ムーの栄光よ再び   作:starship

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『幸運』

 

統一暦1638年10月1日、グラ・バルカス帝国は惑星ユグドから未知の惑星に転移してしまった。本国以外は影も形もなく、広大な植民地を失ってしまう。

 

食料・資源の供給先を見つけるため、周辺地域の探索を実行。陸海空の全戦力を動員することになった。

 

そして、同国の探索隊は現地国家を次々と発見。どういう訳か、非常に友好的な態度で迎えられた。科学文明の産物に色々と慣れており、文明水準の割には驚かれることも少なかった。

 

グラ・バルカス帝国は現地国家と国交開設と通商条約を締結。資源・食糧の問題は早々に解決される。

 

1週間後、同国は現地国家の宗主国『ムー連邦』を知る。先進的な地域『三大文明圏』その中でも一層飛び抜けており、世界最強の国家だと言われていることを。

 

帝国上層部は緊急帝前会議を実施。ムー連邦に大規模な外交団を派遣して、異世界の情報収集を行うことになった。

 

 

 

 

──中央暦1638年10月25日 第二文明圏外 西方海域 客船『ディース』──

 

 

2人の男性は要人用の客室でくつろいでいた。しかし、その雰囲気は穏やかなものではない。長方形型の机を間に挟み、お互いに相手の顔を見つめている。真摯な眼差しは一度も逸れることはない。

 

空気は非常に重々しい。机上のコーヒーはまだ温かいものの、時折冷えているように感じられる。

 

「さっそくだが……カイザル君に問いたい。ムー連邦についてどう思っている? 私への遠慮は不要だ。君の率直な意見を言ってほしい」

 

グラ・バルカス帝国の皇族『グラハイラス』は遂に口を開いた。穏健派筆頭という肩書きに相応しく、物腰柔らかく問いただす。ただそれでも皇族の一員らしく、独特な威圧感を漂わせる。

 

「『ケイン神王国』よりも極めて理性的だと思います。あの狂信者たちとは違い、普通に会話を交わせる。これだけでも素晴らしいです。また他の分野も尊敬に値します」

 

グラ・バルカス帝国海軍の東方艦隊司令長官『カイザル・ローランド』はハッキリと断言する。

 

彼の碧眼はハイラスを力強く見つめ、一度も逸らすことはない。非常に真摯な態度だ。重大な嘘は少なくともついていない。そう判断できた。

 

「なるほど、話を続けてくれ。その理由を詳しく知りたい」

 

「アルマシア王国のムー連邦大使は我が国の外交官を温かく迎えいれてくれました。異世界出身の転移国家という、我々の主張を一切否定せず。偏見の目で見てきませんでした」

 

「また周辺諸国の文明水準が大幅に劣っている。それにも関わらず、植民地や属国にしていません。比較的対等な関係を構築している。これには驚きを隠せません。ユグドの常識ではありえませんから」

 

「カイザル君の意見はもっともだ。我が国ならば……もっと積極的に扱っているだろう。良くも悪くもな」

 

ハイラスは何度も頷く。ただ、カイザルの表情はまだ険しかった。懸念材料が何かしらあるようだ。

 

「1つ気になる事があります」

 

「ふむ、それはいったい何なんだ?」

 

「アルマシア王国のムー連邦大使館、その護衛たちは先進的な装備を身につけていました。本国から遠方の地にも関わらずです」

 

カイザルはハイラスに数枚の写真を手渡す。ハイラスは目を見開いた。

 

「こ、これは!?」

 

護衛たちの姿が写っている。大使館の警備任務、その割には随分と物騒な物を身につけていた。

 

小型の自動小銃。それは非金属製の物質で出来ているようだ。直銃床ストック、ハンドカード、アイアンサイト、ネズミ色の弾倉。どれも精巧に出来ている。品質が一般兵装備の割に高い。

 

また木材の姿はどこにもない。ユグドの常識では決してあり得ないことだ。

 

迷彩柄の装備は非常に見つけにくく、華やかさの欠片もない。軍人の存在を周囲に示していないのだ。それはつまり、近代的な戦争は既に経験済み。その事実を明確に示している。

 

ヘルメットは随分と珍しいものだ。外側と内側の形状はかなり違う。材質も金属製と非金属製に分かれている。おそらく、二重構造というものだろう。

 

ボディーアーマーは黄色の繊維で構成されている。未知の化学繊維だろうか。防弾プレートも差し込まれており、榴弾の金属片を多少防げるかもしれない。もしかしたら小銃弾さえも。歩兵の生存率はかなり高いと予想できる。

 

グラ・バルカス帝国軍の一般常識として、本国配属以外の地方部隊は旧式装備を取り合うものだ。つまり、ムー連邦大使館の護衛戦力も地方部隊だと考えられる。軍関係者や諜報機関は少なくともそう考えていた。

 

しかし、護衛戦力の装備は自国の本国配属部隊の質よりも明らかに高い。そこから予想できることは──

 

 

ムー連邦の二線級戦力は自国の本国配属部隊よりも優れている。一線級戦力は更に上回っているということ。この状況は転移前では完全にあり得なかった。それでも現実は残酷な事実を指し示す。

 

ハイラスは言葉を失った。汗がゆっくりと溢れ、額の表面から流れ落ちる。この感情は何というべきだろうか。分からない。今はただ非常に恐ろしい。

 

「まさか、ムー国の技術力は我が国を超えているのか?」

 

「…………」

 

2人は再び口を開けずにいた。




【用語解説】

『グラ・バルカス帝国』
日本国召喚の登場国家(悪役) 惑星ユグドから異世界に転移してきた。原作の世界線では異世界国家と接触をミスりまくり、ダークサイド路線に堕ちた。

もっとも、元から好戦的な覇権主義国家だったらしい。1940年代相当の科学文明国でもある。


『ケイン神王国』
日本国召喚の登場国家。グラ・バルカス帝国のライバル。惑星ユグドの覇権を得るため、転移直前まで戦っていた。ただ随分と敗北続きらしく、本土決戦の寸前まで追いつめられていた。
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