麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第2話 コビー

 

 『ごめんルフィ、どうにか縮んで!』

 『むぎゅぅ』

 

 小柄な私1人だったらゆとりあるんだけど、2人が入るには狭すぎる樽だ。ルフィのゴムの身体へ抱きついて押しつぶしながらどうにか一緒に入り込んだ。狭いのに渦に振り回されるけど、なんだか私は身体が熱くて、自分の心臓の音がうるさかった。

 

 意識がはっきりしたときには、偶然にも樽を海賊船が拾ってくれたようだ。ヘッドホンをはずして運んでくれてる人たちの話をよく聴いたところ、酒樽と思っているようだ。やっぱり海賊の男ってお酒好きだよね。

 

 バキッ、バキッ

 樽を少しずつ壊してくれてる。

 

「出れたああああ!」

「「「「えーーーーーーーーっ!!!!」」」」

 

「やっと、休める……」

 

 窮屈をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 私はへなへなと樽の残骸がない場所へ座り込む。

 

「先パイ、樽から女の子が!」

「見りゃあ分かる。すげぇ美少女だ……」

「ボスと真逆で将来有望だな!」

 

 見るからに海賊の男たちが、いやな視線を向けてくるけど、フーシャ村に訪れた素行の悪い海賊が私やマキノを見てくる視線と同じだ。まあ、私とマキノはかわいすぎるからね。

 

 ルフィに目を向けると。

 

「「「ぶべらっ!」」」

 

 その3人はルフィが軽くぶん殴って気絶させたみたいだけど、あとは眼鏡の少年がいる。敵意はなく、むしろルフィにビビっているようだ。それを気にせずルフィは私を心配そうに見つめてきた。

 

「立てるか?」

「ん~、もうすこし~」

 

 むしろなんでこのゴムは平気そうなんだか。

 身体のあちこちが痛いし、気怠さだって感じる。

 

「あ、あなた方は……?」

「俺ルフィ、海賊王になる男だ。こっちはウタ、世界の歌姫になるやつだ」

 

 あっけらかんと話すルフィから視線を外したコビーに対して、私も自信満々に頷いた。だって、ルフィは海賊王になるんだもん。

 

「ぼ、僕はコビーです。金棒のアルビダ様の下っ端で、雑用係をしています……」

「アルビダ? 海賊なの?」

 

 コビーは蒼褪めながらも、その強さと恐怖を教えてくれる。2年も雑用係をやらされていたことと、逃げ出そうにも勇気が湧かないことを。

 

「僕と違って、お二人は凄いんですね。海賊王と、えっと世界の歌姫を、目指していて」

「おう。すごいだろ」

「すごいでしょ」

 

 うんうん。私たちってやっぱりすごいよね。

 なんかこう、オーラが出ているのかも!

 

「えっと、怖くはないんですか?

 しんでしまうかもしれないのに」

 

「海賊王になれないならしんでもいいしな」

「それくらい本気ってことだよ」

 

 ワンピースを手に入れることがどれだけ大変かって、なんとなくわかる。だってあのお父さんがいまだに海賊王になって村に帰ってこないんだもの。ていうか、ルフィがいつか追い越して海賊王になるし。

 

 蒼褪めていたコビーは、やがて眼に光が宿るようになってきた。

 

「ぼ、僕も。僕も叶えられるでしょうか!」

「「ん?」」

 

 いい顔するじゃん。

 夢を持つと胸の奥が熱くなるよね。

 

「僕、子供の頃からの夢なんです!!

 海軍将校になりたい!!!

 アルビダみたいなやつを捕まえてやるんだ!」

 

「にししっ!」

「わるいけど、捕まる気はないかな」

 

 といっても、伝わってきたコビーの『正義』を考えると、とてもいい海軍将校になりそうだ。世界のみんなを幸せにするという私の夢に近いものを感じるし。

 

「おっと、船の人たちかな」

 

 音を聞き取って、私は立ち上がった。

 

 床に落ちていたリボンの付いた麦わら帽子を被る。

 そして、パーカーの砂ホコリをパンパンと払った。

 

「大きな足音がする。ゴリラ?」

「ま、まさかっ!」

 

 この倉庫の壁が破壊された。

 うわぁ、同じ女でもこんな人外がいるのか。

 

「サボってるのかい! コビー!!!」

 

 私が母親のように感じていたダダンよりも、ずっと大きく太っておりそばかすも目立つ。そして、鉄の金棒を軽々と肩に担いでいる人外だし、恰好からしておそらくこの海賊船でもっとも強く、船長なのだろう。女海賊で船長ってのはすごいな。

 

「お、おまえなんか、僕が、つつつかまえてやる!」

 

 震えながらも、私たちを守るように立った。

 身長差は歴然で勝算もないけど立ち向かっている。

 

「ウタ。」

「わかってる。ウタウタの行進曲(マーチ)

 

 ルフィならたぶんすぐに倒せるんだろうけどね。

 歌に乗って、音符がコビーに力と勇気を与える。

 

「うおおおお!」

「うっとおしいねぇ」

 

 コビーは破壊された木の残骸を1つ、勢い良く投げる。金棒を持っていない手のほうで、ハエを払うかのように払いのけた。そこからはコビーは必至に拾って、何度も何度も投げ続ける。

 

 やがて。

 アルビダは服に当たる破片を気にせず、その金棒を振り上げた。

 

「つぶれちまいな!」

「ひぃーーー!」

 

 私もあんなの受けたらただではすまない。

 

「ウタウタの(カーテン)♪」

 

 歌の五線譜が包むように柔らかく受け止めた。

 力の波は左右に伝搬してやがて減衰していく。

 

「……え?」

「まさか、悪魔の実の能力者かいっ!」

「ウタウタの実を食べた、歌人間だよ」

 

 真正面から受け止めるには、即時発動の歌では結構ギリギリだったようだ。

 

「てか、貴女は能力者じゃないんだ」

「はっ! 軟弱な能力なら必要ないね!」

 

 ほんとどいつもこいつも怪力なんだから。

 カーテンコールで歌を一度消す。

 

「あんた、小間使いにでもして一生歌わせてやろうか?」

「なに? (ウタ)をバカにしてる?」

 

 そりゃあ戦いづらそうな能力に思えるかもしれないけどさ。歌ってのは無限大の可能性を秘めているんだ。アルビダはウタウタの能力を小馬鹿にするように言ってきたけど。

 

 それはこれを見てからにしてほしいかな。

 

「ウタウタ弓矢(アロー) セット♪」

「すごいっ! 弓になったっ!」

「ウタがすげぇのはここからだぞ!」

 

 赤色の五線譜が収束して弓となり、休符記号の音符が矢尻についた矢をつがえる。ルフィには見せたことあるから、あれかーって厄介そうな顔をしている。

 

発射(ファイア)

 

「ちっ!」

 

 慌てて金棒でガードしようとするが、音の速さをなめてもらっては困るよね。

 

「……こけおどしかい?」

 

 身体に直撃して、溶け込むように歌は消える。

 そりゃあ音符が爆発でもしたら私があぶないじゃん。

 

「か、身体が……! 小娘ぇ!」

「どうよ~!」

 

 いわゆるデバフ。

 ほんの一瞬だけれど、どんな相手だって止められる。

 

 だって普通の人なら音の速さを避けられるはずもないんだからね。なぜかルフィのおじいちゃんには当たらなくてゲンコツされたけど、あの人は能力者の私たちより人外だから。

 

「チャンスよ、コビー!」

「うりゃあああ!」

 

 ガンッ、鈍い音とともにモップはへし折れた。

 とても拙いものだったけど、渾身の一撃だ。

 

「やったか!?」

「見たかっ! これが(ウタ)の力よ!」

 

 ほら、アルビダは大きなたんこぶを作って

 ……それでも気絶しないの!?

 

「なめやがってぇ!」

 

 やばいやばい。

 駆けつけてきたほかの海賊たちが寄り付けないくらい、金棒を振り回しながら暴れてしまっている。まるで三角の目をした猛獣のようだ。あれじゃあ、歌を聴き入れてもくれないだろう。

 

「「発射(ファイア)! 発射(ファイア)!」

 

 矢をつがえて何度か止めるけど、これって連続でやると効果が薄くなっていくんだよね。今はもうノロノロ状態ですらない。

 

「ウタさん! 他になにかないんですかっ!」

「ごめん! 歌うのをやめたらヤバそう!」

 

 1つ1つの歌は強力なのだけれど、音楽家として歌を途中で変える隙が大きい自覚はある。そういうところをルフィやエースに埋めてもらっていた甘さは、何度もガープさんに指摘されたところだ。

 

 頼りになるから、頼っちゃうんだもん。

 

「そこの肉食ってるルフィ、ヘルプ!」

「んーー?」

 

 私はテクニックタイプで音楽家なのだし。

 ほらルフィ、選手交代!

 

「コビー! 良い一発だったぞ!『ゴムゴムの』ォ……」

 

 その意志を受け継ぎ、ルフィは肩に手を添えた。

 

「う、腕が!」

「まさかこいつも悪魔の実の!」

 

 部屋のめいいっぱいに引き伸ばして。

 一気に解き放つルフィが最初に編み出した技。

 

(ピストル)!!」

 

 ピストルに撃たれた衝撃どころじゃなくて、アルビダの大きな身体がぶっ飛んでいった。バキバキッと壁を突き抜けたけど無事そうだね。

 

 アルビダさまぁぁぁと叫びながら、海賊の男たちは介抱しに向かう。なんだ意外と慕われてるじゃない。

 

「ル、ルフィさんも?」

「おう。ゴムゴムの実を食べた。すげぇまずかった!」

 

 ゴムだからこその弾性力(ダンセイリョク)だって、マキノが言ってた。まだルフィはシャンクスたちみたいな男性っていうよりお子様だけれどね。それなら私の女子力のほうが、いやマキノみたいにお料理もお裁縫もできないや。

 

「それじゃ、起きる前に小舟でも借りていこっか」

「肉も借りていくからな!」

 

 袋をいくらか持った私たちに道を空けるように、海賊たちは倉庫の入り口から離れていく。コビーや海賊たちがごくりと息をのむ音がしたけど、コビーだけが私たちへ付いてくるようだ。

 

 まあ海軍将校を目指すコビーがこの船にいる理由もないもんね。

 

「えっと、それは?」

「ん、私の宝物の1つだよ」

 

 よかった。ポケットの中にはちゃんとビブルカードがあった。かわいい服とか入れたリュックサックが海の底に消えちゃったのは残念だけど。

 

「じゃ、コビー、どこか島までよろしく~」

「あ! 飯屋があるとこな!」

 

「よくお2人だけで航海しようとしましたね……」

 

 ルフィが小舟を漕ぐが、仮の航海士コビーに頼る。

 ちょっと前の嵐がウソなくらい、波風は静かだ。

 

「俺たち泳げないからいっぱい止められたぞ」

「えー、泳げないのに海賊をやるんですか……」

 

 ほんと、穏やかな海は気持ちいい。

 昨晩の疲れを癒してくれる。

 

「飽きたー! 3時の肉ぅ~」

「え、ここで止まるんですかぁ!」

 

 赤いリンゴをかじりながら、いろんな音を楽しむ。

 次はどんな歌を作ろうかなって夢を膨らませながら。

 

「海の真ん中で海賊狩りに会ったらどうするんですか、もう~」

「つえーのか、そいつ?」

 

 羅針盤なんて 渋滞のもと

 熱にうかされ 舵をとるのさ

 

 ん、こんな感じかな。

 

「やばいなんてものじゃないですよ。アルビダも恐れていましたし」

「へぇー、会ってみてぇなー」

 

 個人的な嵐は

 誰かのバイオリズム乗っかって 思い過ごせばいい

 

 んー、作詞作曲を手伝ってくれる音楽家とか欲しいな。

 

「ウタさんの鼻歌、キレイですね」

「にししっ、俺の音楽家だしな!」

 

 あら、聴いてたんだ。

 じゃあ、お言葉に甘えて。

 

「どんなに強く握っても♪

 一人じゃこぼれ落ちそうで

 信じてみようって言った もっと笑ってよう♪」

 

 

 今日は1人、夢を持った少年に会ったよ。ゆっくり航海を楽しむけど、いつかシャンクスたちの場所へ行くからね。

 

 





・高評価の多さからしてウタの人気が凄い。世界のみんなではなく、ウタ自身の幸せを願う人が多いのでしょう。
・覚醒すれば歌でなんでもできるんだろうけど、現段階は1つずつの歌で魔法使いキャラ。音の速さで歌を受けたことはあるかい?
・『これが歌(ウタ)の力よ!』って、我ながら『ここすき』なセリフを思いつきました。
・たぶん『あの場所へ』の歌を知っているのはよほどのワンピース好き。
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