為に、成すべきことを成す、ただそれだけ。」

 

 

 

 

2年前、彼らは、宇和城兄弟は、

自分を"盲目の、正義の女神"だと言った。

 

 

 

 

 

「社会が必ず、正しい訳じゃない。だからこそ私たちは、正しく生きなければならない――朱さん、あなたは教えてくれた。だからこそ、私は法と正義を元に、正しく生きていくの。」

 

 

 

 

 

 

手を離し、晴れ渡った青空を真っ直ぐと見据える。

 

 

そして、彼女は再び歩み始める。

自分の成すべきことを、成すために――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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