──中央暦1639年4月1日 ムー連邦 アイナンク空港──
(まさか、前世の時と同じ事をやらされるとは。しかも任務の内容はそのままだ。いくら人材適所の配属だと言っても……まあ良いか、現世の日本はどんな風になっているのやら)
ムー連邦の技術士官『マイラス・ルクレール』は白磁のティーカップを手に取る。太陽会の諜報員曰く、この紅茶は上層部の贈りものらしい。神聖ミリシアル帝国産の最高級茶葉を使っているとか。
(自分をこんなに評価しているんだな。確かに嬉し──)
待機室の扉が開かれた。複数の男性が姿を現し、続々と入ってくる。そしてマイラスは内心盛大に吹いた。
先導役の男に見覚えしかないのだ。前世でも現世でも一緒に仕事をこなし、祖国のために働き続けたもの。自分の上司『情報通信部部長』だった。
(ここまで同じなのか!? 上層部は狙っている……訳ではなさそうだな。外交官たちの顔触れが随分と違うし)
前世の時よりも全体的に若く見える。年齢層は20~30代くらいだろうか。どうやら太陽会の改革は外務省の人事制度にも影響していたらしい。
能力面の心配はしなくてもよさそうだ。
「彼がマイラス・ルクレール君です。連邦軍の技術士官を勤めており、第1種総合技術の資格を歴代最年少で習得しています」
「皆さま初めまして。連邦軍の技術士官を勤める、マイラス・ルクレールと申します。今後ともよろしくお願いします」
マイラスは笑顔を浮かべつつ、外交官たちに頭を下げる。外交官たちも同様に頭を下げた。
一同は挨拶を交わしあい、簡易的な自己紹介を行う。そして待機室内のソファーに腰を下ろした。
上役の外交官は早々に口を開く。
「今回の用件を単刀直入に言います。本日の早朝、日本国の外交団が第二文明圏の東方海域に到着いたしました。ただ」
「ただ?」
「外交団の護衛戦力として、1個空母艦隊が同行しているのです」
「そうなんですか!?」
マイラスは首をかしげる。
転移直後の日本国が1個空母艦隊を保有。この時点でおかしい。巷の噂が正しければ日本列島の転移しか確認されていない。国土面積や総人口は前世の時と同じくらい。歴史の方もきっと変わっていないはず。
(大規模な軍拡は難しいはずなんだが。どうしてこうなっているんだ。訳が分からない。前世のパーパルディア皇国、あの蛮行に匹敵する事でも起きたのか?)
「マイラスさんも知っていると思いますが。国際的な外交マナーとして、自国の軍事力は誇示するものになっています。もちろん日本国側にも伝えていました。しかしここまでとは正直予想外なのです」
「それだけではありません。我が国の技術的な優位性を見せつけるため、アイナンク空港を合流場所に指定しました。しかし日本国は政府から飛行許可を取り付けて、大型のヘリコプターに乗ってきました」
「大使曰く、日本国はフィルアデス大陸の東方海域に存在するようです。場所的には文明圏外国家ですが……あのヘリコプターを見るかぎり、そういう偏見は捨てさるべきでしょうね」
外交官は話し続ける。
「我が国と日本国の外交会談は1週間後に行われます。それまでは外交団を案内しつつ、技術水準を可能な範囲で探ってください」
「なるほど、承知いたしました」
──30分後──
マイラスは来賓室のドアをノックする。
「どうぞ」
女性の声が聞こえる。随分と若々しい。何というか違和感を抱いてしまう。少なくとも現時点の日本国ではあり得ないことだ。
日本の外交官と言えば典型的なおじさん。トレンドマークは黒色のスーツとメガネ。その実態は中々変わらず、転移後20年まで続いていた。記憶が正しければそうだったはず。
(もしかして、西暦2015年よりも先の時代から転移してきたのか? 真相は闇の中だが……鬼が出てくるか、蛇が出てくるか。どちらになるかな?)
来賓室のドアをゆっくりと開ける。2人の男女が見えた。どうやらソファーに座っているらしい。それにしても雰囲気が随分と堅苦しい。
(リラックスしていても別に構わないんだけどなぁ。まったく……何というか日本人らしくて安心するよ)
この国民性は前世と現世でも変わっていないようだ。
女性の方は外交官に間違いない。金髪の長髪に優しげな碧眼、色白のうえに高身長。そして黒色のスーツを着用している。純粋な日本人には見えない、西洋系の帰化人やハーフだろうか。
男性の方は一目で分かる。防衛省に所属しているものだ。それにしては結構ゴツい。筋トレを趣味にしているのかもしれない。
「初めまして。ムー国の案内を務めさせていただきます、マイラス・ルクレールと申します。1週間という期限付きですが、今後ともよろしくお願いします」
日本人たちはソファーから一斉に立ち。深々と会釈を行う。
「初めまして。私は外務省のエレン・ベーカーと申します。以後お見知りおきを。彼は防衛省の宇佐見薫です」
「初めまして。宇佐見薫と申します──」
2人の自己紹介は続く。
マイラスは耳をかたむける。今のところ内容は極めて丁寧、当たり障りないものだ。2人の話を聞くかぎり、前世の日本国とあまり変わってなさそうだ。もちろん人材の中身は激変しているだろうが。
「それではムー国の案内は明日からとして、本日はオタハイトのホテルにご案内します。ただ、その前に是非ともお見せしたいものがありまして」
彼は2人をアイナンク空港の格納庫に案内する。
(遂に来るか、前世の時よりもマシにはなっていそうだが……なぜだろう、猛烈に嫌な予感がする。嵐の前触れというか)
マイラスは知らない。その予感は見事に的中しており、前世の時と同様の結果に陥ることを。
本作を評価&お気に入りしてくださり、本当にありがとうございます!!
あまりにも嬉しすぎて、内心ゲッダンしていました!!
【用語解説】
『神聖ミリシアル帝国』
日本国召喚の登場国家(味方) 異世界有数の超大国。自国内にラヴァーナル帝国の遺跡群を有しており、数々の技術をリバースエンジニアリングで入手してきた。
しかし技術を根本的に理解できておらず、チグハグな技術体系となっている。零戦以下のジェット戦闘機って何だよ(地球人並感)
本作世界線ではかなりマシになった。