ムーの栄光よ再び   作:starship

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太陽会の地道な火種潰しにより、作中世界の情勢は安定しています。パーパルディア皇国も漂白済みです。まあロウリア王国は通常運転ですが……


『安堵』

 

──中央暦1639年4月20日 日本国 首相官邸──

 

 

「ひとまず、当面の課題は解決できた。これで我が国も一息つけるだろう。皆の助力なくしては、ここまでたどり着けなかった。本当に感謝している」

 

内閣総理大臣『真壁史彦』は表情を緩め、温和な笑みを浮かべた。彼は深く頭を下げ、閣僚たちに心からの感謝を伝える。

 

真壁の言葉と態度に、閣僚たちもまた深く頭を下げた。

 

「しかし、これでもようやくスタートラインに立ったにすぎない」

 

真壁が顔を上げる。その眼差しは再び真剣なものに戻っていた。

 

「食料資源の供給解決、現地諸国との関係構築。これらは確かに大きな成果だ。だが、それはあくまで緊急事態を乗り越えただけ。まだ安心は出来ない」

 

「我々が今後進むべき道は、まだはっきりと見えていない。日本がこの世界でどう生き、どう発展していくのか。その羅針盤をこれから我々が作らねばならない」

 

閣僚たちの間には緊張感が再び走った。

 

地球から異世界に転移して4ヶ月。日本は驚異的なスピードで混乱を収め、安定への道を歩んできた。これには、在外邦人や在外輸送機器の活躍が特に大きい。

 

転移後、約140万人の在外邦人が日本各地に出現した。車両は空き地、船舶は港湾施設、航空機は空港、人工衛星は宇宙空間にそれぞれ現れ、日本の活動を力強く支えた。

 

彼らは突然の出来事に混乱しながらも、自衛隊や政府の呼びかけに応じて、復旧作業や物資輸送に多大な貢献をした。

 

在外技術者たちは大型重機や専門技術を持っており、インフラの早期復旧に不可欠な存在だった。

 

当時の日本では非常に貴重なエネルギー資源も奇跡的に手に入っていた。天然ガスや原油が車両の燃料タンクやタンカーの中から見つかったのだ。

 

この資源群は国家の活動を支えるために使われ、クイラ王国の資源輸入まで貴重な動力源となった。

 

「我々は本当に幸運でした」

 

農林水産大臣が安堵の息を漏らす。

 

「この幸運をどう活かすか。我々の真価が問われるのは、これからだ」

 

真壁は力強く言い放った。その言葉は彼自身と、ここにいるすべての閣僚たちへの問いかけでもあった。

 

「それにしても、まさかムー連邦がこれほど友好的に接してくるとは……」

 

経済担当大臣が安堵のため息をついた。

 

「彼らの全面協力には本当に助けられましたよ。経済復興の見通しはようやく明るくなってきました。現地の通貨体制を理解して為替システムを確立するだけでも一苦労でしたから。もし我が国が独力でやろうとしたら、さらに時間を要したでしょうね」

 

だが、真壁の表情は晴れなかった。

 

ムー連邦との接触、それは日本にとって大きな利益をもたらした。しかし、同時に何とも言えない不気味さを感じていた。

 

「おかしいとは思わないか?」

 

真壁は静かに呟いた。

 

「ムー連邦の者たちは『日本の転移現象』そして『混乱への処方箋』まで最適に接してきた。まるで……今後の展開をあらかじめ知っていたかのように」

 

閣僚たちの間に再び緊張が走る。ムー連邦の助言は確かに的確だった。

 

前向きな経済協力、各種貿易ルートの紹介、為替システムの連携。その全てが完璧に機能した。

 

真壁は続ける。

 

「共通体系の科学技術、JIS規格の工業製品……なぜ、そこまで我が国にそっくりなのか。なぜ、我が国に極めて協力的なのか」

 

ムー連邦はまさに世界最強国家だった。世界中の国家が霞んで見えるほど、圧倒的な技術力と軍事力を有する。そんな人々が新参者の日本に極めて友好的な態度を示す。

 

あまりにも都合が良すぎるのだ。

 

「我々が現れるのを待っていた。そう読みとれてこないか?」

 

真壁はそう締めくくった。

 

その言葉は単なる疑念ではない。日本の未来に深く関わる不穏な予感として、重く会議室にのしかかっていた。

 

 

真壁は執務室の窓から夜景を眺めていた。

 

首都の光が煌々と灯っており、異世界に転移したことを忘れさせる。それほど日本の秩序が回復してきたことを物語っている。

 

しかし、真壁の心は晴れなかった。

 

「ムー連邦の奇妙な行動……国内の暗躍者たちか」

 

異世界転移の数ヶ月前、極秘の政府顧問として現れた者たちの顔が浮かんでいた。その正体は一切分かっていない。

 

八咫烏(やたがらす)

 

冷戦時代の頃から姿を現し、日本を陰から導いてきたとされる。世間一般的には、フリーメイソンのようなオカルト的でマニアックな陰謀論として語られるのみの存在だ。

 

だが、彼らは真壁の元に現れた。未来予知でもしているのか、正確な助言を与え続けてくる。

 

「食料資源の供給危機は短期的なもの。在外邦人の帰還と輸送機器、クワ・トイネ公国とクイラ王国の存在が解決の鍵となる」

 

「ムー連邦は大して警戒しなくてもいい。彼らの善意と配慮を信頼せよ」

 

彼らの助言はムー連邦の行動と驚くほど一致していた。そうまるで、ムー連邦と八咫烏が同様の予言書を共有しているかのように。

 

「八咫烏は断言した。我々がこの世界を救済する者だと」

 

真壁は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 

(まさか、この転移現象は意図的に起こされたものなのか?  誰かに呼び寄せられるかのように?)

 

「我々は何を信じればいい? 日本がこの世界で歩んでいく道さえ、本当に誰かに決められているものなのか?」

 

彼の問いかけに答えはなかった。ただ、平和な夜景はその裏に隠された巨大な陰謀の気配を一層際立たせるかのようだった。

 

 

 

 

──中央暦1639年5月8日 日本国 成田空港──

 

 

「テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなー」

 

ムー連邦使節団の一員『ラッサン・デヴリン』は広大な滑走路を見渡しながら、ポツリと呟いた。隣の同僚『マイラス・ルクレール』が苦笑する。

 

「フッ、そのネタまだ使っているのか。まったく、お前らしいな」

 

ラッサンは前世の景色と目の前の光景を重ね合わせる。地形や人々は前世の時と概ね同じだ。

 

しかし、一つだけ決定的に違うところを見つけた。

 

「技術水準がおかしい。これを何といえば良いのか……全体的に数十年分の発展をとげているようだが」

 

マイラスも頷く。

 

「そうだな。この滑走路やターミナルビルも間近で見ればまったく違う。人々の通信機器さえもだ。私たちが知るものよりも、ずっと新しく洗練されている」

 

2人の脳裏に諜報部の情報がよぎる。現世の日本は西暦2039年に転移してきた。前世の西暦2015年よりも24年先の未来であると。

 

「あの世界の未来と言っても、ここまで劇的に変化するものなのか? たった24年しか違わないんだぞ」

 

ラッサンの疑問に対して、マイラスは首を横に振る。

 

「いや、これは間違いない。未来の平行世界だろう。この日本は前世の日本とは異なる歴史を歩んでいる。おそらく、何らかの分岐点があったんだ」

 

「我々の技術は前世の時よりも遥かに進んでいる。それでも、日本の技術は更に高い。何らかのカラクリがあるかもしれない」

 

ラッサンはマイラスの発言にうなずく。

 

「ああそうだな。そして日本の指導者たち、特に真壁史彦首相は前世の政治家と一線を画している。転生者では無さそうだが」

 

2人はおぼろげな不安を覚えた。既知の歴史とは違う、未知の日本という存在に。

 

この日本が自分たちの知るものと同じ道をたどるのか、それとも全く異なる結末を迎えるのか。その答えを導き出すことはできなかった。




【用語解説】

『クワ・トイネ公国』
日本国召喚の登場国家(味方) 文明水準は中世レベル。ただ、大地の女神が国土を祝福しており、食料自給率1000%以上を誇る。

内陸部の穀倉地帯ならば、高品質な農作物が勝手に育ち、疫病や害虫の被害を受けにくい。非食用雑草もかなり生えにくいらしい。

地球の農家からしたら反則の塊である。
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