ムーの栄光よ再び   作:starship

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『決断』

 

──中央暦1638年12月5日 グラ・バルカス帝国 首都ラグナ──

 

 

「──ムー連邦の調査報告は以上となります」

 

ハイラスは深々と頭を下げる。そして帝前会議室全体に静寂が訪れた。小さな声すら聞こえず、ただひたすらに静か。人々の呼吸音だけが微かに聞こえる。

 

良くも悪くも賑やかだった、普段の様子は影も形もない。人々は一様に顔をしかめ、沈黙を貫いている。

 

(まあそうなるだろうな。さてさて皆はどう出てくるか。特にタカ派の連中)

 

彼は内心気にしていた。タカ派の連中が暴走することを。過激な発言を皇帝陛下の目前で言う、まあこれはいい。問題は皇帝の進退やクーデターを考えないかということ。

 

彼らは間違いなく考える。悪い意味で信頼を獲得しているからだ。皇帝陛下が上手く抑えてくれれば──

 

10秒後、タカ派筆頭の議員が席から立つ。白色のあごひげを生やし、優しげな目付きをしている。しかしその政治思想は非常に先鋭的なものだ。

 

帝国人はユグドでも異世界でも最優良の存在。知性と品性の両方に優れ、世界の頂点に相応しいもの。異世界国家と馴れあわず、絶対的な支配をするべきだと。

 

ハイラスはこの男を非常に嫌っている。もちろん表情には一切出していないが。

 

「ムー連邦の国力は予想以上に高く、軍事力も相応に凄まじい。それは理解しています。しかし」

 

「しかし?」

 

「私はムー連邦に怒りを抱いています。あまりにも帝国を舐めている。ヤツらは帝国に対して礼節を欠きすぎています! ただちに教育するべきです!!」

 

(まだ始まった。はあ……)

 

ハイラスは内心頭を抱えた。この男は正真正銘の大馬鹿者だと。国家の面子とプライドを優先するあまり、現実の情報を正しく認識できていない。

 

(私たちの同胞だと思いたくもない。自称愛国者は政治の舞台からさっさと消えてくれ! はあ……)

 

タカ派議員たちは一斉に口を開きはじめる。

 

「ムー連邦に帝国の鉄槌を! ヤツらの国王を処刑するべきです」

 

「そうだそうだ! 銃殺刑にしましょう!」

 

「ただの腰抜けになぜ気を遣うのですか?」

 

中立派の筆頭議員『ギーニ・マリクス』が席から立つ。そしてタカ派議員たちを睨みつけた。

 

「ハイラス様のお言葉を疑うとは! 貴方たちは世界の大局が見えていないのですか!!」

 

「弱腰の若造のくせに……随分と生意気だな!!」

 

「その政治思想は現状に相応しくない。ただちに取りさげて、冷静な議論を行って頂きたい。これでは会議の意味がなくなります」

 

「な、なんだと! 黙れ小僧!!」

 

(あーあ……これは酷い。殴り合いになるぞ)

 

ハイラスはため息を吐く。そして、近衛兵たちは彼やグラルークスの周囲を取り囲む。皇族を乱闘の流れ弾から守るためだ。

 

その直後、帝王府長官カーツが遂に口を開いた

 

「静粛に! 静粛にしなさい!! ここは皇帝陛下の御前でありますぞ。それにも関わらず、何という醜態……不敬の極みではないか」

 

『……』

 

議員たちは一斉に動きを止める。タカ派ハト派も関係なく、気まずそうにダンマリと黙りこんだ。そしてグラルークスに深々と頭を下げる。議員の中には土下座をする者も居た。

 

数秒後、彼らは自分の椅子に戻って腰を下ろす。先ほどの威勢はどこに行ったのか、恐る恐る小さく縮こまっていた。

 

「フフッ」

 

グラルークスは微かに笑った。議員たちの有様に呆れはてて、ただただ笑うしかない。おそらくそう思っているのだろう。彼はハイラスに視線を向ける。

 

「それはさておき……ハイラスよ、誠にご苦労だった。さっそくだが、お前に聞きたい。我が国は核兵器を開発できるのか?」

 

(この質問を待っていた!)

 

ハイラスは目線を軍人達に向ける。

 

『……』

 

軍人達は視線を泳がせる。どうしてもわからないのだ。アイコンタクトの意味を。ハイラス側から会議前に打ち合わせもなく、メモ1つさえ手元に届いていない。

 

しかし、カイザルは席から立った。

 

「陛下、私がハイラス様に変わり説明致します。単刀直入に言いますと、我が国の核兵器開発は実現不可能です。メリット以上にデメリットが大きすぎます」

 

「ほう、カイザルよ。なぜそう言い切れる。理由を教えてくれないか?」

 

「我が国は原材料に恵まれていないのです。特に放射性物質がまったく無い。ムー連邦の調査任務後、私は資源調査を国土交通省と行いました。結果は前述の通りです」

 

「ほうほう、なるほど」

 

グラルークスは何度も頷く。ただその瞳はカイザルを見つめ続ける。まだ物足りなさそうに。お前の意見はその程度なのか、まだまだ有るんじゃないかと。

 

強烈なプレッシャーが帝前会議室に漂う。それでもカイザルは顔色1つさえ変えもしない。

 

「そのため、私は放射性物質を外国から調達しようと考えました……しかし周辺諸国の中枢にムー連邦の熱烈なシンパが必ず紛れこんでいる。その情報を知ってしまったのです。核兵器開発の情報は間違いなく漏れ、妨害工作が行われることでしょう」

 

「また、我が国は食料や資源を完全に自給できていない。だからこそ周辺諸国の輸入に頼っています。覇権主義的な行動を起こそうとすれば、輸出禁止はもちろん、即座に宣戦布告を受けます……最悪の場合、ムー連邦の核兵器が本土に降り注ぐかもしれません」

 

「その根拠はどこにある。まさか無いとは言わない──」

 

「私がムー連邦の人間だったらこう致します。ただそれだけです」

 

「カイザル……その言葉は疑いようもないな。お前の判断を信じよう。我が国の命運は既に決まっていたのか」

 

グラルークスは瞳を閉じた。そして深呼吸を何度も行う。自身の夢『世界征服』が潰えた、その現実に強烈な落胆を感じたのだ。

 

(しかしこの気持ちを引きずる訳にはいかない。今後も臣民達を率いていくのだ。これは割り切るべきだろう。さてと)

 

彼は目を開いた。その姿は非常に力強く、些細な憂いさえ感じさせない。

 

「それならば話は早い、ムー連邦の手を取ろう。そして……ちょっとした大掃除でもしようか」

 

ハイラスは言葉の意味に気づいた。グラルークスは国内のタカ派を──




この後、無茶苦茶説得しました。それでもダメだったら? 問答無用の○清になります。あと次回から日本接触編です。


【用語解説】

『ラグナ』
グラ・バルカス帝国の首都。非常に発展しており、1940年代のニューヨークに匹敵する。ただ環境汚染があまりにも酷く、原作では産業革命時のロンドンに例えられていた。

それでも住民たちはまったく気にしていない。むしろ文明発展の証と誇っている。
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