ムーの栄光よ再び   作:starship

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晶彦さま、誤字修正ありがとうございます。

<(_ _)>


『考察』

 

──中央暦1638年11月5日 ムー連邦 首都オタハイト──

 

 

「遂に出来たか。しかし予想以上に早かったな。ふむ、どれどれ……」

 

カイザルは部下の報告書『ムー連邦軍について』を手に取る。随分と重く分厚い。内容の詳細性は期待できそうだ。現地協力者の名前が表紙のメモに書かれている。『マイラス・ルクレール』『ラッサン・デヴリン』

 

(ムー連邦の防諜はどうなっている。どうして外国人に自国の軍事力を教えるんだ? まさか意図的に)

 

その可能性はあり得なくない。実際、新参者のタカ派国家には有効な手段だろう。我々と貴国の軍事力はこんなにも違う。だからこそ一緒に仲良くしましょうと。

 

ムーの上層部は随分と猫をかぶっているようだ。親切なのか、不親切なのか正直分かりにくい。

 

「どんな内容が書いてあるのか。蛇が出るか、吉が出るか。どちらにせよ、帝国のために活かさなければ」

 

彼は報告書のページをめくる。

 

『ムー連邦軍』

ムー連邦の正規軍。陸軍・海軍・空軍の3組織から構成されています。常備軍は120万人、予備兵力は80万人。

 

※本軍は完全志願制を採用しており、徴兵制は一昔前に廃止されているようです。

 

「この規模は恐ろしいな。予想を軽々と超えてきたぞ。しかも徴兵制を完全廃止。志願制だけで軍を運用しているとは。我々の常識ではあり得ないぞ」

 

「もちろん、志願制の場合。従来以上の待遇改善が必要になるだろう。いったいどれほどの予算を必要とするのか。考えたくもないな」

 

カイザルは眉をひそめる。

 

ムー連邦の科学技術は帝国以上。数十年先の水準に到達している。そこまでは少なくとも予想していた。しかし、国力の方はまったく考慮していなかった。工業力は帝国よりも若干高く、唯一経済力だけ帝国を上回っている。そう考えていた。

 

「まだ最初の項目しか見ていない。これでは先が思いやられるな……次はムー連邦陸軍の概要か」

 

「歩兵装備が充実している。まあこれはいい。潤沢な内容さえ除けば何とか理解できる。問題は陸軍の完全機械化を達成しているということ。これはあまりにもおかしい。どうやって実現出来たんだ?」

 

帝国陸軍は完全機械化を達成出来ていない。それに加えて、1個の機甲師団しかない。しかしムー陸軍の場合は違う。数十単位の機甲師団を保有している。

 

機甲師団の各能力もおそらく違う。ムー陸軍の機甲師団と帝国陸軍の第8師団を比べても、天と地ほどの差があるに違いない。

 

砲兵と補給兵の完全機械化も達成済みとある。もしも2国間の陸戦が起きたら、ユグドの戦場以上に一方的だろう。ワンサイドゲームどころか、ハードな実弾演習になりかねない。それだけは絶対に避けたい。

 

「ん? これはいったい」

 

巨大な戦車の写真が貼られている。その戦車は全体的に角張っており、小さなリベット止めさえ見当たらない。海軍の戦闘艦と同じく、溶接式の製造方法を採用しているのだろうか。

 

『ライノ』

 

武装:120mm滑腔砲

   12.7mm重機関銃

   7.62mm機関銃

装甲:複合装甲

動力:ディーゼルエンジン

   1500馬力

速度:70km/h

重量:55t

 

※1:本戦車の主砲について。2kmの場合、タングステン合金製徹甲弾の貫通力は500mmに達します。被弾傾斜はまったく通用せず、ほぼ無効化されています。威力の減衰は最大射程3kmでも10%以下。

 

※2:本戦車の装甲について。正面の防御力は対徹甲弾700mm、成形炸薬弾1400mmです。側面の防御力も高く、75mm級高射砲の徹甲弾を防げます。

 

数種類の装甲材を組み合わせており、同等の防弾鋼板よりも小型軽量で済んでいるようです。詳細な原理は不明。ただ曖昧な情報ですが、特殊なセラミックを使用しているとのこと。

 

「帝国陸軍のハウンドが子供の玩具に見える。陸上のバケモノという言葉が相応しいな。コレを正面から倒すには……重巡洋艦の主砲を使うしかないだろう。それでも貫通力不足だが、弾頭重量で押しつぶせるはず。ははっ、絵に描いた餅だがな」

 

現状の帝国陸軍では対処不可能だろう。多少の有効打すら与えられず、ただの実弾演習になる。

 

(このスペックが本当ならば、あの試作重戦車でも勝てないんじゃないか? いくら要塞攻略用に開発したと言っても、限度は流石にある。今後海軍を最優先しろとは言えないな)

 

予算の配分は間違いなく揉める。面倒事や厄介事は溢れだし、きっと悩まされ続ける。正直関わりたくない。

 

「それでもやるしかない。頭では分かっているが、乗り気にはならん」

 

カイザルはため息を吐いた。

 

 

「ムー連邦の戦闘艦はどれも大きすぎる。駆逐艦が軽巡洋艦サイズまで大型化するとはな。一応、数十年先の帝国艦もこうなりそうではある」

 

武装面の性能以外を追求すれば、船体は必然的に大型化するしかなくなる。乗員の居住性を最低限度以上にしたら、なおさら設計思想も影響を受ける。

 

「ムー連邦の新兵器は確かに存在していた。しかし予測以上の結果だったな。対艦誘導弾は有効射程100km、その威力は重巡洋艦を一撃で無力化するという。また超音速の対艦誘導弾や誘導式の魚雷も存在する」

 

これは絶対勝てない。ムー側の交戦距離があまりにも違う。各武装の命中率も雲泥の差、射程圏内ならば確実に命中する。こんな条件は想定したことすらない。

 

索敵面はもはや話にならない。技術水準の次元が違いすぎる。これではどうしようもない。有能な指揮官云々の考察は無駄だ。

 

『ラ・シキベ級原子力潜水艦』

 

排水量:8000t

全長:115m

全幅:10.5m

最高速度:34ノット

武装:533mm魚雷発射管×4基

   MK-4型VLS×12セル

 

※1:この動力源は原子炉と言い、ウランの核分裂反応で水を高温に熱して、蒸気タービンを駆動させます。燃料補給は数年に一回、原子炉内部のウランを入れ替える。ただそれだけです。

 

※2:対地対艦の誘導弾を海中から発射出来ます。その際の動作は数分も掛からないとのこと。静粛性も非常に考慮されているようです。

 

「こんな潜水艦はどうすればいい!? 半永久的な動力、無限の航続距離……対策の立てようがない。もしも通商破壊をされたら、諦めるしかないぞ」

 

一応通常動力型の潜水艦も存在する。それでも各種性能はシータス級をはるかに上回っているだろう。対潜攻撃を想定しているのか、まったく想定していないのか。この部分が明確に反映される。

 

(静粛性の差は考えたくない。シータス級は最近気にしはじめたばかり。ムーの潜水艦は発明当時から想定済み。その差はきっと凄いだろうな)

 

 

「ジェットエンジン!? 帝国では構想段階の代物だぞ! ムーの航空機はジェットエンジンに完全移行しているのか。これでは……」

 

『マリン』

 

武装:20mmガトリング砲

   搭載量8t

最高速度:マッハ1.8

動力:ターボファンエンジン×2基

 

「この搭載量はおかしい、どうして戦闘機が爆撃機に匹敵するんだ? 20mmガトリング砲はまだ理解できる。しかし誘導弾や誘導爆弾を搭載できるとは。レーダーや暗視装置も基本的な仕様、オプション装備扱いでもない」

 

「飛行速度は音速の1.5倍、航続距離もそこそこ長い。アンタレスではどうしようもないな。ただの七面鳥撃ちになる。それにしても便利な機体だ、随分と使いやすそうに見える」

 

おそらく空母の艦載機は3種類程度に統一されている。マリンの汎用性は群を抜いて高い。対潜機や索敵機以外はあっさり駆逐できるだろう。

 

正直非常に羨ましい。海軍の指揮官として、これほど助かるものはない。航空機の運用はかなり楽そうだ。

 

(せめて旧式機でも輸入出来ないだろうか。無理難題な考えだと分かっている。しかしそうでもしなければ、帝国に未来は無い)

 

「爆撃機はグティマウン以上の大きさか。戦闘機と差別化するために違いないな。亜音速の飛行速度、航続距離10000km以上、爆弾の搭載量が30t以上。もう何も言えん」

 

カイザルは報告書を机上に置いた。報告書の内容確認に疲れ、休息を取りたくなったのだ。さっそくコーヒーカップを持って口にする。

 

(ムーのコーヒーは美味いな。風味と香りも上質な物に感じる。ユグドのコーヒー豆とは結構違うが……)

 

そして──

 

 

中央暦1638年11月20日、グラ・バルカス帝国外交団はムー連邦から本国に帰還した。




【用語解説】

『グティマウン』
グラ・バルカス帝国の爆撃機。大日本帝国の富嶽に極めて酷似している。ただそのスペックは1枚上手らしく、地球の冷戦期爆撃機に匹敵する。
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