いつも夜になると騒ぎ出す軽巡。そんな彼女が夜騒ぎ出すのには、何かワケが…?
 
 川内「ないよ、そんなの!私が夜が好きなだけ!!さ、今日も張り切って夜戦だーー!!」
 
 ※川内はあまり作中に出て来ません。

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川内「夜戦の意味???」

 

 遠征任務を終え、鎮守府に帰投。母港で艤装を降ろし、このまま寝室へと向かえばそのまま朝まで動かなくなってしまいそうな体を何とか奮い立たせ、遠征任務の旗艦であった阿武隈さんに誘われるがまま、私、駆逐艦潮は食堂へと急ぎました。

 普段よりもだいぶ遅くなってしまった食堂での夕食。時間が時間なだけにいつもは賑わいを見せている食堂も人はまばらで、静かなものでした。

 カウンターで鳳翔さんに労いの言葉を掛けられたので、私もそれに笑顔で応えて夕食を受け取ります。そして食堂の隅の方に阿武隈さんと肩を並べて座りました。

 眼の前でおいしそうに湯気をたてるうどんを冷まさぬうちにと啜りつつ、隣で疲れなど一切感じていないと言わんばかりに喋り続ける阿武隈さんの言葉に私が耳を澄ませていると…。

 

 「やったー!待ちに待った夜戦の時間だー!!」

 

 夜の静けさを破らんとばかりに歓喜の叫びが遠くの方から聞こえてきました。

 毎度お馴染みの声に私は夜が一層更けたことを知り、今日も川内さんは元気ですね、と言葉には出さずとも阿武隈さんに目配せしようとしたのですが…。

 

 「もぉっ!!ほんとーにうるさいっ!!!」

 

 そう叫んだ直後、阿武隈さんが机を叩いて、その勢いのまま立ち上がりました。湯気が立ちそうなくらいに顔を赤くして、敵の弾に被弾すれば真っ先に自分の髪型を気にして少しでも崩れることを許さなかったはずのあの阿武隈さんがキーッと金切り声をあげながら髪を搔きむしっていました。

 

 「行くよっ!!潮ちゃん!!!」

 

 あっけにとられていた私の手を取り、阿武隈さんは駆け出します。あ、食べ終わった食器は片づけないとダメですよ、と言う間もなく、私は連れ去られてしまいました。

 

 「提督!!前から言ってるんだけどぉ!!本当に川内さんがうるさいぃ!!」

 

 そして連れ出された先は提督のいる執務室。ノックの答えを待たずして部屋に飛び込んだ阿武隈さんは、どうやら以前から川内さんのことを提督に話していたようで、今日こそは提督の方からガツンと言って!、と般若の様相で提督に迫っています。

 

 「うーん、これはもう言ってしまった方がいいかもなぁ…。川内クンや潮クン、他のみんなの為にも…」

 

 提督の肩を掴んで激しく揺さぶる阿武隈さんを私が何とか羽交い絞めにしようと格闘していると、阿武隈さんから解放された提督は乱れた襟を整えながら自分に言い聞かせるように静かにそう言いました。

 

 「私も覚悟を決めたよ。まずは君からでも聞いて欲しい」

 

 そして提督に促されてソファーに座った私、としぶしぶといった感じで私の隣に腰を下ろした阿武隈さんに、提督は、これはいずれ私からみんなに話すことではあるのだが、と前置きした上でゆっくりと話し始めたのです。

 

 ■

 

 知っての通り、今でこそ深海棲艦との戦争はなんとか均衡を保ってはいるが、そこに至るまでにはどこも多大な犠牲を払ってきたんだ。この鎮守府もたくさんの仲間たちを迎え入れては見送ってきた。今でこそ轟沈する者は減ってきた、と言えども、朝ともに目覚め、同じ釜の飯を食べた誰かが同じ日の夜にはもう居ないなんてことは、今でも普通にある。悲しいことだがね。しかし悲しみに暮れる時間さえ、私たちにはなかったんだよ、特に当時はね。

 

 ただ、それが海に沈んだ者にとってはひどく残酷な仕打ちだったのかもしれない。ある頃からだよ、鎮守府の近海で夜間警備をしていると必ずと言っていいほどに沈んだはずの彼女たちが現れるようになったのは…。そして暗い海の上を、とても物悲しそうな顔で漂っているかつての仲間たちに姿に胸を打たれない者なんているはずもなかった、きっとみんなどこかで罪悪感を感じていたんだろうね、葬式も挙げてなければ、ただ偲ぶ時間でさえなかったのだから…。

 

 彼女たちが現れてから最初の頃はまだ良かった。手を合わせて瞑目すれば、いつの間にか夜の闇に紛れて見えなくなってしまっていたから。しかし時が経つにつれてそれだけじゃ物足りなくなってしまったのかな、手を合わせて祈りを捧げても、念仏を唱えようとも彼女たちの姿が闇に消えることはなくなっていった。そうだね、ちょうどその頃は大きな作戦が立て続けに発表されて、同時に轟沈者が日に日に増していった時期と重なるね。

 

 それから間もなくだよ、各地の鎮守府で艦娘の異常行動が目立つようになったのは。一種の錯乱状態だね、今は亡き姉妹艦や僚艦がまるですぐ隣にいるかのように延々と独り言を呟き続けたり、おかしな行動をとったりする艦娘がとにかく増えたんだ。もちろん軍はその原因を探って、治療を試みたけど…すべて無駄に終わった。

 

 そして異常行動をとるようになった艦娘は決まって同じ最期を辿ることになる。みな、消えてしまうんだ、まるで水泡のようにね。うちでも任務の最中、突然消えてしまった娘もいれば、僚艦が床に入るのを見たのを最後にいなくなってしまった娘もいる。ただ、失踪の直前は幻覚が酷くなるのか、すでに沈んだ艦娘の名前をしきりに話して、一緒に行動しているような素振りを見せるんだ。

 

 ただでさえ深海棲艦との戦いで犠牲者が出るというのに、この現象はまさに私たち人類にとって大きな痛手だった。そしてこれ以上の損失を生まない為に、原因や治療法含め、あらゆる観点からこの現象について調べられたんだ、それこそ軍だけじゃなく、民間、宗教に関わる組織まで駆り出して。

 

 そしてたどり着いたのはある一つの解決策。と言っても応急処置のようなものだけれど、ね。

 

 調べていく中で分かったのは、いくつかの鎮守府では他の鎮守府に比べてこの現象に陥る艦娘が少なく、すなわち失踪する娘が極めて少なかったということ。失踪者の少なかった鎮守府には共通点があったんだ。

 

 そして軍は最終的にこう結論を出した、軽巡川内がいる鎮守府では例の現象は見られず、とね。

 

 しかし実際、川内がいるはずのうちの鎮守府は他の鎮守府と比べてみると失踪者の数はずば抜けていた。ウチと同じように軍の決定に異論を唱えるところも多かったよ。そこでもう一つ重要なことは、彼女の気の赴くままに夜戦をさせているかどうかということだった。当時、ウチの鎮守府では軽巡でさえ貴重な存在だったから、彼女の意思に反して夜の戦闘を制限していた節があったけれど、駄目元で彼女の赴くままに夜戦をさせてみたんだ、そうちょうど今のようにね。そして結果は言わずもがな、ゼロではないけれど、みるみる失踪者は減っていったんだ。

 

 私自身、オカルト話を好んで信じる方ではないけれど、きっと川内は魔を払うような存在なのかもしれないな。そうでなくても暗い夜の海で寂しくしている仲間たちにとっては、私たちにはうるさいくらいの彼女の騒がしさが暖かくて心地よいのかもしれないな、それこそ無念な想いを和らげ、道連れする気持ちを静めてしまうくらいには。

 

 尤も彼女自身は何も知らない、ただ単に夜戦が好き放題出来て嬉しいくらいにしか思っていないだろうけどね。

 

 ■

  

 「あ、鳳翔さん」

 

 食堂の後片付けを済ませて執務室へと赴いた鳳翔は、ちょうど執務室から出てきた潮と鉢合わせた。

 

 「先ほどはすみませんでした、食器も片づけないで…」

 

 申し訳なさそうな顔をする潮を、気にしないでください、と鳳翔は優しく宥めた。

 

 「ありがとうございます。今度はもっとゆっくりとご飯を食べに行きますね。それじゃあ、おやすみなさい」

 

 ええ、おやすみなさい、と鳳翔は返した。そして暗い鎮守府の廊下を歩いて次第に小さくなっていく潮、誰もいない暗闇に笑みを浮かべて話しかけ続ける彼女の姿が闇に消えるまで見守った。

 

 「…失礼します」

 

 「おお、鳳翔か…」

 

 執務室いた提督はかなり疲れた様子だった。そんな彼の様子を見て、先ほどこの部屋から出ていった潮の姿を思い出して、鳳翔は悟った。

 

 「阿武隈が沈んでもう一月経つが…状況はなかなかよろしくない、な」

 

 「無理もありません、大の仲良しでしたから、あの二人は…」

 

 提督も鳳翔も言葉に詰まる。思い浮かぶのは、うつろな瞳で誰もいない空間を見て、力なく笑う潮の姿ばかり。

 

 「どうか連れていかないで」

 

 どちらかが祈るように呟いた想いが遠音に大騒ぎを続ける夜戦バカの耳に届いたかは分からない。

 


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